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第一章・迷宮大氾濫と赤の黄昏編
勇者の資質と力の開放と
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エリオンが放ったシャクティの一撃。
それは油断していたトワイライトの左腹部に叩き込まれるると、そのままくの字に体をゆがませて陳列棚の方に向かって吹き飛ばされる。
「オウッウプッ……ウゲッゲフッ」
血の混ざった大量の吐瀉物を口から噴き出し、トワイライトは腹部を押さえて体を震わせている。
たかが魔導錫杖と思い高をくくっていた彼にとっては、ここまでの威力があったなど計算違いである。
だが、そもそもこの魔導兵装はエリオンが悪神と戦うために作り出した神聖具であり、しかもそれにエリオンの魔力が乗っていたのである。
そんなものの一撃を受けて傷一つないというのは不可能、生きているのが奇跡であるとトワイライトは瞬時に悟った。
「ま、待てエリオン……話し合おう、そうだ、君と取引がしたい……」
「話し合いだと? この状況でどんな話し合いが出来ると思っている? まずは鍵だ、それを寄越せ」
「……ちょっと待ってくれ……」
もしもこの場に仲間がいたなら、トワイライトは時間を稼いででも状況を変えようとするところであったのだが。
彼自身、他の異界貴族と連絡は取っておらず、好き勝手にあちこちの大陸でダンジョンをコントロールし、多くの種族を滅亡に導いていたのである。
彼の手によって暴走したダンジョンは100近く、それらの影響で滅んだ王国は12、滅亡した種族の国家は獣人族の一部をはじめエルフ、ドワーフなどで8つ。
その結果得られたものが、人の進化形態である【ニユーマン】と呼ばれる存在と、自由人族の進化形態である【ビューマン】の二つ。
いずれも現在は、トワイライトの保護下にあるとある大森林の中に街を形成、そこで実験体として監視されている。
そんな勝手気ままな行動故、他の異界貴族は彼と連絡を取り合っていない。
エリオンやレムリアのように、仲間内からも異端として見られていたのである。
「待つさ。鍵を出してくれればな」
「あ……ああ、これだ」
右手は腹の傷をいやすために腹部からはがすことはできない。
そのため左手を伸ばし、その掌の上にあざのような紋様を浮かび上がらせると、それを実体化して鍵を形成する。
生体鍵と呼ばれる、今は失われている【超分子魔法】と呼ばれる技術、これにより封印されたエリオンの能力の一つが開放される。
「……本物……だな?」
「この状態で偽物を掴ませるほど、私は落ちぶれていない。そんなことをしたら、一瞬でそのシャクティが俺の頭を貫き脳を破壊するのだろうからな」
「まあ、そこまではやらんよ……殺したらダメなことぐらいは理解しているからさ」
――コン
トワイライトの手の上の鍵をシャクティではじく。
そしてうまく自分の元まで飛ばしてくると、鍵を受け取って自身の左首の付け根に突き立てる。
――プシュゥゥゥゥゥ
それは音を立てて紋様に戻ると、エリオンの左腕の呪詛の一つを中和し、消滅させる。
それと同時に、彼の中で封じられていた力の一つが開放されるのをエリオンはゆっくりと感じ取っていた。
「……本物だな。しっかし一つ目の解呪まで300年かよ。本当に長い付き合いだったわ……それで、他の連中はどこで何をしているか知っているのか?」
そう問いかけつつ、エリオンはトワイライトに向かって魔法薬の入った瓶を放り投げる。
それを受け取って一瞬躊躇したのち、トワイライトはそれを一気に飲み干す。
胃袋まで届いた魔法薬はそこで術的反応を起こし、彼の体内の損傷部位を活性化、修復を開始する。
「本物か。まさか、この私を助けてくれるとはな」
「一つ目の約束をお前は守ったからな。俺の呪詛の一つは取り除けた、だから回復薬をくれてやった。それで取引とはいったいなんだ? 何を企んでいる? ほかのやつらはどこだ?」
その問いかけに、トワイライトは考える。
言葉を間違えると、またシャクティが飛んでくるのは目に見えている。
元素使いの能力として、自身の体を高質化することぐらいは訳がないのだが、先ほどのように一瞬の隙を付かれた攻撃に対しては無力。
彼の詠唱速度よりも、エリオンの反応速度の方が僅かに早かったのである。
