7 / 56
規格外の治癒能力
しおりを挟む
「では、ランガクイーノさんの希望である、治癒能力についての試験を始めます」
闘技場の一角、先ほどまで戦っていた場所から反対側。
訓練の疲れを癒すために、大勢の冒険者が体を休めている場所に、玄白は案内される。
そこにはフードを被った一人の女性が待っており、玄白と受付嬢の姿を見て深々と頭を下げていた。
「錬金術ギルドから、今回の見届け人として派遣されましたマーベル・ファンハートです。よろしくお願いします」
「おお、わしがランガクイーノ・ゲンパク・スギタじゃ。希望職は治癒師、よろしく頼むぞ」
「はい、よろしくお願いします。ちなみに、参考までにですが、治癒師として必要な薬品類はお待ちされていますか?」
それぐらいは当然だろうと言わんばかりに、マーベルが玄白に問いかける。
「まあ、その都度調合するから構わんが。まずは、何をしたら良いのじゃ?」
「ここにいる方の疲れを取れますか? 錬金術ギルドで販売されている【気力回復ポーション】を使っても構いませんよ」
「ふむ、そのような便利な代物が売っているとは。わし、そんなの作れたかなぁ」
──ブゥン
右手に解体新書を生み出してから、まずは近くの戦士に歩み寄る。
「では、診察を始めようか……」
「お、お嬢ちゃんが俺の疲れを癒してくれるのか? ポーションは?」
「そんなの後でもええわ。ちと触れるぞ」
──ペタリ
男の腕に触れる。
すると解体新書《ターヘル・アナトミア》が自動的に開き、パラパラとページが捲れていく。
そしてあるページで止まると、玄白はそこに目を通し始める。
「ふむふむ。名前はジャン。斧戦士でランクはA級。二年前にダイアウルフの襲撃を受けて、右膝が時折痺れると」
「は、はぁ? なんで俺の名前だけじゃなく、ランクや古傷までわかるんだよ?」
「ええからええから。まずはそこに横になれ。受付さんや、このものの膝を直したら、治癒能力ありと認めてくれるか?」
そう問いかけると、受付嬢は少し困った顔で。
「査定の一つとして認めます。ですが、古傷とかを癒すためのポーションはありませんよ?」
「まあ、そんなものがあったら、世の中の怪我人は全て存在しなくなるからなあ……では、治療を始めるので、今からワシのやることを静かに見ておれよ?」
そう告げてから、玄白は静かに瞑想を始める。
「では、術式準備!」
玄白の言葉に呼応するように、解体新書が輝く。
ジャンと玄白を中心に直径3mの魔法陣が生み出されると、その内部が浄化の術式によって除菌される。
解体新書から手術道具を取り出し、麻酔を行う。
そして麻酔が効いたのを確認すると、手術刀で膝を切開。
膝の痛みの原因については、解体新書《ターヘル・アナトミア》に全て表示されている。
(古傷……どうやら膝に矢を受けた際、砕けた骨のかけらが関節の中に紛れ込んでいるようじゃな。それが歩く時とかに擦れて、痛みが走っておるようじゃな)
魔法で膝を伸ばし、隙間から欠けた骨を取り除く。
そして膝を元に戻してから組織の縫合、魔法により修復再生。
最後に傷口を縫い合わせると、最後は玄白が右手を翳して傷を消し去る。
すると、ジャンの意識もゆっくりと戻ってくる。
「な。なん……だ。意識がなくなったと思ったら、何が起きたんだ?」
「おぬしの膝の治療を行っただけじゃ。手術は終わったから安心せい。あとは、これを飲むが良い。気力も体力も回復する薬じゃよ」
解体新書から小さな小瓶を取り出し、それをジャンに手渡す。
ジャンはそれを受け取ってから、体を起こして椅子に座る。
古傷のあった膝を撫でてみると、痺れるような痛みがなくなっていることに気がついた。
「な、なんだこれは!! 傷が無くなったじゃないか!!」
