お嬢様、ミスリルは食べ物ではありません~異世界転生した悪役令嬢は、暴飲暴食で無双する~

呑兵衛和尚

文字の大きさ
上 下
18 / 25
第一部・食戦鬼? あ、食洗機ですか。

第18話・闇ギルドとの再戦

しおりを挟む

 闇ギルドの深夜の襲撃。
 残念なことに、あってはならない結果が出てしまいました。

 早朝、私たちが出発するとき、町はずれの古い屋敷の中で、ブロンクスさんとバースディさんの死体が発見されました。
 全身のいたるところがグズグズに溶けていて、かろうじて残っていた装備品が二人の持ち物であったことから、二人が暗殺者に殺されたという結論に達したそうです。
 それで早朝、二人の遺体は町の墓地に埋葬され、持ち物は家族の元へと届けられるとかで。
 ジャーバスさんたちも意気消沈、悲しみに包まれています。

「ランカスター伯爵、お願いがあります」
「何かね?」

 そして出発の準備が終わってから。
 ジャーバスさんがお父様に頭を下げました。

「仲間の仇を討つために、ランカスター領に戻ってからも私たちをシルヴィアさんの護衛に着けてくれませんか? いや、屋敷の警備でも構いません。未だ闇ギルドがシルヴィアさんを狙っていることは事実、それならばまたいずれは奴らの魔の手が伸びて来ると思います……」
「私たちからもお願いします」
「二人の仇を取らせてください!!」
「このままでは、私たちはここで立ち止まってしまいます」

 フレデリカさんとミランダさん、そしてステファンさんも頭を下げています。
 するとお父様もその言葉にうなずいて。

「わかりました。領都に戻ってからも、引き続き皆さんを屋敷の護衛として雇うことにしましょう。一刻も早く、闇ギルドの連中を捕らえられるとよいですね」
「はい、ありがとうございます!!」

 これで話し合いは無事に終了。
 私たちは再び領都へと戻るべく、馬車を走らせます。
 そして2日後には無事に領都に戻り、20日ぶりに我が家に戻ってきました。
 屋敷の玄関の前で、ジャービスさんはお父様から『依頼完了』の際を受け取っています。
 
「それでは、私たちはギルドに依頼完了の報告を行ってきます。それと、屋敷の警備について、指名依頼を頂きありがとうございます」
「今日はゆっくりと休んでください。明日の朝には指名依頼を出しておきますので、それを受けたらまた私たちを訪れてください。それでは」
「はい、ありがとうございます……では、失礼します」

 丁寧に頭を下げ、ウル・スクルタス《幸運の導き手》の皆さんが屋敷を後にしました。

「さて、久しぶりの自宅です……ゆっくりとさせてもらいましょうかねぇ」
「ヒッ!」

 玄関を開けてそう呟いたら、待っていた侍女の皆さんが顔を真っ青にして引き攣っていますよ。
 はぁ、今だ暴君の称号はしっかりと根付いているようで。
 私の後ろで無表情になっている専属侍女なんて、もう慣れたものでしょうから。

「あ~、そういう意味じゃないからね、本当に私が休むだけだからね……とりあえずね
根部屋にティーセットとお菓子を持ってきてもらえるかしら?」
「お菓子……は、今から焼きますのでお待ちください」
「いや、街で買ってきていいから、なんでそう、焼き立てを持ってこようとするかなぁ」
「……焼き立ての菓子でなければだめだと……以前はそうおっしゃっていました。旅から戻ってきて、なんで冷たい出来合いの菓子なんて食べると思っているのよって……」
「紅茶も摘みたての出来立てでなくてはと」

 はあ。
 一か月も私がこの世界に来てからの一か月間、元シルヴィア嬢の悪評を正すために侍女をはじめ領都内で彼女のことを知っている人に対して思いやりとやさしさを持って接していたのに、まだまだ私への恐怖は根強く残っているのですか。
 いえ、今回の件で少しずつ取り戻した評判が覆されたといっても過言ではありませんね。

「ま、まあ、とりあえず着替えて部屋で休んでいますので、よろしくお願いします。それと、誰かドヴェルグの鍛冶工房までお使いを頼まれてくれませんか? 手紙を用意しますのでそれを持って行ってくれればよいのですけれど」
「はいっ!! 急ぎ支度して工房に行ってまいります!」
「……はぁ、そんなに急がなくていいから、私が手紙を書き終わるころに来てください」

 手紙程度、自分で持っていけばいいと思うのですけれど。
 どこの世界に、伯爵令嬢が手紙をもって鍛冶屋まで自分でいくというのですかって、シルヴィアの記憶に怒鳴られそうです。
 貴族令嬢らしく生きる、それも私の魂をより磨く秘訣だと思いますよ。
 はあ、どうせなら村娘とかそういう感じに転生したかったよ。
 あまりにも責任というか、シルヴィアという存在が枷になってのんびりと生きるのは大変なのですよ。

