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自由貿易国家編
求めるものは、なんであるのか
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カースドドラゴンの呪いを解いた玄白。
そしてその場を離れようとしていた時、紀伊国屋がインディゴドラゴンの骨から、彼の魂を再生した。
死者蘇生
それはこの世界でも最高位の神官、大司祭でなくては使うことができず、大規模な儀式を必要とする。
そして死者を蘇生するためには、それにふさわしい代償が必要。
代償とは、蘇生するものの魂に等しい価値のあるもの。
人の魂に価値を付けることなどできないため、これは不可能といわれていた。
だが、神の視点からしてみると、魂の代償は、やはり魂である。
それを死者蘇生という魔術の本質を知っているからこそ、教会や聖職者たちはこの魔術を『禁術』として使用することを禁じ、その秘術の納められている経典を教会の奥深くに封じてしまった。
だが、紀伊国屋がこれを唱える際、代償は必要としない。
その代わり、蘇生を求めるもの、もしくはその肉親の近くであり、体のかけらが少しでも必要である。
そしてなによりも、これは一度唱えると、唱えた紀伊国屋の魔力は100日ほど半減する。
それでも勇者である紀伊国屋にとっては、それほど重いペナルティーではない。
「おおお……こ、これは……」
玄白は絶句してしまう。
解体新書にする記されていない禁呪。
ヴェルディーナ王国の多くの人々を救うため、彼女が求めていたもの。
それが、今、目の前で発現したのである。
『……勇者殿……礼を告げよう。われは死してからずっと、剣となりて子のもとにいようと考えていた。だが、このように元の体を得られるなど、予想もしていなかった……』
インディゴドラゴンが頭を下げる。
だが、紀伊国屋は当然とでも言わんばかりに笑みを浮かべている。
「こう見えても、聖者です。まあ、それをひけらかすことなど普段はありませんけれど、これで万が一の時の保険も証明できましたので、感謝しますよ」
『それは我々の言葉だ。そして玄白よ、われらが呪いを解き、感謝する』
『やはりあなたが、西方の聖女に間違いはありません……』
玄白たちに頭を下げるドラゴンたち。
それに玄白はうなずくと、紀伊国屋に話しかけ始める。
「さて、わしらもそろそろ戻ろうか。それでドラゴンたちは、これからどうするつもりじゃ」
『この子が生まれるまでは、この地に留まりたい』
『ここが天翔族の聖地であることは知っている。ならば、われらは彼らと共存し、この地を守ることを誓おう』
「では、そのことは彼らの長に伝えるとしよう。では、わしらは帰るとするか」
深々と頭を下げるドラゴンたちに別れを告げ、玄白たちは霊峰の洞窟を後にした。
………
……
…
霊峰の山頂付近にあった洞窟から外にでて、天翔族の集落へと戻ってきた一行。
集落の近くでは、マクシミリアンとミハル、そして数多くの天翔族の姿が確認できたので、玄白たちも高速で森を走りジャンプし、一気にミハルたちの元へと辿り着いた。
「す、スギタ先生!! 無事だったようで」
「どうしても心配で、有志を募ってやってきました。それで、どうなりましたか」
そう問いかけるみなに、玄白はにいっと笑った。
「詳しくは戻ってからじゃが……無事に呪いを解くこともできた、それで、今後のことについては、長とも話をせねばならん。まずはいったん、戻るとしようではないか」
一瞬の沈黙。
そして。
天翔族の皆が喝采をあげる。
「そうか、無事に終わったのか」
「よかった、本当に良かった……」
「あの、やっぱりエリクシールで解呪できたのですか?」
「うむ、ミハルの言う通り。呪いを解除してきてな。さらに紀伊国屋殿のちからで、すべてが解決した。あの洞窟にいるのは凶暴なドラゴンではない、聖域を守ってくれる守護竜となったものたちじゃよ」
「守護竜? 本当にですか?」
「うむ」
マクシミリアンが問いかけると、玄白をはじめ勇者たちが全員で頷いた。
そしてマクシミリアンたちも合流し、今はいそぎ、集落へと戻ることにした。
時間がもったいないので、来た時と同じように身体強化の術式を使い、途中で一泊だけ野営を行うと、翌日の広前には集落へと戻って来た。
そしてまっすぐ村長のもとに向かい、一通りの説明をする。
「そうであったか。スギタ殿、おつかれさまじゃ……呪いを解くだけでなく、守護竜さまになるなど……」
「わしだけではない。わし一人では、このような結末にはならなかった……これでもう、この地は平和を取り戻したのじゃよ」
玄白の言葉に、長老は手を掴んでうなずくことしかできなかった。
「さて。これでここでのわしの仕事は終わったのでな。パルフェノンへと帰ることにした。もしもまた、急病などでわしの手が必要になったなら、またセッセリを寄越してくれると助かる」
「えええええ!! スギタ先生は、ここに住んでくれるのではなかったのですか?」
玄白の説明を聞いて、セッセリ本人が驚いているのだが。
そもそも、玄白はこの地に住み着くなどとは言っておらず、流行り病の治療に来ただけである。
「わしは、セッセリに頼み込まれて流行り病を癒すためにきただけじゃよ。それも終わったし、ドラゴン絡みの事件も解決したのじゃから、帰るのは道理ではないのかな?」
「そ、そうですね。では、麓の村まではご同行します。それぐらいはさせてください」
その言葉を突き放すことなどせず、素直に感謝として受け取った玄白。
そして紀伊国屋をちらりと見ると、玄白は彼に対して頭を下げる。
「そこで、紀伊国屋どのに頼みがある」
「頼み……ですか?」
「うむ。あの死者蘇生の秘術をそれをわしに授けてくれぬか」
「……これを……いや、しかし……」
聖者である紀伊国屋は、この魔術の怖さを知っている。
それゆえに、人に請われることがあっても、それを伝えることはないと考えていたのだが。
「……普通なら断っていますが。まあ、杉田玄白、そのひとならば……いいでしょう。ですが、どうやらスギタ先生は、何か重いものを持っているように感じます。そのためにも、どうしても死者蘇生の術式が必要であると……その原因を、教えてくれますか」
紀伊国屋の話はごもっとも。
そして、その場で一緒に話をきいていたマクシミリアンとミハルは、彼女が死者蘇生の術式を求めている理由に気が付いた。
「スギタ先生、まさかヴェルディーナ王国の人々を助けるのですか?」
「その死者蘇生って、まさか、教会の禁呪?」
「うむ。しかし、わしがそれを覚えても、ヴェルディーナ王国の民を救うことは出来ぬと思う。じゃず、その手掛かりを見つけることはできるかもしれぬぞ。紀伊国屋どの、わしがどうしてこれを求めているのか、それを説明しようぞ」
玄白は語った。
自身が江戸で死んでから、この世界に転生したこと。
ヴェルディーナ王国に姿を現し、そこで治癒師として生きていたこと。
先日救ったドラゴのたちとの最初の出会い、そして魔族の出現。
そして、ヴェルディーナ王国が滅亡したこと。
いつか、死したヴェルディーナ王国の民を救える方法が見つかるのではないかと、旅をしていたこと。
それらを伝えると、紀伊国屋は静かにうなずいていた。
「わかりました。私の知る死者蘇生は、遺体の一部でも構いませんが体の一部が必要です。そして膨大な魔力を代償とすること、一度に大人数の蘇生はできません。ですが、先生の求めるような大規模蘇生はできません……それができるとすれば、おそらくは奇跡のみ」
「奇跡……そうじゃなあ。でも、死者蘇生もわしにとっては奇跡じゃった。それなら、すべての人を生き返らせる奇跡をさがすのもありじゃな」
「そうですね……では、時間が惜しいですから、さっそく教えましょうか」
そのまま玄白は紀伊国屋から術式のレクチャーを受ける。
そして翌日には、聖域からインディゴドラゴンもやって来たので、そのまま長老にドラゴンのことを紹介。
聖域を守ることを約束する代わりに、天翔族も彼らに手出しをしないことを誓ってくれた。
そしてさらに翌日には、せめてものお礼ということで、ドラゴンはその背に玄白たちを乗せて麓の村まで戻ってきたのである。
「……ふむ、なにやら騒々しいのじゃが?」
ふと、出発した時とは違い、妙に村の雰囲気が違う。
大空洞で発生した大暴走が止まったので、冒険者たちも普通に洞窟の調査などを繰り返しているようで。
いつ、村が襲われるのかと言う緊張感でもなく。
「はて、何が起きたのやら?」
そう考えて宿に向かい、セッセリとも別れを告げる。
そして荷物を置いて酒場で話を聞いていると。
「ほう。西のバーバリオス王国から商人がやってきたのか」
「しかも、クイーンオブノワールに乗っていたって? あれって伝承竜だよな?」