「他のやつらについては、分かっているのは紫のライブラだけだな。奴は今もなお、この世界の魔術について研究を続けているはずだ。他のやつらについては知らん。お前の力を封じた時以来、連絡は取れていないからな。それでだ、取引については俺のやったことを見のがしてくれ……」
一方的な話であるのだが、他の異界貴族については一人だけでも知っている奴がいるというのはエリオンにとっては良い話である。
何もなく、また手探りで調査を続けないとならなかった時とは違う、明らかに道筋が見えてきたのである。
「見逃してくれ……か。人類の進化の研究だったよな? そのために、どれだけの種を滅ぼしてきた?」
「さあな。詳しくは覚えてなどいないよ。全て必要な犠牲だったからな、気にもしていなかったが? そもそも種の進化というのは弱肉強食、そこに耐えうるために自らを鍛え、対応できるように遺伝子レベルで作り替えなくてはならないだろう? 獣人族の強靭な生命力は、その点では実に都合がよかったのだよ……異種配合、ハーフの生産、それらからさらに優良な遺伝子を持つ者同士を掛け合わせた、24の獣人種の持つ能力を受け付いた゛ハイブリット獣人の誕生……あと少し、もう少しで最終段階なのだよ……」
最初は静かに語っていたトワイライトも、だんだんと饒舌になり身振り手振りを交えつつ自らの研究成果について語り始める。
その会話や映像をエリオンは魔導具で保存しつつ、鉄面皮のように無表情で聞き続けている。
「その最終段階っていうのは?」
「すべての遺伝子を受け継ぐ素体。それは人間種でなくてはならない。それも瘴気濃度10.0の中でも普通に生きられる頑健なる肉体を持った存在……そう、それを求めて私は冒険者の育成を始めたのだよ。国家という名の牧場の中で買われる牧羊犬。市井の者という羊を護る畏き者たち。その彼らをより進化させるためには闘争が必要だ……だから私はダンジョンを暴走させ地上に災禍をばら撒き、生き残った者たちからサンプルデータを欲していたのだ……わかるだろう、この私の崇高な計画が」
狂っている。
その一言しか、エリオンの口からは出てこない。
「あ~、すまんな、さっぱり分からん。ただ、あんたは放置していたら駄目だっていうことは理解したわ」
「ふっ……所詮は異端、この私のすべてを熟知しているのではないということは理解できたよ。ではさらばだエリオン!」
――シュンッ
足元の床板の素材を見ずに変化させ、トワイライトがその中にダイヴする。
エリオンにばれないように時間を掛けて、ゆっくりと足元の元素を変換していくと、トワイライトはその水を越えて外へと脱出しようと考えたのだが。
――ドバァッ
トワイライトが床板を見ず゛に変えた場所の上、天井が水のように変化するとトワイライトがそこから落下してきた。
「は……はぁぁぁぁぁぁ、これはどういうことだ、エリオン、貴様何をした!!」
「何をしたも何も、このオールレントは泥棒よけのトラップがいくつも仕掛けてあってだな。内部から外に出るときは出入口以外は使えないようになっているんだが。壁を壊しても同じ場所から出るかねもしくは対角線上に出るようにな……それはお前もさっき体験しただろうが」
「知るか! 扉だけかと思ったら建物全てなのか!!」
そう叫びつつも床の水たまりに落下し、そして天井から落ちてくる。
まるで永久機関のような状態にトワイライトは陥ってしまっていた。
「元素変換するにも意識が集中できずってところか……それじゃあ、グッバイトワイライト、またいつか……」
――シュン
エリオンはアイテムボックスから四角いキューブを取り出す。
これは希少動物などを捕獲するための魔導具で、中に閉じ込められた生物は内部から外に出ることが出来なくなっている。
それを大きく広げると、トワイライトが床の水たまりに堕ちた瞬間、それを防ぐようにキューブの入り口を設置する。
「そ、それは生命体捕獲キューブじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
響く絶叫。
最後の方はドップラー効果のように反響し、トワイライトはキューブの中に吸い込まれていった。
「まあ……鍵を素直に渡してくれたから命までは取らねーよ。そのまま静かに眠っているんだな」
――シュン
そうキューブに呟いてから元の小さな立方体に戻すと、アイテムボックスの中にキューブを放り込んだ。
「さて、残りは暴走したダンジョンの処分か……どうなることやら」
レムリアからの連絡がないということは、向こうも順調であるとエリオンは納得。