「そんなのは良いから、早くそれを飲め!! 手術後は体力が下がっているから、それを飲んで体調を整えよ」
「そ、そうか、それは済まなかった」
玄白の剣幕に負けて、ジャンが小瓶の液体を飲み干す。
すると全身が淡く輝くと、彼の体に気力が湧き溢れていく。
膝以外の擦り傷をなども全て消え、体内を巡る闘気も活性化した。
「な、な、な、なんじゃこりやぁぁぁぁぁ!!」
叫びながらジャンが立ち上がる。
その場で屈伸し、体を伸ばし。
全身の動きを確認すると、玄白に向かって頭を下げた。
「術式は成功じゃよ。さて、マーベルさん、これで一人目の治療を終えるのじゃが、これは治癒師として認めてくれるのか?」
「認めるも何も、何をしたのですか? いきなり膝を切り開いたと思ったら、見たこともない奇妙な道具で何かをしているし。そんな大きな傷を薬で塞ぐし、それに、な、な、なんで貴方は神聖魔法が使えるのですか? さっきの薬はなんですか? 怪我も気力も回復する薬なんて、あの伝説の魔法薬しかないじゃないですか?」
びっくりした剣幕で、マーベルが叫ぶ。
ふと玄白が気がつくと、彼女の周囲には大勢の野次馬が集まっていた。
「神聖魔法? 伝説の魔法薬? いやいや、そんな大層なものではない。傷を塞いだり化膿を防ぐ魔法や、体力と気力を回復するポーションじゃよ」
「それがエリクサーなんです!! この国にだって、三本あるかないかの伝説の薬ですよ? それをこんな、むさいおっさんに与えるなんて正気ですか?」
「正気も何も、手術後は体力が低下しているから、そう言う薬を与えないとならないじゃろが」
「あ~もう、あなたと話していると私の価値観が崩壊します!!」
なんとか自分に言い聞かせながら、マーベルが腕を組んでブツブツと呟き始める。
「ま、まあ、今回のは承認します。そうですね、あと2人ほど、あなたの治癒師としての腕を見せて貰えますか?」
「構わんが。誰を治癒するかは、誰が決めるのじゃ?」
「こちらでご用意します……少々、お時間を貰えますか?」
「それは構わん。わしも、手術式で少々疲れているからな」
マーベルはそれだけを告げてから、一旦その場をあとにする。
そして玄白も、少しの間、その場でのんびりとすることにした。
………
……
…
なんだ、あの治癒師は?
外傷や病気を治すのは、私たち錬金術師が作り出すポーションしか存在しないはず。
いや、あのクソッタレ教会の糞司祭たちが使える『神の雫』と言う魔法なら、同じような効果を発揮できる。
けど、古い傷なんて、普通は治すことができない。
それをあの治癒師は、いきなり傷を切り開いて治療した。
しかも、わたしたちにしか作り出すことのできない魔法薬を目の前で作り出し、傷を塞ぐために神聖魔法を使う。
それも、神の雫ではない、本当の神聖魔法で。
「なんだ、なんだなんだなんだ? あんな治癒師なんて見たことがないぞ!! 何故、秘薬を用いないで魔法薬を作り出せる? 道具も必要としないで、なんであんなに簡単に作れる!!」
彼女の治癒は、錬金術の理から外れている。
かといって、あの成金主義の教会の手先のような雰囲気もない。
あの若さで、なんであんな未知の治療法が使えるのか教えてほしいところです。
「とりあえずはギルドマスターに報告しないと。あの伝説の魔法薬エリクサーを、秘薬も無しに作れるなんて……是非とも、冒険者ギルドではなく錬金術ギルドで身柄を抑えないとなりませんから!」
………
……
…
一時間後。
マーベルは二人の男性を連れて、冒険者ギルドに戻ってくる。
一人は左腕が肘から切断された元戦士、もう一人は両膝から下がないレンジャー。
どちらも十年以上昔に、魔物の大氾濫が起きた時にモンスターに襲われた被害者。
失われた四肢は、魔法薬や神の雫でも再生しない。
