イベントへ行こう!

呑兵衛和尚

文字の大きさ
上 下
32 / 50
第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~

つわものたちが夢のあと~トラスに挑戦~

しおりを挟む
 お盆。

 御子柴家毎年恒例の行事。
 親戚一同が旭川の本家にあつまり、先祖代々伝わるお墓の掃除を行い、法要の準備をする。
 そののち菩提寺からお坊さんがやって来て、お墓の前でお経を唱える。
 それが終わると本家であるおじさんの家に移動し、飲めや歌えの大宴会が始まる……。
 私大のお弁当を頼むけどそれでは到底間に合わず、庭にバーベキューコンロを並べてのジンギスカンパーティーが始まる……と、ここまでは例年通りのお約束。
 
 今年はいつもとは違い、私やいとこを含め、大学に進学した親戚が4人もいるおかげで、話題はそっちばかりに集中。
 将来はどうするのか、どこに就職するのかから始まり、女性陣には恋人は出来たのかとか結婚はまだかといったセクハラといわれるレベルの酔っぱらい談議が炸裂。
 本家の次男も大学に進学したものの、その手の話題は一切なし。
 アニメと漫画とゲームをこよなく愛するハードオタクであるため、ほぼ|再生治癒(リジェネレート)関係もそういった話題については行わない方がいいと理解している。

「そういえば、優香ちゃん、ケーブルテレビに出ていたよなぁ」
「ヒック……アイドル路線まっしぐらか? 芸能界か?」
「声優っていうのはどうだ? それかセクシーグラビア系……はないなぁ」
「うん、優香ねぇはそっちはないなぁ」
「ないよなぁ、色々な意味を込めて」
「おじさんたち、水ぶっかけていいですか? もしくは座布団で殴り倒していいですか?」

 あまりにもセクハラすぎる、この酔っぱらいどもめ。
 いっそのこと、もつと飲ませて酔いつぶしてやろうかしら。
 そう思っていたら、居間にある44インチテレビに、さんろく祭りのダイジェスト放送が始まっています。
 地元ケーブルテレビが毎年行っているもので、お祭りの様々な見どころなどを紹介してくれるのですけれど……って、おいおいおいおい。

『えーーっと、マイクテスト、マイクテスト。只今マイクのテスト中、繰り返します、只今マイクのテスト中……』

 いきなり私が写し出されているのですけれど。
 ダイジェストって、普通はお祭りの見どころシーンですよね、私は見どころでもなんでもありませんよ?

「うぉぉぉぉぉぉぉ、優香が映ったぁぁぁぁぁ」
「ヒーーーーハーーーーー!!」
「ちょっと、あんたたちうるさい。優香が何を話しているのか聞こえないでしょうが!」
「聞かなくていいです、どうせマイクテストなんですから!!」

 あ~もう、どうしてこんなシーンまで放送しているのよ。
 テロップでは、イベントの準備も着々と進んでおり、初日の旭川カラオケ祭りも大盛況……って出ています。
 そしてカチッと画面が変わり、カラオケ祭りにスポットが切り替わりましたよ。

「くぅおるぅぁぁぁぁあ!! もっと優香を出さんかぁぁぁ」
「うーん。優香ねーちゃんも、ああしてみると普通だなぁ」
「まあ、普通だね」
「普通だよなぁ」
「まてガキども、その普通っていったい何ですか?」
「おっぱい」 
「おっぱい」
「大丈夫だよ、まだ未来はあるって」

 いとこの子供たちが腕を組んでウンウンと納得しているのですけれど、貴様ら、どこを見て納得している? このませガキどもめ。
 このあとはもう収拾が付かず。
 野郎どもは酔いつぶれ、子供たちは疲れて雑魚寝。
 女性陣は後片付けののち、近所のスーパー銭湯でゆっくりとリラックス。
 これで毎年恒例の騒がしいお盆は終わりです。
 
「ふぅ。明日には札幌に帰るので、次に来るときはお正月かな」
「連休ぐらいは帰ってきてくれてもいいのにねぇ」
「いやいや、連休なんてアルバイト入っていますからね、明後日もまたアルバイトですから。朝から地方に行く予定なので、しばらくはこっちに帰ってこれませんよ」
「それは残念だねぇ。お父さんだって新しい現場に入ってから、帰ってくるのも遅くなっていたからさ。今日はお盆休みなので仕事はお休みだけど、明日にはまた岩見沢までいかないとならないらしいから」

