【完結】ポンコツですが結婚して差しあげましょう。〜王太子殿下の農作体験記〜

雑煮

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新米より寝かせたお米が好きなのです

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しかしフリーシアが王都に帰る直前、事件は起こった。


稲を食う害虫が大量に発生し、王太子の田んぼの稲も食い荒らされたのだ。

急いで害虫駆除の農薬を手に入れようと奔走したが、この国では薬があまり出回っておらずに他国からようやく仕入れた頃には稲がボロボロになっていた。




「そんな......」

これでは立派に穂を実らせたとはいえない。

税率が高いために農薬が手に入れられないこの国の現状の悪さも明るみになり、二重で動揺してしまう王太子。




「大変です!殿下!」

「、今度はどうしたんだ。」

「それが......フレーシア侯爵令嬢が王都に帰られたと報告があり、令嬢が稲を見に来られたいと言われているようで、」

「そうか......分かった。」



隠すことも出来ない。

致し方ない。ありのままを見せるしかないだろう。








そして翌日、フレーシアと王太子は稲の前で数ヶ月ぶりに再会をした。


「お機嫌麗しく、王太子殿下。」

「元気だったかいフリーシア。侯爵夫人も全快されたと聞いて良かったね。」

「殿下は、少し窶れておいでですわ。」

「ああ、そうかな。......稲は、害虫にやられてしまったよ。農薬が我が国ではとても高価なものになってしまっているのも今回の件で初めて知った。やっぱだめだなぁ、僕は......君に手作りの新米を食べさせてあげたかった。」



稲がだめになったなら婚約の件はなしですわね


そんな架空の声が王太子の頭の中に響いた。


そう言われると確信していた!





しかし、



「わたくし、実は寝かせたお米の方が硬めで好きなのです。」


「え......?」


「今度わたくしの領地の古米をご馳走様させてください。......その時は求婚状も、一緒に持ってきてくださいますか?」



そこまで聞いてようやく王太子はフリーシアが何を言わんとしているのか理解した。




「いいのかい?」

「......元よりお受けするつもりでしたから。」



そう言って顔を赤らめるフリーシア。

王太子はフリーシアは思ったことを口に出してしまう女性だと思っていた。けれど、素直になれないからキツイ言葉を言ってしまうことがある女性だということをこの時知った。


つまり......



「結婚しよう!フレーシア!」

「きゃっ」


王太子はフレーシアを抱きしめ、クルクルとその場で回った。




「もう......殿下、びっくりしました」


「ははっ。フレーシア、愛してる。大好きだよ。」



目を見て真っ直ぐにそう言う王太子。

フリーシアもそんな彼にいつの頃からか行為を持ってしまったのだ。




「これからは誠意を込めてお支えさせて下さいませ。」



「ああ。よろしく頼む!」



そう言った王太子の金の髪は実った稲穂のように優しく輝き、幸せに満ちた笑みはフリーシアを安心させた。




「それにしてこんな大きい田を用意されたのですね。」


「ああ、稲を植えるのも一苦労だったよ。」


「まあ、まさかこの広さを一人で?」


「半日かかってしまったよ」


「......嫌なことは嫌だと言われてくださいね?」


「全然嫌じゃなかったさ。フリーシアの為ならなんだって出来る。」


「分かりましたわ、もう......」



そして二人は見つめ合い、稲穂に見守られながら口付けを交わしたのだった。







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