レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜

呑兵衛和尚

文字の大きさ
上 下
11 / 29
第一章・迷宮大氾濫と赤の黄昏編

第11話・認めるもの、認めざるもの

しおりを挟む
 ツシマ大陸・ビゼン王国。
 
 この王都にある『王都魔術師学会』は、この国だけでなく大陸すべてで取り扱われている魔導具についての所有権利及び販売権のすべてを管理している。
 遺跡やダンジョンから発掘されたすべての魔導具については、この王都魔術師学会の認可を受けなくては個人所有することは許されず、発見したものはすべて報告する義務が発生する。
 これら魔導具の中でも、特に重要なものが『始原の民』が齎したといわれている先史古代魔導具アーティファクト、そして『神の塔』の遺産と伝えられている神聖具オーパーツの二つ。
 このうち神聖具オーパーツは現在は存在すら疑われている代物であり、現存するものは大陸鉄道中枢機関に用いられている『管理頭脳D51』と呼ばれいるひとつのみ。
 先史古代魔導具アーティファクトについては、今ではダンジョン産と呼ばれている魔導具の中にたまに紛れている程度であり、一つのダンジョンから発掘されるのは一つ、おおくて二つと呼ばれている。

………
……


――王都魔術師学会
「それで、これが例の違法魔導具所有者のデータねぇ……」

 王都魔術師学会の最高機関である『八賢者』、その定例会議の中で、先日キノクニ領から帰還したシャール・テンペスタの報告が行われている最中であった。

「はい。提出された証拠は全て本物であり、それらを取り扱っていたエリオンも、伝承に残る『黒のエリオン』本人に相違ありませんでした。こちらが本人を測定してきた魔力波長であり、最重要資料子に収めてあるエリオン本人の波形パターンと一致します」

 かつての1000年戦争時の僅かな記録。
 そこに残っていた魔導具に登録されていたエリオンの魔力波長は、今では『第ゼロ号特級聖遺物』として管理されている。
 シャールが持ち帰った波形と聖遺物に登録されている波形が完全に一致しているのを見て、その場にいる賢者たちはため息をついたり感嘆の声を上げているものもいる。

「また、彼の手元には代魔術師学会最高責任者のロナルド・マクレーン直筆の書類が残っていました。王都魔術師学会の正式書面であり、しかも魔術ペンを用いた正式書面。魔力印章からもロナルドメマクレーン本人のものと一致しています。魔力印章および魔力波形については偽造することができないものですから、すべての証拠はそろったということになります。では、私からの報告はこれで以上です」

 ビシッときれいに踵を返すと、シャールは自分の席に戻り着席する。
 
「さて。これで黒のエリオンの店舗経営および魔導具作成については、私たちが口をはさむことができなくなりました。彼の経営しているレンタルショップについては、ここの書庫にある初代ロナルド・マクレーンの報告書及び登録証からも確認できています。そのうえで、彼をどう取り扱うべきか、採択を行う必要があります」

 議長であるアイン・フェルキアが穏やかな声で残りの賢者たちに問いかける。
 すると、一人の賢者が手を上げた。

「ココノエ卿、なにか?」
「黒のエリオンを王都に誘致できませんか? 狩りの技術があれば、沖合に存在する『神の塔』の調査を行うのもたやすいのではないでしょうか。あの1000年動乱以後、神の塔の周辺には『不変なる壁』が発生し、何人たりとも立ち入ることができなくなっています。今こそ、あの塔の秘密を調査するチャンスであるとは思いませんか? それこそ我ら8賢者の権利を行使してでも」

 拳を振るい熱弁するココノエ卿だが、何名かの賢者たちは呆れた顔で彼を見ている。
 そもそも、神の塔の調査を推奨しているのはココノエ卿本人であり、黒のエリオンの力を利用して自分の権利や立場をより強固にしようと考えているのが見え見えなのである。
 そして賢者の一人オクト・ノーマという女性が手を上げると。

「ココノエ卿、黒のエリオンについてはいかなる権力もその効果を発生しないと、古代書紀に記されています。迂闊に彼を取り込もうならば、西方の竜王や北方のハイエルフの女王を敵に回すとは思いませんか?」
「そ、それは……ええ、そうですね、発言を撤回します」

