蜜色の瞳のシェヘラ

よしき

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新たな命

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  そして、月日は無情なほど早く。妊婦であるファティマを臨月にしていた。
  相変わらず、アレックスは忙しく出かけては、なにやら奔走をしていた。

  そんなある日の夕暮れの事。
  屋敷へ、突然知らせの者だと言う男が現れた。それをすぐさま対応したセバス・ダンは、どんな時でも物静かな男だが、この日は違った。ものすごい勢いで、ファティマの元へと駆けつけると、激しくドアをノックしてきた。
「どうしたのですか?セバスさん?!」
  尋常ならざるそのノックの音に、身重なファティマは、ベッドから身を起こした。
「奥様、た、大変でございます。か、閣下が、旦那様が、何者かに襲われたそうでございます!」
  セバス・ダンの戸惑いのと、慄きの声が、ドアの向こうから聞こえてくる。ファティマは、息を飲んだ。
「それで、旦那様は・・・!」
ファティマがそう言いかけた途端。ファティマの大きなお腹は、母の心に反応したかのように、大きくズキンといたんだ。そして、ファティマは何か生暖かい水が布団を濡らしているのを感じた。
「セバスさん、破水したみたい!あぁ、お医者様を・・・」
  なんとか気力を振り絞ってそれだけ言う。しかし、次の瞬間。ファティマは、とても激しい腹部の痛みに襲われた。それは、初産のファティマにも分かる、異常な痛み。
  ファティマは、そのままうずくまり、気を失ってしまった。


  

ファティマが、なんとか目を覚ましたのは、村の医者と産婆が来てからだった。
「奥様、もうご安心下さい。」
  扉の向こうから、セバス・ダンが必死に安心させようと声をかける。うっすらと、ルカの姿も見えた。多分、心配をしてきてくれたのだろう。
「おい、奥様。もう少しで赤ん坊の顔が見えるってさ。しっきりしろよ」
  いつものルカとは思えないような優しい声である。
「はい・・・セバスさん、ルカさん。」
  血の気の引いた唇でファティマは、呟いた。
「奥様、あと少しで御生れになります。どうか、お気を確かに」
  医師がそういう。
「ほら、頭が出てきたよ!」
  産婆の声がする。
  ファティマも、教えられた通りに必死で声を上げながら怒責をかける。
そして、
「おぎゃあーおぎゃぁー」
「元気な女のお子さんですよぉ」
  ファティマが目を覚ましてから、数分。赤ん坊の声が鼓膜に突き刺さる・・・
『あぁ、私の赤ちゃん・・・』
  ファティマは、疲れ切った表情のどこかに安堵を浮かべる。
   生まれたばかりで、まだ何も見えないというのに・・・その稀有な瞳に母を映し出す。そんな喜ばしい最中。ファティマは、静かにその双眸を閉じた。
  
  


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