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第一部・食戦鬼? あ、食洗機ですか。
第24話・赴任先は、不正の温床でした
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そして四日後、あの晩餐会以後は何もおかしなことは起こることもなく。
私たちはアカニシ男爵領を出発、その3日後には目的地であるランカスター分割領の領都へと到着しました。
ここに至るまで3つの村を経由してきましたが、それらはアカニシ男爵領の直轄であり、ランカスター分割領の担当ではありません。
逆にいうと、私が治めるのはランカスター分割領領都とその周辺の田園地域のみ、それと北に広がるベリルーサ大森林が私の土地ということになっていますが。
「まあ、何もないと思っていたけれど、そこそこには発展しているんだねぇ」
正門から町の中へ入り、領主館へと向かいます。
その道中、街の中を見渡してみますけれど、ランカスター領都の規模を小さくした感じに見えますね。
見た感じでは普通に人々の姿も見えていますけれど、どちらかというと冒険者の数の方が多いようにも感じます。
「この街は、北部ベリルーサ大森林に生息する魔物を狩り、その素材や魔石などを他領へと販売して利益を出しています。そのためか加工業者の数は多いものの、農業に従事している人たちが少ないというのが現状のようですね」
「穀物などはどうやって?」
「町の外の田園地域には穀物栽培を生業としている農民も住んでいます。あとは、その隣にあるアカニシ男爵の直轄村からの購入という形です。このあたりは、どうしてもベリルーサ大森林から流れ子も魔素が強く、麦や野菜の発育がよくないのですよ」
「なるほどねぇ……土壌と品種の改良も急務……って、4年しかいないのだからそこまで手が回らないかぁ」
そんな話をコデックス執務官と話しつつ、領主館へと到着。
でも、すぐに門が開く様子がないのですけれど。
それに門の前でなにやらもめている様子なので、馬車の窓から目を乗り出し、そっちに向かって話かけます。
「何かあったのですか?」
「門番が、領主館の門を開かないのです」
「だから、ここの領主はロード・レオンさまだってさっきから話しているだろうが。ここにはな、あたらしい領主なんて必要ない、分かったらとっとと帰ってくれ!!」
「それともあれか? 王都からきたお嬢ちゃん領主は、身をもってここのやり方を学びたいのかな?」
「なんだと貴様!! シルヴィア・ランカスター殿は陛下から正式にこの地を統括するように命じられてきたのだぞ。それに従わないというのか!!」
「だから、この地のことを何もわかっていない人に統治されても困るっていうことだ。そうさなぁ。どうしても通りたかったら、その領主さまがこの門を開いてみればいいさ」
ヘラヘラと笑っている、武装した門番。
その向こうの門は鉄製、高い壁も石壁で作られています。
まあ、いつ魔物が攻めてきても守り切れるように頑丈に作られているのでしょう。
「それじゃあ、その門を開けばいいのね?」
「ふん。魔術で強化されている門だぞ、力任せに開こうとしても無理だからな。この門はな、登録された魔力を流し込まない限り開くことが出来ないんだよ」
「へぇ……」
馬車を降りて、すたすたと正門の前へ移動。
扉をよく見ると、左右の扉には小さな魔法石が梅子載れてあり、そこを中心に術式が刻み込まれてあります。
「ほら、開けれるものなら開けてみろよ。それが開けられるのなら、俺はあんたをここの領主として認めてやるよ」
煽るように私の近くで呟く門番。
さすがに度が過ぎると考えたのか騎士団長が私の方に近寄ってきますけれど。
「ここは任せてください。では、開けばよろしいのですよね」
口の中にミスリル飴を取り出し、それをがりっとかみ砕いて飲み込む。
『扉に刻まれている術式は古いもの……魔術の理・古代術式5を発動』
体内に蓄積されたオーラを消費し、古代術式を発動します。
すると、それまで読めなかった扉術式が頭の中にすらすらと入ってきました。
ええ、この扉を開くために必要な手順も何もかも。
だから、扉に組み込まれている魔法石に手を当てて、古代魔法語で詠唱を開始します。
『書換開始《リ・ライト》……この扉に刻まれている魔術式の変更、魔法石に登録されている管理責任者の魔力を、私の魔力に上書き……これまでの権限所有者の登録魔力を消滅し、私の魔力が付与されている鍵の所有者にも、扉を開く権限を与えます……』
一つ一つ言葉を紡ぐ。
すると、左右の扉に刻まれていた術式が新しいものに書き換わりました。
