37 / 56
自由貿易国家編
運命の天秤は、悪い方角に傾いていく
しおりを挟む
──ブワサッ、ブワサッ
大きな翼を広げ、セッセリがゆっくりと降下を始める。
霊峰へ至る空路をどうにか突破し、マクシミリアンたちから預かった手紙を届けるために、限界を超えた飛行を続けていたのである。
そして幸いなことに、途中の峰に巣食っているワイバーンやスモールロックといった魔物に襲われることなく、大空洞外の村を出た翌日夕方には、どうにか到着したのである。
「ほほう? セッセリ殿ではないか。ドラゴン討伐の依頼は成功したのか?」
村人たちに紛れ、玄白もセッセリを迎え入れる。
そして着地して地面に崩れそうな体をなんとか奮い立たせると、セッセリは預かっていた手紙を玄白に手渡した。
「マクシミリアンどのから預かった手紙です!」
「ふむ? 何かあったようじゃな?」
そう問いかける玄白に、セッセリも静かに頷く。
そこで状況を知るために、玄白はその場で手紙を開けて内容を確認する。
「……なるほど。西方からやって来た勇者たちに助力を仰いだのか。そして手助けしてくれる交換条件として、魔族の捜索の手伝いが欲しいということか」
──ヒュッ
すぐさま解体新書を開いて羊皮紙を取り出すと、玄白は丁寧に返事を書き始める。
ドラゴン討伐が終わり次第、速やかに魔族捜索の手伝いをすること、自分は治癒し出会って捜索のためのスキルは持ち合わせていないが、道中の怪我などの手当てなら可能であることなどを書き込み、丁寧に封をしてからセッセリに手渡した。
「それでは、ドラゴン討伐が終わったら、スギタ先生はすぐに旅に出てしまうのですね?」
「うむ。旅は道連れ世は情け……ではないが、こちらだけ手伝ってもらって、それでははいさようならというのは義に反する。まあ、もともと旅を住みかとしているようなものじゃし、パルフェ蘭へ帰るのが少し遅れるだけじゃよ」
「わかりました。では、早速、届けてきます。もう済氏、スギタ先生とは一緒にいたかったのですけれど、残念です……」
「まあ、待て待て」
解体新書から別の薬を取り出すと、それをセッセリに突き出す。
「滋養強壮栄養満点な回復薬じゃ。疲労が抜けるし体の活力も漲る。飲んでいけ」
「助かります」
その小さな便を受け取ってグイッと飲み干す。
それだけでセッセリの全身が輝き、活力がみなぎってくる。
「では、行ってきます!!」
「うむ。気をつけてな」
手を振りセッセリが飛び上がるのを見送ると、玄白は彼女の姿が小さくなるのをじっと待っていた。
そして、その姿が見えなくなると、それまでの優しい表情から一転して、険しい表情に変化する。
「長どの。カースドドラゴンのこと、間違いはないのじゃな?」
偵察に向かった天翔族の戦士たち。
どうにか無事に戻ってきたものの、その報告を聞いて状況が最悪な方向に進んだことが理解できた。
「うむ。カースドドラゴンは|番《つがい」で巣を作っている。しかも、卵が一つ、巣の中にあったらしい」
「ブラックドラゴンが呪いによってカースドドラゴンに変化する。それが番などを作るというのか?」
「おそらくは、元々、番だったのでしょう。それが呪いによってカースドドラゴン化したと言うことだと思われますが、それよりも問題は」
「卵が孵化すると、やつらは餌を求めてここまでやってくる可能性がある、と言うことか」
生まれたばかりのドラゴン種は食欲が旺盛。
とくに、幼少期に食べた餌の質により、その後の成長度合いに変化が現れるらしい。
そして天翔族はいわば、この霊峰の守護者。
潜在的な魔力強度、戦闘技術などは多種族に遅れをとることはない。
つまり、カースドドラゴンにとって最高の餌場が、目の前にあるようなものである。
「対策は?」
「卵と親、どちらも同時に処分しないと不可能。最低でも親さえなんとかできれば、卵はその後で破壊すればいい」
「難易度が倍になったようなものじゃからな。しかし、セッセリにそれを告げなくてもよかったのか?」
あの場でそれを説明し、援軍をさらに増やしてもらうと言う選択肢はあった。
だが、托卵中のドラゴンの討伐など、依頼難易度では最高峰に位置する。
王国などが国を挙げて行うクエストなどでしか見たことがなく、自由貿易国家では未だ見たことがない。
「告げたところで、状況は変わりません。むしろ、他の霊峰に住まう天翔族の元に逃げてくれるなら……」
「ふむ。勇気ある天翔族は、最後まで戦うのではなかったのか?」
「援軍が間に合わず、私たちが全滅したとしても。マクシミリアン殿やミハルどのが、セッセリを諌めるでしょう」
「そういうことか。まあ、わしもここまで付き合ったのじゃから、最後までは付き合うとするか」
そう呟きつつ、玄白は霊峰の更なる頂を見上げる。
ヴェルディーナ王国で出会った、藍色の鱗のつがいのドラゴン。
あの二頭も卵を抱いていた。
もしも、あの魔族の手によって二頭がカースドドラゴンになっていたとするのなら、その卵は間違いなくあの二頭のもの。