………
……

 
 夕方。
 鍛冶屋に使いを出していた侍女が戻ってきました。

「失礼します。ドウェルグさんから荷物をお預かりしてきましたが。これはどこに置いたら良いですか?」

 大きな箱を二人がかりで持ってくる侍女たち。
 手紙に書いたのは、ミスリル飴の追加注文だったのですけれど、こんなに早く届くとは思っていませんでしたが。

「そこにおいてくれて構いませんよ。あとは私が処理しますので、下がって構いませんので」
「はい、それでは失礼します」
「そうそう、それと、私が呼ぶまでは誰もこの部屋に入らないようにね。これは、暗殺者対策に用意した秘密兵器だから」
「畏まりました」

 丁寧に頭を下げて、部屋から出ていく侍女たち。
 ちなみに箱の中には『ミスリル飴』が20個と、鋳つぶして廃棄される様々な武器の山。
 冒険者たちが装備を変える際、古い装備は安く買い取っているらしく。
 そういう装備を鋳つぶしては、様々な農具や包丁などの調理器具に作り替えているそうで。
 今回のミスリルの代金のお釣りは、すべてこの武器で貰ったんだよね。

「さてと、それじゃう少しでも技術を身に着けるとしますか……暴飲暴食《レッツチャージ》」 

 それでは実食タイム。
 
「折れた剣程度じゃスキルは覚えられないけれど、オーラのチャージには使えると。ふむ、折れた弓はまた、なんというかサクサクとしたクリスピータイプの『うんまい坊』っていうかんじかな。これ以外は全部オーラになるだけかぁ。やっぱり上位スキルを保有していると、それより下のスキルは修得不可能みたいだねぇ」

 さっきから頭の中に響いてくる声。

『剣術の理・中級剣術2を修得……上位スキルが存在するため修得失敗、オーラに変換します』
『守護の理・基礎防御力1を修得……上位の理である《防護の理》があるため修得失敗、オーラに変換します』
『弓術の理・中級弓術3を修得』
『魔術の理・黒魔術1を修得……上位スキルが存在するため修得失敗、オーラに変換します』
 
 次々とオーラに切り替わっていく。
 さて、どれぐらいオーラが蓄積されたのでしょうか……っよく考えたら、蓄積量は数値化されていないんだよなぁ。だいたいの感覚で覚えるしかないかぁ。
 
「オーラの感覚……うん、体内を循環しているのはわかる。血流のようにどこかをめぐって、細胞の隅々までしみとおっていく……パンプアップ見たいなかんじ?」

 椅子から立ち上がって、自然体で立つ。
 そして循環するオーラを身に纏うように念じてみると、金色の光が体の外にもあふれ出してきた。
 
「まるで漫画のスーパー・ヴェジタブルマンみたいだねぇ」

 そう考えつつ、こんどはオーラを体内に留めるイメージ。
 すると光は静かに立ち消え、普段の私の姿に戻る。

「うん、今のスーパーモードでもオーラはそこそこに消耗するのか。あとは、今のうちにコマンドアーツを開放した方がいいよね」

 コマンドアーツは、一度開放したらオーラの消費なしに自由に使えるようになる。
 また、オーラを乗せることも出来るらしいけれど、今はそっちに比重を置くよりも、開放するほうに集中。

『剣術の理・コマンドアーツ《スマッシュ、ウェポンブレイク》を修得』
『拳術の理・コマンドアーツ《ストライク、グラップリング、ホールド》を修得』
『防護の理・コマンドアーツ《ゲイン、プロテクション、アブソリュート》を修得』

 スマッシュは全力攻撃、ウェポンブレイクは武器破壊ですか。
 ストライクも無手の全力攻撃で、グラップリングは掴み・投げ技、ホールドは関節技。
 ゲイン……これはまだ理解不能、プロテクションはオーラを消費して魔力の盾を生み出す。
 そしてアブソリュートは、敵の魔法を受け止めオーラに転換……だけれど、私が修得している魔法しか吸収できないので、今は使い勝手が悪いどころか使えないという。

 まだ箱の中にはガラクタの武器が入っているけれど、今はこれ以上はオーラに変換できないようで。
 
「空間収納にも入らない大きさかぁ」

 すでにいろいろなものが入っているので、この木箱は空間収納には収めることが出来ない。
 ちょっと横幅が長いため、今の容量では無理のようですね。
 ということで、これは部屋の片隅にでも持っていって厳重に蓋をしておきます。
 おそらく、私が鍛冶屋から色々なものを買い求めていたという情報は、闇ギルドの連中にも流れていると思いますから。

 そして、もしも次に私を狙ってくるとすれば、王都から戻ってきて疲れ切っている今日。
 久しぶりの我が家で羽を伸ばし、心も体も休まるのは今夜ぐらいでしょう。
 このタイミングを失いますと、また私が警戒を強める可能性を考慮してているとは思いますし、だからといってこの好機を逃すとも思えません。
 鍛冶屋から買い求めていたのはクズ武器や壊れた防具、それを何に使うのか頭を捻ってくださいね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...