「お、おまえ、一体なにをしたんだ!!」
「そうですねぇ……扉の管理責任者を私に書き換えただけですよ。ほら、重要書類の収められているフォルダの権限の変更なんて、しょっちゅうでしたから」
「意味が分からねぇよ!!」
「そうですか? でも、ほら」
――パチン
私が右手人差し指とオヤユビに魔力を集め、そして指をパチンと鳴らします。
すると扉がゆっくりと開きました。
「では、私がこの地の領主ということで。この正門は開いたままにしておきますね、街の中なので魔物か゛屋ってくる心配もありませんし……なによりも、こんな分厚い扉で閉ざされてしまったら、中でどんな悪さをしていても見つかるようなことはありませんからね。では、向かいましょうか」
そう告げて私は馬車の中へと移動。
そして次々と馬車が領主館の敷地内へと入っていくと、適当な場所に止まって待機。
さて、それでは堂々と、領主館へと入ることにしましょうか。
どうせ、噂にあったレオンがいるのでしょうから。
馬車からおりて正面玄関へ。
そこも魔術によって施錠されていたようですし、なによりも出迎えなしというのは感心しません。
早馬で私がここの領主となることは伝えられているのですから、侍女なりなんなりと準備が出来ていてもおかしくはないのですけれどね。
――ギィィィィッ
再び扉の魔法鍵を書か換えて開くと、大きなホールの真ん中で身なりのいい服を着た恰幅のいい男性が立っています。
「貴様は何ものだ!! この俺がロードレオン領の領主・レオンだ。許可なくこの建物に入ったことについては、今すぐにここから出ていけば見逃してやる」
うすら笑いを浮かべて叫ぶレオニード。
その後ろでは、腰に剣を下げた二人の護衛が待機しています。
だから、堂々と腰にさしてある装飾短剣を取り出して目の前に掲げます。
「私はシルヴィア・ランカスター。このランカスター分割領の新しい領主となった。これがその印であり、陛下から賜った準男爵の証である。そこのレオニードといったな、先ほどの言葉については、今すぐ謝罪するならば法の目に触れることなくなかったことにする。だが、そうでなければ、実力行使でこの場から排除するが如何や」
堂々と私が宣言すると、その横にコデックス執務官がやってきます。
「こちらが貴族院の発行した任命書で、これは貴方のお父様から預かって来た手紙です。まずはこちらに目を通してみるのがよろしいかと」
「必要ない!! どうせその短剣や書簡も偽物に決まっている……すでに、早馬で陛下の勅命を語る詐欺師がこの地にやってくるという連絡は受けているからな……。貴様らを捕らえ、こんどこそこの俺が正式な領主になってみせる!!」
あ、今のものいいだと、自分が偽物だっていう自覚はあるようですか。
それにしても、まさか私たちが詐欺師であるなどという連絡が届いているとは予想もしていませんでしたよ。
それも早馬でだなんて。
おそらくは、アカニシ男爵家で行われた晩餐会、あの直後に何者かが連絡をしたのでしょう。
「本当に……ミスリル飴だって在庫が少ないのですよ……それをこんなくだらない奴に使うだなんて……いえ、私が出る必要はないでしょう。ホフマン騎士団長、彼らを捕らえてください」
「御意……光輝騎士団に告げる。この賊どもを捕らえよ、そしてこの屋敷に隠れているであろう物たちを、すべてここに連れてこい!」
――ガシャッ!
騎士団長の言葉で、同行していた12名の軽装騎士が一斉に走り出します。
いやいや、チェインメイルを着込んで走れるって、この世界の騎士たちの体力は化け物なのですか?
一斉に階段を駆け上がったり、奥の回廊へと走り出す騎士。
そしてホフマン騎士団長と副騎士団長がレオニードの元へと走り出すと、その後ろに控えていた二人が前に飛び出し、剣を構えて牽制しました。
「王都の守護騎士であるホフマン殿と手合わせが出来るとは光栄です。赤剣のミッツ、参ります」
「同じく、申し訳ないが、貴方たちにはここで死んでもらわないとならなくてね。そこのロードレオンがこの地を統治していないと都合が悪い連中が多くてねぇ……毒使い・ラードン、行かせてもらう」
――ギン、ガギン
激しく内なる剣戟の響き。
巨大な赤い両手剣を振るうミッツと、ナイフ二刀流のラードン。
かたや騎士たちは騎士剣とバックラーという室内戦を想定した獲物で応戦。
そしてこっそりと後ろに向かって逃げていくレオニード。
「いいか、必ず仕留めろよ!!」
「逃がすわけないでしょうがぁ!!」
振り向いて叫ぶレオニーだけれど、私は近くで護衛している騎士からヘルメットを借ります。
ステータス強化……は、普段から使っているので、このまま全力でヘルメットを投げつける!
――ガッゴォォォォォン
振り向いて逃げようとしているレオニードの背中に直撃。
そのまま翻筋斗《もんどり》うって前のめりに倒れると、びくっびくっと体を痙攣させています。
「捕まえろ!!」
そう私が叫ぶと、数人の護衛がそちらに向かって走り出しました。
「あの馬鹿……」
「仕方ない、ラードン、下がるぞ」
慌てて騎士たちから離れるようにミッツとラードンが下がると、そのまま建物の奥へと走り出しました。ええ、戦略的撤退というところでしょう。
レザーアーマーだけの二人を負いかけられるほど、騎士たちは早くなかったようで。
騎士団長たちも逃走する二人を追いかけることなく、レオニードの捕縛に向かいます。
「ここで待機していても暇だから、先に執務室だけども確認してみる?」
そうコデックス執務官に問いかけると、それはもう、楽しそうにニイッと笑っています。
「そうですね。どうやらこの領地は、叩けばいくらでも埃がでそうですので。それに、彼に連絡を行ったものが何者なのか、それについても色々と地ようさをする必要もありますが……さすがに王都に調査を依頼するにはここまでの道のりは遠すぎますか。私たちで独自に調査する必要がありますね」
「はぁ。わたしはゆっくりと休みたかったんだけれどねぇ……」
「雑務関係は私たちにお任せを。シルヴィアさまは領主としての責務を果たしていただければ、それで十分ですので」
その領主の責務が面倒くさいんですってば。
「まあ、そのへんはお手柔らかにお願いします……」
「畏まりました。と、どうやらこの部屋のようですが、鍵がかかっていますね」
――ガチッ
扉を開こうとしたが鍵がかかっていますか。
古代術式で強制的に開けることもできますけれど、ミスリルの原価を考えると。
――バキッ
ドアノブの上あたりを力いっぱい殴りつけて破壊。
そのまま手を突っ込んでノブにかかっている鍵を外して扉を開くと。
「ひっ!!」
そこそこにいい身なりの男性が、机の上にうず高く書く摘まれた書類を抱え込んでいます。
しかも暖炉の中には火がついてあり、何かが槇以外のなにかが燃えている形跡まで。
そして抱え込んだ書類を持って暖炉へと走り始めたのですが、証拠隠滅なんてさせるはずがないです。
「確保ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そう叫びつつ、男に向かってドロップキック。
横合いからの鳶ゲラに吹き飛ばされた男は、そのまま壁に力いっぱい激突。
意識を失ってその場に崩れ落ちました。
「コデックスさん、燃え残っている書類を!」
「はいっ!!」
コデックスさんが急いで火かき棒で燃え残っている書類を取りだし、くすぶっている火を踏み消す。
その間に私も取り返した書類をまとめてから、男を後ろ手に縛りあげておく。
「どう? なんとかなりそう?」
「記録用のカヤツリ紙だったので、結構燃えてしまっているようです。けれど、こっちの書類の束があれば、ある程度は調べることは可能です。どうせ裏で手引きをしていたという証拠を燃やそうとしていたのでしょうるそうでなければ、冬でもないのに暖炉に火をくべるなんてするはずがありませんからね」
「ですよね~」
そう説明をしている最中、コデックスさんが書類関係を集めてからカバンに収めていきます。
さて、問題はこの意識を失っている男。
一体何者なのか、裏でどんな輩が手引きをしていたのか色々と聞いてみる必要がありますね。
まあ、闇ギルドっていうことはないと思いますけれど、おそらくはこのランカスター分割領を自分たちの好きなように経営し、利潤をむさぼっていた奴等だろうという予測ぐらいは簡単につきますね。
「それじゃあ、私はこのまま部屋の整理しておきます。シルヴィアさまはどこか体を休められる場所へ向かってください」
「そお? それなら別に構いませんけれど……」
「それとも、私と一緒にこの膨大な書類のチェックを行いますか?」
「それじゃあ、ここはよろしくお願いします~」
ひらひらと手を振ってから、私は執務室を後にします。
さて、屋敷のあちこちで剣戟の音が聞こえてきたり、悲鳴のような声まで聞こえてきますけれど。
少なくとも二階は安全のようですから、そっちでおとなしくしていることにしましょう。
私たちはアカニシ男爵領を出発、その3日後には目的地であるランカスター分割領の領都へと到着しました。