 人間族にとっては、強靭な力を持つ竜族や精霊の申し子と歌われているハイエルフとは友好的に付き合っていかなくてはならない存在。
 彼らが本気を出して人間族に敵対しようものなら、この大陸自体が海の中に沈むこともあるのだから。
 だが、対等の立場であり友人として接している限り、彼らはよき隣人である。
 そんな二つの種族の滅亡を防いだのも、黒のエリオン本人なのであるから、彼を利用したとなるとただではすむはずがない。

「では、結論が出たようです。我らビゼンの8賢者は『黒のエリオン』に関しては不干渉とします。なお、彼が協力体制を求めてきた場合は、初代ロナルド・マクレーンの言葉に従い、等価をもって対処することとします。意義のあるものは起立を」

 アインの言葉に、その場で席を立つ者はいない。
 
「では、黒のエリオンについてはこれで終了とします。シャール・テンペスタ一級魔導官、正式書面にてこのことを黒のエリオンの元へ。なお、書面を届けたのちは、キノクニ領にてエリオンの監視を行うように」
「拝命します」

 シャールは立ち上がり、右下腕を水平に胸元に当ててて宣言する。
 そして議会場を後にすると、ようやく緊張の糸がほつれたのか、ため息を一つ。

「はぁ……左遷よね、絶対に……でも、生きた伝承である黒のエリオンの監視ということは、つまり出世街道にも繋がるような気もしますから……」

 この決断が良いのかどうか、シャールにはまだ分からない。
 それでも、息が詰まるような窮屈な王都で勤務するよりも気が楽であると自分を納得させると、急ぎ荷物をまとめてキノクニ領へ向かう準備を始めることにした。

 〇 〇 〇 〇 〇

――キノクニ領・オールレント
「ありゃ、魔法薬の在庫が切れたか」

 いつものように開店前の準備をしていたエリオンだが、販売用の魔法薬の在庫が切れたことに気が付いた。
 レントオールでは魔導具のレンタル以外にも、下級魔導具や魔法薬といたものは一般販売している。 
 その中でも、特に需要があるのが『強回復薬』とよばれている魔法薬である。
 なにせ、生きてさえいればすべての怪我を修復することができ、切断した四肢もつなぎ合わせることができる代物である。
 さすがに失った部分の完全再生は不可能であるが、現代の世界においてはエリオン以外にこれを作り出すことはできない。
 唯一、古い廃墟やダンジョン産の強回復薬は存在するが、それらは大変高価なだけでなく、貴族たちがこぞって買い占めているのが現状。
 ダンジョンに入る冒険者たちは、グレードの低い魔法薬(中回復薬)ぐらいしか手に入れることができないという。
 ちなみに『低回復薬』は本草学を学んだ薬師なら作り出すことができ、もっぱり冒険者たちがいう魔法薬はこれを指すことの方が多いという。

「素材はありますか? もしも切れているのでしたらダンジョンに潜って取ってきますが」
「ああ、ちっょと待って、今、調べてみるから……」

――スラァァァァァァァァァァァ
 右手を横に振りぬいて、アイテムボックスの在庫リストを展開する。
 そこに記されている一覧から必要な素材を確認してみるが、やはり一番重要なものや触媒にあたる素材は数が少ない。

「う~ん、これだと作れても一本か二本だなぁ……レムリア、ひとっ走りダンジョンに潜って来て、素材を取って来てくれるか? これが必要な素材のリスト。上の二つは絶対必須でそれ以外はあればありがたいってところで」

 カキカキとメモを取り、それをレムリアに手渡す。

「了承した。3番倉庫の鍵を貸してほしい」
「あれ? それはレムリア用の倉庫だから、自分で管理していなかったか?」

 そうエリオンに言われて、レムリアは頭を傾げる。

「鍵は私……が、そう、鍵を指しっぱなしだった。準備ができ次第、いってくる。帰りはいつになるか分からないけど、大丈夫?」
 
 少し心配そうに問いかけるレムリア。
 この店には護衛や警備員などが存在していないため、万が一にも押し込み強盗とかが入ってきたら大変である。という一般的な心配をしているのであるが、エリオンはニイッと笑って一言。

「大丈夫だ、万が一の時は閉店するからな」
「それならいい。では、いってくる」

 軽く手を振って、レムリアは入り口から外に出ていった。
 それを見送ってから、エリオンは来客があるまで残った素材で魔法薬を作ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

嫌われ魔眼保持者の学園生活 ~掲示板で実況スネーク活動してるんだけど、リアルで身バレしそうwww~

一樹
ファンタジー
嫌われ者が趣味で楽しくおもしろく過ごす話です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

処理中です...