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第一章・迷宮大氾濫と赤の黄昏編
第10話・レンタルだけが、仕事じゃない
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ヤッチマたち、やらかし三人組がサキョウによって縛り上げられ、連行された日の夕方。
新しいレンタル商品などの調整を終えたエリオンは、のんびりと店番をしているところである。
別に、毎日のように冒険者が来店して、レンタルについての説明をしたり商品の貸し出し契約をしていても構わないとは思っているものの、やはり、このように夕方の日が沈む頃の、静かな街の風景を眺めているのも好きである。
煙突から伸びる水煙。
街中の街灯に魔法の灯りを灯すため、若い魔術師たちが光球の魔法を街灯の触媒に向かって灯していく。
ダンジョンから帰ってくる冒険者たちが素材を売り飛ばした金を持って酒場へ向かう風景や、明日の冒険のために消耗品を買うために、隣の雑貨屋に足を運ぶ姿もある。
そんな日常を眺めているのも、エリオンは好きであっ……。
──カランカラーン
「エリオンさんや、燃料用魔石はあるかい?」
隣の酒場の女将が、駆け足で店内に入ってくる。
ここ最近は、エリオンも仕事が終わると酒場に顔を出すようにしている。
というのも、やはり目に見えない謎の店舗という噂が冒険者をはじめ、あちこちに広がりつつあったので、これは挨拶がてら顔を出そうということにしたのである。
そこで酒場の女将さんはオールレントを認識できるように設定を変更したので、このようにたまに買い物に来るようになっている。
「ん? 燃料用魔石か。サイズは?」
「オーブンに使うやつを二つ、さっき使おうと思ってみてみたらさ、ほら、ご覧の通りさ。レムリアちゃんが、このサイズなら在庫があるって話していたからさ」
女将がカウンターの上に、割れた魔石を置く。
それを左手に取り、右手を翳して魔力を込めるが、魔石は全く反応がない。
割れた状態でも、魔石内部に魔力を蓄える回路が残っているのなら、それはカケラとしての用途はある。
だが、このように回路まで真っ二つになると、流石のエリオンでも修復は不可能。
「どれ、火の円盤五センチ……あるはずだなぁ」
カウンターから出て、魔石の並んでいる棚を確認する。
オールレントの商品は、基本的にはレンタル用品が大半であるのだが、中には魔石や低レベル魔導具などの販売も行なっている。
それらはダンジョン攻略時の副産物であったり、顔馴染みの冒険者から買い取った財宝などを加工したものであり、燃料用の魔石や、結界用の魔石などもこれに含まれる。
「あったあった。それで、二つでいいのか?」
「ああ。火力調節ができるように加工してくれると助かるんだけどさ」
そう話しつつ、手にしたバスケットをカウンターの上に置く。
それをチラリとみてから、エリオンは奥の棚から加工用の羊皮紙を取り出し、そこに魔石を並べた。
「一つ銀貨6枚。だけどまあ、二つで10枚ということで」
「いつもすまないねぇ。これは差し入れだよ、食べ終わったら籠は入り口横に置いてくれれば構わないからね」
「はいはい、いつもお世話になっていますよ……」
羊皮紙の上の魔石の色が、黒から赤へと変質していく。
そして真っ赤に光り始めたら魔力の充填も完了となり、エリオンはそれを女将に手渡した。
「ほらよ、前のやつよりも魔力回路を滑らかにしてあるから、火力調節が細かくなっているから注意しろよ」
「あいよ、助かったよ。それじゃあね」
どさどさと恰幅のいい体を揺さぶりつつ、女将が店から外へと出る。
「まいどあり……と、エリオン、お客さんが来た」
女将と入れ替わりに、レムリアが店内に入ってくる。
その背後には、見たことがない魔導師風の女性が一人。
青い鍔広の帽子に片眼鏡、黒地に赤の刺繍が縫い込まれたローブを身に纏っている。
「初めまして。こちらが、魔導具を貸し出し? している店で間違いはないでしょうか?」
「ええ。魔導レンタルショップと言います。何かお探しですか?」
そう説明するものの、エリオンは冒険者とは少し違う雰囲気を感じ、少しだけカウンターの下で、身構えてしまう。
すると、女性は帽子を外し、胸元からギルドタグを取り出して提示した。
「王都魔術師学会から派遣されてきた、シャール・テンペスタと申します。こちらの店舗は、魔導具を取り扱う際に、学会からの許可を得ていますか? もしも得ていないのであれば違法行為となり、全ての魔導具を没収することになりますが」
ニコニコと笑うシャールを見て、エリオンはほっ、と胸を撫で下ろす。
問答無用で武力行使で来るのなら、エリオンとしても仕方なく相手をするしかない。だが、今の目の前の女性は、話し合いで解決できる存在であると理解できた。
「学会の許可……ねぇ、確か、仕舞ってあったよなぁ」
そう告げてから、エリオンはアイテムボックスの中身をリスト化し、側に置かれていた羊皮紙に転写する。
この世界でもアイテムボックスの加護を持つものはごく稀であるばかりでなく、容量もそれほど多くはない。しかも、中に収めたものを忘れてしまうと、取り出す事ができなくなる場合もある。
そのため、エリオンはリスト化して、時折中身を確認するようにはしているのだが、それはエリオンだからこそ可能な技。
