お嬢様、ミスリルは食べ物ではありません~異世界転生した悪役令嬢は、暴飲暴食で無双する~

呑兵衛和尚

文字の大きさ
上 下
20 / 25
第一部・食戦鬼? あ、食洗機ですか。

第20話・後始末と、これからのことと

しおりを挟む

――ガバッ
 目が覚める。
 慌てて周囲を見渡すと、ここは私の部屋ではなく、来客用にあしらわれた客室。
 そしてベッドの傍らには、女性の騎士が立って扉と窓を警戒している。

「ああ、そうか……私は意識を失ってしまったのか」

 そう呟いたものの、頭の中はふらふらとしている感じがするし目の前も霞んでいるような気がする。
 それに心なしか動悸が早いような……。

「シルヴィアさま、気が付きましたか。今、家宰を通して両親にご連絡します。今しばらくは、このまま部屋で待っていてください」
「はい……」

――グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!
 そして室内に響き渡る豪快な腹の音。
 うん、低血糖症だわ、これ。
 スポーツジムでもよく言われている奴ですよ、とりあえずミスリル飴……じゃ糖質は補えないか。
 この世界の人って、低血糖症はどうやって直しているんだろう。

「ふぅ……」

 昨晩の出来事を思い出す。
 冒険者に偽装していた暗殺者を倒したものの、なにか不思議な力によって暗殺者たちは首を切断され死亡。結果として優秀な冒険者チームが闇ギルドに所属していたという事実と、私の暗殺を依頼したのがワルヤーク子爵であったことまでは発覚したけれど、根本的な解決には至っていない。

「それでも……少しは進展したのかなぁ。一人だけ逃がしちゃったけれど」

 ウル・スクルタスの最後の一人、神聖騎士のミランダにだけは逃げられたけれど、これで私の実力については闇ギルドにも知られることとなったと思う。
 ただの暴君令嬢ではない、実力を兼ね備えた伯爵令嬢だっていうことが。
 うん、ここから予測できることは二つ。

 面子をつぶされた闇ギルドが総力を挙げて私を狙ってくるか。
 これ以上の被害を出さないよう、私に対して手打ちを申し出て来るか。
 
 私としても手打ちを望むのだけれど、そんなにうまい話はないよなぁ。
 ミスリル飴の補充もやりたいところだけれど、もう今月の小遣いでは一つも買えないし。
 そんなことを考えていると、ガタガタと廊下が騒がしくなり両親をはじめ大勢の人たちが室内にやってきた。
 そして漂ってくるおいしそうな香り。

「シルヴィア、ようやく目が覚めたか!」
「あの暗殺者たちの襲撃す後、3日も目が覚めなくて心配だったのよ。ほら、教会から神聖治療師のフレッチャーさんにも来ていただいたから」
「それでは、診察を始めることにしましょう」

 私の突っ込みのタイミングを全て奪ったうえ、フレッチャーさんが手を翳して静かに韻を紡いでいく。
 いつか見た魔法陣、そして魔法陣から放出された神の力が、私の体をゆっくりと包む。
 これって、口から吸いこんだら覚えられるのかな?
 そう考えたら即実行。
 見つからないように少しだけ口を開き、ゆっくりと深呼吸。
 神の力の踊り食い……って、うん、甘い。
 そして僅かに口の中に広がるのは、これってワインの酸味?
 
『神の理・神聖魔術3を修得しました』
 
 ほらキタァァァァァァ!
 神聖魔術について頭の中で考える。
 うん、身体治療と病気治癒、解呪、神託……いろいろあるけれど、神聖魔術3で使えるのは身体治療と病気治癒の二つだけ。解呪には神聖魔術4が、そして神託は神聖魔術5にならないとつかえないようで。
 オーラを余剰に使ってみても、多分3までしか活性化していないから無理なんだろうなぁ。

「けが、病気、呪いすべてなんともありません。ただ、栄養不足のようです。それと、無理な運動で体の疲労もまだぬけていません。ゆっくりと栄養を取って、静養されるのがよろしいかと」
「そうか、わかった」

 深々と頭を下げて、フレッチャーさんが下がっていきます。
 そして両親も部屋に入って来た時は心配そうな顔をしていましたけれど、いまはほっと安心しているようで。

「と、いうことだ。後の始末はこちらでしておくので、シルヴィアは休んでいなさい」
「いいこと、少し良くなったからって屋敷の外に出たりしたら駄目なのですからね」
「はい」