もしもそうなら、玄白にはあの二頭を倒すことなどできるのか……。
そもそも、それを阻止するために啖呵を切ってまて、領主に対して敵対したのである。
それが、まさか最悪の結末を迎えてしまうかもとなると、玄白は胸が避けそうなほど苦しさを感じていた。
しかも、このまま放置していたら、この集落が襲われるやもしれないという恐怖感はある。
このまま天翔族を放ってはおかないという気持ちが、胸の苦しさをうわ待っているのかもしれない。
大きな翼を広げ、セッセリがゆっくりと降下を始める。
霊峰へ至る空路をどうにか突破し、マクシミリアンたちから預かった手紙を届けるために、限界を超えた飛行を続けていたのである。
そして幸いなことに、途中の峰に巣食っているワイバーンやスモールロックといった魔物に襲われることなく、大空洞外の村を出た翌日夕方には、どうにか到着したのである。
「ほほう? セッセリ殿ではないか。ドラゴン討伐の依頼は成功したのか?」
村人たちに紛れ、玄白もセッセリを迎え入れる。
そして着地して地面に崩れそうな体をなんとか奮い立たせると、セッセリは預かっていた手紙を玄白に手渡した。
「マクシミリアンどのから預かった手紙です!」
「ふむ? 何かあったようじゃな?」
そう問いかける玄白に、セッセリも静かに頷く。
そこで状況を知るために、玄白はその場で手紙を開けて内容を確認する。
「……なるほど。西方からやって来た勇者たちに助力を仰いだのか。そして手助けしてくれる交換条件として、魔族の捜索の手伝いが欲しいということか」
──ヒュッ
すぐさま解体新書を開いて羊皮紙を取り出すと、玄白は丁寧に返事を書き始める。
ドラゴン討伐が終わり次第、速やかに魔族捜索の手伝いをすること、自分は治癒し出会って捜索のためのスキルは持ち合わせていないが、道中の怪我などの手当てなら可能であることなどを書き込み、丁寧に封をしてからセッセリに手渡した。
「それでは、ドラゴン討伐が終わったら、スギタ先生はすぐに旅に出てしまうのですね?」
「うむ。旅は道連れ世は情け……ではないが、こちらだけ手伝ってもらって、それでははいさようならというのは義に反する。まあ、もともと旅を住みかとしているようなものじゃし、パルフェ蘭へ帰るのが少し遅れるだけじゃよ」
「わかりました。では、早速、届けてきます。もう済氏、スギタ先生とは一緒にいたかったのですけれど、残念です……」
「まあ、待て待て」
解体新書から別の薬を取り出すと、それをセッセリに突き出す。
「滋養強壮栄養満点な回復薬じゃ。疲労が抜けるし体の活力も漲る。飲んでいけ」
「助かります」
その小さな便を受け取ってグイッと飲み干す。
それだけでセッセリの全身が輝き、活力がみなぎってくる。
「では、行ってきます!!」
「うむ。気をつけてな」
手を振りセッセリが飛び上がるのを見送ると、玄白は彼女の姿が小さくなるのをじっと待っていた。
そして、その姿が見えなくなると、それまでの優しい表情から一転して、険しい表情に変化する。
「長どの。カースドドラゴンのこと、間違いはないのじゃな?」
偵察に向かった天翔族の戦士たち。
どうにか無事に戻ってきたものの、その報告を聞いて状況が最悪な方向に進んだことが理解できた。
「うむ。カースドドラゴンは|番《つがい」で巣を作っている。しかも、卵が一つ、巣の中にあったらしい」
「ブラックドラゴンが呪いによってカースドドラゴンに変化する。それが番などを作るというのか?」
「おそらくは、元々、番だったのでしょう。それが呪いによってカースドドラゴン化したと言うことだと思われますが、それよりも問題は」
「卵が孵化すると、やつらは餌を求めてここまでやってくる可能性がある、と言うことか」
生まれたばかりのドラゴン種は食欲が旺盛。
とくに、幼少期に食べた餌の質により、その後の成長度合いに変化が現れるらしい。
そして天翔族はいわば、この霊峰の守護者。
潜在的な魔力強度、戦闘技術などは多種族に遅れをとることはない。
つまり、カースドドラゴンにとって最高の餌場が、目の前にあるようなものである。
「対策は?」
「卵と親、どちらも同時に処分しないと不可能。最低でも親さえなんとかできれば、卵はその後で破壊すればいい」
「難易度が倍になったようなものじゃからな。しかし、セッセリにそれを告げなくてもよかったのか?」
あの場でそれを説明し、援軍をさらに増やしてもらうと言う選択肢はあった。
だが、托卵中のドラゴンの討伐など、依頼難易度では最高峰に位置する。
王国などが国を挙げて行うクエストなどでしか見たことがなく、自由貿易国家では未だ見たことがない。
「告げたところで、状況は変わりません。むしろ、他の霊峰に住まう天翔族の元に逃げてくれるなら……」
「ふむ。勇気ある天翔族は、最後まで戦うのではなかったのか?」
