丘の上の王様とお妃様

よしき

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丘の上の王様とお妃様 10

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  王さんとの素敵なデートから、二人がお互いの気持ちを確かめあった後(王さんとデートを始めてから、まだ24時間経っていない)。実はここがあの『幽霊屋敷』...もとい、王さんのお宅だと知ったのは、少し遅めのブランチを食べている最中。つまり、たった今のことである。
  イギリスの 19世紀の建築様式の貴族の館を再現したものだそうで。王さんのおばあ様(貴族の令嬢)の実家に似せて、帝国財閥前当主であった、王さんのお父様が造くられた。
  ちなみに、王さんの容姿は、イギリスのおばあ様に一番似ているのだそうだ。わたしは、その話を聞いて思わずストンと納得してしまった。髪は黒くとも、瞳が青みがあり、光の加減で鮮やかな青に見えたのは、そのせいであったのだ。
  謎が解けた時、人間は一番頭が空っぽになるのかもしれない。
  素晴らしい貴族の館で、目の前の何をしていても様になる王さんも、極上の美味しさのブランチも、そして黒い服を着た執事さんも...庶民代表(ランクは中の下ではあるが)な私にすれば、お伽噺の世界初にでも紛れこんだかの様である。 
  そして、怖いことは、その世界に片足を半分突っ込んでいる自分がいる。 
  極めつけは、最後に執事の黒田さんがスマートに紅茶を入れ、
「今朝は、ダージリンのホワイトティーでごさいます。先日インドで手に入りましたので。」
と、一礼をしてから王さんの2mほど後方へと下がったその姿は、正に『信頼関係』が成り立っている。私とはまた違った関係が成り立っているのだ。
  そんな、モヤモヤとした気持ちを抱え込む私なのだが...
  王さんは、香りを楽しんでから、優雅に紅茶を嗜んでいた。私は、その口元に目が釘付けとなった。
『そう、その唇と私はキスをしたんだ』
私は、無意識のうちに自分の唇を手で触っていた。
  それを見ていたのか、王さんは
「タマちゃん、熱いのはにがてなのかい?」
まるで王さんは、私の駄々漏れな表情をたのしむように、ニコリと微笑む。
  ハッとして、わたしは慌ててティーカップのお茶をゴクリと飲み込んだ。
『お、美味しい?!』
私は、思わず目を見張った。日頃飲んでいるダージリンの味ではない。全く別物...正確にはダージリンよりもふくよかな薫りと深みのある味!
「これ本当にダージリンなんですか?!」
  私は、思わず叫んでしまった。
「ダージリンと同じ茶葉だが、葉のなかでも1枚葉だけを手積みしたものだ。お湯を注ぐ前は、茶葉に産毛が生えたように見えて、白っぽい所から『ホワイト』の名がついているんだ。」
「そ、そうなんだ...」
  私も、ダージリンにも季節によって茶葉の呼び名が違うことは知っていたけど...そんな種類があるんだなんて。流石は、帝国財閥の王さんがいつも飲んでいる物は、一般人とちがった洗練された飲み物である。
  私は、改めて王さんと自分のいる世界の違いを感じた。
  でも、それならば、何故二ヶ月も喫茶店「坂上の上」にかよってきたのだろうか?それが王さんの私のへの気持ちをだぅたのだろう。仕事は多忙だったはずなのに、毎日私の所へとやって来てくれた王さんの思い...
  私の、王さんに対する気持ちは、変わらない。王さんが言わなくても分かる。    だって、王さんが好きなのは、ありのままの私だから!
  「タマちゃん、また百面相?」
  王さんの笑いが声が聞こえて、私も、現実の世界に引き戻された。
「まあ、そう言うところは、昔と変わらないのだけれどね。」
「昔と変わらない?」
  私は、王さんのその言葉に少し違和感を感じた。だって、私の記憶の中で、王さんに会った覚えはないからだ。
「そう言えば、このお屋敷って、王さんのお父様が私の両親に会いに来るために造られたって、言ってましたよね?」
  私は、不意に疑問が沸き上がってきた。
「タマちゃんのお母さん、環さんは、私の父と従妹同士でね。」
王さんがゆっくりと席を立った。そして、まるで私を促す様にそのまま部屋を出ていく。私も、その後を追うことにした。
  だって、王さんは昔の私に会っているのに、私の記憶の中で王さんは出てこないのだ。
  王さんは、私の手を優しく握った。そして、廊下をゆっくりと歩き始めた。
「タマちゃんのお父さん、司さんは、俺の父と高校時代からの学友でね...」
  私は、少し驚いた。何せ、両親の昔話などほとんど聞いたことがなかったからだった。もちろん、親子仲はよかったのだが。なんと言うか、いくつになっても恋人同士みたいにな夫婦だったので。正直思春期の少女だった私には、恥ずかしい気持ちの方が強かったのだ。
  王さんは、また私の微妙な表情を見られるとばかりに、楽しそうに話を続ける。
「三人はそんな訳で学生の頃から仲がよくってね。」
  王さんは、とある部屋の扉の前で立ち止まった。
「さあ、どうぞ。」
  扉を開け放つと、王さんは、あえて私に先に入るように促した。私はその誘いに答える様に、一歩部屋に足を踏み入れた。
  



  
  
  
  

  
 





    
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