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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~
YOSAKOIソーランと、愉快なおじさんたちと
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アルバイトのあった日曜日から数日後。
普通に大学の授業を受けて帰宅しようとしたとき。
「ねぇ、御子柴さん、今日はなにか用事があるの?」
YOSAKOIソーランのチームに誘ってくれた内海さんが話しかけてくれました。
今日は特に用事もなかったし、久しぶりにのんびりと撮り溜めてあったドラマでも見ようかなと思っていた程度です。つまり、急ぎの用事はありません。
「いえ、うちでドラマでも見ようかなぁと思っていたぐらいですけれど、何かありましたか?」
「今日はこれから、YOSAKOIチームの練習があるんだけどね。もしもよかったら見に来ないかなぁって思ってさ。実は別のチームと初めての合同練習でね、かなり盛り上がるらしいからよかったら見学に来ないかなあって思って」
「見学ですか。私みたいな素人が見に行っていいのですか?」
「大丈夫大丈夫。相手のチームもエンジョイ勢だから。見学はいつでもだれでもOkって話していたからさ」
「……それじゃあ、ちょっとだけ」
「よっし。それじゃあいこうか」
あっという間に話がついて、私は内海さんに手を引かれて大学の近所にある小学校へ。
そこは開校130年を誇る古い歴史のある小学校で、内海さんのチームはここの学校の体育館とグラウンドに使用許可を貰って、そこで練習をしているそうです。
「へぇ、体育館って誰でも貸してもらえるのですか?」
「まあ、ちょんと申請すればだれでも借りられるよ。私たちは小児算会、二時間ずつ。一時間600円の使用料金は発生するけれど、それは私たちのアルバイト代で賄っているから大丈夫だよ」
「なるほど……」
そうこう話しながら歩いているうちに、目的の小学校へ到着です。
すでにメンバーはそろっているらしく、体育館の中には2チーム40人ほどの人が集まっていました。
「ええっと、こっちが私たちのチーム『のーざんらいと』。あっちが合同練習のチームで『寿命延』さん」
「お、おおう……凄いですね」
のーざんらいとのメンバーは全員が若い男女、よく見たらうちの学校の生徒もあちこちにいます。
それに対して、寿命延のメンバーはといいますと、老若男女様々な組み合わせ、まるで町内会魔の集まりのようにも見受けられます。
「それじゃあ、そろそろ始めるよ。先に準備運動から始めますので」
「はい、よろしくお願いします」
まずはラジオ体操からスタート。
そして普通のソーラン節を流しつつ、二つのチームが交互に踊るというのを繰り返します。
どうして合同練習なのかと質問したら、どうやら寿命延さんのチームが今日は練習場所が取れなかったそうで、偶然同じ町内に住んでいる内海さんが面倒を見てあげると約束したそうで。
それで使用時間の変更はできなかったけれど、場所については問題なかったそうで使用料を折半という形になったそうです。
それにしても。
普段盆踊りで聞いているソーラン節が流れているのを聞いていますと、心が落ち着くといいますか。
田舎に住んでいた記憶を思い出します。
ヤーレン ソーラン ソーラン
ソーラン ソーラン ソーラン (ハイ ハイ)
沖の鴎に 潮どき問えば
わたしゃ立つ鳥 波に聞け
チョイ ヤサエエンヤンサノ
ドッコイショ
(ハ ドッコイショ ドッコイショ)
ソーラン節はそもそも、ニシン漁の時の掛け声が始まりといわれています。
漁師たちの掛け声がうちになったものがソーラン節で、もともとは4っつの歌があったという逸話もあります。
事実、私の実家のほうではソーラン節の碑石がありまして、それによりますとソーラン節は『船漕ぎ音頭』『網起こし音頭』『冲揚げ音頭』『子たたき音頭』のよつつで構成されているとか。
もう小さいときの記憶なので、あまりしっかりと覚えてはいませんけれど。
「でも、楽しそうだなぁ……」
一生懸命に踊っている姿を見て、私も体を少しだけゆすぶっています。
すると突然、音楽がアップテンポになりました!!
