上 下
17 / 56

瓦礫なら、なんとでもなる

しおりを挟む
──ガギガギギギギギギギィ
 ゆっくりと、そして確実に周囲の建物を飲み込んでいく瓦礫ゴーレム。
 ミヅチは玄白に頼み込まれ、ゴーレムの体の部位の改修のために剣を振り落とす。
 だが、ショートソードでは致命傷にもならず、抉り取ることもできない。

「ちっ。理論的には刃よりもハンマーの方が有効なのかよ」

──クルッ
 両手のショートソードを手の中でくるりと回す。
 そして腰の鞘に収めると、右手を横に伸ばして。

「アルデア、ハンマーだ!!」
「姉御、これを使ってください!!」

 背後から聞こえる副官の声。
 そして音を立てながら真横に飛んでくるハンマーの柄をガッチリと握りしめる。

「ふん。これならいけるかもね……どっせぇぇぇぇぇい!!」

──ドッゴォォォォォォン
 ミヅチ自身を敵と認定した瓦礫ゴーレムは、触手を鞭のように伸ばして彼女を撃ち据えようとする。
 だが、それを軽く躱して触手が地面を殴った瞬間、ミヅチは触手目掛けてハンマーを撃ち落とした!!

 もしも瓦礫ゴーレムに声帯器官があったなら、悲鳴をあげているだろう。
 振り落とされたハンマーは触手を潰し、粉砕し、千切り落とす。
 それを全力で後方に蹴飛ばすと、待機していたアルテアがそれをガッチリとキャッチ。

「アルテア、それをスギタ先生に」
「任せてくだせぇ、だけだけどけぇぇぇぇ」

 傍に瓦礫ゴーレムの触手の先端を抱えて走るアルテア。
 まだ触手自身は生きてあるらしくビチバチと脇の下で蠢いているのだが、アルテアは落とさないように抱えたまま、後方で待機している玄白の元までそれを届けた。

「先生、お願いします!!!!」
「どぉ~れ」

 片手に解体新書ターヘル・アナトミアを携え、玄白が瓦礫ゴーレムに触れる。

──キィィィィィン
 すると、ページがどんどんと開いていき、瓦礫ゴーレムが登録されたページに辿り着く。

「瓦礫ゴーレムの弱点は……強酸?」

 玄白の周囲に集まっている冒険者たちを見るが、誰もかれも頭を左右に振る。

「強酸ってなんだ?」
「酸……魔法じゃ無理だし、そもそも酸を吐き出すのがスライムだからなぁ。魔の森に行かないと無理だわ」
「そんなことをいきなり言われても、無理じゃないか?」
「ふむ、そういうことか。次!!」

 急いで説明文を読んでいく。
 分かったことは、ゴーレムコアから生まれたゴーレムは、最初に触れた物の特性を身につける。
 だが、その後で別の属性を身につけることができない。

「瓦礫ゴーレムの属性は、創造物の取り込み。他属性は取り込めない……ふむ。重量が重いため飛ぶことは不可能……壁面も登れない? ほう?」

──パタン
 解体新書ターヘル・アナトミアを閉じて、瓦礫ゴーレムを見る。
 そこではミヅチら闇ギルドの精鋭たちが、必死に瓦礫ゴーレムの侵攻を止めようとしている。

「試しに……」
 
 地面に手を当てて、頭の中で念じる。

──ボコッ
 すると、玄白が触れていた地面が消える。
 その場にあった地面がアイテムボックスの中に収納されたのである。

「魔力を多めに注げば、収納できる範囲が増えるか。よし」

 スックと立ち上がり、ミヅチの方に向かって走り出す。
 全身に闘気を循環させ、脚力を限界近くまで強化し、回避率を高めていく。

「スギタ先生、ここは危険ですから下がれ!!」
「なあに、勝算なくてこんな危険なことはせんわ」

 瓦礫ゴーレムの手前で停止し、両手を地面に添える。
 そして残りの魔力を解体新書ターヘル・アナトミアに集めて、アイテムボックスを開いた。

「広範囲収納!! これでも喰らえ」

──ボッゴォォォォォォッ
 瓦礫ゴーレムの足元がボコッと消える。
 そのまま落下していくゴーレムは、落ちてなるものかと必死に触手を伸ばして地面に突き刺す。
 だが、ミヅチたちがそこに向かってハンマーを降りおとし、触手を次々と叩き潰している。