「援軍が間に合わず、私たちが全滅したとしても。マクシミリアン殿やミハルどのが、セッセリを諌めるでしょう」
「そういうことか。まあ、わしもここまで付き合ったのじゃから、最後までは付き合うとするか」
そう呟きつつ、玄白は霊峰の更なる頂を見上げる。
ヴェルディーナ王国で出会った、藍色の鱗のつがいのドラゴン。
あの二頭も卵を抱いていた。
もしも、あの魔族の手によって二頭がカースドドラゴンになっていたとするのなら、その卵は間違いなくあの二頭のもの。
もしもそうなら、玄白にはあの二頭を倒すことなどできるのか……。
そもそも、それを阻止するために啖呵を切ってまて、領主に対して敵対したのである。
それが、まさか最悪の結末を迎えてしまうかもとなると、玄白は胸が避けそうなほど苦しさを感じていた。
しかも、このまま放置していたら、この集落が襲われるやもしれないという恐怖感はある。
このまま天翔族を放ってはおかないという気持ちが、胸の苦しさをうわ待っているのかもしれない。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説
異世界ライフの楽しみ方
呑兵衛和尚
ファンタジー
それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。
ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。
俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。
ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。
しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!
神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。
ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。
『オンラインゲームのアバターに変化する能力』
『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』
アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。
ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。
終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。
それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。
「神様、【魂の修練】って一体何?」
そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。
しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。
おいおい、これからどうなるんだ俺達。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
悪役令嬢ですが最強ですよ??
鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。
で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw
ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。
だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw
主人公最強系の話です。
苦手な方はバックで!
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界追放されたエルフは、日本でのんびり暮らしたい
呑兵衛和尚
ファンタジー
大きな戦争があった。
異界から侵略して来た、魔族という存在。
私は、国を守るためにその戦争に参加し、そして何らかの理由で命を散らせた。
そして気がつくと、そこは私の知らない世界だった。
この世界は、私の住んでいた世界とは違い、魔法という概念がない。
代わりに科学というものがある。
なら、私は魔法を駆使してこの世界を生きることにしよう。
失われた過去の記憶、それを取り戻し、いつか元の世界に帰るために。
異世界から漂流して来た、はちゃめちゃハイエルフ賢者の、ドタバタ異世界コメディストーリー。
まずはここから始まります。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる