上 下
4 / 25
第一部・食戦鬼? あ、食洗機ですか。

第4話・神よ……面白がっていますよね?

しおりを挟む
──六神教会
 食事を終えて、私は一路、街の教会へ。
 歩いて行こうと思ったのですが、貴族の令嬢が一人で歩いていくなどとんでもないと言われ、急遽馬車を出してもらうことになりまして。
 ゆらりゆらり揺れながら、30分後には六神教会へたどり着きます。
 この教会には主神は存在せず、世界を司る6柱の神全てを等しく祀っているそうです。
 このあたりの詳しい知識は、シルヴィアの記憶からは読みだすことができません。
 うん、一般教養のはずですけれど、このあたりはサボっていましたね?
 
「それでは、私どもは外でお待ちしています」
「はい、それほどお時間はかからないと思いますので」

 教会に入り、まっすぐに主神たちの並ぶ聖堂へ向かいます。
 ええ、開け放たれた扉の中に私が入った途端、修道女や礼拝に訪れた信者たちがサーーッと左右に逃げるように移動します。
 私はモーゼですか?
 ここには海なんてありませんよ。

「はぁ……これは予想以上に根が深いですね」

 呟きつつ正面の六神像の前に移動。
 そしてゆっくりと跪き、両手を組み合わせて神に祈ります。

(あの、教会に来ましたけれど……)

 誰となく問いかけますと、突然周囲の光景が一転しました。
 教会の中ではなく、広い庭園。
 その噴水のほとりで、6人の男女がベンチに座っています。

『お、来たようじゃな』
「その声は、昨日の神の声ですか……」

 私が目覚めた時に聞こえた声。
 その主というか神がその場にいます。
 長いひげを蓄えた壮年の男性、うん、よく知っている神様のイメージってこんな感じですよね。
 ほかにも綺麗な女性や鎧を着た男性、獅子の頭の獣人とローブに身を包んだ魔法使い、そして子供。

『よく来てくれた。まずは君のことについて確認させてほしい。地球出身の女性、明石志乃で間違いはないな?』
「はい。それで間違いはないです。あの、私はどうしてここにいるのでしょうか。確か私は出勤時に電車に撥ねられて……そう、どうして撥ねられたのですか?」

 朝一番というわけではありませんけれど、私の出勤時間はまだ、それほど混んでいないのです。
 にも拘わらず、私は電車に轢かれました。
 ホームに堕ちてしまった私にも非はありますけれど、それでも不自然にめまいがしたり……うん、明らかにおかしいです。

『そうじゃな。神の悪戯というところじゃよ。君の住む地球の神、それも悪神が戯れに君を殺した。その結果、悪神は他の神々によって地球を追放されてしまったらしい。神の悪戯とはいえまだ死ぬべき寿命を迎えていない君が殺された結果、運命の輪に乱れが生じてしまった』
『そこで、君の欠けた部分を補うために力を貸して欲しいと、我らは地球の神に相談を受けてな。とりあえず、死んでしまった君の魂を救済し、この世界に転生させたのだ』
『悪神の悪戯ではなく、輪廻転生の枠の一つとして処理することで運命の輪のゆがみを最小限に抑えたのよ。でも、それは長くは持たないのよ……』
『そこでだ!! 君にはこの世界で天命を全うしてもらう。そのうえで君の魂はもう一度、この世界から地球に輪廻転生してもらう。そして地球で新たな生を受け、運命の輪の再構築を行うことになった、わかったね?』

 ええっと。
 順番に、創造神さま、魔導神さま、大地母神さま、最後は武神さまで間違いはありませんね。
 よし、シルヴィアの記憶に残っていたイメージと一致しました。
 それよりも、いきなりとんでもないことをぶっちゃけられましたよ。

「あの~、今すぐ転生っていうことは?」
『運命の輪のゆがみを修復してからでないと無理じゃな。それに、今の君の魂では、転生にふさわしい徳というか善行というか、そういうものを満たしていない』
『そうね。本来ならばシルヴィアの魂でもよかったのですけど、あの子の魂、事故にあった時に失われてしまって苦界、つまり地獄に一直線してしまったのよ。そして彼女の体ににあなたの魂が入ったので肉体の再生を行ったのだけど、なんというか肉体が持っていた悪行がそのまま魂に刷り込まれちゃってね……』
『そう。君の使命は、その魂を浄化すること。そのためにも、多くの経験をし、自らを律し、よき行いをしなくてはならない!!』

 うん。
 下品な言い方をしくますと、私はシルヴィアの尻を拭かないとならないのですね?
 はいはい、やりますよ、やればいいのでしょう?