「こんな大規模なアイテムボックスが使えるなんて、スギタ先生の魔力はどれだけ多いんだよ」
「知らん!!」

 そんなことを話しつつ、最後の触手を潰したとき。
 瓦礫ゴーレムは穴の中に落下し、やがで轟音を上げる。

「やったか!!」
「さあ。調べた感じじゃと、やつは自力で出てくることができないようじゃからな。あとは酸を用意して注ぎ込み、溶かして仕舞えば良い」
「そ、そうなのか」

 恐る恐る穴に近寄って底を見るミヅチたち。
 深さにしておよそ200メートル、自重が重すぎる瓦礫ゴーレムでは、触手を壁面に突き立てて上がってくることができないようである。
 しかも周囲は地面、ゴーレムの部品として吸収することができない。

「酸か。これから用意するとなると、かなり時間が掛かるだろううな」
「それよりも姉御! ゴーレムのヤロウ、横穴を掘り出しましたぜ」
「なんだと!!」

 アルテアの叫びで、全員が中を見る。
 すると確かに、ゆっくりではあるが瓦礫ゴーレムが横穴を掘り始めた。

「遅いが、ありゃあ逃げられるな」
「逃すわけないだろうがぁ!!」

 玄白が呟くと、背後から何者かが駆けてくる。
 そして背中の聖剣を引き抜くと、それを構えて穴の中に飛び込んでいった。

「……今のは誰じゃ?」
「勇者タクマですよ。それに彼のパーティメンバーと騎士団まで集まってきましたが……」

 そのミヅチの言葉で、玄白はこれ以上はここにいても仕方ないと判断。

「なら、後は任せて良いな。わしは怪我人の治療に戻るので、説明は頼む」
「あ……え? この騒動を収めた功績は、スギタ先生ですよね?」
「面倒ごとは任せるわ、それじゃなあ」

 手をひらひらと降りながら、玄白はスラムの大広場へと戻っていく。
 そして集まっている怪我人の手当てを始めることにした。
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

自由気ままな生活に憧れまったりライフを満喫します

りまり
ファンタジー
がんじがらめの貴族の生活はおさらばして心機一転まったりライフを満喫します。 もちろん生活のためには働きますよ。

私から婚約破棄して良いかしら? もう損な役なんてやめて勝手にさせてもらいます

うちはとはつん
ファンタジー
ソルナイン侯爵家のユリエラは、命をもてあそび悪逆の限りを尽くしていた。 そんな令嬢に転生してしまった霧島ゆり。 ゆりは自身の転生した、ユリエラ・ソルナインの数々の悪行を知り、罪悪感に圧し潰されていく。 そんな追い詰められる彼女を助けてくれたのは、街の人たちの優しさ。 そして従者である彼の眼差しだった。 ゆりは悪役令嬢として生きながらもみんなの優しさに支えられ、凶悪な生活習慣を少しずつ改善して、自分の道を切り開いていく。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

悪役令嬢ですが最強ですよ??

鈴の音
ファンタジー
乙女ゲームでありながら戦闘ゲームでもあるこの世界の悪役令嬢である私、前世の記憶があります。 で??ヒロインを怖がるかって?ありえないw ここはゲームじゃないですからね!しかも、私ゲームと違って何故か魂がすごく特別らしく、全属性持ちの神と精霊の愛し子なのですよ。 だからなにかあっても死なないから怖くないのでしてよw 主人公最強系の話です。 苦手な方はバックで!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

処理中です...