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第一部・食戦鬼? あ、食洗機ですか。
第12話・神降臨の報酬は?
しおりを挟むへんじがない、屍のようだ。
今の私の心境は、おおよそこんな感じです。
園遊会も無事に終わり、私たちランカスター伯爵家は、このあと国王との謁見が待っています。
皇太子の誕生会ということもあり、園遊会が終わるまでは先ほどの奉納舞のことについては誰も口に出すことはなく。アレクサンデル皇太子が神の祝福を受けたという事実のみで話は終了しました。
私がやらかした一件は園遊会が終わってから再びぶり返すかのように貴族たちの間で話題に上り、6柱教会の大司教は是非とも今代の聖女として教会に仕えて欲しいと懇願していますし、多くの伯爵家や侯爵家はぜひとも私を息子の嫁にと両親に話を持ってくる始末。
そのどさくさにまぎれて、ワルヤーク子爵とクルレウス伯爵が自分の娘自慢を開始。
6柱神が降臨したのは自分の娘の活躍があったらだと主張し、周囲の貴族たちをどん引かせています。
そもそも、もしも彼女たちの手柄ならば、最後に6柱神が降臨したとき、二人にも加護が与えられていたのではと突っ込まれて不機嫌になり、その場を離れていくところまでがテンプレートでした。
そして貴族たちも神降臨の熱が冷めやまぬうちに退場となり、最後は私たちランカスター家が国王の待つ応接室へと招待されました。
「シルヴィアよ。先ほども礼を述べたが、この場でもう一度、そなたに礼を言わせてもらう。神を降臨してくれたこと、そして我が息子に祝福を与えてくれたこと、国王としてだけではなく父親としても光栄に思う。ありがとう」
そして国王だけでなく王妃さまと3人の息子たちも、私に頭を下げます。
やめてぇぇぇぇ、もう心臓がドッキドキしていて苦しくなってきます。
私の横に座っている両親も、その後ろに立つ兄や姉も真っ青な顔になっているではありませんか。
「さて、こ度の件で色々と聞きたいことがあるのだが。先ほどの奉納舞、今では失われたものであり、それを伝えているものは今はほぼいないと大司教にも話を聞いた。幸いなことに、彼がまだ幼かった時代に修行の旅をしていた時。旅先の一つであったハイエルフの王国で見たことがあるということらしいが、あそこまで完璧なものではなく、最後の方は語り継がれていなかったというが。どこでこれを学んだ?」
はい、その質問は来ると思っていましたよ。
だから正々堂々とお答えしましょう。
「ランカスター領都の古い書店で偶然、見つけることが出来ました。私は書写版を購入しましたので、まだ原本は残っているかと思われます。なお、その書写版も私が練習中に紛失してしまい、今は手元にありません」
しっかりと実食しましたので、もうありません……とは言えませんよ。
そして私の話を聞いている国王もあごひげを撫でながらふぅむ、とかふむふむ、といった相槌を打ってくれています。
「そうか。ランカスター伯爵よ、自領に戻った際には、その書店で原書を購入し、王都まで届けるように。原書が無理ならば書写版でも構わない。神を降ろす舞である以上、それを悪用されないように厳重に注意しなくてはならないからな。ということでシルヴィアも、あの奉納舞については王家の許可なく踊ることは禁ずる」
「ははーーーっ。仰せのままに」
私は深く頭を下げます。
「さて、それで褒美のことだが。何か望みのものはあるか? わしで叶えられるものならば、どんなことでもかなえて見せよう」
いよっ、太っ腹って叫びたくなります。
それならば大量のミスリルを……いえ、その程度はお金で買えます。
お金で買えない価値がある、そういうものを……と思ってふと隣で固まっている両親を見て。
「それでは、ランカスター伯爵家の爵位を一つ、上げていただけますか?」
おおっと、もう少し丁寧な言い方がありますよ。
でも、私が神降臨して6柱神によって国が祝福されたのです、この程度は楽勝ですよね。
「……よし、それではランカスター家はこれより王領伯とする。以後、オルタロス監査卿の下につき、王宮内で務めを果たすよう。それに伴い、長子であるエリオットがランカスター伯爵領を監督するよう」
……はい?
王領伯って何でしょうか?
いまひとつ、私には理解できないのですけれど。
爵位って五爵、上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵ですよね?
そして国境を護る辺境伯は侯爵と同等だったはず。
王領伯なんてしりませんよ?
でも両親は感極まって泣いていますし、兄は誇らしげに胸を張っています。
姉も目に涙を浮かべていますので、知らぬは私一人のみですか。
「ありがたき、幸せ。このランカスター、誠心誠意国に仕える事を宣言します」
「うむ。日ごろから貴公の務めの姿は見ていた。その褒美と思っても構わない。遅かれ速かれ、いずれは陞爵する筈であったのだが、それが早まっただけだ。己が務めを果たすよう」
「ありがたきお言葉」
平服する家族たち。
私もそれに合わせて頭を下げますと、ようやく緊張の糸がほぐれました。
「しかし、そうなるとシルヴィアへのお礼ではなくなるが……いっそ、王家にでも嫁いでみるか?」
「あの、冗談でもそのようなお戯れは……私は20歳になりましたらオルタロス公爵家に養女として迎え入れられることになっています」
「それなら身分的にも問題はあるまい。いや、本音を語るならば、神に祝福を受け、称号を得たものを他の貴族に嫁がせるわけにはいかん。いわば王家で囲い込みたいというだけだが……」
あの、皇太子にはすでに婚約者がいますよね。
それに次男は副騎士団長である女性と懇意にしているそうですし……。
三男のマクシミリアンさまに至っては、まだ11歳じゃないですか。
私との年齢差は5歳、魂の年齢差はじつに15歳ですよ、おねショタどころの話ではありませんよ。
「どうだ、マクシミリアンよ」
「え……あの……僕ですか?」
童顔で物腰柔らかそうな美少年が、顔を赤らめてもじもじとしていますよ。
これは……いけません、なにかが目覚めてしまいそうですよ。
「あの、僕はまだ、そういうことは……でも……」
そこで顔を真っ赤にして、部屋から走って出ていきます。
うわぁ可愛いなぁ、もう。
「ふぉっふぉっふぉっ。ということなので、まんざらでもないというところじゃが。そもそも公爵家に養女に迎え入れられるまであと4年もあるということになる。だから、それまでは仮の婚約者ということでよいな?」
はい、こんなの断れるはずがありませんよ。
「は、はい。よろしくお願いいたします」
その言葉で、その場がいっそう華やかに盛り上がりました。
そもそも、私を嫁にというのは神の加護を持つものを王家に取り込むためであり音いわば政略結婚のようなもの。
この先どうなるかなんて私にもわかりませんよ。
そもそもですよ、私はこの世界では大恋愛の果てに幸せになるって決めていたのですからね。
それを、あんなまだ年端もいかない子供相手に婚約だなんて……うん、これは壮大な計画の練り直しが必要です。
ということなので、明日、私は王都の6柱教会に向かうことにしましょう。
神様たちに、今回の件について詳しい話を聞かせて貰わなくてはなりませんからね。
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