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お姉様、罠を仕掛ける。
しおりを挟む***数ヶ月後。
エリーゼが私を嫌った一番の理由は、大前提に私が長女であるのにも関わらずお父様がエリーゼを次期当主にしようとしていることにある。
本当に血が繋がっているのか疑っているお父様は、私に早々に婚約者を決めた。
この国の法律では、結婚した男女が男性の方が地位が高かった場合 男性側は女性側の姓に入れないと決まっているから、我が一族よりも位の高いけど実質的な力関係は劣るアルフォンスと婚約させたということは私には侯爵家を継がせないと言われたも同然。
だけどそんな私と反対に、エリーゼは家を継ぐために自分よりも位の低い家の男と結婚しなければならないと決まったということになる。
自分を御伽噺のお姫様と同等だと思っている節のあるエリーゼにとって結婚は夢であり、結婚相手は王子様でなければならない。
家督を順当に私が家を継いでいれば、エリーゼの美貌なら本当に王家に嫁げたかもしれない。
だからエリーゼは私に夢を壊され、欲しくもない爵位と領地を背負わされた恨みが歪に膨らみ、前の人生で遂に私はエリーゼの企みで悪女に仕立て上げられ、処刑された。
だけどエリーゼ、悪いけどもうそんな結末はもうお断りよ。
次は貴女が悪女になりなさい。
「あら、お姉様。お庭にいらっしゃるなんて珍しいですわね。」
「エリーゼ……」
「傘もささずに外へ出られると日に焼けますわよ?」
日に焼けなくても、火属性は生まれつき肌が褐色。私は親が光属性属性だからかそこまで色黒というわけではないけれど、エリーゼのような真っ白な肌はどうやっても手に入れられない。
「私はいいのよ。元から貴女のように可愛くないしね。」
「またそんなことを……アルフォンス様が悲しまれますわよ?」
白々しいわね。
そのアルフォンスと密会しているのはどこの誰なのかしら。
今更ながら、その天使みたいな顔でよくもまあそんなことが言えるわね。
「エリーゼ、リビア!ここにいたんだね。」
「あら、話をすれば。アルフォンス様、御機嫌よう。」
「なんの話をしていたんだい?」
私の名前よりも妹のエリーゼの名を先に口にする馬鹿なアルフォンス。
そして私を差し置いてアルフォンスと親しげに話し始めるエリーゼ。
過去に戻る前によく感じた疎外感。
昔はどうにかして仲良しの輪に私も入れてもらいたかった。
でも、この二人の輪の中に入るだなんて今はこちらから願い下げよ。
「私は用事があるから行くわね。アルフォンス、お父様に用事があったのならごめんなさい。生憎夜まで帰ってこられないの。」
「あ、ああ……こちらも急に来たから気長に待ってるよ。」
「そう、ごめんなさいね。それじゃ。」
ごゆっくり、二人でお楽しみなさって。
***さらに一ヶ月後。
この日は城で夜宴が開かれていた。
けれど、前の人生で私は体調不良でこの夜宴に出席しなかった。
そして、前の人生で起こったことを私は利用するつもり。
前の人生では、真夜中の月が真上に見える時間にバルコニーで「私もアルフォンスとダンスしたかったのに……」と呟いたあの時、バルコニーの下にエリーゼがいて偽りの優しい言葉を私にかけてきた。
その時はエリーゼの言葉を鵜呑みにして、あの子の慰めに心から感謝していた。
過去に帰ってきて、今回も使用人たちの心無い会話が聞こえてくる。
「リビア様、夜宴に行かれないなんて。」
「でも元からああいう場はお嫌いだもの」
「それよりも見ました!?エリーゼ様の今夜のドレス!」
「まるで天使だったわ!」
「あーあ、私も美しい令嬢に生まれ変わりたいわ。」
「でもリビア様のようになったら幾ら令嬢でも悲惨よ?」
「そうよね、私ならこの屋敷からもう逃げ出しているわ。」
「エリーゼ様が優しさで包まれているからよ。妹ながら姉をかばっていつも支えていらっしゃるじゃない。」
「まさに天使よ。私なら関わりたくないもの」
「そうよね。エリーゼ様、ご両親とリビア様の間に挟まれてご苦労されてますもの。」
静かな屋敷でエリーゼ付きの使用人達の声が聞こえてくる。
彼女達はエリーゼの見方で、彼女たちにとって私は主人の手を煩わせる出自のよく分からない邪魔者だった。
でも一ヶ月後、彼女達は変わらずにエリーゼの味方でいれるのかしら。
そして前の人生の時と同じく、月が真上を向いた頃、私はバルコニーへと向かった。
この下にエリーゼがいるはず。
「ああっ、どうしたらいいの……!」
私はわざとらしく体から崩れ落ちてそう嘆いた。
「私はただ光属性になりたかっただけなのに……どうしましょう、このカメラに映ってしまったわ。消し方を知らないのに……教授に相談……だめよ知られたら私はっ……どうすれば……」
そう言って泣くフリをしばらくしていたけれど、前の人生の時のようにエリーゼがバルコニーの下から私に話しかけてくることはなかった。
……ほら、やっぱりね。
貴女が分かりやすい悪女で私もやり易いわ。
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