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第一章・迷宮大氾濫と赤の黄昏編
旅立ちの準備と、拡張術式と
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キノクニ領のダンジョン氾濫。
その脅威が終結してすでに一ヶ月。
万が一のことを考えて領都郊外に避難していた人々も領都内に戻り、いつも通りの生活を再開している。
ダンジョンは完全遺跡型に進化し、今まで見たこともないような魔物が徘徊。それら未知の素材を求めて、冒険者たちもダンジョン攻略を再開した。
ブンザイモン・キノクニは今回の氾濫に関する報告書を国王と王都魔術師学会に提出し、急ぎ『人工ダンジョンコア』の研究及び開発を要請したものの、エリオンがもたらした魔術式並びに錬成術式についてはあまりにも未知数であり、現時点では開発は不可能と判断。
現在は術式の解読と必要素材の採集に努めてている。
魔導レンタルショップ『オールレント』はいつもと変わらず。
一日に二、三組の冒険者が訪れては、魔法薬を購入したりダンジョン攻略に必要な武具を借りている。
努めて平和な、のんびりとした日々。
エリオンはいつまでもこの状態が続けばいいと思う反面、この体に刻み込まれた呪詛を全て取り払いたいとも願っている。
七織の異界貴族によって封じられた、あるいは能力減衰した力を取り戻す。
まずは一つ目、【元素変換の理】を取り戻したものの、まだ先は長い。
──ピッ……タイムカウントダウン……
のんびりと店番をしていたアリオンの頭の中に、突然言葉が響く。
それは、このオールレントの中枢にあたる部屋に安置されている大型魔導具から発せられているものであり、エリオンやレムリアにとっては何度も経験したことがある事象。
「ふぅ。転移準備に入ったのか。シュレディンガー、ランダム転移の発動はあと何日後だ?」
そう店内に話しかけると、玄関横に置いてある黒猫と彫像が動き出し、カウンターの上まで跳ねてくる。
「あと590000セコンドってところかにゃ? 大体一週間後ぐらいだから、先にこの前回収したダンジョンコアを魔導炉に放り込むにゃ」
「はいはい。今回のダンジョンコアは、俺たちにどんな力を与えてくれることやら……」
「エリオンの活動限界の上限はこの前越えたばかりだから、あと一年以上は変化ないにゃ。予測では、倉庫が増えるにゃ」
「はぁ……まあ、それでも構わないけどさ。どれ、ちょいとやってみるか」
エリオンが立ち上がって裏の部屋へと向かう。
その方にシュレディンガーと呼ばれた猫がピョンも飛び乗ると、そのままエリオンと共に裏の部屋へと入っていく。
何もないがらんどうの部屋、その中心の床には複雑怪奇な魔法陣が描かれている。
「さて。それじゃあ始めるか。接続」
右手を魔法陣に伸ばし、魔力を込めて言葉を紡ぐ。
魔法陣は登録されている魔力とエリオンの言葉が一致するのを確認すると、ゆっくりと持ち上がり膨らみ、やがて部屋の中央に球形の立体魔法陣を形成した。
「さて、そんじゃ一発、やってみるか」
──ニュルッ
アイテムボックスからダンジョンコアを取り出し、ゆっくりと球形魔法陣に押し当てる。
すると、魔法陣の表面がゆっくりと波たち、そこから真紅に染まった術式によって構成された腕が無数に伸びてくる。
その腕はダンジョンコアを掴むとゆっくりと球形魔法陣の中へと吸収し、5分も経たずにダンジョンコアの全てが消滅した。
やがて魔法陣全体が赤く輝くと、刻み込まれている文字が形を変え、新たな球形魔法陣へと変化していった。
「んんん? 予想外の反応なんだけど……これ、爆発しないよな?」
「爆発するなら、とっくに吹き飛んでいるにゃ。これは拡張術式、裏の倉庫区画の拡張だにゃ」
「マジか。そいつは予想外だわ。それで、何が拡張されたのかわかるか?」
「さぁ? いってみないことにはわからないからにゃ。術式定着までまだ暫くかかりそうだから、それまでは放置して置くにゃ」
そう呟いてから、シュレディンガーはエリオンの肩から飛び降りるといつもの定位置へと戻る。
そして招き猫のようなポーズをとると彫像に姿を変えていく。
「はぁ。ま、店舗の機能拡張はありがたい。問題は、そこに何が入っているのか、それをレムリア用に調整しないとならないこと……か。また素材が足りなくなるんだよなぁ……今のうちに、レムリアに素材回収に行ってきてもらうしかないか」
頭を掻きつつエリオンはカウンターへと戻っていく。
そしていつものようにアイテムボックスの中身を確認しつつ、次に何を作るべきか、その素材は間に合っているか とチェックを始めることにした。
………
……
…
──プシュッ
オールレント敷地内。裏手にあるレムリアの家。
正確にはオールレントの備品である『3番倉庫』をレムリア自ら改造し、自分用の装備備品庫兼住宅として作り替えたもの。
その2階にある寝室で、レムリアはベットの上でゆっくりと目を覚ます。
このベッドも魔導具であり、レムリアの体調を確認し、都度、必要な術式を発動して彼女のコンディションをベストにしてくれる。
とある国の王族にも注文された万能ベッドであり、これ一個で国家予算3年分の金貨が溶けてなくなる代物である。
「……左腕の付け根が痛い。調整不足?」
右手で魔導ウィンドゥを展開し、そこに表示されているデータを確認。
確かに上腕二頭筋、三頭筋に異常が見られるものの、これは疲労による一部筋断裂程度、彼女の体なら自然回復するレベルであると認識した。
「うん、三日ほど静養が必要……か。いつも通りの仕事には支障はないけれど、戦闘行為は無理……」
ベッドから出て窓を開ける。
すでに時刻は昼、眩しい光から目を守るように右手を翳すのと、彼女のお腹がグゥ、となるのはほぼ同時。
「それじゃあ、仕事に向かおうかな」
アイテムボックスからハムサンドを取り出し、それを咥えてモグモグと食べながら普段着に換装。
トントンと階段を降りてオールレントの裏口から店内へ。
「おはよう。それじゃあ仕事をしてくるから」
「よろしくさん。ああ、あと一週間でランダム転移が始まるから、やることがあったら全て終わらせておいてくれるか?」
「ふぅん。この土地での為すべきことは終わったということね。まあ、私は基本的にエリオンの依頼を遂行するだけだから」
──カラカラ~ン
そうレムリアがつぶやいた時。
扉が開いて、王都魔導師協会のシャール・テンペスタが店内に入ってくる。
「いらっしゃいませ。今日は何をお求めでしょうか?」
「今日はエリオンにいい話をお持ちしました」
ニコニコと笑いながら、シャールがカウンターへと向かう。
その笑みに裏がないことはレムリアにも理解できたが、とんでもない話を持ってきたなぁという雰囲気は理解できた。
そしてシャールは困った顔をしているエリオンの前に、一枚の書類を取り出して広げる。
「おめでとうございます、エリオンさま。あなたは正式に王都魔術師学会の名誉顧問として就任することが決まりました!! でもご安心ください、王都に新しい店舗もご用意しますので、そこでレンタルショップを続けても何も問題ありません。エリオン様は顧問として、学会に登録されている魔術師に叡智を授けてくれるだけで構わないのですから!!」
突然の話に、エリオンもため息をついてしまう。
今のシャールの話したようなことは、もう幾度となく経験している。
「うん、そんなことだろうと思ったよ」
「それでですね、この私があなたの専任秘書官として就任することになりました」
「へぇ……それは大変だね。でも、俺は来週には引っ越しするけれど? 他国に」
「へ? 他国?」
普通の魔術師ならば、これ以上の栄誉はない。
学会所属の顧問魔導士になるということは、魔術伯の爵位を得るようなものである。
故に、断られることなどシャールも考えていなかったのだが。
「ちょ、ちょっとお待ちください。この件は他国に行かれるのなら白紙になりますよ?」
「構わないよ。俺にはやることがあるし、もうこの地でやることは無くなったからさ。という事で、この件は持ち帰ってくれ」
「そ、そ、それは……」
シャールにとってはエリオンの引っ越しなど寝耳に水。
彼の秘書官ということは、将来も約束されたも同然の話であったのだが、全てが白紙になってしまったのである。
ヘナヘナと力が抜けていき、床にしゃがみ込むシャール。
その姿を見て、エリオンもクククッと笑ってしまう。
「基本的には、俺はどの権力にも縛られることはないからさ。俺の目的を邪魔するなら叩き潰すけれど、何もしないのならこっちも手を出さない。そういうことだから」
「わ、わ、私の出世がぁぁぁぁ。エリオン様専属秘書になったら、研究予算が今までの20倍も受け取れるのですよ? 魔法精製水一つ購入するのに一食抜くような生活から解放されるのですよ?」
「そらこそ知らんわ……っていうか、その程度なら自分で作れ!!」
「遺跡から発掘された魔導具以外では、作れるはずがないじゃないですか!」
動揺しているシャール。
魔法精製水は、魔導具作成には欠かせない触媒。
素材の洗浄をはじめ、魔法薬の調剤や魔力触媒にも必須なものであり、取り扱いは全て魔術師学会で行っている希少なもの。
とはいえ、エリオン曰く、精製水さえあれば魔力を混ぜるだけでできる簡単なものなのだが、その製法すらこの国、いやこの大陸からは失われているらしい。
「はぁぁぁぁぁ。まあ、頑張れ。どうせ一週間後には、この建物ごと転移するからさ」
「はい? 建物ごと転移? またまた、そんな御冗談を……本当ですか?」
「嘘は言わないよ。ということで、その旨を報告よろしく」
はぁ、とため息をつきながら、シャールが立ち上がり、スカートについた埃を払う。
「わかりました、報告はしておきますが。この件は国王にも許可をとった正式なものです」
「だから面倒くさくて嫌なんだよ。その言葉ももう何十回と聞いたわ、ここよりももっと良い条件を出してきた国もあったわ……俺はそういうのが嫌なんだよ、岩塩をぶつけられる前に素直に帰ったほうがいいぞ」
「え? 岩塩?」
嫌な客が帰ったら塩を撒く。
お清めという意味合いもあるのだが、オールレントでは岩塩を投げつけることもある。
2度とくるなという意味で用いられ、今もレムリアがアイテムボックスから取り出した岩塩を丸く削っているところである。
「あ!あの、それじゃあ失礼しましたぁぁぁぁぁ」
「うん、お客や雑談、茶飲みじじいなら歓迎するけれど、勧誘その他はお断り。次にその話を持ってきたら、この削った塩に漬け込む」
「嫌ァァァァァ」
絶叫しながらシャールが店から飛び出す。
それを見送ってから、レムリアは掃除を再開。
「一つのところに居続けられるのなら、俺だって落ち着きたいよ……」
そうカウンターで呟くエリオンの言葉に、レムリアは小さく頷くだけであった。
その脅威が終結してすでに一ヶ月。
万が一のことを考えて領都郊外に避難していた人々も領都内に戻り、いつも通りの生活を再開している。
ダンジョンは完全遺跡型に進化し、今まで見たこともないような魔物が徘徊。それら未知の素材を求めて、冒険者たちもダンジョン攻略を再開した。
ブンザイモン・キノクニは今回の氾濫に関する報告書を国王と王都魔術師学会に提出し、急ぎ『人工ダンジョンコア』の研究及び開発を要請したものの、エリオンがもたらした魔術式並びに錬成術式についてはあまりにも未知数であり、現時点では開発は不可能と判断。
現在は術式の解読と必要素材の採集に努めてている。
魔導レンタルショップ『オールレント』はいつもと変わらず。
一日に二、三組の冒険者が訪れては、魔法薬を購入したりダンジョン攻略に必要な武具を借りている。
努めて平和な、のんびりとした日々。
エリオンはいつまでもこの状態が続けばいいと思う反面、この体に刻み込まれた呪詛を全て取り払いたいとも願っている。
七織の異界貴族によって封じられた、あるいは能力減衰した力を取り戻す。
まずは一つ目、【元素変換の理】を取り戻したものの、まだ先は長い。
──ピッ……タイムカウントダウン……
のんびりと店番をしていたアリオンの頭の中に、突然言葉が響く。
それは、このオールレントの中枢にあたる部屋に安置されている大型魔導具から発せられているものであり、エリオンやレムリアにとっては何度も経験したことがある事象。
「ふぅ。転移準備に入ったのか。シュレディンガー、ランダム転移の発動はあと何日後だ?」
そう店内に話しかけると、玄関横に置いてある黒猫と彫像が動き出し、カウンターの上まで跳ねてくる。
「あと590000セコンドってところかにゃ? 大体一週間後ぐらいだから、先にこの前回収したダンジョンコアを魔導炉に放り込むにゃ」
「はいはい。今回のダンジョンコアは、俺たちにどんな力を与えてくれることやら……」
「エリオンの活動限界の上限はこの前越えたばかりだから、あと一年以上は変化ないにゃ。予測では、倉庫が増えるにゃ」
「はぁ……まあ、それでも構わないけどさ。どれ、ちょいとやってみるか」
エリオンが立ち上がって裏の部屋へと向かう。
その方にシュレディンガーと呼ばれた猫がピョンも飛び乗ると、そのままエリオンと共に裏の部屋へと入っていく。
何もないがらんどうの部屋、その中心の床には複雑怪奇な魔法陣が描かれている。
「さて。それじゃあ始めるか。接続」
右手を魔法陣に伸ばし、魔力を込めて言葉を紡ぐ。
魔法陣は登録されている魔力とエリオンの言葉が一致するのを確認すると、ゆっくりと持ち上がり膨らみ、やがて部屋の中央に球形の立体魔法陣を形成した。
「さて、そんじゃ一発、やってみるか」
──ニュルッ
アイテムボックスからダンジョンコアを取り出し、ゆっくりと球形魔法陣に押し当てる。
すると、魔法陣の表面がゆっくりと波たち、そこから真紅に染まった術式によって構成された腕が無数に伸びてくる。
その腕はダンジョンコアを掴むとゆっくりと球形魔法陣の中へと吸収し、5分も経たずにダンジョンコアの全てが消滅した。
やがて魔法陣全体が赤く輝くと、刻み込まれている文字が形を変え、新たな球形魔法陣へと変化していった。
「んんん? 予想外の反応なんだけど……これ、爆発しないよな?」
「爆発するなら、とっくに吹き飛んでいるにゃ。これは拡張術式、裏の倉庫区画の拡張だにゃ」
「マジか。そいつは予想外だわ。それで、何が拡張されたのかわかるか?」
「さぁ? いってみないことにはわからないからにゃ。術式定着までまだ暫くかかりそうだから、それまでは放置して置くにゃ」
そう呟いてから、シュレディンガーはエリオンの肩から飛び降りるといつもの定位置へと戻る。
そして招き猫のようなポーズをとると彫像に姿を変えていく。
「はぁ。ま、店舗の機能拡張はありがたい。問題は、そこに何が入っているのか、それをレムリア用に調整しないとならないこと……か。また素材が足りなくなるんだよなぁ……今のうちに、レムリアに素材回収に行ってきてもらうしかないか」
頭を掻きつつエリオンはカウンターへと戻っていく。
そしていつものようにアイテムボックスの中身を確認しつつ、次に何を作るべきか、その素材は間に合っているか とチェックを始めることにした。
………
……
…
──プシュッ
オールレント敷地内。裏手にあるレムリアの家。
正確にはオールレントの備品である『3番倉庫』をレムリア自ら改造し、自分用の装備備品庫兼住宅として作り替えたもの。
その2階にある寝室で、レムリアはベットの上でゆっくりと目を覚ます。
このベッドも魔導具であり、レムリアの体調を確認し、都度、必要な術式を発動して彼女のコンディションをベストにしてくれる。
とある国の王族にも注文された万能ベッドであり、これ一個で国家予算3年分の金貨が溶けてなくなる代物である。
「……左腕の付け根が痛い。調整不足?」
右手で魔導ウィンドゥを展開し、そこに表示されているデータを確認。
確かに上腕二頭筋、三頭筋に異常が見られるものの、これは疲労による一部筋断裂程度、彼女の体なら自然回復するレベルであると認識した。
「うん、三日ほど静養が必要……か。いつも通りの仕事には支障はないけれど、戦闘行為は無理……」
ベッドから出て窓を開ける。
すでに時刻は昼、眩しい光から目を守るように右手を翳すのと、彼女のお腹がグゥ、となるのはほぼ同時。
「それじゃあ、仕事に向かおうかな」
アイテムボックスからハムサンドを取り出し、それを咥えてモグモグと食べながら普段着に換装。
トントンと階段を降りてオールレントの裏口から店内へ。
「おはよう。それじゃあ仕事をしてくるから」
「よろしくさん。ああ、あと一週間でランダム転移が始まるから、やることがあったら全て終わらせておいてくれるか?」
「ふぅん。この土地での為すべきことは終わったということね。まあ、私は基本的にエリオンの依頼を遂行するだけだから」
──カラカラ~ン
そうレムリアがつぶやいた時。
扉が開いて、王都魔導師協会のシャール・テンペスタが店内に入ってくる。
「いらっしゃいませ。今日は何をお求めでしょうか?」
「今日はエリオンにいい話をお持ちしました」
ニコニコと笑いながら、シャールがカウンターへと向かう。
その笑みに裏がないことはレムリアにも理解できたが、とんでもない話を持ってきたなぁという雰囲気は理解できた。
そしてシャールは困った顔をしているエリオンの前に、一枚の書類を取り出して広げる。
「おめでとうございます、エリオンさま。あなたは正式に王都魔術師学会の名誉顧問として就任することが決まりました!! でもご安心ください、王都に新しい店舗もご用意しますので、そこでレンタルショップを続けても何も問題ありません。エリオン様は顧問として、学会に登録されている魔術師に叡智を授けてくれるだけで構わないのですから!!」