ここに至るまで3つの村を経由してきましたが、それらはアカニシ男爵領の直轄であり、ランカスター分割領の担当ではありません。
逆にいうと、私が治めるのはランカスター分割領領都とその周辺の田園地域のみ、それと北に広がるベリルーサ大森林が私の土地ということになっていますが。
「まあ、何もないと思っていたけれど、そこそこには発展しているんだねぇ」
正門から町の中へ入り、領主館へと向かいます。
その道中、街の中を見渡してみますけれど、ランカスター領都の規模を小さくした感じに見えますね。
見た感じでは普通に人々の姿も見えていますけれど、どちらかというと冒険者の数の方が多いようにも感じます。
「この街は、北部ベリルーサ大森林に生息する魔物を狩り、その素材や魔石などを他領へと販売して利益を出しています。そのためか加工業者の数は多いものの、農業に従事している人たちが少ないというのが現状のようですね」
「穀物などはどうやって?」
「町の外の田園地域には穀物栽培を生業としている農民も住んでいます。あとは、その隣にあるアカニシ男爵の直轄村からの購入という形です。このあたりは、どうしてもベリルーサ大森林から流れ子も魔素が強く、麦や野菜の発育がよくないのですよ」
「なるほどねぇ……土壌と品種の改良も急務……って、4年しかいないのだからそこまで手が回らないかぁ」
そんな話をコデックス執務官と話しつつ、領主館へと到着。
でも、すぐに門が開く様子がないのですけれど。
それに門の前でなにやらもめている様子なので、馬車の窓から目を乗り出し、そっちに向かって話かけます。
「何かあったのですか?」
「門番が、領主館の門を開かないのです」
「だから、ここの領主はロード・レオンさまだってさっきから話しているだろうが。ここにはな、あたらしい領主なんて必要ない、分かったらとっとと帰ってくれ!!」
「それともあれか? 王都からきたお嬢ちゃん領主は、身をもってここのやり方を学びたいのかな?」
「なんだと貴様!! シルヴィア・ランカスター殿は陛下から正式にこの地を統括するように命じられてきたのだぞ。それに従わないというのか!!」
「だから、この地のことを何もわかっていない人に統治されても困るっていうことだ。そうさなぁ。どうしても通りたかったら、その領主さまがこの門を開いてみればいいさ」
ヘラヘラと笑っている、武装した門番。
その向こうの門は鉄製、高い壁も石壁で作られています。
まあ、いつ魔物が攻めてきても守り切れるように頑丈に作られているのでしょう。
「それじゃあ、その門を開けばいいのね?」
「ふん。魔術で強化されている門だぞ、力任せに開こうとしても無理だからな。この門はな、登録された魔力を流し込まない限り開くことが出来ないんだよ」
「へぇ……」
馬車を降りて、すたすたと正門の前へ移動。
扉をよく見ると、左右の扉には小さな魔法石が梅子載れてあり、そこを中心に術式が刻み込まれてあります。
「ほら、開けれるものなら開けてみろよ。それが開けられるのなら、俺はあんたをここの領主として認めてやるよ」
煽るように私の近くで呟く門番。
さすがに度が過ぎると考えたのか騎士団長が私の方に近寄ってきますけれど。
「ここは任せてください。では、開けばよろしいのですよね」
口の中にミスリル飴を取り出し、それをがりっとかみ砕いて飲み込む。
『扉に刻まれている術式は古いもの……魔術の理・古代術式5を発動』
体内に蓄積されたオーラを消費し、古代術式を発動します。
すると、それまで読めなかった扉術式が頭の中にすらすらと入ってきました。
ええ、この扉を開くために必要な手順も何もかも。
だから、扉に組み込まれている魔法石に手を当てて、古代魔法語で詠唱を開始します。
『書換開始《リ・ライト》……この扉に刻まれている魔術式の変更、魔法石に登録されている管理責任者の魔力を、私の魔力に上書き……これまでの権限所有者の登録魔力を消滅し、私の魔力が付与されている鍵の所有者にも、扉を開く権限を与えます……』
一つ一つ言葉を紡ぐ。
すると、左右の扉に刻まれていた術式が新しいものに書き換わりました。
「お、おまえ、一体なにをしたんだ!!」
「そうですねぇ……扉の管理責任者を私に書き換えただけですよ。ほら、重要書類の収められているフォルダの権限の変更なんて、しょっちゅうでしたから」
「意味が分からねぇよ!!」
「そうですか? でも、ほら」
