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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~
カラーコーンは続くよ、どこまでも
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秋晴れ。
その言葉がよく似合う土曜日の午後。
私はのんびりとウィルプラスのハイエースに乗り、札幌市郊外の道路を走っています。
ええ、時速にして5キロほどの超低速。
いつエンストを起こすかと思うレベルでヒヤヒヤしつつ、ゆっくりと走ります。
「よし、見えてきた。若い衆、さぁ頑張っていこうか!!」
「「「「はい!」」」」
ハイエースの目の前を走るトラックが止まり、荷台に積まれているカラーコーンとウェイトが大量に下ろされます。
そして再び走り出し、結構先で同じようにカラーコーンを下ろす。
そして私たちは、大量のカラーコーンを一定距離に並べ直し、再びハイエースに乗って次のカラーコーンへ向かい、まだ同じ作業を開始。
この作業が延々と、42.195キロほど続きます。
「ハァハァハァハァ……」
ハイエースに戻り、流れる汗をタオルで拭い。
凍らせてきたスポーツドリンクの入ったボトルを手にとって、少し溶けた冷たいところを一気に飲む!!
「ゴクッゴクッ……ぷは~。この仕事、キツすぎませんか?」
「いやいや、毎年恒例だからね。今年は晴れているから楽なものだよ、去年なんて設営は大雨、撤去当日は超晴天で蒸し暑かったかさ。まあ、若いメンバーは頑張って!!」
運転席で笑っている高尾さんにそう言われると、仕方がないなぁと思います。
はい、今日の私の仕事は【当別町スウェーデンマラソン大会】の設営です。
ちなみにベテランチームはというと、スタートとゴールであるゴルフ場に巨大なテント村を設営する作業です。
今回は大規模イベントということで、六つのイベント設営企業と陸上自衛隊の協力の元、広大な駐車場全面に大型テントが設置されるそうです。
そして女性陣はテント村への備品搬入、若い衆はハイエースでマラソンコース上にカラーコーンを設置する作業です。
ええ、【女性陣は備品】ですよ、ええ。
私は若手アルバイトが熱を出して倒れた為、急遽電話で連絡が来て15分後にハイエースでここまでやってきましたよ。
これは拉致ですよって、思わず水曜どうでしょうのノリで車内で叫びましたけれど、笑って流されましたよ。
「お、次のコーン置き場はイベサポさんの若手がいるから、その次に向かいますね」
「イベサポ……ああ、イベントサポートさんですか」
イベサポはうちと同じようなイベント設営業者さん。
結構お年が上の方々が多いっていうイメージでしたけれど、今日は若手が作業を頑張っているようです。
「あと5分で着きます。準備よろしく」
「はい」
今日はヘルメットなし、頭にタオルを巻いての作業。
ただ、車が止まったらカラーコーンを手に、起点になる場所から順に配置していかないとならないので結構大変です。
コーンが風に飛ばないようにウェイトも置かないとならないので、腕がなかなかキツくなってきますよ。
このアルバイトを始めてから体重は少しだけ低下、全身の筋肉が付いたのと腹筋が割れ始めたのには驚きですが。
そのことをトミーさんに説明すると『あるある、よくある。逆にブクブクと太った人もいる』って笑ってましたよ。
この過酷な重労働で太る理由を教えて欲しいです。
──キッ……
「よし、初めてください」
ハイエースが止まり、東尾さんの掛け声で私たちは車から飛び降りてカラーコーンへと移動。それじゃあ私もカラーコーンを運んで……って、変なカラーコーンがありますよ?
「あれ? このカラーコーン、落書きがされていますよ?」
「ん……ああ、多分だけれど、運営委員に寄付されたカラーコーンだね。毎年恒例のイベントだから、結構な数が壊れるんだよ。それで何年かに一度、寄付を募るらしいんだけれど……その時に寄付されたカラーコーンじゃないかな?」
「へぇ。そんな面白いものまであるのですね」
まあ、その時は気にすることはなくカラーコーンを設置しました。
まだまだ行程は始まったばかり。
日が暮れるまでに全てを終わらせなくてはなりませんからね。
………
……
…
仕事も終わり。
明日の撤去についてもお願いされたのはもう想像がついていました。
車で自宅まで送ってもらい、適当に食事を済ませてお風呂へGO。
防水ケースにタブレットを入れて、お風呂でのんびりと映画鑑賞。
「そういえば、今日の設営ってマラソン大会ですよね。たまに街道筋から眺めていましたけど、走る以外にどんなイベントがあるだろう?」
そう思って当別マラソンのホームページを開いてみます。
それはもう、完全にお祭り状態でしたよ。
当別スウェーデンマラソン大会は、当別のゴルフ場がスタートとゴールを兼ねています。
そしてコースはというと、スウェーデンヒルズという住宅地の中を走るらしく、それはもう綺麗な街並みが広がっています。
敷地面積ならば東京ドーム64個分、そこに北欧風の建物が距離を空けて並んでいます。
ここの場所は建築基準があり、この北欧風の建物以外は建てることが許されていません。
そんな緑溢れる街並みを眺めつつ、マラソン選手がゴールを目指して走って行く。
「凄いなぁ。行きも帰りも車の中で居眠りしているかスマホを眺めていたからなぁ。これなら、もっと風景を見ていたらよかった」
うん、明日の撤去はもう少し周囲の風景を見ることにしましょう。
いくら興味がないとはいえ、これを無視するのは宜しくありません。
「ふぅん。こういう感じなのかぁ……って、あれ?」
とあるページでは、マラソンイベントの貢献者みたいな感じで協賛とか協力者の写真がありましたが。
そこに写っているのは、あの落書きのされていたカラーコーンを寄贈する男性の写真。
ええ、まさかそのカラーコーンが、一部SNS界隈で有名な、【カラーコーンといえば彼】というぐらい有名なイラストレーターの寄付だなんて知りませんでしたよ。
にこやかに運営委員会にカラーコーンを寄付する姿は、なんというかこういう凄い人もいるんだなぁって思いましたよ。
「はぁ。こういうイベントって、私たちみたいな設営業者以外にも大勢のスタッフが支えているんだなぁ」
うん、表側はすごく綺麗なイベントでも、裏では様々なスタッフが昼夜問わず頑張っている。
その一端、ほんの少しだけど私も関わっているんだなぁと思うと、少しだけ誇らしくなってきますよね。
その言葉がよく似合う土曜日の午後。
私はのんびりとウィルプラスのハイエースに乗り、札幌市郊外の道路を走っています。
ええ、時速にして5キロほどの超低速。
いつエンストを起こすかと思うレベルでヒヤヒヤしつつ、ゆっくりと走ります。
「よし、見えてきた。若い衆、さぁ頑張っていこうか!!」
「「「「はい!」」」」
ハイエースの目の前を走るトラックが止まり、荷台に積まれているカラーコーンとウェイトが大量に下ろされます。
そして再び走り出し、結構先で同じようにカラーコーンを下ろす。
そして私たちは、大量のカラーコーンを一定距離に並べ直し、再びハイエースに乗って次のカラーコーンへ向かい、まだ同じ作業を開始。
この作業が延々と、42.195キロほど続きます。
「ハァハァハァハァ……」
ハイエースに戻り、流れる汗をタオルで拭い。
凍らせてきたスポーツドリンクの入ったボトルを手にとって、少し溶けた冷たいところを一気に飲む!!
「ゴクッゴクッ……ぷは~。この仕事、キツすぎませんか?」
「いやいや、毎年恒例だからね。今年は晴れているから楽なものだよ、去年なんて設営は大雨、撤去当日は超晴天で蒸し暑かったかさ。まあ、若いメンバーは頑張って!!」
運転席で笑っている高尾さんにそう言われると、仕方がないなぁと思います。
はい、今日の私の仕事は【当別町スウェーデンマラソン大会】の設営です。
ちなみにベテランチームはというと、スタートとゴールであるゴルフ場に巨大なテント村を設営する作業です。
今回は大規模イベントということで、六つのイベント設営企業と陸上自衛隊の協力の元、広大な駐車場全面に大型テントが設置されるそうです。
そして女性陣はテント村への備品搬入、若い衆はハイエースでマラソンコース上にカラーコーンを設置する作業です。
ええ、【女性陣は備品】ですよ、ええ。
私は若手アルバイトが熱を出して倒れた為、急遽電話で連絡が来て15分後にハイエースでここまでやってきましたよ。
これは拉致ですよって、思わず水曜どうでしょうのノリで車内で叫びましたけれど、笑って流されましたよ。
「お、次のコーン置き場はイベサポさんの若手がいるから、その次に向かいますね」
「イベサポ……ああ、イベントサポートさんですか」
イベサポはうちと同じようなイベント設営業者さん。
結構お年が上の方々が多いっていうイメージでしたけれど、今日は若手が作業を頑張っているようです。
「あと5分で着きます。準備よろしく」
「はい」
今日はヘルメットなし、頭にタオルを巻いての作業。
ただ、車が止まったらカラーコーンを手に、起点になる場所から順に配置していかないとならないので結構大変です。
コーンが風に飛ばないようにウェイトも置かないとならないので、腕がなかなかキツくなってきますよ。
このアルバイトを始めてから体重は少しだけ低下、全身の筋肉が付いたのと腹筋が割れ始めたのには驚きですが。
そのことをトミーさんに説明すると『あるある、よくある。逆にブクブクと太った人もいる』って笑ってましたよ。
この過酷な重労働で太る理由を教えて欲しいです。
──キッ……
「よし、初めてください」
ハイエースが止まり、東尾さんの掛け声で私たちは車から飛び降りてカラーコーンへと移動。それじゃあ私もカラーコーンを運んで……って、変なカラーコーンがありますよ?
「あれ? このカラーコーン、落書きがされていますよ?」
「ん……ああ、多分だけれど、運営委員に寄付されたカラーコーンだね。毎年恒例のイベントだから、結構な数が壊れるんだよ。それで何年かに一度、寄付を募るらしいんだけれど……その時に寄付されたカラーコーンじゃないかな?」
「へぇ。そんな面白いものまであるのですね」
まあ、その時は気にすることはなくカラーコーンを設置しました。
まだまだ行程は始まったばかり。
日が暮れるまでに全てを終わらせなくてはなりませんからね。
………
……
…
仕事も終わり。
明日の撤去についてもお願いされたのはもう想像がついていました。
車で自宅まで送ってもらい、適当に食事を済ませてお風呂へGO。
防水ケースにタブレットを入れて、お風呂でのんびりと映画鑑賞。
「そういえば、今日の設営ってマラソン大会ですよね。たまに街道筋から眺めていましたけど、走る以外にどんなイベントがあるだろう?」
そう思って当別マラソンのホームページを開いてみます。
それはもう、完全にお祭り状態でしたよ。
当別スウェーデンマラソン大会は、当別のゴルフ場がスタートとゴールを兼ねています。
そしてコースはというと、スウェーデンヒルズという住宅地の中を走るらしく、それはもう綺麗な街並みが広がっています。
敷地面積ならば東京ドーム64個分、そこに北欧風の建物が距離を空けて並んでいます。
ここの場所は建築基準があり、この北欧風の建物以外は建てることが許されていません。
そんな緑溢れる街並みを眺めつつ、マラソン選手がゴールを目指して走って行く。
「凄いなぁ。行きも帰りも車の中で居眠りしているかスマホを眺めていたからなぁ。これなら、もっと風景を見ていたらよかった」
うん、明日の撤去はもう少し周囲の風景を見ることにしましょう。
いくら興味がないとはいえ、これを無視するのは宜しくありません。
「ふぅん。こういう感じなのかぁ……って、あれ?」
とあるページでは、マラソンイベントの貢献者みたいな感じで協賛とか協力者の写真がありましたが。
そこに写っているのは、あの落書きのされていたカラーコーンを寄贈する男性の写真。
ええ、まさかそのカラーコーンが、一部SNS界隈で有名な、【カラーコーンといえば彼】というぐらい有名なイラストレーターの寄付だなんて知りませんでしたよ。
にこやかに運営委員会にカラーコーンを寄付する姿は、なんというかこういう凄い人もいるんだなぁって思いましたよ。
「はぁ。こういうイベントって、私たちみたいな設営業者以外にも大勢のスタッフが支えているんだなぁ」
うん、表側はすごく綺麗なイベントでも、裏では様々なスタッフが昼夜問わず頑張っている。
その一端、ほんの少しだけど私も関わっているんだなぁと思うと、少しだけ誇らしくなってきますよね。
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