「そ、それはまさか、アイテムボックスのリスト化? いや、そんな馬鹿な……それは失われた秘術であり、残された文献を解析できたのもがいないというのに」
「へぇ、今はそうなのか。と、ほら、初代魔術師学会最高責任者のロナルド・マクレーン直筆の書類だ。しっかりと魔術ペンを用いた正式書面で、本人の魔力印章も捺印されている。確認よろしく」
そう言いながら、分厚い本を取り出して開く。
そこには確かに、魔術師学会創設者であるロナルド・マクレーンのサインが施されたページがある。
「では確認させていただきます」
シャールは開かれたページに手のひらを翳し、魔力によりその真贋を確認し始める。そして1ページ目、2ページ目と重要事項の記されたページを確認する事に、顔色が青く変化していった。
そこにはエリオンへの『無期限・魔導具取り扱い』『無期限・製造販売許可認定』『無期限・魔導具の貸与および販売における収益の非課税』の三つが記されており、さらに商業ギルドの最高責任者を始めとする、各国の国王を始めとする絨毯たちのサイン、捺印も行われている。
「馬鹿な……こんな、こんなことってあり得ません……」
「まあ、そこに記されている王様とかで、現存している奴はハイエルフの女王とか、ドワーフ王ぐらいじゃないのか? あとは……ロード・ドラグーン。て、ところだろ?」
「……これは間違いです……これは、ここにあってはいけないものではないのですか? 後ろの方は歴史書じゃないですか? それも、あの1000年動乱期からの、失われた時代に至るものまで……」
「あ、そっちか。まあ、それは俺が手に入れた本だから、渡すことはできないからな。そのあたりは、あんたも分かるだろう?」
そのエリオンの言葉で、シャールは本を閉じてエリオンに差し戻した。
「確認させていただきました。貴方が黒の勇者、エリオン様本人である事も。それでは、私はこれで失礼します。この件については、私はオールレントの商売については正当な許可を得ているということは理解しましたので」
その言葉に、エリオンは頷いてから一言。
「だが、今の上層部は納得がいかない可能性がある。特に、魔導遺物品に等しいものが当たり前にあるのだからな。それらを独占したい派閥がある、ということか」
「詳しくは申せません。では、失礼します」
それだけを告げて、シャールは店を後にする。
そしてエリオンも本をアイテムボックスに仕舞い込むと、傍でシャールに対して警戒していたレムリアに一言。
「今の反応から考えるに。魔術師学会の中に、もしくは関係者から上層部に、異界貴族の誰かがいる可能性がある。王都に移動できるか?」
「確認します……いえ、位置指定転移は使えませんし、何よりも、この地から離れることを拒んでいます」
建物の柱に触れて、レムリアが呟く。
つまり、今はまだ、この地でやらなくてはならない事があるということ。
「やれやれ。相変わらず、この術式は俺が休むことを許さないんだなぁ」
「そのようで。では、私は閉店準備をしてまいりますので」
「はい、よろしく」
入り口の鍵をかけ、在庫チェックと本日の売り上げなどの計算を終えてから、ようやくエリオンは店内の明かりを消し、2階の自宅へと登っていった。
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別に、毎日のように冒険者が来店して、レンタルについての説明をしたり商品の貸し出し契約をしていても構わないとは思っているものの、やはり、このように夕方の日が沈む頃の、静かな街の風景を眺めているのも好きである。
煙突から伸びる水煙。
街中の街灯に魔法の灯りを灯すため、若い魔術師たちが光球の魔法を街灯の触媒に向かって灯していく。
ダンジョンから帰ってくる冒険者たちが素材を売り飛ばした金を持って酒場へ向かう風景や、明日の冒険のために消耗品を買うために、隣の雑貨屋に足を運ぶ姿もある。
そんな日常を眺めているのも、エリオンは好きであっ……。
──カランカラーン
「エリオンさんや、燃料用魔石はあるかい?」
隣の酒場の女将が、駆け足で店内に入ってくる。
ここ最近は、エリオンも仕事が終わると酒場に顔を出すようにしている。
というのも、やはり目に見えない謎の店舗という噂が冒険者をはじめ、あちこちに広がりつつあったので、これは挨拶がてら顔を出そうということにしたのである。
そこで酒場の女将さんはオールレントを認識できるように設定を変更したので、このようにたまに買い物に来るようになっている。
「ん? 燃料用魔石か。サイズは?」
「オーブンに使うやつを二つ、さっき使おうと思ってみてみたらさ、ほら、ご覧の通りさ。レムリアちゃんが、このサイズなら在庫があるって話していたからさ」
女将がカウンターの上に、割れた魔石を置く。
それを左手に取り、右手を翳して魔力を込めるが、魔石は全く反応がない。
割れた状態でも、魔石内部に魔力を蓄える回路が残っているのなら、それはカケラとしての用途はある。
だが、このように回路まで真っ二つになると、流石のエリオンでも修復は不可能。
「どれ、火の円盤五センチ……あるはずだなぁ」
カウンターから出て、魔石の並んでいる棚を確認する。
オールレントの商品は、基本的にはレンタル用品が大半であるのだが、中には魔石や低レベル魔導具などの販売も行なっている。