「わ、私も御伽噺で聞いたことがありますよ。黒竜でありながら、法と秩序を重んじる優しい女王だって……それが、この地にやってきたって?」
ここまでの話で。
玄白は、そのドラゴンについてはおおよそ想像がついた。
ナズリが見た黒い竜。
カースドドラゴンの一体を慈悲のもとに殺したドラゴンであろうと確信した。
「まあ、それで、異国の不思議な衣装を着ているのか」
「それに、美味い酒と肴もあるぜ。これは、サバノミソニーっていうつまみでな。バーバリオス原産の味噌ってやつで味付けしたものらしい」
酒場の冒険者が、自慢しながら玄白たちに話している。
まあ、その程度の珍しいものなら、長年あちこちを旅しているマクシミリアンたちにはそれほど珍しいものではないのだが、玄白は目を爛々と輝かせている。
「み、味噌? しかも今の話では、つまみは鯖の味噌煮? それはまだあるのか!」
「お、おおう、お嬢ちゃん、サバノミソニーのことを知っているのか?」
「知らない訳があるか。それは、わしの故郷の食べ物じゃよ、それで、まだあるのか?どうなのじゃ?」
「も、もう食べ終わった、俺たちも追加で欲しいんだが、その商人はドラゴンに乗って王都に飛んでいったんだよ」
──ガタッ
その説明だけで、玄白は立ち上がった。
「マクシミリアン殿、ミハル殿。そして勇者の皆。わしは急いでパルフェノンに戻らねばならぬ」
『それならば、我がそこまで送り届けてやろう。もしも今後、われの力を必要とするのなら、これを使って呼ぶがよいぞ……』
インディゴドラゴンが渡したもの。
それは、彼が魔力を込めて作り出した笛。
それを受け取ると、玄白は解体新書の中にそれを収める。
これで話し合いは終わった。
「玄白ちゃん。本当ならあーしたちも手伝ってあげたいんだけど、あーしたちは西方の勇者で、戻らないとならないんだよ」
「あなたが元気でいられるように、創造神の加護のあらんことを」
「それじゃあな、気を付けれよ」
「げ、玄白ちゃん……気を付けてね」
「うむ。みなにも世話になったぞ……」
ガッチリと握手をした玄白と勇者たち。
そしてここで道は二つに分かれた。
なお、とある貴族の娘の病を癒すために、玄白から霊薬エリクシールを回収しようと企んでいた冒険者ギルドのギルドマスターであるが、彼が玄白の帰還の話を聞いたときは、すでに玄白は次の街に到着する少し前であった。
そしてその場を離れようとしていた時、紀伊国屋がインディゴドラゴンの骨から、彼の魂を再生した。
死者蘇生
それはこの世界でも最高位の神官、大司祭でなくては使うことができず、大規模な儀式を必要とする。
そして死者を蘇生するためには、それにふさわしい代償が必要。
代償とは、蘇生するものの魂に等しい価値のあるもの。
人の魂に価値を付けることなどできないため、これは不可能といわれていた。
だが、神の視点からしてみると、魂の代償は、やはり魂である。
それを死者蘇生という魔術の本質を知っているからこそ、教会や聖職者たちはこの魔術を『禁術』として使用することを禁じ、その秘術の納められている経典を教会の奥深くに封じてしまった。
だが、紀伊国屋がこれを唱える際、代償は必要としない。
その代わり、蘇生を求めるもの、もしくはその肉親の近くであり、体のかけらが少しでも必要である。
そしてなによりも、これは一度唱えると、唱えた紀伊国屋の魔力は100日ほど半減する。
それでも勇者である紀伊国屋にとっては、それほど重いペナルティーではない。
「おおお……こ、これは……」
玄白は絶句してしまう。
解体新書にする記されていない禁呪。
ヴェルディーナ王国の多くの人々を救うため、彼女が求めていたもの。
それが、今、目の前で発現したのである。
『……勇者殿……礼を告げよう。われは死してからずっと、剣となりて子のもとにいようと考えていた。だが、このように元の体を得られるなど、予想もしていなかった……』
インディゴドラゴンが頭を下げる。
だが、紀伊国屋は当然とでも言わんばかりに笑みを浮かべている。
「こう見えても、聖者です。まあ、それをひけらかすことなど普段はありませんけれど、これで万が一の時の保険も証明できましたので、感謝しますよ」
『それは我々の言葉だ。そして玄白よ、われらが呪いを解き、感謝する』
『やはりあなたが、西方の聖女に間違いはありません……』
玄白たちに頭を下げるドラゴンたち。
それに玄白はうなずくと、紀伊国屋に話しかけ始める。