「参考までに、一番手っ取り早くシルヴィアによって汚された魂を浄化する方法ってありますか?」
『あるわよ……愛よ、愛。人に愛され、愛することで魂は浄化されるわ。それと、大切な人と子供を成すこと。母親の子を思う心は、魂を綺麗にします。つまり明石志乃さん、あなたは恋をして愛を知り、幸せに生涯を過ごさなくてはなりません!!』

──ババーーーン
 大地母神が叫ぶと同時に、私を指さします。
 いえ、その場の6柱神全員が私を指さしているのだけど、どういうこと?

「はぁ。わかりました。でも、私にはそんな凄い力なんてありませんからね。普通に生活して、普通に生きることぐらいしかできませんので」
『うん、だから、こっちの世界に来るときに、君には一つ加護を与えた。我ら6神の加護の塊を授けてあるので、それをうまく使って頑張り給え』
『志乃よ、君に与えた加護は【食戦鬼】。君が死んだとき、もっとも悔やんでいたことを力にしてあげたから、思う存分使うがよい』
「え、食洗器? 私そんなこと考えていないけど?」
『違う違う。食べることにより戦闘力を上げる鬼、つまりは食戦鬼じゃよ』
『チートディという言葉のイメージが我々には届いた。とにかく食べまくることで力をつけるのであろう? だから、君には【食べることで力となる加護】を与えたのじゃ。昨日の夜は、その力の一つ暴飲暴食《レッツチャージ》が発動した。いかなるものもおいしく食することができ、その特性を身に着けることができる、これからも食べて食べてて食べまくり、彼氏のハートと胃袋をがっちりとつかみ取るのじゃ』

 ……うわぁ。
 確かに事故があった翌日はチートディだったので、仕事が終わったら居酒屋経由でスイーツ食べ放題コースにも行こうと思っていましたよ?
 でも、家に戻って食洗器に入れっぱなしの食器を洗いなおさないと、雑菌が繁殖して……。

>脂質制限も糖分制限もなく、好きなものが好きなだけ食べられる日。
>食べたものが全てエネルギーとなら、私に新たな力を授けてくれる。
>5日間のつらい労働も、全てリセットしてくれる楽しい日。

 はい、考えていましたぁ。
 思い出しました、そうです、その通りです。
 だからと言って、そんな力を授けてくれなくてもいいじゃないですか。

>「うわぁ、食器を食洗器に入れっぱなしだよ……」

 違う……私の言葉の意味をイメージとしてとらえられるのなら、そこは間違う場所ではないのに。
 絶対にわざとだ、この神様、楽しんでいるに違いない。

『うん、まあ……少しは意地悪だったかもね。だからもう一つだけ、いいことを教えてあげる。シルヴィアの記憶や経験は全て、君の中の【記憶の保管庫】というところに収めてある。これを開くときは、両手の人差し指をこめかみに当てればいいからね。そして暴飲暴食《レッツチャージ》で身に着けたスキルや知識は、左のこめかみに人差し指を当てるだけで頭のなかんに浮かんでくるから』 
『ということて、頑張るのじゃ……まあ、強い力の代償として、そなたは燃費が悪く成っているかもしれぬが……なんでも食べられるから問題はないじゃろ。ではさらばじゃ、次に会うのは魂が昇華するとき。それまでしっかりと、魂を磨くのじゃぞ~ぞ~ぞ~』

 最後は自分でエコーですか。
 
「……うわぁ」

 そして意識が戻ります。
 私が跪いていたのは、どれぐらいの時間なのでしょうか。
 気が付くと、あちこちから声が聞こえてきます。

「お、おい、そこにいるのはシルヴィアさまじゃないか」
「どうしてここにいるんだ……また何かやらかして懺悔しに来たのか」
「近寄るなよ、また難癖付けられて殴られるにきまっているからな」

 ……シルヴィア、輪廻転生のどこかで出会えたら、その時は思いっきり殴らせてくださいね、いえ、かなり本気で。
 この汚れまくった魂の救済なんて、何をどうしたらできるというのでしょうか。
 まずは日常的な部分から、生活習慣をもう一度見直して……はぁ。
 会社に勤めていた時とあまり変わりませんよ、これじゃあ。
 先が大変だと痛感しつつ、私は教会から出て馬車に戻ると、一旦自宅へと戻ることにしました。
 もう、身近なところから私に対する認識を変えるしかないじゃないですか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する

昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。 グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。 しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。 田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。

レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜

呑兵衛和尚
ファンタジー
 今から1000年前。  異形の魔物による侵攻を救った勇者がいた。  たった一人で世界を救い、そのまま異形の神と共に消滅したと伝えられている……。  時代は進み1000年後。  そんな勇者によって救われた世界では、また新たなる脅威が広がり始めている。  滅亡の危機にさらされた都市、国からの援軍も届かず領主は命を捨ててでも年を守る決意をしたのだが。  そんなとき、彼の目の前に、一軒の店が姿を現した。  魔導レンタルショップ『オールレント』。  この物語は、元勇者がチートスキルと勇者時代の遺産を駆使して、なんでも貸し出す商店経営の物語である。    

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...