それらはダンジョン攻略時の副産物であったり、顔馴染みの冒険者から買い取った財宝などを加工したものであり、燃料用の魔石や、結界用の魔石などもこれに含まれる。
「あったあった。それで、二つでいいのか?」
「ああ。火力調節ができるように加工してくれると助かるんだけどさ」
そう話しつつ、手にしたバスケットをカウンターの上に置く。
それをチラリとみてから、エリオンは奥の棚から加工用の羊皮紙を取り出し、そこに魔石を並べた。
「一つ銀貨6枚。だけどまあ、二つで10枚ということで」
「いつもすまないねぇ。これは差し入れだよ、食べ終わったら籠は入り口横に置いてくれれば構わないからね」
「はいはい、いつもお世話になっていますよ……」
羊皮紙の上の魔石の色が、黒から赤へと変質していく。
そして真っ赤に光り始めたら魔力の充填も完了となり、エリオンはそれを女将に手渡した。
「ほらよ、前のやつよりも魔力回路を滑らかにしてあるから、火力調節が細かくなっているから注意しろよ」
「あいよ、助かったよ。それじゃあね」
どさどさと恰幅のいい体を揺さぶりつつ、女将が店から外へと出る。
「まいどあり……と、エリオン、お客さんが来た」
女将と入れ替わりに、レムリアが店内に入ってくる。
その背後には、見たことがない魔導師風の女性が一人。
青い鍔広の帽子に片眼鏡、黒地に赤の刺繍が縫い込まれたローブを身に纏っている。
「初めまして。こちらが、魔導具を貸し出し? している店で間違いはないでしょうか?」
「ええ。魔導レンタルショップと言います。何かお探しですか?」
そう説明するものの、エリオンは冒険者とは少し違う雰囲気を感じ、少しだけカウンターの下で、身構えてしまう。
すると、女性は帽子を外し、胸元からギルドタグを取り出して提示した。
「王都魔術師学会から派遣されてきた、シャール・テンペスタと申します。こちらの店舗は、魔導具を取り扱う際に、学会からの許可を得ていますか? もしも得ていないのであれば違法行為となり、全ての魔導具を没収することになりますが」
ニコニコと笑うシャールを見て、エリオンはほっ、と胸を撫で下ろす。
問答無用で武力行使で来るのなら、エリオンとしても仕方なく相手をするしかない。だが、今の目の前の女性は、話し合いで解決できる存在であると理解できた。
「学会の許可……ねぇ、確か、仕舞ってあったよなぁ」
そう告げてから、エリオンはアイテムボックスの中身をリスト化し、側に置かれていた羊皮紙に転写する。
この世界でもアイテムボックスの加護を持つものはごく稀であるばかりでなく、容量もそれほど多くはない。しかも、中に収めたものを忘れてしまうと、取り出す事ができなくなる場合もある。
そのため、エリオンはリスト化して、時折中身を確認するようにはしているのだが、それはエリオンだからこそ可能な技。
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そう言いながら、分厚い本を取り出して開く。
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「では確認させていただきます」
シャールは開かれたページに手のひらを翳し、魔力によりその真贋を確認し始める。そして1ページ目、2ページ目と重要事項の記されたページを確認する事に、顔色が青く変化していった。
そこにはエリオンへの『無期限・魔導具取り扱い』『無期限・製造販売許可認定』『無期限・魔導具の貸与および販売における収益の非課税』の三つが記されており、さらに商業ギルドの最高責任者を始めとする、各国の国王を始めとする絨毯たちのサイン、捺印も行われている。
「馬鹿な……こんな、こんなことってあり得ません……」
「まあ、そこに記されている王様とかで、現存している奴はハイエルフの女王とか、ドワーフ王ぐらいじゃないのか? あとは……ロード・ドラグーン。て、ところだろ?」
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「あ、そっちか。まあ、それは俺が手に入れた本だから、渡すことはできないからな。そのあたりは、あんたも分かるだろう?」
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その言葉に、エリオンは頷いてから一言。
「だが、今の上層部は納得がいかない可能性がある。特に、魔導遺物品に等しいものが当たり前にあるのだからな。それらを独占したい派閥がある、ということか」
「詳しくは申せません。では、失礼します」
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「今の反応から考えるに。魔術師学会の中に、もしくは関係者から上層部に、異界貴族の誰かがいる可能性がある。王都に移動できるか?」
「確認します……いえ、位置指定転移は使えませんし、何よりも、この地から離れることを拒んでいます」
建物の柱に触れて、レムリアが呟く。
つまり、今はまだ、この地でやらなくてはならない事があるということ。
「やれやれ。相変わらず、この術式は俺が休むことを許さないんだなぁ」
「そのようで。では、私は閉店準備をしてまいりますので」
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