「さて、わしらもそろそろ戻ろうか。それでドラゴンたちは、これからどうするつもりじゃ」
『この子が生まれるまでは、この地に留まりたい』
『ここが天翔族の聖地であることは知っている。ならば、われらは彼らと共存し、この地を守ることを誓おう』
「では、そのことは彼らの長に伝えるとしよう。では、わしらは帰るとするか」
深々と頭を下げるドラゴンたちに別れを告げ、玄白たちは霊峰の洞窟を後にした。
………
……
…
霊峰の山頂付近にあった洞窟から外にでて、天翔族の集落へと戻ってきた一行。
集落の近くでは、マクシミリアンとミハル、そして数多くの天翔族の姿が確認できたので、玄白たちも高速で森を走りジャンプし、一気にミハルたちの元へと辿り着いた。
「す、スギタ先生!! 無事だったようで」
「どうしても心配で、有志を募ってやってきました。それで、どうなりましたか」
そう問いかけるみなに、玄白はにいっと笑った。
「詳しくは戻ってからじゃが……無事に呪いを解くこともできた、それで、今後のことについては、長とも話をせねばならん。まずはいったん、戻るとしようではないか」
一瞬の沈黙。
そして。
天翔族の皆が喝采をあげる。
「そうか、無事に終わったのか」
「よかった、本当に良かった……」
「あの、やっぱりエリクシールで解呪できたのですか?」
「うむ、ミハルの言う通り。呪いを解除してきてな。さらに紀伊国屋殿のちからで、すべてが解決した。あの洞窟にいるのは凶暴なドラゴンではない、聖域を守ってくれる守護竜となったものたちじゃよ」
「守護竜? 本当にですか?」
「うむ」
マクシミリアンが問いかけると、玄白をはじめ勇者たちが全員で頷いた。
そしてマクシミリアンたちも合流し、今はいそぎ、集落へと戻ることにした。
時間がもったいないので、来た時と同じように身体強化の術式を使い、途中で一泊だけ野営を行うと、翌日の広前には集落へと戻って来た。
そしてまっすぐ村長のもとに向かい、一通りの説明をする。
「そうであったか。スギタ殿、おつかれさまじゃ……呪いを解くだけでなく、守護竜さまになるなど……」
「わしだけではない。わし一人では、このような結末にはならなかった……これでもう、この地は平和を取り戻したのじゃよ」
玄白の言葉に、長老は手を掴んでうなずくことしかできなかった。
「さて。これでここでのわしの仕事は終わったのでな。パルフェノンへと帰ることにした。もしもまた、急病などでわしの手が必要になったなら、またセッセリを寄越してくれると助かる」
「えええええ!! スギタ先生は、ここに住んでくれるのではなかったのですか?」
玄白の説明を聞いて、セッセリ本人が驚いているのだが。
そもそも、玄白はこの地に住み着くなどとは言っておらず、流行り病の治療に来ただけである。
「わしは、セッセリに頼み込まれて流行り病を癒すためにきただけじゃよ。それも終わったし、ドラゴン絡みの事件も解決したのじゃから、帰るのは道理ではないのかな?」
「そ、そうですね。では、麓の村まではご同行します。それぐらいはさせてください」
その言葉を突き放すことなどせず、素直に感謝として受け取った玄白。
そして紀伊国屋をちらりと見ると、玄白は彼に対して頭を下げる。
「そこで、紀伊国屋どのに頼みがある」
「頼み……ですか?」
「うむ。あの死者蘇生の秘術をそれをわしに授けてくれぬか」
「……これを……いや、しかし……」
聖者である紀伊国屋は、この魔術の怖さを知っている。
それゆえに、人に請われることがあっても、それを伝えることはないと考えていたのだが。
「……普通なら断っていますが。まあ、杉田玄白、そのひとならば……いいでしょう。ですが、どうやらスギタ先生は、何か重いものを持っているように感じます。そのためにも、どうしても死者蘇生の術式が必要であると……その原因を、教えてくれますか」
紀伊国屋の話はごもっとも。
そして、その場で一緒に話をきいていたマクシミリアンとミハルは、彼女が死者蘇生の術式を求めている理由に気が付いた。
「スギタ先生、まさかヴェルディーナ王国の人々を助けるのですか?」
「その死者蘇生って、まさか、教会の禁呪?」
「うむ。しかし、わしがそれを覚えても、ヴェルディーナ王国の民を救うことは出来ぬと思う。じゃず、その手掛かりを見つけることはできるかもしれぬぞ。紀伊国屋どの、わしがどうしてこれを求めているのか、それを説明しようぞ」
玄白は語った。
自身が江戸で死んでから、この世界に転生したこと。
ヴェルディーナ王国に姿を現し、そこで治癒師として生きていたこと。
先日救ったドラゴのたちとの最初の出会い、そして魔族の出現。
そして、ヴェルディーナ王国が滅亡したこと。
いつか、死したヴェルディーナ王国の民を救える方法が見つかるのではないかと、旅をしていたこと。
それらを伝えると、紀伊国屋は静かにうなずいていた。
「わかりました。私の知る死者蘇生は、遺体の一部でも構いませんが体の一部が必要です。そして膨大な魔力を代償とすること、一度に大人数の蘇生はできません。ですが、先生の求めるような大規模蘇生はできません……それができるとすれば、おそらくは奇跡のみ」
「奇跡……そうじゃなあ。でも、死者蘇生もわしにとっては奇跡じゃった。それなら、すべての人を生き返らせる奇跡をさがすのもありじゃな」
「そうですね……では、時間が惜しいですから、さっそく教えましょうか」
そのまま玄白は紀伊国屋から術式のレクチャーを受ける。
そして翌日には、聖域からインディゴドラゴンもやって来たので、そのまま長老にドラゴンのことを紹介。
聖域を守ることを約束する代わりに、天翔族も彼らに手出しをしないことを誓ってくれた。
そしてさらに翌日には、せめてものお礼ということで、ドラゴンはその背に玄白たちを乗せて麓の村まで戻ってきたのである。
「……ふむ、なにやら騒々しいのじゃが?」
ふと、出発した時とは違い、妙に村の雰囲気が違う。
大空洞で発生した大暴走が止まったので、冒険者たちも普通に洞窟の調査などを繰り返しているようで。
いつ、村が襲われるのかと言う緊張感でもなく。
「はて、何が起きたのやら?」
そう考えて宿に向かい、セッセリとも別れを告げる。
そして荷物を置いて酒場で話を聞いていると。
「ほう。西のバーバリオス王国から商人がやってきたのか」
「しかも、クイーンオブノワールに乗っていたって? あれって伝承竜だよな?」
「わ、私も御伽噺で聞いたことがありますよ。黒竜でありながら、法と秩序を重んじる優しい女王だって……それが、この地にやってきたって?」
ここまでの話で。
玄白は、そのドラゴンについてはおおよそ想像がついた。
ナズリが見た黒い竜。
カースドドラゴンの一体を慈悲のもとに殺したドラゴンであろうと確信した。
「まあ、それで、異国の不思議な衣装を着ているのか」
「それに、美味い酒と肴もあるぜ。これは、サバノミソニーっていうつまみでな。バーバリオス原産の味噌ってやつで味付けしたものらしい」
酒場の冒険者が、自慢しながら玄白たちに話している。
まあ、その程度の珍しいものなら、長年あちこちを旅しているマクシミリアンたちにはそれほど珍しいものではないのだが、玄白は目を爛々と輝かせている。
「み、味噌? しかも今の話では、つまみは鯖の味噌煮? それはまだあるのか!」
「お、おおう、お嬢ちゃん、サバノミソニーのことを知っているのか?」
「知らない訳があるか。それは、わしの故郷の食べ物じゃよ、それで、まだあるのか?どうなのじゃ?」
「も、もう食べ終わった、俺たちも追加で欲しいんだが、その商人はドラゴンに乗って王都に飛んでいったんだよ」
──ガタッ
その説明だけで、玄白は立ち上がった。
「マクシミリアン殿、ミハル殿。そして勇者の皆。わしは急いでパルフェノンに戻らねばならぬ」
『それならば、我がそこまで送り届けてやろう。もしも今後、われの力を必要とするのなら、これを使って呼ぶがよいぞ……』
インディゴドラゴンが渡したもの。
それは、彼が魔力を込めて作り出した笛。
それを受け取ると、玄白は解体新書の中にそれを収める。
これで話し合いは終わった。
「玄白ちゃん。本当ならあーしたちも手伝ってあげたいんだけど、あーしたちは西方の勇者で、戻らないとならないんだよ」
「あなたが元気でいられるように、創造神の加護のあらんことを」
「それじゃあな、気を付けれよ」
「げ、玄白ちゃん……気を付けてね」
「うむ。みなにも世話になったぞ……」
ガッチリと握手をした玄白と勇者たち。
そしてここで道は二つに分かれた。
なお、とある貴族の娘の病を癒すために、玄白から霊薬エリクシールを回収しようと企んでいた冒険者ギルドのギルドマスターであるが、彼が玄白の帰還の話を聞いたときは、すでに玄白は次の街に到着する少し前であった。
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