「さあ、ここからが本番。チーム寿命延が今年もきたぁぁぁぁぁぁぁ」
「ハッネハッ、ハッ、ハッ!! やーーーーーーーーーーーれんそーらん、そらんそーーーらん♪」
寿命延のリーダー風の女性がマイク片手に叫びます。
そして曲調がハイテンポになったソーラン節が流れると同時に、演者さんたちのま動きも活発になりました。
ハイテンションで踊りまくる、明るく楽しく、笑顔を絶やさず。
「男度胸なら、五尺の身体!! ど~んと乗り出せぇ、あ、波の~う~えぇぇぇぇぃぃぃぃぃぃっぃっ」
「「「チョイ ヤサエエンヤンサノ ドッコイショ」」」
「「「ハ ドッコイショ ドッコイショ」」」
凄い。
沿道で見るものとは違い迫力が伝わってきます。
そして踊り終わって曲が止まると、一斉に拍手が沸き上がります。
私たち以外にも、学校の教員や児童館に集まっていた子供たちが見学していたらしく、拍手喝采です。
「はーーい。それじゃあ次は、私たちの出番です」
のーざんらいとのメンバーが立ち上がって所定の位置に移動。
やっぱり最初は普通のソーラン節でしたけれど、途中からどんどんハイテンション。
ビートポップ調に繰り広げられる音楽と、ブレイクダンスを交えた踊り。
はい、これはこれですごく楽しいです。
見ていた子供たちも真似してかくかくと動いています。
それでも、やっぱり急増チームというか今年からの参加ということもあって、寿命延にはかないません。
そんな光景をウンウンと見ていますと。
「あれ? 新人のオネーチャン?」
寿命延のメンバーのおじさんが、私の方を見て手を振っています。
ええっと……あれ、現場で見たような気がしますけれど。
「ええっと……」
「うわ、冷たいなぁ……俺のことは覚えていないんだね」
「いえ、その、すいません」
「いいよいいよ。まだ慣れていないだろうし顔と名前を覚えるのも大変そうだからさ」
ニコニコと笑いながら話しかけて来るおじさん。
すると、同じチームの人からヤジが飛んでいます。
「お嬢さん逃げてぇぇぇ。食事に誘われるよぉぉぉ」
「失礼な。そんなことはたまにしかしません!」
仏頂面で否定するおじさん。
うん、この顔は確かに見覚えが……あ!!
初めての現場の時にいたおじさんだ。
『それじゃあ、彼女が今回入った新人の御子柴さん。色々と教えてあげてください。熊沢さんは彼女に近づかないように、接近禁止ね』
『なんでさぁ!!俺は常に女性には優しいよ?』
そうです、高尾さんに笑いながら注意されていた熊沢さんだ。
「接近禁止の熊沢さん?」
「ひどいや、高尾さんの説明をそのまま真に受けたのかよ……まあ、それよりも、おねえちゃんもYOSAKOIに興味があるの? うちのチームに入る?」
「いえ、今日は友達のチームの見学ですよ。そもそも、大会当日は私は別の場所でアルバイトですから……つて、熊沢さんは現場は?」
そう、確か大会の設営機関や当日スタッフが足りないって、高尾さんが嘆いていましたよ。
「え、YOSAKOI休みだよ? 俺はさ、自分の好きな現場しかいかないから」
「あ~なるほど」
「それよりもさ、帰りに送ってあげようか? 車だから近くまで送ってあげるよ?」
おっと、これは危険な予感。
冗談っぽく話していますけれど、どうしたものか。
「うち、ここから10分なんですよ。大学の近くですから」
「そっか。それじゃあ、またどっかの現場でね」
あっさりと引きましたけれど。
うん、多分悪意も害意もなく、純粋に送ってあげるっていうやさしさなんですね。
「熊沢さん、帰りに俺たちも送ってくれよ」
「男は黙って帰れよ!!」
前言撤回です。
まあ、あのおじさんのことは頭の片隅に置いておくことにして、内海さんの練習を……。
と思って仮ステージの方を見ますと、ちょうど音楽がフィニッシュ。
途中から熊沢さんが来たので、見ることができませんでしたよ……。
「はうあ……熊沢さん、ゆるすまじ」
まあ、そのあとも交互に練習していましたのであとは普通に見られましたけれど。
