レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜

呑兵衛和尚

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第一章・迷宮大氾濫と赤の黄昏編

最下層攻略戦~裏で暗躍するエリオン~

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 レムリアからのデータを受け取って。
 
 エリオンはオールレントの中で考えている。
 トワイライトの実験台となりダンジョンコアと同化した精霊樹およびエルフたち。
 彼らを救う術については、以前のエリオンならば不可能だろうと一言で切り捨てていたかもしれないが、トワイライトから鍵を受け取り呪詛を一つだけはがした現在は、頭のなかで彼らもまとめて救い出す方法がずっとめぐっている。

「ふぅ……久しぶりに取り戻したな、元素変換能力。これを使って精霊樹からダンジョンコアを引きはがすこと……は出来るが、それでは根本的な解決にはならないか」

 エルフたちの体にも組み込まれている以上、それらを全て引き剥がす必要がある。
 そして、ダンジョンコアは恐らく、自らとつながりのあるエルフや精霊樹と引き派が゜される際には、彼らに自死するようにコードを送り出すだろう。
 そうなった場合、いくらエリオンの力であっても、蘇生が可能かどうかは怪しい。
 そもそも死者蘇生については特殊な魔導具を用いるのであるが、人ひとりの命を再生するために必要な魔力および【生命の媒体】は希少すぎて呼びも殆どない。
 逆に、この国の聖職者たちの死者蘇生の術式の方がいくらかマシであろうとも予測できる。

「……レムリアの言う通り、何もかも浄化してしまった方が早いんだが……多分、そうは言っていても感情的には理解できていないんだろうなぁ」

 レムリアは常に、エリオンや自分たちのことを最優先に考える。
 そのため、今回のような場合でも彼女にしてみれば些末な問題であり、とっととすべてを浄化して次のターゲットのいる場所へ向かいたいというのが本音である。 
 だが、トワイライトの手にかかり慈悲もなく死んでいったエルフたち、すべての尊厳を奪われ生きるだけの存在になり果てたものたちの気持ちも、彼女には痛いほど理解できる。
 だからこそ、その場で彼らを滅することなくエリオンに状況を報告、時間稼ぎをしているのである。

「さて、そうなると、やるべきことはダンジョンコアのみの破壊か。しっかし、それやっちまうとキノクニ領の重要資源でもあるダンジョンが消滅する。ぉっさんぱそれでも構わないと話していたが、この力があればどうにかできるか……」

 右手をグーパーと握りしめると、エリオンはすぐさまアイテムボックスを展開する。
 そして目の前にリスト表示されている素材の中から、いくつかの気象素材を取り出すと、最後にひときわ大きな魔晶石を取り出した。

 魔物の体内で生成されるものが魔石、自然界の瘴気や魔素のたまり場で結晶化するものが魔晶石。
 ともにその結晶の中に魔力をためることが出来るのが特徴であり、人間が呼吸するかのように周囲の魔力を取り込んだり吐き出したりすることもできる。
 この特性ゆえ、魔導具のエネルギー源として用いられるほか、様々な用途につかえることから高額で取引されている。

「さて、この魔晶石を元素変換で、純魔力結晶体へと作り替えて……」

 純魔力結晶体は、星の中を流れるマナの結晶化したもの。
 基本的に地表に出るようなことはなく、人が目にすることが出来るとしたら、それはダンジョンコアとして瘴気をふきだしている状態である。
 魔晶石を両手で持ち、その中に自分の魔力を浸透させつつ、組成をゆっくりと作り替えていく。
 トワイライトの能力である【元素使い】も、元々はエリオンの力であり、それを取り戻した今ならば、この程度の加工など時間と魔力はかかるものの、それほど難しくはない。
 やがて10分もすると、透き通った魔晶石が深紅に輝く純魔力結晶体へと変化していった。

「次は……この内部にダンジョンとしての機能・権限・意思を刷り込んで……」

 指先から針よりも細く魔力を放出し、純魔力結晶体の中にいくつもの魔法陣を描いていく。
 すべてが綿密にリンクしている複合型魔法陣、これによって純魔力結晶体は空のダンジョンコアへと作り替えられた。

「……ふう。ここまで27分か。まあまあ、コツは思い出したが……問題は、これを入れ替える方法か」

 巨大樹として機能しているダンジョンコアの意思を、強制的にこちらに移し替える必要がある。
 それと同時に、現在のダンジョンの支配権をこの空のダンジョンコアに移し、暴走しているダンジョンコアの権限を消失させることが出来れば、あとは暴走したダンジョンコアなど破壊しても問題はない。
 
「……まあ、その辺は書き換えリライトのスクロールも一緒に転送するとして……あとは、エルフたちの支配権の書き換えも並行で行う必要があるということか……」

 つまり、エルフの人数分のスクロールを用意し、彼らに組み込まれているダンジョンコアの支配権も移さなくてはならない。
 そうしなければ、エルフたちは旧ダンジョンコアの眷属として死ぬまで抵抗を続けることになる。

「……うん、15分たりねぇか……レムリア!」

 デバイスを手に、エリオンはレムリアに話しかける。
 人数分のスクロールを書き出す時間が欲しいと。

『ん、残業代はあとで請求する。うまくいきそうなの?』
「一番平和な解決策としてはな。キノクニのおっさんには、別途材料費を請求するから気にするな」
『了解した』

 あとは時間との勝負。
 目の前に大量の羊皮紙を広げると、エリオンはすべての羊皮紙に必要な術式を魔力で刻み始めた。
  
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