 しっかりと釘を刺されたので、しばらくは体を休めることに専念しましょうかね。
 そんなことを考えていると、次々と食事が運ばれてきましたよ。
 体に優しそうな牛乳粥であったり、柔らかく煮込んだ根菜だったり。
 あの、肉をください、動物性たんぱく質を、プロテインのようなものはないのですか?
 筋肉の疲労にはビタミンB1とBCAAが必要なのですよ。
 ポポビタンCなんて贅沢はいいません………って、無理だよなぁ。

………
……


 私が倒れてから一週間。
 ずっと屋敷に閉じ込められていました。
 シルヴィアの記憶保管庫を探ってみても、両親の過保護さは昔も今も変わらないことがよく分かりました。
 しっかりと毎日栄養を取りつつ、部屋でできるトレーニングは欠かさず。
 大きく変化したことはおやつの回数が増えたことと、侍女を始めとしたランカスター家に仕えている人たちの私に対する態度ぐらいです。
 具体的には畏怖と恐怖、この二つが増幅しているようでして。
 せっかく『優しいお嬢様キャンペーン』を継続して信頼度が高まったかと思ったのに、あの暗殺者の襲撃を単独で撃破したという事実と、部屋に駆け付けた騎士や家族の見た光景がそのまま噂として広まったそうで。
 ええ、家宰のジェラルドさんが侍女たちに聞き込みを行ったそうで。
 曰く。

『シルヴィアお嬢様が、暗殺者であったハイランカー冒険者の首を跳ね飛ばした』
『あのジャービスたちに指一つ触れさせることなく蹂躙した』
『シルヴィアお嬢様は、少なくとも単独でサファイア級冒険者の実力を身に着けている』
『騎士たちが到着したとき、ちょうど首を掴んで切り裂き、その血を浴びてケタケタと笑っていた』
『素手でファイアードレイクの首をねじ切った』
『この屋敷の地下には、シルヴィアさまの期限を損ねて闇に葬られた侍女の怨念がさまよっている』

 うん、殆どデマ。
 サファイア級冒険者の実力については、ミスリル飴によるブーストさえかかっていればという補足が付く程度だけれど、あとは真っ赤な嘘。
 本当に、どれだけゴシップに飢えているんだよ、うちの侍女たちは。
 そう思ってジェラルドさんに、今流れている噂は嘘だからって伝えて貰ったら、さらに

 『この件は嘘です』から『嘘ということにしておいて欲しいといわれました』に変化し、しまいには 『この件は屋敷の外には漏らさないように。地下室を徘徊する怨霊になりたくは無いでしょう?』

 に発展して現在に至る。
 結果として侍女たちの態度は硬化し、以前のようなおびえた態度からさらに悪化し、私に呼び出された侍女たちは出来る限り目を見ない、用事が終わったらとっとと離れるという感じになってしまいましたよ。

「あはは~。シルヴィアお嬢様のことを知らない侍女は、そんな感じですよねぇ。私はお嬢様が生まれて間もなく、このランカスター家でシルヴィア様付き侍女見習いに任命されていますけれど……」

 そうおやつを運んで来たシルヴィア付き侍女長のアシュレイが笑いながら呟いています。
 記憶保管庫曰く、アシュレイはシルヴィアが心を許している数少ない人物。
 ジェラルドさんの娘ですから間違いはありません。

「そうなのよ。本当に困ったものです……と、いつまでも屋敷に引きこもっていては逆に体を壊してしまいそうなので、そろそろ外出したいのですけれど」
「その件につきましては、お館様から護衛を伴っての外出は許可されています」
「嘘!! いつの間に?」
「今日の朝ですね。ですから外出なさるときは、騎士詰所に連絡を入れておいてください」

 よっし。
 ようやく外に出られる。

「それじゃあ、午後には町にでも出ることにしましょう。気晴らし程度ですけれどね」
「はい。それではそう騎士の方にも伝えておきます……それと、その、街に出ても市井の声にはあまり耳を傾けない方が良いと思いますので」
「……まさか」

 そう問いかけると、アシュレイはにっこりとほほ笑んで一言。

「しっかりと、街の方々に噂を流した侍女には折檻してありますので」
「マジかぁぁぁ。ちなみにだけれど、今の私の町での噂ってどれぐらいなの?」
「依然と変わりませんわ。ええ、以前と」
「うっそでしょ。改心した伯爵令嬢っていうイメージはどこに行ったの?」
「化けの皮がはがれた、実力を兼ね備えた暴君令嬢にランクアップした、だそうです。では、失礼します」

 丁寧に頭を下げて退室するアシュレイ。
 いや、そんなにあっさりと教えてくれてもさぁ。
 化けの皮がはがれたって、どういうことなのよ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...