突然の話に、エリオンもため息をついてしまう。
今のシャールの話したようなことは、もう幾度となく経験している。
「うん、そんなことだろうと思ったよ」
「それでですね、この私があなたの専任秘書官として就任することになりました」
「へぇ……それは大変だね。でも、俺は来週には引っ越しするけれど? 他国に」
「へ? 他国?」
普通の魔術師ならば、これ以上の栄誉はない。
学会所属の顧問魔導士になるということは、魔術伯の爵位を得るようなものである。
故に、断られることなどシャールも考えていなかったのだが。
「ちょ、ちょっとお待ちください。この件は他国に行かれるのなら白紙になりますよ?」
「構わないよ。俺にはやることがあるし、もうこの地でやることは無くなったからさ。という事で、この件は持ち帰ってくれ」
「そ、そ、それは……」
シャールにとってはエリオンの引っ越しなど寝耳に水。
彼の秘書官ということは、将来も約束されたも同然の話であったのだが、全てが白紙になってしまったのである。
ヘナヘナと力が抜けていき、床にしゃがみ込むシャール。
その姿を見て、エリオンもクククッと笑ってしまう。
「基本的には、俺はどの権力にも縛られることはないからさ。俺の目的を邪魔するなら叩き潰すけれど、何もしないのならこっちも手を出さない。そういうことだから」
「わ、わ、私の出世がぁぁぁぁ。エリオン様専属秘書になったら、研究予算が今までの20倍も受け取れるのですよ? 魔法精製水一つ購入するのに一食抜くような生活から解放されるのですよ?」
「そらこそ知らんわ……っていうか、その程度なら自分で作れ!!」
「遺跡から発掘された魔導具以外では、作れるはずがないじゃないですか!」
動揺しているシャール。
魔法精製水は、魔導具作成には欠かせない触媒。
素材の洗浄をはじめ、魔法薬の調剤や魔力触媒にも必須なものであり、取り扱いは全て魔術師学会で行っている希少なもの。
とはいえ、エリオン曰く、精製水さえあれば魔力を混ぜるだけでできる簡単なものなのだが、その製法すらこの国、いやこの大陸からは失われているらしい。
「はぁぁぁぁぁ。まあ、頑張れ。どうせ一週間後には、この建物ごと転移するからさ」
「はい? 建物ごと転移? またまた、そんな御冗談を……本当ですか?」
「嘘は言わないよ。ということで、その旨を報告よろしく」
はぁ、とため息をつきながら、シャールが立ち上がり、スカートについた埃を払う。
「わかりました、報告はしておきますが。この件は国王にも許可をとった正式なものです」
「だから面倒くさくて嫌なんだよ。その言葉ももう何十回と聞いたわ、ここよりももっと良い条件を出してきた国もあったわ……俺はそういうのが嫌なんだよ、岩塩をぶつけられる前に素直に帰ったほうがいいぞ」
「え? 岩塩?」
嫌な客が帰ったら塩を撒く。
お清めという意味合いもあるのだが、オールレントでは岩塩を投げつけることもある。
2度とくるなという意味で用いられ、今もレムリアがアイテムボックスから取り出した岩塩を丸く削っているところである。
「あ!あの、それじゃあ失礼しましたぁぁぁぁぁ」
「うん、お客や雑談、茶飲みじじいなら歓迎するけれど、勧誘その他はお断り。次にその話を持ってきたら、この削った塩に漬け込む」
「嫌ァァァァァ」
絶叫しながらシャールが店から飛び出す。
それを見送ってから、レムリアは掃除を再開。
「一つのところに居続けられるのなら、俺だって落ち着きたいよ……」
そうカウンターで呟くエリオンの言葉に、レムリアは小さく頷くだけであった。
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25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
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ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
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