緊急時には必ず連絡を寄越してくるのを知っているからこそ、エリオンは次の一手を考える事にした。
それは油断していたトワイライトの左腹部に叩き込まれるると、そのままくの字に体をゆがませて陳列棚の方に向かって吹き飛ばされる。
「オウッウプッ……ウゲッゲフッ」
血の混ざった大量の吐瀉物を口から噴き出し、トワイライトは腹部を押さえて体を震わせている。
たかが魔導錫杖と思い高をくくっていた彼にとっては、ここまでの威力があったなど計算違いである。
だが、そもそもこの魔導兵装はエリオンが悪神と戦うために作り出した神聖具であり、しかもそれにエリオンの魔力が乗っていたのである。
そんなものの一撃を受けて傷一つないというのは不可能、生きているのが奇跡であるとトワイライトは瞬時に悟った。
「ま、待てエリオン……話し合おう、そうだ、君と取引がしたい……」
「話し合いだと? この状況でどんな話し合いが出来ると思っている? まずは鍵だ、それを寄越せ」
「……ちょっと待ってくれ……」
もしもこの場に仲間がいたなら、トワイライトは時間を稼いででも状況を変えようとするところであったのだが。
彼自身、他の異界貴族と連絡は取っておらず、好き勝手にあちこちの大陸でダンジョンをコントロールし、多くの種族を滅亡に導いていたのである。
彼の手によって暴走したダンジョンは100近く、それらの影響で滅んだ王国は12、滅亡した種族の国家は獣人族の一部をはじめエルフ、ドワーフなどで8つ。
その結果得られたものが、人の進化形態である【ニユーマン】と呼ばれる存在と、自由人族の進化形態である【ビューマン】の二つ。
いずれも現在は、トワイライトの保護下にあるとある大森林の中に街を形成、そこで実験体として監視されている。
そんな勝手気ままな行動故、他の異界貴族は彼と連絡を取り合っていない。
エリオンやレムリアのように、仲間内からも異端として見られていたのである。
「待つさ。鍵を出してくれればな」
「あ……ああ、これだ」
右手は腹の傷をいやすために腹部からはがすことはできない。
そのため左手を伸ばし、その掌の上にあざのような紋様を浮かび上がらせると、それを実体化して鍵を形成する。
生体鍵と呼ばれる、今は失われている【超分子魔法】と呼ばれる技術、これにより封印されたエリオンの能力の一つが開放される。
「……本物……だな?」
「この状態で偽物を掴ませるほど、私は落ちぶれていない。そんなことをしたら、一瞬でそのシャクティが俺の頭を貫き脳を破壊するのだろうからな」
「まあ、そこまではやらんよ……殺したらダメなことぐらいは理解しているからさ」
――コン
トワイライトの手の上の鍵をシャクティではじく。
そしてうまく自分の元まで飛ばしてくると、鍵を受け取って自身の左首の付け根に突き立てる。
――プシュゥゥゥゥゥ
それは音を立てて紋様に戻ると、エリオンの左腕の呪詛の一つを中和し、消滅させる。
それと同時に、彼の中で封じられていた力の一つが開放されるのをエリオンはゆっくりと感じ取っていた。
「……本物だな。しっかし一つ目の解呪まで300年かよ。本当に長い付き合いだったわ……それで、他の連中はどこで何をしているか知っているのか?」
そう問いかけつつ、エリオンはトワイライトに向かって魔法薬の入った瓶を放り投げる。
それを受け取って一瞬躊躇したのち、トワイライトはそれを一気に飲み干す。
胃袋まで届いた魔法薬はそこで術的反応を起こし、彼の体内の損傷部位を活性化、修復を開始する。
「本物か。まさか、この私を助けてくれるとはな」
「一つ目の約束をお前は守ったからな。俺の呪詛の一つは取り除けた、だから回復薬をくれてやった。それで取引とはいったいなんだ? 何を企んでいる? ほかのやつらはどこだ?」
その問いかけに、トワイライトは考える。
言葉を間違えると、またシャクティが飛んでくるのは目に見えている。
元素使いの能力として、自身の体を高質化することぐらいは訳がないのだが、先ほどのように一瞬の隙を付かれた攻撃に対しては無力。
彼の詠唱速度よりも、エリオンの反応速度の方が僅かに早かったのである。
「他のやつらについては、分かっているのは紫のライブラだけだな。奴は今もなお、この世界の魔術について研究を続けているはずだ。他のやつらについては知らん。お前の力を封じた時以来、連絡は取れていないからな。それでだ、取引については俺のやったことを見のがしてくれ……」
