イベントへ行こう!

呑兵衛和尚

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第一章・夢から少し遠い場所~イベント設営業~

立場が変わるだけ? そして財布が吹っ飛んだぁ!

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 北海道の初夏のイベント、YOSAKOIソーラン祭。

 去年まではこの時期になると、家族で大通り会場まで何度も見に行きました。
 テレビで見るものと迫力が違い、本当に演者さんの熱気が伝わってきます。
 沿道からでは見づらいため、毎年、大通り会場に作られる有料の桟敷席を使っていたのですけれど……まさか、今年は設営側になりそうとは予想外です。

「あ~、去年までは見ていたけど、今年は設営側にねぇ」

 札幌ドームイベント最終日、私はトミさんと朝イチのスタッフ作業です。
 それも前日のように10時になるとぱったりと客足が途絶えます。
 あとはお昼までのんびりと待機、時折、レンタル備品の返却に来るお客さんの対応をする程度です。

「はい。去年までは桟敷席で見ていたり、終わってから三越のあたりで縁日を楽しんでいたのですけれど。こういうこともあるのですね?」
「まあ、あるよねぇ。ほら、御子柴さんの現場初日にいた、ハゲのおじさんいたでしょ?」

 ハゲのおじさん。
 一杯居たような気がしますけれど、ウィルプラスのハゲおじさんは確か。

「中島さん?」
「そうそう。あの人、元は和食の調理師でね。以前はパークホテルとかの『食の祭典フェア』とかに参加していたのよ。それが今では設営する側だって笑っていましたから。話では、去年は昼間は参加していて、夕方からは撤去作業に切り替えたって笑っていましたよ」
「あ~、あれ? ウィルプラスの皆さんって、他にも仕事をしているのですか」
「まあ、そりゃあしていると思うわよ。それで、YOSAKOIの設営はどうするの?」

 そこが大切。
 せっかく同じ講義の人とお友達になれそうなチャンスでもありますし、でも、このアルバイトは夢を叶えるための道標でもあるので、できる限り現場に出たいというのもあります。
 
「う~ん。今年は設営に回って色々と学ばせてもらえればなぁと思ってます」
「お? 御子柴さんは将来は社員登用を考えているの?」

 私とトミさんの話を聞いて、名桜の平崎さんが話しかけてきました。

「い、いえ、社員とかではなくてですね……MCをやってみたいなぁと思っていまして」
「あ~、なるほどね。そっちの仕事があったら、高尾さんに回しておきますよ。まあ、最初はPAスタッフになると思いますし、司会業って別に専門の事務所があってね。まあ、そっちは社員だからアルバイトとして経験を積むのなら、ウィルプラスてわ頑張ってみるといいんじゃない?」
「ふぁ……はい!!」

 こ、これはいきなり道が見えました。
 これはもっと頑張らなくてはなりませんか?

「名桜でPAを担当するのは僕と、あとは堤さんかな。時間があるときにでも教えてあげるよ」
「御子柴さん、平崎さんには気をつけてね?」
「何を気をつけるんですか、まったく……」

 トミさんと平崎さんのやりとりに吹き出しそうになるのを堪えつつ、残りの時間はしっかりと作業に集中。
 そして定時になったので、本日の昼間の業務は完了。
 あとは夕方の撤去に合流ですから、一旦帰宅しないと……。

──フワァ
 ゴクッ。
 この名桜レンタリースのブースの近くでは、フードコートが設営されています。
 フードカーと呼ばれる移動式調理車が何台も並び、北海道各地の名産をその場で食べられるようになっています。
 しかも、道内のさまざまなベーカリーも並んでいまして、本日限りの新商品とかもあるのですよ。
 そして今は昼。
 買い物に行かない道理などありません。

「あ、ラーメンもあるのですか。こっちはな、な、なんと限定のフルーツ大福コーナー? これって店に並んでも一瞬で売り切れるやつじゃないですか? こっちはドングリーズのクリームカスタードパン、え? ここは天国?」

 少し並ばないといけませんが、これは、このタイミングを逃すわけにはいきません。

 一期一会、私の好きな言葉です。
 散財地獄、私の嫌いな言葉です。

 そして、ふと気がつくと。
 私は両手いっぱいのパンやスィーツをぶら下げていました。
 
「うん。昨日の伊藤さんの言葉の意味がわかりました。トミさんがすたからさっさと帰っていった理由も……」

 そう思いつつ、ふと名桜のブースを見ますと。
 私と目が合った伊藤さんが、悪魔の笑みを浮かべてサムズアップしています。
 こ、こうなることがわかっていたのなら、先に忠告してくださいよぉ。
 はぁ、しばらくはこのパンやスィーツが主食ですか。
 本当に、今日のアルバイト代が吹き飛びましたよ。

「も、もう現場近くでの買い物はしません!!」

 そう心に誓いつつ、のんびりと帰宅です。
 はぁ、夕方からも頑張らないと。
 
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