また、王都の大聖堂の枢機卿クラスの聖職者でなくては、再生の神聖魔法を操ることができないと言う。
にもかかわらず、マーベルはランガクイーノの治癒師適性を見るために二人を連れてきたのである。
「ち、ちょっと待ってください。流石に古傷の、しかも損傷部位の再生は不可能ですよ」
「そんなの、やってみないとわかりませんよね。ランガクイーノさん、この二人の古傷を癒してもらえますか? それが可能ならば、あなたの治癒師としての能力は錬金術ギルドが保証します。うちのギルドマスター特権で、錬金術ギルドの高ランク登録も行ってあげます」
明らかな越権行為に、受付嬢も顔を顰める。
「残念ですが、今回は冒険者ギルドのランク認定試験です。錬金術ギルドが顔を出すことではありません。それに、ここまでひどい怪我なんて、王都の聖職者でもない限りは不可能ですし、そもそも必要な寄付額が……って、何をしているのですか?」
受付嬢が、目の前に魔法陣を作り出している玄白に問いかける。
「いや、試験なのじゃから、これから始めるところじゃが?」
すでに解体新書に二人のデータは取り込んである。
そして魔法陣が展開すると、玄白は一人ずつ、四肢再建手術を開始した。
失った四肢についても、解体新書の能力によって、人造人間のパーツが作り出される。
こうなると、玄白を止めるものはどこにもおらず、一人一時間ほどで欠損四肢接合手術は終わった。
「……ふう。流石に二人連続は疲れるのう。それで、わしの認定試験は合格なのか?」
解体新書から取り出したエリクサーを飲みつつ、玄白はマーベルに問いかける。
その横では、手術が終わって体が普通に動くのか、患者の二人が体を動かしていた。
「う、うごく!! 体が元に戻った!!」
「こんな奇跡があるなんて……お嬢ちゃん、この御恩は一生忘れない!! 俺の全財産を叩いてでも、お礼をさせてくれ」
「いやいや。二人を治癒したは試験のためじゃから、御礼は必要ない。しかし、体はすぐに元のように戻ることはないじゃろうから、ゆっくりと体を馴染ませるが良い」
「「ありがとうございます!!」」
涙を流しながら、男たちは玄白に頭を下げる。
そんな事は気にもせず、玄白は頭を縦に振ってから、マーベルを見る。
「これで、わしの治癒師としての実力はわかってもらえたか? 合格か?」
「くっ……合格も合格、錬金術ギルドなら段位認定するレベルですよ!! なんで欠損部位の再建ができるのですか? あの腕と脚は、どうやって作り出したのですか? それに!それを繋げる魔法はなんなのですか!!」
「職業上の秘密じゃよ。一朝一夕で身につける事はできないじゃろうからな。さて、受付嬢さんや、これでわしも8級治癒師として登録されるのじゃな?」
この玄白の言葉に、マーベルは顎が外れそうになる。
才能の無駄遣いもいいところ、いや、玄白ほどの治癒師は、錬金術ギルドでお抱え治癒師になってもらいたいところだ。
「ランガクイーノさん!! あなたの腕があれば、この国で最高の治癒師を狙うこともできます。ぜひ、わが錬金術ギルドにも登録を!!」
「いやいや。わし、この後は治療院を設立するから、そっち方面には協力できそうになくてな」
「ち、治療院を? あなたの腕なら、王家お抱えの治癒師にも馴れます!!」
「ふむ、御殿医か。いや、そこまでの地位も要らん。冒険者ギルドに登録したのは、辻治療の許可が欲しかっただけじゃからな。では、手続きに向かうとしようか」
そう告げてから、玄白はマーベルにも頭を下げてから、受付に向かう。
そしてこの日、玄白の起こした奇跡が町中に広がった。
奇跡の治癒師
神の腕を持つ治癒師
さまざまな噂が噂を呼び、やがてその声は教会や領主のもとにも届き始めた。