――パチン
私が右手人差し指とオヤユビに魔力を集め、そして指をパチンと鳴らします。
すると扉がゆっくりと開きました。
「では、私がこの地の領主ということで。この正門は開いたままにしておきますね、街の中なので魔物か゛屋ってくる心配もありませんし……なによりも、こんな分厚い扉で閉ざされてしまったら、中でどんな悪さをしていても見つかるようなことはありませんからね。では、向かいましょうか」
そう告げて私は馬車の中へと移動。
そして次々と馬車が領主館の敷地内へと入っていくと、適当な場所に止まって待機。
さて、それでは堂々と、領主館へと入ることにしましょうか。
どうせ、噂にあったレオンがいるのでしょうから。
馬車からおりて正面玄関へ。
そこも魔術によって施錠されていたようですし、なによりも出迎えなしというのは感心しません。
早馬で私がここの領主となることは伝えられているのですから、侍女なりなんなりと準備が出来ていてもおかしくはないのですけれどね。
――ギィィィィッ
再び扉の魔法鍵を書か換えて開くと、大きなホールの真ん中で身なりのいい服を着た恰幅のいい男性が立っています。
「貴様は何ものだ!! この俺がロードレオン領の領主・レオンだ。許可なくこの建物に入ったことについては、今すぐにここから出ていけば見逃してやる」
うすら笑いを浮かべて叫ぶレオニード。
その後ろでは、腰に剣を下げた二人の護衛が待機しています。
だから、堂々と腰にさしてある装飾短剣を取り出して目の前に掲げます。
「私はシルヴィア・ランカスター。このランカスター分割領の新しい領主となった。これがその印であり、陛下から賜った準男爵の証である。そこのレオニードといったな、先ほどの言葉については、今すぐ謝罪するならば法の目に触れることなくなかったことにする。だが、そうでなければ、実力行使でこの場から排除するが如何や」
堂々と私が宣言すると、その横にコデックス執務官がやってきます。
「こちらが貴族院の発行した任命書で、これは貴方のお父様から預かって来た手紙です。まずはこちらに目を通してみるのがよろしいかと」
「必要ない!! どうせその短剣や書簡も偽物に決まっている……すでに、早馬で陛下の勅命を語る詐欺師がこの地にやってくるという連絡は受けているからな……。貴様らを捕らえ、こんどこそこの俺が正式な領主になってみせる!!」
あ、今のものいいだと、自分が偽物だっていう自覚はあるようですか。
それにしても、まさか私たちが詐欺師であるなどという連絡が届いているとは予想もしていませんでしたよ。
それも早馬でだなんて。
おそらくは、アカニシ男爵家で行われた晩餐会、あの直後に何者かが連絡をしたのでしょう。
「本当に……ミスリル飴だって在庫が少ないのですよ……それをこんなくだらない奴に使うだなんて……いえ、私が出る必要はないでしょう。ホフマン騎士団長、彼らを捕らえてください」
「御意……光輝騎士団に告げる。この賊どもを捕らえよ、そしてこの屋敷に隠れているであろう物たちを、すべてここに連れてこい!」
――ガシャッ!
騎士団長の言葉で、同行していた12名の軽装騎士が一斉に走り出します。
いやいや、チェインメイルを着込んで走れるって、この世界の騎士たちの体力は化け物なのですか?
一斉に階段を駆け上がったり、奥の回廊へと走り出す騎士。
そしてホフマン騎士団長と副騎士団長がレオニードの元へと走り出すと、その後ろに控えていた二人が前に飛び出し、剣を構えて牽制しました。
「王都の守護騎士であるホフマン殿と手合わせが出来るとは光栄です。赤剣のミッツ、参ります」
「同じく、申し訳ないが、貴方たちにはここで死んでもらわないとならなくてね。そこのロードレオンがこの地を統治していないと都合が悪い連中が多くてねぇ……毒使い・ラードン、行かせてもらう」
――ギン、ガギン
激しく内なる剣戟の響き。
巨大な赤い両手剣を振るうミッツと、ナイフ二刀流のラードン。
かたや騎士たちは騎士剣とバックラーという室内戦を想定した獲物で応戦。
そしてこっそりと後ろに向かって逃げていくレオニード。
「いいか、必ず仕留めろよ!!」
「逃がすわけないでしょうがぁ!!」
振り向いて叫ぶレオニーだけれど、私は近くで護衛している騎士からヘルメットを借ります。
ステータス強化……は、普段から使っているので、このまま全力でヘルメットを投げつける!
――ガッゴォォォォォン
振り向いて逃げようとしているレオニードの背中に直撃。
そのまま翻筋斗《もんどり》うって前のめりに倒れると、びくっびくっと体を痙攣させています。
「捕まえろ!!」
そう私が叫ぶと、数人の護衛がそちらに向かって走り出しました。
「あの馬鹿……」
「仕方ない、ラードン、下がるぞ」
慌てて騎士たちから離れるようにミッツとラードンが下がると、そのまま建物の奥へと走り出しました。ええ、戦略的撤退というところでしょう。
レザーアーマーだけの二人を負いかけられるほど、騎士たちは早くなかったようで。
騎士団長たちも逃走する二人を追いかけることなく、レオニードの捕縛に向かいます。
「ここで待機していても暇だから、先に執務室だけども確認してみる?」
そうコデックス執務官に問いかけると、それはもう、楽しそうにニイッと笑っています。
「そうですね。どうやらこの領地は、叩けばいくらでも埃がでそうですので。それに、彼に連絡を行ったものが何者なのか、それについても色々と地ようさをする必要もありますが……さすがに王都に調査を依頼するにはここまでの道のりは遠すぎますか。私たちで独自に調査する必要がありますね」
「はぁ。わたしはゆっくりと休みたかったんだけれどねぇ……」
「雑務関係は私たちにお任せを。シルヴィアさまは領主としての責務を果たしていただければ、それで十分ですので」
その領主の責務が面倒くさいんですってば。
「まあ、そのへんはお手柔らかにお願いします……」
「畏まりました。と、どうやらこの部屋のようですが、鍵がかかっていますね」
――ガチッ
扉を開こうとしたが鍵がかかっていますか。
古代術式で強制的に開けることもできますけれど、ミスリルの原価を考えると。
――バキッ
ドアノブの上あたりを力いっぱい殴りつけて破壊。
そのまま手を突っ込んでノブにかかっている鍵を外して扉を開くと。
「ひっ!!」
そこそこにいい身なりの男性が、机の上にうず高く書く摘まれた書類を抱え込んでいます。
しかも暖炉の中には火がついてあり、何かが槇以外のなにかが燃えている形跡まで。
そして抱え込んだ書類を持って暖炉へと走り始めたのですが、証拠隠滅なんてさせるはずがないです。
「確保ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そう叫びつつ、男に向かってドロップキック。
横合いからの鳶ゲラに吹き飛ばされた男は、そのまま壁に力いっぱい激突。
意識を失ってその場に崩れ落ちました。
「コデックスさん、燃え残っている書類を!」
「はいっ!!」
コデックスさんが急いで火かき棒で燃え残っている書類を取りだし、くすぶっている火を踏み消す。
その間に私も取り返した書類をまとめてから、男を後ろ手に縛りあげておく。
「どう? なんとかなりそう?」
「記録用のカヤツリ紙だったので、結構燃えてしまっているようです。けれど、こっちの書類の束があれば、ある程度は調べることは可能です。どうせ裏で手引きをしていたという証拠を燃やそうとしていたのでしょうるそうでなければ、冬でもないのに暖炉に火をくべるなんてするはずがありませんからね」
「ですよね~」
そう説明をしている最中、コデックスさんが書類関係を集めてからカバンに収めていきます。
さて、問題はこの意識を失っている男。
一体何者なのか、裏でどんな輩が手引きをしていたのか色々と聞いてみる必要がありますね。
まあ、闇ギルドっていうことはないと思いますけれど、おそらくはこのランカスター分割領を自分たちの好きなように経営し、利潤をむさぼっていた奴等だろうという予測ぐらいは簡単につきますね。
「それじゃあ、私はこのまま部屋の整理しておきます。シルヴィアさまはどこか体を休められる場所へ向かってください」
「そお? それなら別に構いませんけれど……」
「それとも、私と一緒にこの膨大な書類のチェックを行いますか?」
「それじゃあ、ここはよろしくお願いします~」
ひらひらと手を振ってから、私は執務室を後にします。
さて、屋敷のあちこちで剣戟の音が聞こえてきたり、悲鳴のような声まで聞こえてきますけれど。
少なくとも二階は安全のようですから、そっちでおとなしくしていることにしましょう。
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