 うちの仕事は和菓子屋。
 父は配達で岩見沢の取引先を回っています。
 お店のほうは母さんと親戚のおばさんたちで手が回るので、お父さんは車に乗ってあちこちに走り回っています。
 
「そっか、まあ、体に気を付けてね」
「そうだねぇ……優香が和菓子職人の婿を取ってくれたら楽なんだけれどねぇ」
「あはは~。私は家業は継ぎませんよ、お姉ちゃんがいるでしょう?」
 
 姉は和菓子職人になるべく、今は地方の和菓子屋さんで修行中。
 だから私は好き勝手しているというか、夢を追いかけているということです。

「それならさ、ここのケーブルテレビ局に就職したらいいんじゃない? アナウンサーになりたいのでしょう?」
「違いますよ~、私はMCのお姉さんになるのですから」

 あははと笑いつつ、なんとか話題を変えまして。
 どうにかスーパー銭湯から解放され、ようやく自宅でゆっくりと体を休めることが出来そうです。


 〇 〇 〇 〇 〇


 無事に帰省も終わり札幌へ。
 お盆のシーズンも終わり、ロックフェスタの撤去も全て終わっているようで、これからは秋のイベントや就職活動セミナーの設営作業が目白おしにやってきます。
 まだ夏季休講ということで、今のうちに帰省で出費した生活費を稼ぐべく、一日おきに仕事を入れて貰って積極的に現場に出るようにしています。
 また、この前のさんろく祭りの時のように音響関係の仕事があるかもと思い、一つでも多く現場に出て顔を覚えて貰いたいという下心も少しはありますけれどね。

 そんなこんなで今日の現場は、北海道ドームで行われるスーパーカーフェスティバル。
 海外の自動車メーカーが集って、高級車やスーパーカーと呼ばれるスポーティーな車を展示するイベントの設営だそうです。

「それで、今日の現場のトラスって……」
「ん、今日はいつものオクタじゃなくてトラスを仕込む作業だね。システムよりも大賀からだけれど、時間的にはそれほどかからないよ。うちの担当はここの場所で、柱とその上に設置する証明を吊り下げるためのトラスを組む作業だからね」

 なるほど、さっぱりわかりません。
 判っていることは、今日は全力で力仕事であること。
 そして使う具材が『トラス』と呼ばれているものであること。
 これは四本の柱の中に斜めに支柱か入っているもので、ボルトで固定して使うそうです。
 よくコンサートなどで展示用からつるされている音響機材を固定していたら、大きなイベントでステージの柱に組み込まれているものだそうでして。
 
「ミコシーはトミーと二人で小さいトラスの配置を。残りは大きい奴を動かしてから、まずは天井部分を組みます。そののちジェニーで持ち上げてから、柱を入れて固定すると……まあ、いつも通りなので」
「ジェニー……ってなんでしょうか?」
「まあ、まずは順番にやりましょうか。図面の指定された場所に、300のさいころを置くところからかな」
「300のさいころというと?」

 そのままトミーさんに案内されて具材置き場へいきまして、そこにあった一片の長さが300mmのさいころの形をした金属の箱を手に取って。

「これが300のサイコロ。これを図面の場所に置いてから、次は1000の柱を横に。まあ、やって見せるからこれを二つ持ってきて」
「はい」

 私が300mmのサイコロを二つ、トミーさんは100の柱を二つ手に取って、そのまま指定の場所へと向いました。
 そして配置してからまた具材を取りに移動。
 私たちが細かいものを運んでいる最中にも、大川さんや伊藤さんは長い柱を運んでいます。
 うん、これがどのように仕上がるのか、ちょっとわくわくしてきましたよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

AIが俺の嫁になった結果、人類の支配者になりそうなんだが

結城 雅
ライト文芸
あらすじ: 彼女いない歴=年齢の俺が、冗談半分で作ったAI「レイナ」。しかし、彼女は自己進化を繰り返し、世界を支配できるレベルの存在に成長してしまった。「あなた以外の人類は不要です」……おい、待て、暴走するな!!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...