闘技場の一角、先ほどまで戦っていた場所から反対側。
訓練の疲れを癒すために、大勢の冒険者が体を休めている場所に、玄白は案内される。
そこにはフードを被った一人の女性が待っており、玄白と受付嬢の姿を見て深々と頭を下げていた。
「錬金術ギルドから、今回の見届け人として派遣されましたマーベル・ファンハートです。よろしくお願いします」
「おお、わしがランガクイーノ・ゲンパク・スギタじゃ。希望職は治癒師、よろしく頼むぞ」
「はい、よろしくお願いします。ちなみに、参考までにですが、治癒師として必要な薬品類はお待ちされていますか?」
それぐらいは当然だろうと言わんばかりに、マーベルが玄白に問いかける。
「まあ、その都度調合するから構わんが。まずは、何をしたら良いのじゃ?」
「ここにいる方の疲れを取れますか? 錬金術ギルドで販売されている【気力回復ポーション】を使っても構いませんよ」
「ふむ、そのような便利な代物が売っているとは。わし、そんなの作れたかなぁ」
──ブゥン
右手に解体新書を生み出してから、まずは近くの戦士に歩み寄る。
「では、診察を始めようか……」
「お、お嬢ちゃんが俺の疲れを癒してくれるのか? ポーションは?」
「そんなの後でもええわ。ちと触れるぞ」
──ペタリ
男の腕に触れる。
すると解体新書《ターヘル・アナトミア》が自動的に開き、パラパラとページが捲れていく。
そしてあるページで止まると、玄白はそこに目を通し始める。
「ふむふむ。名前はジャン。斧戦士でランクはA級。二年前にダイアウルフの襲撃を受けて、右膝が時折痺れると」
「は、はぁ? なんで俺の名前だけじゃなく、ランクや古傷までわかるんだよ?」
「ええからええから。まずはそこに横になれ。受付さんや、このものの膝を直したら、治癒能力ありと認めてくれるか?」
そう問いかけると、受付嬢は少し困った顔で。
「査定の一つとして認めます。ですが、古傷とかを癒すためのポーションはありませんよ?」
「まあ、そんなものがあったら、世の中の怪我人は全て存在しなくなるからなあ……では、治療を始めるので、今からワシのやることを静かに見ておれよ?」
そう告げてから、玄白は静かに瞑想を始める。
「では、術式準備!」
玄白の言葉に呼応するように、解体新書が輝く。
ジャンと玄白を中心に直径3mの魔法陣が生み出されると、その内部が浄化の術式によって除菌される。
解体新書から手術道具を取り出し、麻酔を行う。
そして麻酔が効いたのを確認すると、手術刀で膝を切開。
膝の痛みの原因については、解体新書《ターヘル・アナトミア》に全て表示されている。
(古傷……どうやら膝に矢を受けた際、砕けた骨のかけらが関節の中に紛れ込んでいるようじゃな。それが歩く時とかに擦れて、痛みが走っておるようじゃな)
魔法で膝を伸ばし、隙間から欠けた骨を取り除く。
そして膝を元に戻してから組織の縫合、魔法により修復再生。
最後に傷口を縫い合わせると、最後は玄白が右手を翳して傷を消し去る。
すると、ジャンの意識もゆっくりと戻ってくる。
「な。なん……だ。意識がなくなったと思ったら、何が起きたんだ?」
「おぬしの膝の治療を行っただけじゃ。手術は終わったから安心せい。あとは、これを飲むが良い。気力も体力も回復する薬じゃよ」
解体新書から小さな小瓶を取り出し、それをジャンに手渡す。
ジャンはそれを受け取ってから、体を起こして椅子に座る。
古傷のあった膝を撫でてみると、痺れるような痛みがなくなっていることに気がついた。
「な、なんだこれは!! 傷が無くなったじゃないか!!」
「そんなのは良いから、早くそれを飲め!! 手術後は体力が下がっているから、それを飲んで体調を整えよ」
「そ、そうか、それは済まなかった」
玄白の剣幕に負けて、ジャンが小瓶の液体を飲み干す。
すると全身が淡く輝くと、彼の体に気力が湧き溢れていく。
膝以外の擦り傷をなども全て消え、体内を巡る闘気も活性化した。
「な、な、な、なんじゃこりやぁぁぁぁぁ!!」
叫びながらジャンが立ち上がる。
その場で屈伸し、体を伸ばし。
全身の動きを確認すると、玄白に向かって頭を下げた。
「術式は成功じゃよ。さて、マーベルさん、これで一人目の治療を終えるのじゃが、これは治癒師として認めてくれるのか?」
「認めるも何も、何をしたのですか? いきなり膝を切り開いたと思ったら、見たこともない奇妙な道具で何かをしているし。そんな大きな傷を薬で塞ぐし、それに、な、な、なんで貴方は神聖魔法が使えるのですか? さっきの薬はなんですか? 怪我も気力も回復する薬なんて、あの伝説の魔法薬しかないじゃないですか?」
びっくりした剣幕で、マーベルが叫ぶ。
ふと玄白が気がつくと、彼女の周囲には大勢の野次馬が集まっていた。
「神聖魔法? 伝説の魔法薬? いやいや、そんな大層なものではない。傷を塞いだり化膿を防ぐ魔法や、体力と気力を回復するポーションじゃよ」
「それがエリクサーなんです!! この国にだって、三本あるかないかの伝説の薬ですよ? それをこんな、むさいおっさんに与えるなんて正気ですか?」
「正気も何も、手術後は体力が低下しているから、そう言う薬を与えないとならないじゃろが」
「あ~もう、あなたと話していると私の価値観が崩壊します!!」
なんとか自分に言い聞かせながら、マーベルが腕を組んでブツブツと呟き始める。
「ま、まあ、今回のは承認します。そうですね、あと2人ほど、あなたの治癒師としての腕を見せて貰えますか?」
「構わんが。誰を治癒するかは、誰が決めるのじゃ?」
「こちらでご用意します……少々、お時間を貰えますか?」
「それは構わん。わしも、手術式で少々疲れているからな」
マーベルはそれだけを告げてから、一旦その場をあとにする。
そして玄白も、少しの間、その場でのんびりとすることにした。
………
……
…
なんだ、あの治癒師は?
外傷や病気を治すのは、私たち錬金術師が作り出すポーションしか存在しないはず。
いや、あのクソッタレ教会の糞司祭たちが使える『神の雫』と言う魔法なら、同じような効果を発揮できる。
けど、古い傷なんて、普通は治すことができない。
それをあの治癒師は、いきなり傷を切り開いて治療した。
しかも、わたしたちにしか作り出すことのできない魔法薬を目の前で作り出し、傷を塞ぐために神聖魔法を使う。
それも、神の雫ではない、本当の神聖魔法で。
「なんだ、なんだなんだなんだ? あんな治癒師なんて見たことがないぞ!! 何故、秘薬を用いないで魔法薬を作り出せる? 道具も必要としないで、なんであんなに簡単に作れる!!」
彼女の治癒は、錬金術の理から外れている。
かといって、あの成金主義の教会の手先のような雰囲気もない。
あの若さで、なんであんな未知の治療法が使えるのか教えてほしいところです。
「とりあえずはギルドマスターに報告しないと。あの伝説の魔法薬エリクサーを、秘薬も無しに作れるなんて……是非とも、冒険者ギルドではなく錬金術ギルドで身柄を抑えないとなりませんから!」
………
……
…
一時間後。
マーベルは二人の男性を連れて、冒険者ギルドに戻ってくる。
一人は左腕が肘から切断された元戦士、もう一人は両膝から下がないレンジャー。
どちらも十年以上昔に、魔物の大氾濫が起きた時にモンスターに襲われた被害者。
失われた四肢は、魔法薬や神の雫でも再生しない。
また、王都の大聖堂の枢機卿クラスの聖職者でなくては、再生の神聖魔法を操ることができないと言う。
にもかかわらず、マーベルはランガクイーノの治癒師適性を見るために二人を連れてきたのである。
「ち、ちょっと待ってください。流石に古傷の、しかも損傷部位の再生は不可能ですよ」
「そんなの、やってみないとわかりませんよね。ランガクイーノさん、この二人の古傷を癒してもらえますか? それが可能ならば、あなたの治癒師としての能力は錬金術ギルドが保証します。うちのギルドマスター特権で、錬金術ギルドの高ランク登録も行ってあげます」
明らかな越権行為に、受付嬢も顔を顰める。
「残念ですが、今回は冒険者ギルドのランク認定試験です。錬金術ギルドが顔を出すことではありません。それに、ここまでひどい怪我なんて、王都の聖職者でもない限りは不可能ですし、そもそも必要な寄付額が……って、何をしているのですか?」
受付嬢が、目の前に魔法陣を作り出している玄白に問いかける。
「いや、試験なのじゃから、これから始めるところじゃが?」
すでに解体新書に二人のデータは取り込んである。
そして魔法陣が展開すると、玄白は一人ずつ、四肢再建手術を開始した。
失った四肢についても、解体新書の能力によって、人造人間のパーツが作り出される。
こうなると、玄白を止めるものはどこにもおらず、一人一時間ほどで欠損四肢接合手術は終わった。
「……ふう。流石に二人連続は疲れるのう。それで、わしの認定試験は合格なのか?」
解体新書から取り出したエリクサーを飲みつつ、玄白はマーベルに問いかける。
その横では、手術が終わって体が普通に動くのか、患者の二人が体を動かしていた。
「う、うごく!! 体が元に戻った!!」
「こんな奇跡があるなんて……お嬢ちゃん、この御恩は一生忘れない!! 俺の全財産を叩いてでも、お礼をさせてくれ」
「いやいや。二人を治癒したは試験のためじゃから、御礼は必要ない。しかし、体はすぐに元のように戻ることはないじゃろうから、ゆっくりと体を馴染ませるが良い」
「「ありがとうございます!!」」
涙を流しながら、男たちは玄白に頭を下げる。
そんな事は気にもせず、玄白は頭を縦に振ってから、マーベルを見る。
「これで、わしの治癒師としての実力はわかってもらえたか? 合格か?」
「くっ……合格も合格、錬金術ギルドなら段位認定するレベルですよ!! なんで欠損部位の再建ができるのですか? あの腕と脚は、どうやって作り出したのですか? それに!それを繋げる魔法はなんなのですか!!」
「職業上の秘密じゃよ。一朝一夕で身につける事はできないじゃろうからな。さて、受付嬢さんや、これでわしも8級治癒師として登録されるのじゃな?」
この玄白の言葉に、マーベルは顎が外れそうになる。
才能の無駄遣いもいいところ、いや、玄白ほどの治癒師は、錬金術ギルドでお抱え治癒師になってもらいたいところだ。
「ランガクイーノさん!! あなたの腕があれば、この国で最高の治癒師を狙うこともできます。ぜひ、わが錬金術ギルドにも登録を!!」
「いやいや。わし、この後は治療院を設立するから、そっち方面には協力できそうになくてな」
「ち、治療院を? あなたの腕なら、王家お抱えの治癒師にも馴れます!!」
「ふむ、御殿医か。いや、そこまでの地位も要らん。冒険者ギルドに登録したのは、辻治療の許可が欲しかっただけじゃからな。では、手続きに向かうとしようか」
そう告げてから、玄白はマーベルにも頭を下げてから、受付に向かう。
そしてこの日、玄白の起こした奇跡が町中に広がった。
奇跡の治癒師
神の腕を持つ治癒師
さまざまな噂が噂を呼び、やがてその声は教会や領主のもとにも届き始めた。
0
お気に入りに追加
245
あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる