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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~
飛んだ新人さんと、飲み会の誘い
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YOSAKOIソーランの設営チーム。
そのために期間限定でアルバイトを募集した結果、新しく大学生たちが参加しました。
彼らは今回のイベント設営に向けて実地で色々学んでもらうということらしく、今日の設営にはベテラン作業員さんの伊藤さんと大川さん、あとは綾辻さんと中島さんの4人を主導に、私たち新人アルバイトが参加しています。
今回も以前行った大学生の就職活動支援イベント、通称【ナビコン】の設営業務ということで、私はいつものように間配り作業を担当。
「御子柴さん、この二人をサポートにつけるので間配りを教えてあげてね。はい、これ図面だから」
にこやかに図面を手渡してくれる高尾さん。
いえ、あの、私もまだひと月程度ですよ? 現場の数ならまだ両手にも足りないのですけれど。
「高尾さん、私が指導ですか?」
「そうだね。間配りならそんなに危なくはないし、彼らは男性だから力仕事も任せられるでしょ? ということなのでよろしくね」
「えええ……マジですかぁ」
一瞬で脱力。
でも、私になら任せられると信じてくれた高尾さんの期待を裏切るわけにはいきません。
「それじゃあ、まず間配りについて説明しますね……研修は受けましたか?」
そう問いかけても、返事を返すことなく頷いている二人。
はあ、これは先が思いやられますわ。
「返事はうなずくのではなく声に出してくださいね。現場での声出しは大切てすので」
「はい」
「うす」
まあ、出しているだけいいでしょう。
「それじゃあ、間配りについて説明します。こちらの図面を参考に、システムの具材を配置していくのですけど。ビームとかポールとかはわかりますよね?」
「研修で習いました」
「大丈夫です」
それならまずは一安心。
今回のブースは縦3つ幅4つの大きなコマ(区画)になっています。
これが連結しているものを立てていくため、最初に水出して引いてもらった糸に沿ってビームとポールを配置します。
「それじゅあ、私が見本をつくりますのでそれにあわせて配ってください。まず、起点になる角から順に配置します……」
一つ一つ、しっかりと。
教えられたとおりに具材を配置。
そのまま一つの駒を仕上げてから、今度は彼らにも配置をお願いします。
一つ折の注意事項は説明したので、私は自分の差企業を行いつつ彼らの監視も続けなくてはなりません。
なお、今回使うビームというのは1メートルの長さ、正確には950mmというサイズで重さは一本700グラム程度。
アルミ製ですけれどそこそこの重量があります。
私の場合、これを片手に4本、合計8本持って移動します。
ベテランの男性はこれを6本とか8本ずつとか持っていくらしく、それだけ移動する手間を減らすそうです。
そして新人さんたちを見ていますと。
――ダラーッ
片手に一本、両手で二本。 それをだらだらと持って歩いています。
いや、女性の私でも8本持てるのですよ、なんで私よりも力のあるあなたたちが2本なのですか?
「ビームが重いですか? 主かったら台車に乗せて移動しても構いませんよ」
「大丈夫っす……」
こんどは両手で4本。
そんなにダラダラとやっていますと、いつまでたっても配り終わらませんよ。
まだビームだけで、このあとはポールを配布しないとシステムは立てられないのに。
「はぁ。とにかく急いでくださいね。時間に限りがあるのですから」
「え、時間制限があるのですか?」
「終わらなかったら明日とかじゃなく?」
あ、こいつら適当にダラダラとやって時間だけ稼いで帰るつもりですね。
そう思ってちらっと高尾さんを見ますと、ほら、あきれた顔でやってきました。
「そこの新人二人はこっちの作業に切り替えて。御子柴さんは、こっちの子を二人連れていってください」
「はい」
別の新人さんが私のところにやってきます。
今度はしっかりと動いてくれるので、急いで間配りを終わらせないと……。
そのまま順調に間配りは進み、8割ほどが完了。
いつの間にか大川さんたちがシステムを立て始めていますので、こちらも急いで進めないと。
「御子柴さん、あとは新人さんに任せるので、パネルの填め込みに回ってくれるかな?」
「はい、了解です」
組み立ての早い大川さんだと、パネルの填め込みが追い付かないそうで。
私も急遽そちらに回ってはめ込み作業を続けていますと。
どこからか、大川さんの不機嫌そうな声が聞こえてきました。
「ここの間配りをしたのは誰? 図面ちゃんと見て配ったの?」
「はい、急いで交換します」
「いや、交換は当然だけど、ちゃんと図面見たの?」
「はい。すいません」
ややふてくされたようにつぶやく新人さん。
すると大川さんも不機嫌そうになってきました……って、あれ、普通に戻っている。
「大川さん、切り替えるの凄い……」
「まあ、この時期はよくあることだからさ……それよりも、順調?」
伊藤さんが私の近くまでビーム上部固定に追いついてきました。
上の方は上場っていうそうで、私がパネルを填めた後で上のビームをしっかりと固定して出来上がりです。
つまり、私が遅れるといつまでたっても上場が追い付かないということで……。
「順調……ではないです、急ぎます」
「いや、急がんでいいよ、しっかりとしてくれれば。急いで適当になるよりはいいから。それに、今日の作業はまあ遅れてはいないようだし」
確かに、駒の仕上がったところにはテーブルも椅子も設置されていますし、貸出用備品の配布も始まっています。
普段ならその備品関係は私が配布していたのですが、今回は新人の……ふてくされていた子がやっていますね。
「了解です、あわてず騒がず急ぎます」
「まあ、そんな感じてよろしく」
さあ、ここからは慎重に。
そして出来るだけ早くしっかりと作業を続けましょう。
………
……
…
先日のイベントの設営は、少しだけ余裕をもって完了しました。
そのあとは何事も起こらず、今日は撤去なのですけれど。
「お、ミコシーちゃん、お久しぶり」
「ミコシーちゃんっていうの? この前ぶりだね」
「また熊沢さんがナンパしている……高尾さんに怒られますよ」
「ナンパなんてしていないって、ね~♪」
トミさんと熊沢さんが今日は来ています。
昨日の設営にはいませんでしたけれど、撤去担当だったのでしょうか。
「お久しぶりです。撤去担当ですか?」
「いや、休みだったんだけど、急遽呼び出されてね」
「二人、飛んだっていうから緊急で来たんだよ。市内の現場ってさ、来るまでの移動は制限されるから来たくないんだけどなぁ」
「はぁ、確かにしないですと地下鉄の移動ですからね。それよりも、飛んだってなんですか?」
「ん、昨日来ていたらしい新人がね、今日になって辞めますって電話寄越してきたって高尾さんが怒ってしてきたのよ」
「根性ないんだよ、今の若いやつらは」
つまり、昨日でもう嫌気がさしてやめたと。
はぁ、昨日の作業内容で、どこにやめる要素があるのか理解できませんよ?
どれだけ楽をしたかったのか……。
「まあ、そういうことで起用は代打。仕事が終わったら、ご飯でも食べにいかない? 大川さんとかに誘われているんだけど」
「仕事後の飲み会ですか?」
珍しくトミさんがご飯に誘ってくれます。
これは親交を深めるためにも参加しなくては。
「え、俺は誘ってくれないの?」
「熊沢さんはいつ誘ってもこないじゃないですか」
「なにおう? かわいい子が一緒ならいつでも付き合うよ」
「はいはい、熊沢さんも参加ね。と、そろそろ始まるみたいよ」
明桜レンタリースの車から、いつものように堤さんと広崎さんが降りてきました。
さあ、撤去作業の開始です。
そのために期間限定でアルバイトを募集した結果、新しく大学生たちが参加しました。
彼らは今回のイベント設営に向けて実地で色々学んでもらうということらしく、今日の設営にはベテラン作業員さんの伊藤さんと大川さん、あとは綾辻さんと中島さんの4人を主導に、私たち新人アルバイトが参加しています。
今回も以前行った大学生の就職活動支援イベント、通称【ナビコン】の設営業務ということで、私はいつものように間配り作業を担当。
「御子柴さん、この二人をサポートにつけるので間配りを教えてあげてね。はい、これ図面だから」
にこやかに図面を手渡してくれる高尾さん。
いえ、あの、私もまだひと月程度ですよ? 現場の数ならまだ両手にも足りないのですけれど。
「高尾さん、私が指導ですか?」
「そうだね。間配りならそんなに危なくはないし、彼らは男性だから力仕事も任せられるでしょ? ということなのでよろしくね」
「えええ……マジですかぁ」
一瞬で脱力。
でも、私になら任せられると信じてくれた高尾さんの期待を裏切るわけにはいきません。
「それじゃあ、まず間配りについて説明しますね……研修は受けましたか?」
そう問いかけても、返事を返すことなく頷いている二人。
はあ、これは先が思いやられますわ。
「返事はうなずくのではなく声に出してくださいね。現場での声出しは大切てすので」
「はい」
「うす」
まあ、出しているだけいいでしょう。
「それじゃあ、間配りについて説明します。こちらの図面を参考に、システムの具材を配置していくのですけど。ビームとかポールとかはわかりますよね?」
「研修で習いました」
「大丈夫です」
それならまずは一安心。
今回のブースは縦3つ幅4つの大きなコマ(区画)になっています。
これが連結しているものを立てていくため、最初に水出して引いてもらった糸に沿ってビームとポールを配置します。
「それじゅあ、私が見本をつくりますのでそれにあわせて配ってください。まず、起点になる角から順に配置します……」
一つ一つ、しっかりと。
教えられたとおりに具材を配置。
そのまま一つの駒を仕上げてから、今度は彼らにも配置をお願いします。
一つ折の注意事項は説明したので、私は自分の差企業を行いつつ彼らの監視も続けなくてはなりません。
なお、今回使うビームというのは1メートルの長さ、正確には950mmというサイズで重さは一本700グラム程度。
アルミ製ですけれどそこそこの重量があります。
私の場合、これを片手に4本、合計8本持って移動します。
ベテランの男性はこれを6本とか8本ずつとか持っていくらしく、それだけ移動する手間を減らすそうです。
そして新人さんたちを見ていますと。
――ダラーッ
片手に一本、両手で二本。 それをだらだらと持って歩いています。
いや、女性の私でも8本持てるのですよ、なんで私よりも力のあるあなたたちが2本なのですか?
「ビームが重いですか? 主かったら台車に乗せて移動しても構いませんよ」
「大丈夫っす……」
こんどは両手で4本。
そんなにダラダラとやっていますと、いつまでたっても配り終わらませんよ。
まだビームだけで、このあとはポールを配布しないとシステムは立てられないのに。
「はぁ。とにかく急いでくださいね。時間に限りがあるのですから」
「え、時間制限があるのですか?」
「終わらなかったら明日とかじゃなく?」
あ、こいつら適当にダラダラとやって時間だけ稼いで帰るつもりですね。
そう思ってちらっと高尾さんを見ますと、ほら、あきれた顔でやってきました。
「そこの新人二人はこっちの作業に切り替えて。御子柴さんは、こっちの子を二人連れていってください」
「はい」
別の新人さんが私のところにやってきます。
今度はしっかりと動いてくれるので、急いで間配りを終わらせないと……。
そのまま順調に間配りは進み、8割ほどが完了。
いつの間にか大川さんたちがシステムを立て始めていますので、こちらも急いで進めないと。
「御子柴さん、あとは新人さんに任せるので、パネルの填め込みに回ってくれるかな?」
「はい、了解です」
組み立ての早い大川さんだと、パネルの填め込みが追い付かないそうで。
私も急遽そちらに回ってはめ込み作業を続けていますと。
どこからか、大川さんの不機嫌そうな声が聞こえてきました。
「ここの間配りをしたのは誰? 図面ちゃんと見て配ったの?」
「はい、急いで交換します」
「いや、交換は当然だけど、ちゃんと図面見たの?」
「はい。すいません」
ややふてくされたようにつぶやく新人さん。
すると大川さんも不機嫌そうになってきました……って、あれ、普通に戻っている。
「大川さん、切り替えるの凄い……」
「まあ、この時期はよくあることだからさ……それよりも、順調?」
伊藤さんが私の近くまでビーム上部固定に追いついてきました。
上の方は上場っていうそうで、私がパネルを填めた後で上のビームをしっかりと固定して出来上がりです。
つまり、私が遅れるといつまでたっても上場が追い付かないということで……。
「順調……ではないです、急ぎます」
「いや、急がんでいいよ、しっかりとしてくれれば。急いで適当になるよりはいいから。それに、今日の作業はまあ遅れてはいないようだし」
確かに、駒の仕上がったところにはテーブルも椅子も設置されていますし、貸出用備品の配布も始まっています。
普段ならその備品関係は私が配布していたのですが、今回は新人の……ふてくされていた子がやっていますね。
「了解です、あわてず騒がず急ぎます」
「まあ、そんな感じてよろしく」
さあ、ここからは慎重に。
そして出来るだけ早くしっかりと作業を続けましょう。
………
……
…
先日のイベントの設営は、少しだけ余裕をもって完了しました。
そのあとは何事も起こらず、今日は撤去なのですけれど。
「お、ミコシーちゃん、お久しぶり」
「ミコシーちゃんっていうの? この前ぶりだね」
「また熊沢さんがナンパしている……高尾さんに怒られますよ」
「ナンパなんてしていないって、ね~♪」
トミさんと熊沢さんが今日は来ています。
昨日の設営にはいませんでしたけれど、撤去担当だったのでしょうか。
「お久しぶりです。撤去担当ですか?」
「いや、休みだったんだけど、急遽呼び出されてね」
「二人、飛んだっていうから緊急で来たんだよ。市内の現場ってさ、来るまでの移動は制限されるから来たくないんだけどなぁ」
「はぁ、確かにしないですと地下鉄の移動ですからね。それよりも、飛んだってなんですか?」
「ん、昨日来ていたらしい新人がね、今日になって辞めますって電話寄越してきたって高尾さんが怒ってしてきたのよ」
「根性ないんだよ、今の若いやつらは」
つまり、昨日でもう嫌気がさしてやめたと。
はぁ、昨日の作業内容で、どこにやめる要素があるのか理解できませんよ?
どれだけ楽をしたかったのか……。
「まあ、そういうことで起用は代打。仕事が終わったら、ご飯でも食べにいかない? 大川さんとかに誘われているんだけど」
「仕事後の飲み会ですか?」
珍しくトミさんがご飯に誘ってくれます。
これは親交を深めるためにも参加しなくては。
「え、俺は誘ってくれないの?」
「熊沢さんはいつ誘ってもこないじゃないですか」
「なにおう? かわいい子が一緒ならいつでも付き合うよ」
「はいはい、熊沢さんも参加ね。と、そろそろ始まるみたいよ」
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