それにしても、やはり高尾さんの言う通り危険人物なのかもしれませんね。
普通に大学の授業を受けて帰宅しようとしたとき。
「ねぇ、御子柴さん、今日はなにか用事があるの?」
YOSAKOIソーランのチームに誘ってくれた内海さんが話しかけてくれました。
今日は特に用事もなかったし、久しぶりにのんびりと撮り溜めてあったドラマでも見ようかなと思っていた程度です。つまり、急ぎの用事はありません。
「いえ、うちでドラマでも見ようかなぁと思っていたぐらいですけれど、何かありましたか?」
「今日はこれから、YOSAKOIチームの練習があるんだけどね。もしもよかったら見に来ないかなぁって思ってさ。実は別のチームと初めての合同練習でね、かなり盛り上がるらしいからよかったら見学に来ないかなあって思って」
「見学ですか。私みたいな素人が見に行っていいのですか?」
「大丈夫大丈夫。相手のチームもエンジョイ勢だから。見学はいつでもだれでもOkって話していたからさ」
「……それじゃあ、ちょっとだけ」
「よっし。それじゃあいこうか」
あっという間に話がついて、私は内海さんに手を引かれて大学の近所にある小学校へ。
そこは開校130年を誇る古い歴史のある小学校で、内海さんのチームはここの学校の体育館とグラウンドに使用許可を貰って、そこで練習をしているそうです。
「へぇ、体育館って誰でも貸してもらえるのですか?」
「まあ、ちょんと申請すればだれでも借りられるよ。私たちは小児算会、二時間ずつ。一時間600円の使用料金は発生するけれど、それは私たちのアルバイト代で賄っているから大丈夫だよ」
「なるほど……」
そうこう話しながら歩いているうちに、目的の小学校へ到着です。
すでにメンバーはそろっているらしく、体育館の中には2チーム40人ほどの人が集まっていました。
「ええっと、こっちが私たちのチーム『のーざんらいと』。あっちが合同練習のチームで『寿命延』さん」
「お、おおう……凄いですね」
のーざんらいとのメンバーは全員が若い男女、よく見たらうちの学校の生徒もあちこちにいます。
それに対して、寿命延のメンバーはといいますと、老若男女様々な組み合わせ、まるで町内会魔の集まりのようにも見受けられます。
「それじゃあ、そろそろ始めるよ。先に準備運動から始めますので」
「はい、よろしくお願いします」
まずはラジオ体操からスタート。
そして普通のソーラン節を流しつつ、二つのチームが交互に踊るというのを繰り返します。
どうして合同練習なのかと質問したら、どうやら寿命延さんのチームが今日は練習場所が取れなかったそうで、偶然同じ町内に住んでいる内海さんが面倒を見てあげると約束したそうで。
それで使用時間の変更はできなかったけれど、場所については問題なかったそうで使用料を折半という形になったそうです。
それにしても。
普段盆踊りで聞いているソーラン節が流れているのを聞いていますと、心が落ち着くといいますか。
田舎に住んでいた記憶を思い出します。
ヤーレン ソーラン ソーラン
ソーラン ソーラン ソーラン (ハイ ハイ)
沖の鴎に 潮どき問えば
わたしゃ立つ鳥 波に聞け
チョイ ヤサエエンヤンサノ
ドッコイショ
(ハ ドッコイショ ドッコイショ)
ソーラン節はそもそも、ニシン漁の時の掛け声が始まりといわれています。
漁師たちの掛け声がうちになったものがソーラン節で、もともとは4っつの歌があったという逸話もあります。
事実、私の実家のほうではソーラン節の碑石がありまして、それによりますとソーラン節は『船漕ぎ音頭』『網起こし音頭』『冲揚げ音頭』『子たたき音頭』のよつつで構成されているとか。
もう小さいときの記憶なので、あまりしっかりと覚えてはいませんけれど。
「でも、楽しそうだなぁ……」
一生懸命に踊っている姿を見て、私も体を少しだけゆすぶっています。
すると突然、音楽がアップテンポになりました!!
「さあ、ここからが本番。チーム寿命延が今年もきたぁぁぁぁぁぁぁ」
「ハッネハッ、ハッ、ハッ!! やーーーーーーーーーーーれんそーらん、そらんそーーーらん♪」
寿命延のリーダー風の女性がマイク片手に叫びます。
そして曲調がハイテンポになったソーラン節が流れると同時に、演者さんたちのま動きも活発になりました。
ハイテンションで踊りまくる、明るく楽しく、笑顔を絶やさず。
「男度胸なら、五尺の身体!! ど~んと乗り出せぇ、あ、波の~う~えぇぇぇぇぃぃぃぃぃぃっぃっ」
「「「チョイ ヤサエエンヤンサノ ドッコイショ」」」
「「「ハ ドッコイショ ドッコイショ」」」
凄い。
沿道で見るものとは違い迫力が伝わってきます。
そして踊り終わって曲が止まると、一斉に拍手が沸き上がります。
私たち以外にも、学校の教員や児童館に集まっていた子供たちが見学していたらしく、拍手喝采です。
「はーーい。それじゃあ次は、私たちの出番です」
のーざんらいとのメンバーが立ち上がって所定の位置に移動。
やっぱり最初は普通のソーラン節でしたけれど、途中からどんどんハイテンション。
ビートポップ調に繰り広げられる音楽と、ブレイクダンスを交えた踊り。
はい、これはこれですごく楽しいです。
見ていた子供たちも真似してかくかくと動いています。
それでも、やっぱり急増チームというか今年からの参加ということもあって、寿命延にはかないません。
そんな光景をウンウンと見ていますと。
「あれ? 新人のオネーチャン?」
寿命延のメンバーのおじさんが、私の方を見て手を振っています。
ええっと……あれ、現場で見たような気がしますけれど。
「ええっと……」
「うわ、冷たいなぁ……俺のことは覚えていないんだね」
「いえ、その、すいません」
「いいよいいよ。まだ慣れていないだろうし顔と名前を覚えるのも大変そうだからさ」
ニコニコと笑いながら話しかけて来るおじさん。
すると、同じチームの人からヤジが飛んでいます。
「お嬢さん逃げてぇぇぇ。食事に誘われるよぉぉぉ」
「失礼な。そんなことはたまにしかしません!」
仏頂面で否定するおじさん。
うん、この顔は確かに見覚えが……あ!!
初めての現場の時にいたおじさんだ。
『それじゃあ、彼女が今回入った新人の御子柴さん。色々と教えてあげてください。熊沢さんは彼女に近づかないように、接近禁止ね』
『なんでさぁ!!俺は常に女性には優しいよ?』
そうです、高尾さんに笑いながら注意されていた熊沢さんだ。
「接近禁止の熊沢さん?」
「ひどいや、高尾さんの説明をそのまま真に受けたのかよ……まあ、それよりも、おねえちゃんもYOSAKOIに興味があるの? うちのチームに入る?」
「いえ、今日は友達のチームの見学ですよ。そもそも、大会当日は私は別の場所でアルバイトですから……つて、熊沢さんは現場は?」
そう、確か大会の設営機関や当日スタッフが足りないって、高尾さんが嘆いていましたよ。
「え、YOSAKOI休みだよ? 俺はさ、自分の好きな現場しかいかないから」
「あ~なるほど」
「それよりもさ、帰りに送ってあげようか? 車だから近くまで送ってあげるよ?」
おっと、これは危険な予感。
冗談っぽく話していますけれど、どうしたものか。
「うち、ここから10分なんですよ。大学の近くですから」
「そっか。それじゃあ、またどっかの現場でね」
あっさりと引きましたけれど。
うん、多分悪意も害意もなく、純粋に送ってあげるっていうやさしさなんですね。
「熊沢さん、帰りに俺たちも送ってくれよ」
「男は黙って帰れよ!!」
前言撤回です。
まあ、あのおじさんのことは頭の片隅に置いておくことにして、内海さんの練習を……。
と思って仮ステージの方を見ますと、ちょうど音楽がフィニッシュ。
途中から熊沢さんが来たので、見ることができませんでしたよ……。
「はうあ……熊沢さん、ゆるすまじ」
まあ、そのあとも交互に練習していましたのであとは普通に見られましたけれど。
それにしても、やはり高尾さんの言う通り危険人物なのかもしれませんね。
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