12 / 50
第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~
初めての挑戦と、失態と
しおりを挟む
日曜日の午後。
本日はYOSAKOIソーラン最終日です。
大通会場には、予選を勝ち抜いたチームが続々と集まり、ファイナルラウンドのための準備が始まっています。
市内にある各会場も、最後のチームの踊りが終わった時点で撤収作業が開始。
ウィルプラスのメンバーも市内各地に割り振られ、夕方17時からの撤去を待っているそうです。
ちなみに私も露店は17時で完了なので、今は水風船とポイを作る作業の指示待ち。
ええ、指示待ちだったはずなですけれど、露店担当の明桜レンタリースの広崎さんが解体撤去の指示のためここから離れています。
急遽トミーさんがヨーヨー釣りに回り、私はスーパボール掬いの接客対応。
万が一の時のために、トミーさんが無線機を預かってくれたので、まずは一安心です。
「子供二人分、お願いします」
「はい、200円です」
代金を受け取って、子供たちにポイを手渡します。
ポイが破れるまでは取り放題。
一つも取れなくても、小さいスーパーボールを一つサービス。
家族連れで楽しそうに遊んでいる姿を見ていると、こっちもうれしくなってきます。
最終日ということもあって、だんだん人が集まり始めました。
大人も子供も混ざって楽しんでいますと、ふと大人の一人がスーパーボールを救いまくっている姿に気が付きました。
それも、大きめのスーパボールばかり連続で掬っています。
ちなみに掬っていい個数は最大で5つまで。
そこで掬うのは終了です。
「お客様、ちょうど五個になったのでこれで終了です。まだ救うのであれば、追加でぽいを購入してくれますか?」
「あ、ああ、そうか。それじゃあ新しいのを買うよ」
「はい。それでは古いポイは回収しますね」
「い、いや、これは大きいのを掬った記念に持って帰りたいんだけど」
そう告げてポイをポケットにしまおうとしました。
でも、それは備品なので回収する必要があるのです。
最後に数をチェックしないとなりないので、持って帰られても困ります。
「それはできませんので。返却をお願いしていいですか?」
「あ、そうなのか」
そう呟いた瞬間、お客さんはいきなり立ち上がって走り出しました。
「え? ポイ泥棒? 」
急いで追いかけたいところですけれど、私がここを離れるわけにはいきません。
すると、私の様子がおかしかったのかトミーさんが私に声をかけてくれました。
「御子柴ちゃん、何かあったの?」
「いえ、実はお客さんにポイを持ち逃げされてしまって」
「はぁ? あれを持って逃げるってどれだけ欲しかったのよ」
「そう思いますよね。でも、そのお客さんって5つ連続で大きい奴を掬ったので、それで終わりですから新しいのをお買い求めくださいって説明したのですよ。そうしたら、新しいのを買うといってくれたので」
そう説明しますと、トミーさんはなにかに気が付いたようです。
「ははぁ、そのお客さん、違法のポイを持ち込んだんだよ。だから交換に応じなかったし、大きい奴ばかり掬っていったのでしょ? しっかし、しょぼいお客さんもいたものねぇ……」
「え、違法ポイ? それってなんですか」
「それについてはまたあとで。今は接客に集中して」
「はい!!」
ふと気が付くとお客さんが待っています。
急いで応対し、あとはお客さんの動きに注意しないとなれません。
しかし、どうして広崎さんのいるときは来なかったのに、私に変わった瞬間に問題が発生するのでしょうか。
………
……
…
――午後5時
違法ポイ事件のあとは、どうにか露店を切り盛りしましたよ。
あれからおかしいお客さんは……数人いましたけれど、ポイの色にこだわった子供ぐらいです。
色によって強度が違うので、基本的には指定されたとおりに渡すことしかできませんでしたけれど。
やっぱり好きな色で掬いたいっていう子供は多くいるようでして。
そんなこんなで17時には広崎さんも戻ってきました。
「よし、こっちも撤去作業にはいって。売り上げはどこ?」
「これです」
「ありがとう。何か変わったことはあったかな」
「はい、実はこんなことが……」
そのまま金庫を返却します。
そして違法ポイと思われるものを使っていたお客さんについて説明しましたら、いつもとは違って広崎さんは困った顔をしています。
「はぁ。そんなしょぼい詐欺をして何が楽しいのやら。御子柴さんはそのお客さんが掬っているときは気が付かなかったの?」
「うまく掬っているなぁって思った程度で、あとは接客が忙しくて細かいところまでは確認していませんでした」
「まあ、初めてだかそういうお客もいるって認識しておいて。多分ほかの店でもやらかしている奴だろううからさ。まあ、こういう縁日の仕事もあるということは覚えておいてね。うちのレンタル商品の中でも、縁日用品の貸し出しについては夏場に結構問い合わせが多くなるから。また次もよろしくお願いします」
「はい、申し訳ありませんでした」
はぁ。
罪悪感。
それにしても、スーパーボール掬いで大きいのだけ狙ってくる違法なお客って。
何がしたいのでしょうか。
ひょっとして、いくらでも掬える俺様かっこいいって思わせたいのでしょうかね。
「さあ、とっとと撤去を終わらせましょう」
広崎さんの指示で撤去も開始。
設営の時の逆回しで作業するだけなので、最初ほど手間取ることはなく。
ただ、この余った水風船の処分については、今後の課題ということになるのでしょう。
ぎりぎりの数だけ作らないと、残りはロスになってしまうのですね。
はあ、もったいない。
本日はYOSAKOIソーラン最終日です。
大通会場には、予選を勝ち抜いたチームが続々と集まり、ファイナルラウンドのための準備が始まっています。
市内にある各会場も、最後のチームの踊りが終わった時点で撤収作業が開始。
ウィルプラスのメンバーも市内各地に割り振られ、夕方17時からの撤去を待っているそうです。
ちなみに私も露店は17時で完了なので、今は水風船とポイを作る作業の指示待ち。
ええ、指示待ちだったはずなですけれど、露店担当の明桜レンタリースの広崎さんが解体撤去の指示のためここから離れています。
急遽トミーさんがヨーヨー釣りに回り、私はスーパボール掬いの接客対応。
万が一の時のために、トミーさんが無線機を預かってくれたので、まずは一安心です。
「子供二人分、お願いします」
「はい、200円です」
代金を受け取って、子供たちにポイを手渡します。
ポイが破れるまでは取り放題。
一つも取れなくても、小さいスーパーボールを一つサービス。
家族連れで楽しそうに遊んでいる姿を見ていると、こっちもうれしくなってきます。
最終日ということもあって、だんだん人が集まり始めました。
大人も子供も混ざって楽しんでいますと、ふと大人の一人がスーパーボールを救いまくっている姿に気が付きました。
それも、大きめのスーパボールばかり連続で掬っています。
ちなみに掬っていい個数は最大で5つまで。
そこで掬うのは終了です。
「お客様、ちょうど五個になったのでこれで終了です。まだ救うのであれば、追加でぽいを購入してくれますか?」
「あ、ああ、そうか。それじゃあ新しいのを買うよ」
「はい。それでは古いポイは回収しますね」
「い、いや、これは大きいのを掬った記念に持って帰りたいんだけど」
そう告げてポイをポケットにしまおうとしました。
でも、それは備品なので回収する必要があるのです。
最後に数をチェックしないとなりないので、持って帰られても困ります。
「それはできませんので。返却をお願いしていいですか?」
「あ、そうなのか」
そう呟いた瞬間、お客さんはいきなり立ち上がって走り出しました。
「え? ポイ泥棒? 」
急いで追いかけたいところですけれど、私がここを離れるわけにはいきません。
すると、私の様子がおかしかったのかトミーさんが私に声をかけてくれました。
「御子柴ちゃん、何かあったの?」
「いえ、実はお客さんにポイを持ち逃げされてしまって」
「はぁ? あれを持って逃げるってどれだけ欲しかったのよ」
「そう思いますよね。でも、そのお客さんって5つ連続で大きい奴を掬ったので、それで終わりですから新しいのをお買い求めくださいって説明したのですよ。そうしたら、新しいのを買うといってくれたので」
そう説明しますと、トミーさんはなにかに気が付いたようです。
「ははぁ、そのお客さん、違法のポイを持ち込んだんだよ。だから交換に応じなかったし、大きい奴ばかり掬っていったのでしょ? しっかし、しょぼいお客さんもいたものねぇ……」
「え、違法ポイ? それってなんですか」
「それについてはまたあとで。今は接客に集中して」
「はい!!」
ふと気が付くとお客さんが待っています。
急いで応対し、あとはお客さんの動きに注意しないとなれません。
しかし、どうして広崎さんのいるときは来なかったのに、私に変わった瞬間に問題が発生するのでしょうか。
………
……
…
――午後5時
違法ポイ事件のあとは、どうにか露店を切り盛りしましたよ。
あれからおかしいお客さんは……数人いましたけれど、ポイの色にこだわった子供ぐらいです。
色によって強度が違うので、基本的には指定されたとおりに渡すことしかできませんでしたけれど。
やっぱり好きな色で掬いたいっていう子供は多くいるようでして。
そんなこんなで17時には広崎さんも戻ってきました。
「よし、こっちも撤去作業にはいって。売り上げはどこ?」
「これです」
「ありがとう。何か変わったことはあったかな」
「はい、実はこんなことが……」
そのまま金庫を返却します。
そして違法ポイと思われるものを使っていたお客さんについて説明しましたら、いつもとは違って広崎さんは困った顔をしています。
「はぁ。そんなしょぼい詐欺をして何が楽しいのやら。御子柴さんはそのお客さんが掬っているときは気が付かなかったの?」
「うまく掬っているなぁって思った程度で、あとは接客が忙しくて細かいところまでは確認していませんでした」
「まあ、初めてだかそういうお客もいるって認識しておいて。多分ほかの店でもやらかしている奴だろううからさ。まあ、こういう縁日の仕事もあるということは覚えておいてね。うちのレンタル商品の中でも、縁日用品の貸し出しについては夏場に結構問い合わせが多くなるから。また次もよろしくお願いします」
「はい、申し訳ありませんでした」
はぁ。
罪悪感。
それにしても、スーパーボール掬いで大きいのだけ狙ってくる違法なお客って。
何がしたいのでしょうか。
ひょっとして、いくらでも掬える俺様かっこいいって思わせたいのでしょうかね。
「さあ、とっとと撤去を終わらせましょう」
広崎さんの指示で撤去も開始。
設営の時の逆回しで作業するだけなので、最初ほど手間取ることはなく。
ただ、この余った水風船の処分については、今後の課題ということになるのでしょう。
ぎりぎりの数だけ作らないと、残りはロスになってしまうのですね。
はあ、もったいない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

AIが俺の嫁になった結果、人類の支配者になりそうなんだが
結城 雅
ライト文芸
あらすじ:
彼女いない歴=年齢の俺が、冗談半分で作ったAI「レイナ」。しかし、彼女は自己進化を繰り返し、世界を支配できるレベルの存在に成長してしまった。「あなた以外の人類は不要です」……おい、待て、暴走するな!!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる