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レンタル14・無茶振りはお約束
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長閑な昼下がり。
ちょうど昼休みなのでレンタル業務は一時休憩だが、喫茶コーナー及び販売ブースの方にはお客の姿がちらほらと見えている。
元々、昼は午後二時まで昼休みになるのだが、近所の会社に勤めているサラリーマンや学生がやってくるので、関川ひばりが責任を持って販売ブースのみを取り仕切っている。
その間、ルーラーは昼食を取ったり、足りない魔導具を作るために工房に引きこもったりするのだが、今日は喫茶コーナーで接客中である。
「……関川くんの報告では、新しいポーションを開発したとか。それは一体、どのようなものでしょうか?」
綺麗な七三分けにメガネ。
細身長身の男性がルーラーに問いかける。
ちなみに、彼が『内閣府魔導政策室』の責任者である『亜門太郎』特命大臣。
今日は直接ルーラーと話をするために、札幌までやってきたのである。
「ポーション……増毛ポーションと、あとはスタミナポーションぐらいじゃな。精力剤も作れるが、あれは取り扱いが危険じゃから作ってはおらん」
「ふむ。成分分析を行いたいので、サンプルの提出をお願いできますか?」
「構わんよ。まあ、他のポーションと同じで未知の成分が発見されて、何もわからずにおしまいじゃろうから」
──コンコン
二つの小瓶をカウンターに並べると、亜門はそれをポーション運搬用の小さな鞄に丁寧に収める。
内部構造に衝撃緩衝材を用いている特製の鞄であり、ルーラーから預かった薬は全てこれで運搬されている。
「では、確かにお預かりします。それと、ルーラーさんに尋ねたいことがあるのですが」
「はぁ。わかることしか返答できんが?」
「マジックアイテムを探すことは可能ですか?」
「マジックアイテム……魔導具のことじゃと思うが、それは一体どんなものじゃ?」
そこから先、亜門はゆっくりと話を始める。
ことの起こりは今年の秋。
ローマ法王が引退し、新たな法皇を選定するコンクラーヴェが始まった時。
そこの話の中で、とあることが話題になった。
それは、現在確認されている【聖杯】について。
現存している聖杯と呼ばれるものは、全部で三つ。
バレンシア大聖堂所蔵
ジェノヴァ大聖堂所蔵
メトロポリタン美術館所蔵
この三つが聖杯として所蔵されており、どこもうちのが本物であると宣言している。
だが、どれが本物かなどわかるはずもなく、バチカン市国でもどれを本物と認定するか、頭を悩ませている。
そこで新しいローマ法王は、日本政府に打診した。
ルーラーの力なら、本物の聖杯を見分けることができるのかと。
そして話ば魔導政策室に丸投げとなり、急遽、亜門が直接やってくることになったのである。
「まあ、私たちの世界の神が残した、聖遺物と言えばご理解いただけるでしょうか?」
「神器か。わしの鑑定眼でも見分けがつけられるかどうかはわからないが、それが力を持っているものかどうかの区別ぐらいはできると思う」
神器ならば【神威】を発しているはず。
その程度なら、ルーラーでもどうにか見分けがつけられる。
また、普通に魔力を帯びだ魔導具なら、手に取っただけですぐに能力まで読み込むこともできる。
「では、早速……まずはメトロポリタン美術館に向かいましょう」
「いや、それは断る。ここに持ってきてもらえるのなら鑑定するが、それ以外はお断りだと伝えてくれ」
「え、えええ? 流石にそれは無理です。聖杯とはいわば、世界の至宝。それを持ち出すどころか、ここに持ってくるなんて不可能です」
「では、断る」
あっさりと言い切るルーラー。
日本から出るという以前に、移動のために飛行機に乗るのが嫌なのである。
それなら自分の魔法の絨毯で飛んでいけば良いのだが、国際的にもルーラーの魔法の絨毯は航空機として認められていない。
それ故に、受け入れることができないのである。
「……はぁ。どうしても無理ですか?」
「無理じゃな」
「写真を見て鑑定するとかは?」
「写真では神威を感じ取ることもできんわ。手に触れることも叶わんというのなら、この件は諦めてもらうしかあるまい」
