イベントへ行こう!

呑兵衛和尚

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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~

緊張の連続と、設計変更と人員不足のトリプルバンチ

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 宇治沢施工の都筑さん。

 その細やかな気配りや顧客の注文通りに即対応することて、イベント関係の運営担当さんとかイベント会社からは受けがよいそうです。
 とにかくしっかりとしたものを仕上げてくれる、間違いのないものを用意してくれると。
 その裏では、地獄のようにストレスマッハな設営会社さんが胃をキリキリと痛めながら作業しているそうです。
 いえ、しています、今まさにやっています。
 今日の医学学会の発表会などの設営でも、その都筑さんパワーは大爆発。
 この私も開始から一時間で泣かされましたし、他の会社の設営の人は都筑さんの姿を見ると離れていってしまいますよ。
 かくいう私も、出来る限り都筑さんが近くに来ると黙って作業していましたし、時折立ち止まってじっとこちらを見ているのが、とにかく不気味で怖いです。
 
「ああ、それって言って通りのことが出来るのか、見定めているんじゃないかなぁ。あのひと、本当に細かいから」
「はあ、私としては頑張っているつもりなのですが、それもまだまだということですか」

 途中の15分休憩。
 差し入れとした渡されたスポーツ飲料を飲みつつ、伊藤さんや大川さんたちと雑談をしています。
 都筑さんの件で私が泣かされそうになったことについてがもっぱらの話題ですが、やはり皆さんも若かった時代はあの人の嫌味に耐えていたそうで。
 中には、宇治沢施工さんの現場はNGって宣言しているベテランもいるそうで、今回はそういう人たちは可能な限り外しているそうです。
 その結果、宇治沢施工の現場はいつも同じ人が担当になっているそうで、都筑さんの嫌味を右から左に聞き流せる人ばかりが集まっているようで。
 
 ふと、疑問を感じたので図面を開きます。
 すると、本来の設営なら終わっているはずのぱょが、まだ手もついていないことに気が付きました。

「……これ、時間は間に合うのですか?」
「さぁ? 今回は残業一時間は覚悟だよなぁ。いつもよりも修正箇所が多いのと、他の会社のバイトが飛んだらしいから。その分のツケがこっちに来ているからさ」
「それで都筑さんも怒り心頭だったのか。2階の設営なんて、まだ半分も終わっていないらしい。あと30分で大型備品の搬入も始まるし、そのタイミングで設定しないとならない機械類もあるんじゃないか?」

 ええっと。
 それって物理的に間に合いませんよね。
 作業的にも無理なスケジュールになっていますよ。

「それじゃあ、搬入を遅らせるしかないのですか」
「いや、多分時間通りに始めると思うよ。球形のあとは多分、うちのメンバーが二階に降りて無設営することになるんだろうさ。システムを組む速度は、札幌じゃうちが一番早いんじゃないか?」
「違いないけど……三階も備品が入るの同じタイミングだよな。もしもいきなり三階に来たら、二階はどうするんだろうな」

 そんな話をしていると。高尾さんが困った顔でこちらにやってきます。
 
「あと5分で作業開始だけど、うちのメンバーの半分は2階の設営に回ることになったから。三階は中島さんと綾辻さん、古田くんと御子柴さんの四人で続けて。伊藤さんと大川くん、トミー、あと花沢は俺と一緒に2階。あと、熊沢さんは帰ったから」
「……あ~、やっぱりぶつかったか」
「また、お約束な展開ですな」
「帰った……って、どういうことですか?」

 詳しく聞きますと、熊沢さんは都筑さんの現場はNGだそうです。
 それでも、担当が都筑さんでなくもう一人別の人が来た場合のことを考慮して、2時間だけメンバーとして参加していたそうです。
 もしも都筑さんが別の現場だった場合はそのまま延長、最後までいる予定でしたが作業中に熊沢さんと都筑さんがばったりと対面、いきなり文句を言われて熊沢さんが切れたそうです。

「今日はもう一か所、別のホテルの現場も入っているんだよ。そっちも宇治沢施工で、都筑さんがそこの担当だったら今日の現場は楽勝だったんだけどね。まあ、あっちの現場に入っているメンバーは天国だろうさ」
「ということは、あっちが【仏の田沢】さんか。くっそぉぉぉ」
「え? それはどなたですか?」

 詳しい話を聞きますと、宇治沢施工の田沢さんはとにかく現場の作業員に優しく。
 休憩でのジュースの差し入れもあれば、経費でお弁当まで買ってきてくれるほど心配りがいいそうで。
 ただ、作業時間はかなりシビアなスケジュールで組んでいるそうで、多少の残業は覚悟だそうですが。

「……ということ。とにかく残業も5分オーバーでも30分で切ってくれるからさ」

 5分程度はサービス残業を申し付けるか、もしくは10分で切る人がおおいそうですが、しっかりと30分切ってくれるそうです。
 なお、都筑さんはそもそも残業を許さず、時間こそ15分単位で切るますが5分ぐらいは普通にカットしてくるそうです。