一方的な話であるのだが、他の異界貴族については一人だけでも知っている奴がいるというのはエリオンにとっては良い話である。
何もなく、また手探りで調査を続けないとならなかった時とは違う、明らかに道筋が見えてきたのである。
「見逃してくれ……か。人類の進化の研究だったよな? そのために、どれだけの種を滅ぼしてきた?」
「さあな。詳しくは覚えてなどいないよ。全て必要な犠牲だったからな、気にもしていなかったが? そもそも種の進化というのは弱肉強食、そこに耐えうるために自らを鍛え、対応できるように遺伝子レベルで作り替えなくてはならないだろう? 獣人族の強靭な生命力は、その点では実に都合がよかったのだよ……異種配合、ハーフの生産、それらからさらに優良な遺伝子を持つ者同士を掛け合わせた、24の獣人種の持つ能力を受け付いた゛ハイブリット獣人の誕生……あと少し、もう少しで最終段階なのだよ……」
最初は静かに語っていたトワイライトも、だんだんと饒舌になり身振り手振りを交えつつ自らの研究成果について語り始める。
その会話や映像をエリオンは魔導具で保存しつつ、鉄面皮のように無表情で聞き続けている。
「その最終段階っていうのは?」
「すべての遺伝子を受け継ぐ素体。それは人間種でなくてはならない。それも瘴気濃度10.0の中でも普通に生きられる頑健なる肉体を持った存在……そう、それを求めて私は冒険者の育成を始めたのだよ。国家という名の牧場の中で買われる牧羊犬。市井の者という羊を護る畏き者たち。その彼らをより進化させるためには闘争が必要だ……だから私はダンジョンを暴走させ地上に災禍をばら撒き、生き残った者たちからサンプルデータを欲していたのだ……わかるだろう、この私の崇高な計画が」
狂っている。
その一言しか、エリオンの口からは出てこない。
「あ~、すまんな、さっぱり分からん。ただ、あんたは放置していたら駄目だっていうことは理解したわ」
「ふっ……所詮は異端、この私のすべてを熟知しているのではないということは理解できたよ。ではさらばだエリオン!」
――シュンッ
足元の床板の素材を見ずに変化させ、トワイライトがその中にダイヴする。
エリオンにばれないように時間を掛けて、ゆっくりと足元の元素を変換していくと、トワイライトはその水を越えて外へと脱出しようと考えたのだが。
――ドバァッ
トワイライトが床板を見ず゛に変えた場所の上、天井が水のように変化するとトワイライトがそこから落下してきた。
「は……はぁぁぁぁぁぁ、これはどういうことだ、エリオン、貴様何をした!!」
「何をしたも何も、このオールレントは泥棒よけのトラップがいくつも仕掛けてあってだな。内部から外に出るときは出入口以外は使えないようになっているんだが。壁を壊しても同じ場所から出るかねもしくは対角線上に出るようにな……それはお前もさっき体験しただろうが」
「知るか! 扉だけかと思ったら建物全てなのか!!」
そう叫びつつも床の水たまりに落下し、そして天井から落ちてくる。
まるで永久機関のような状態にトワイライトは陥ってしまっていた。
「元素変換するにも意識が集中できずってところか……それじゃあ、グッバイトワイライト、またいつか……」
――シュン
エリオンはアイテムボックスから四角いキューブを取り出す。
これは希少動物などを捕獲するための魔導具で、中に閉じ込められた生物は内部から外に出ることが出来なくなっている。
それを大きく広げると、トワイライトが床の水たまりに堕ちた瞬間、それを防ぐようにキューブの入り口を設置する。
「そ、それは生命体捕獲キューブじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
響く絶叫。
最後の方はドップラー効果のように反響し、トワイライトはキューブの中に吸い込まれていった。
「まあ……鍵を素直に渡してくれたから命までは取らねーよ。そのまま静かに眠っているんだな」
――シュン
そうキューブに呟いてから元の小さな立方体に戻すと、アイテムボックスの中にキューブを放り込んだ。
「さて、残りは暴走したダンジョンの処分か……どうなることやら」
レムリアからの連絡がないということは、向こうも順調であるとエリオンは納得。
緊急時には必ず連絡を寄越してくるのを知っているからこそ、エリオンは次の一手を考える事にした。
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