そう言われて、亜門は意気消沈、
ここでできませんとバチカンに報告した場合、日本政府がルーラーをコントロールできていないことが露見してしまう恐れがある。
対外的にはルーラーは日本の国籍を持っている日本人なのだが、未だ諸外国の中ではルーラーを自国に招き入れたいという勢力が後を立たない。
この一年半の間で、日本が魔術を得てその恩恵に預かっているのは周知の事実。そのためか、是非ともルーラーに外遊に来て欲しいという連絡が外務省にもひっきりなしに届いている。
「はぁ。この件については、素直にお断りするしかありませんか」
「わしの元に持ってきてくれるのなら、いくらでも真贋はっきりさせてやるわ。伊達に『大精霊の瞳』を所有しているのではないからな」
「精霊王から譲り受けた、あらゆるものを見極める力を持つ瞳……でしたか。関川の報告書にはそう書いてありましたが」
「うむ。その気になれば、人間の持つ潜在能力まで見出すこともできるが」
ルーラーの目で読み取ることができるのは、そのものの【魂の格】【ステータス】【所有能力のスキル表示】【未覚醒潜在能力】の四つ。
さらには、そのものに宿る【記憶】を紐解き、物品の鑑定まで可能となる。
「まあ、それについてはまたいずれ……では、失礼します」
あっさりと引き下がる亜門。
そ一礼して店を後にする亜門を見送ると、ルーラーはカウンターへと戻って行った。
このルーラーの報告が日本政府に伝えられ、すぐさまバチカン市国に連絡されると、法皇も大層残念そうな顔をしていたらしい。
ただ、この件がどこからともなく噂として流れ、インターネット世界では、ルーラーが本物の聖遺物を鑑定できるという噂が流れ始める。
そして、この噂は聖杯を所蔵している大聖堂と美術館に届いた頃には、どちらが本物なのか真贋はっきりさせた方がいいという話が持ち上がり始めた。
ここにきて、聖杯を所蔵している大聖堂と美術館は、覚悟を決めなくてはならなくなった。
もしも鑑定して偽物だったと告げられたなら。
そう考えると、迂闊に鑑定に出すことなどできない。
でも、世論ははっきりしろと声を上げているものたちが、日に日に増えている。
果たして、彼らはどのような決断をするのだろうか。
ちょうど昼休みなのでレンタル業務は一時休憩だが、喫茶コーナー及び販売ブースの方にはお客の姿がちらほらと見えている。
元々、昼は午後二時まで昼休みになるのだが、近所の会社に勤めているサラリーマンや学生がやってくるので、関川ひばりが責任を持って販売ブースのみを取り仕切っている。
その間、ルーラーは昼食を取ったり、足りない魔導具を作るために工房に引きこもったりするのだが、今日は喫茶コーナーで接客中である。
「……関川くんの報告では、新しいポーションを開発したとか。それは一体、どのようなものでしょうか?」
綺麗な七三分けにメガネ。
細身長身の男性がルーラーに問いかける。
ちなみに、彼が『内閣府魔導政策室』の責任者である『亜門太郎』特命大臣。
今日は直接ルーラーと話をするために、札幌までやってきたのである。
「ポーション……増毛ポーションと、あとはスタミナポーションぐらいじゃな。精力剤も作れるが、あれは取り扱いが危険じゃから作ってはおらん」
「ふむ。成分分析を行いたいので、サンプルの提出をお願いできますか?」
「構わんよ。まあ、他のポーションと同じで未知の成分が発見されて、何もわからずにおしまいじゃろうから」
──コンコン
二つの小瓶をカウンターに並べると、亜門はそれをポーション運搬用の小さな鞄に丁寧に収める。
内部構造に衝撃緩衝材を用いている特製の鞄であり、ルーラーから預かった薬は全てこれで運搬されている。
「では、確かにお預かりします。それと、ルーラーさんに尋ねたいことがあるのですが」
「はぁ。わかることしか返答できんが?」
「マジックアイテムを探すことは可能ですか?」
「マジックアイテム……魔導具のことじゃと思うが、それは一体どんなものじゃ?」
そこから先、亜門はゆっくりと話を始める。
ことの起こりは今年の秋。
ローマ法王が引退し、新たな法皇を選定するコンクラーヴェが始まった時。
そこの話の中で、とあることが話題になった。
それは、現在確認されている【聖杯】について。
現存している聖杯と呼ばれるものは、全部で三つ。
バレンシア大聖堂所蔵
ジェノヴァ大聖堂所蔵
メトロポリタン美術館所蔵
この三つが聖杯として所蔵されており、どこもうちのが本物であると宣言している。
だが、どれが本物かなどわかるはずもなく、バチカン市国でもどれを本物と認定するか、頭を悩ませている。
そこで新しいローマ法王は、日本政府に打診した。
ルーラーの力なら、本物の聖杯を見分けることができるのかと。
そして話ば魔導政策室に丸投げとなり、急遽、亜門が直接やってくることになったのである。
「まあ、私たちの世界の神が残した、聖遺物と言えばご理解いただけるでしょうか?」
「神器か。わしの鑑定眼でも見分けがつけられるかどうかはわからないが、それが力を持っているものかどうかの区別ぐらいはできると思う」
神器ならば【神威】を発しているはず。
その程度なら、ルーラーでもどうにか見分けがつけられる。
また、普通に魔力を帯びだ魔導具なら、手に取っただけですぐに能力まで読み込むこともできる。
「では、早速……まずはメトロポリタン美術館に向かいましょう」
「いや、それは断る。ここに持ってきてもらえるのなら鑑定するが、それ以外はお断りだと伝えてくれ」
「え、えええ? 流石にそれは無理です。聖杯とはいわば、世界の至宝。それを持ち出すどころか、ここに持ってくるなんて不可能です」
「では、断る」
あっさりと言い切るルーラー。
日本から出るという以前に、移動のために飛行機に乗るのが嫌なのである。
それなら自分の魔法の絨毯で飛んでいけば良いのだが、国際的にもルーラーの魔法の絨毯は航空機として認められていない。
それ故に、受け入れることができないのである。
「……はぁ。どうしても無理ですか?」
「無理じゃな」
「写真を見て鑑定するとかは?」
「写真では神威を感じ取ることもできんわ。手に触れることも叶わんというのなら、この件は諦めてもらうしかあるまい」
そう言われて、亜門は意気消沈、
ここでできませんとバチカンに報告した場合、日本政府がルーラーをコントロールできていないことが露見してしまう恐れがある。
対外的にはルーラーは日本の国籍を持っている日本人なのだが、未だ諸外国の中ではルーラーを自国に招き入れたいという勢力が後を立たない。
この一年半の間で、日本が魔術を得てその恩恵に預かっているのは周知の事実。そのためか、是非ともルーラーに外遊に来て欲しいという連絡が外務省にもひっきりなしに届いている。
「はぁ。この件については、素直にお断りするしかありませんか」
「わしの元に持ってきてくれるのなら、いくらでも真贋はっきりさせてやるわ。伊達に『大精霊の瞳』を所有しているのではないからな」
「精霊王から譲り受けた、あらゆるものを見極める力を持つ瞳……でしたか。関川の報告書にはそう書いてありましたが」
「うむ。その気になれば、人間の持つ潜在能力まで見出すこともできるが」
ルーラーの目で読み取ることができるのは、そのものの【魂の格】【ステータス】【所有能力のスキル表示】【未覚醒潜在能力】の四つ。
さらには、そのものに宿る【記憶】を紐解き、物品の鑑定まで可能となる。
「まあ、それについてはまたいずれ……では、失礼します」
あっさりと引き下がる亜門。
そ一礼して店を後にする亜門を見送ると、ルーラーはカウンターへと戻って行った。
このルーラーの報告が日本政府に伝えられ、すぐさまバチカン市国に連絡されると、法皇も大層残念そうな顔をしていたらしい。
ただ、この件がどこからともなく噂として流れ、インターネット世界では、ルーラーが本物の聖遺物を鑑定できるという噂が流れ始める。
そして、この噂は聖杯を所蔵している大聖堂と美術館に届いた頃には、どちらが本物なのか真贋はっきりさせた方がいいという話が持ち上がり始めた。
ここにきて、聖杯を所蔵している大聖堂と美術館は、覚悟を決めなくてはならなくなった。
もしも鑑定して偽物だったと告げられたなら。
そう考えると、迂闊に鑑定に出すことなどできない。
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