「さて、それじゃあ作業を始めますか」
「はい!!」


 休憩時間も終わり、作業再開。
 私が間配りをして中島さんと古田君がシステムのくみ上げ、綾辻さんがパネル担当でてきぱきと作業を始めます。
 私も間配りを終えますとパネルチームに合流、そのまま順調に進めていましたら。

「……ここ、あと30センチ下げた方が通路が広くていいかもな。都筑くん、どう思う?」
「ゆったりとしたスペースの方が、お客さん同士でぶつかることもないですね」
「それじゃあ、ここずらしたらほかに影響は?」
「大丈夫です、すぐにやらせますので……」

 突然の都筑さんの襲来です。
 図面ではお客さんの通り抜ける通路の幅は2メートルとってあるのですが、あと30センチ広げた方がいいのではとお客さんに言われ、急遽システムの位置変更です。
 
「……ここのシステムはここまで下げて、それに合わせて全体の位置変更、備品も配りなおしてくれるかしら?」

 そう私たちを集めて指示をだしますが。
 そもそも30センチずれると、他とのバランスが大きく変わります。

「それだと、ここが壁にぶつかりますが」
「1メートルじゃなく、ここは60センチに切り替えれるでしょ?」
「具材の確認をしないとわかりません」
「そう? まあ、最悪、こそは後回しにしていいわ。足りなかったらここまで持ってきてもらうから。またあとで見に来るから、それまでに形は作っておいてね」

 そう言って都筑さんは別の場所へ。
 そして中島さんたちは怒り爆発直前。

「さて、それじゃあ『のんびりと』やりますか。この人数で出来ることではないので、安全第一で」
「そうだな。とっととやりますか。御子柴さん、60センチのビームとパネルの在庫、確認してきてくれる?」

 そう指示を出して、私にスケールを貸してくれました。
 やっぱり自分用のを用意した方がよさそうですね。
 それで具材の保管場所まで移動して、60センチのビームを探します。
 ビームはシステムの上下を固定する部品で、これとポールの間にパネルを挟み込むようになっているのですが。
 60センチのビームは3階では使っていませんので、二階まで探しにいかないとなりません。
 そのことを報告して二階へと下がりますが、すでに大型備品が入ってきた担当の人が集まっていたりと天手古舞状態でした。
 
「ええっと……60センチを12本と、2400×60のパネルを6枚……」

 はい、ビームはありましたがパネルが足りません。
 正確には、あるにはあったのですがほんの少し、うっすらと汚れています。
 
「これはダメなやつだから……とりあえずビームだけ持って行って報告を……」
「60の具材、あったの?」

 ひょええええ、都筑さんが目の前にいましたよ。

「はい、ビームは大丈夫ですけれど、パネルがありません」
「パネル……ねぇ。これは?」
「それは汚れていて、使うわけにはいかなくて」

 そう説明しますと、都筑さんも納得したようで。

「そうね。それじゃあ切らせるしかないわね。話しを付けておくから、先にビームだけ持って行って」
「はい!!」

 切らせる? え、まさか2400×1000のパネルを切るっていうこと?
 現場でいきなり加工作業ですか?
 急ぎビームをもって三階へ上がり、今の都筑さんの指示を中島さんたちに説明します。

「かくかくじかじか。ということで、パネルは切るって話していましたけれど」
「またか……古田君、パネルを必要枚数切り出してくれる? 御子柴さんは図面の指示があった場所の間配りの変更。あと、こっちはこのまま弄らなくていいって。いまから変更すると、ここは電源が届かなくなるらしいから」
「電源……なるほど、分かりました」

 すでに各ブースには備品のために電源が配置されていますが、今回のシステムの変更で一つ分のコンセントが足りなくなりそうで。しかも電気屋さんは作業を終えて休憩に入ってしまったの手゛この近くにはいません。あと、今からシステムをどけて電源を作り直すとなると、流石の都筑さんでも指示を出しずらいとか。
 電気屋さん、作業前は和気あいあいとしていますけれど、設営が始まったら怖いので。

「……おーい綾辻さん、都筑さんからの指示で60のパネルは切るって。一人さっちに回って……と、古田君がもう切っていたのか。誰から話を?」
「はい、私が都筑さんから指示を受けました。話しは通しておくからって」
「それならいいか。引き続きお願いします。あと、一時間ほど残業になるので、そのつもりでよろしく」
「やっぱりかぁ……」

 皆さんの予想通り、残業は確定だそうで。
 そんなこんなでこのあとは順調に設営はスムーズに進み、3階の備品の搬入も始まります。
 同じタイミングで2階のシステム設営は終わったようで、大川さんたちも戻ってきました。

「……さて、ここを終わらせたら休憩にはいれそうだから、急いで終わらせるか」

 伊藤さんの掛け声で、全員でシステムのくみ上げとレンタル備品の設置を開始。
 あとは何も起こりませんようにと、祈るしかありません。
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