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かまくらの中で
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また地震。秋の日から余震が頻繁に起きている。神殿長の話だと、天変地異は神の愛が無くなりかけている証拠らしい。命の危機が、世界の危機がもう間近に迫っている。
秋に起きた巨大地震で死者・行方不明者ともに膨大な数になった。安否不明なまま、見つからない人の数が桁違いに多かったらしい。救助隊なんてものはこの世界にない。災害支援なんて言葉もない。横たわる現実には目を逸らせないまま、日数だけが過ぎていく。
冬の今、少しは落ち着いたが、――それでも復興は遠い。
一面の銀世界。吐く息も白い中、出来あいのかまくらに入る。そこは外気と比べるとはるかに温かかった。
雪室の中でふたり寄り添う。そう、ライと。
わざわざ寒い中、外に出されてもやもやしてたけど――これは案外いいな。部屋の中にいるばかりでつまらなかったし、いい気分転換にもなる。
最近話題にのぼることを口にした。
「もし、明日世界が滅亡するとしたら……ライはどうする?」
「どうもしねぇよ」
「どうもしないって、それは?」
「別に普通に過ごすだろうさ。いや……違うな。真面目に過ごすのを止める、か? 鍛錬には行かないし、だらけて過ごすんじゃねーの?」
「いや、たまにサボってるから、全然真面目じゃないだろ。でも、そっか……なんか平凡だね」
「そうか?」
「うん」
静寂の中にも、かすかな音がする。息づかいや、雪が落ちる音なんかが。
「なぁ、シズク。お前に聞きたい」
「何?」
「この愛を謳う世界でだって、普通にどっかでは戦争は起きて、スリや詐欺なんていう犯罪は横行してる。子供を捨てる親はいるし、親を殺す子供もいる。金銀財宝を独占する悪人も大勢居るだろう。泥まみれなこんな世界、滅んで当然とは思えないか? シズクはそれでも……この世界を救いたいと思うか?」
かまくらの外を眺めながら、ライは尋ねた。その声のトーンは落ち着いていて、低く響いた。
悩んだ末、答えを出した。
「けして綺麗じゃないからって憎めないように、俺はこの世界の生命が死んでもいいとは思えない」
「良い子ちゃんの解答だな」
それっきり俺達の間から会話が消える。それでも蝋燭の灯は煌々としている。ぼんやりとゆらめく火を見ながら静かな時間だけが過ぎる。
「春のエレファが待ち遠しいよ」
春の忘れられない光景を懐かしむ。あの日のことが未だに忘れられない。
「綺麗だもんな。その気持ちは分かるが……俺は冬の方が落ち着いていて好きだ。春は、なんだか忙しない」
「はは、それは分かるかも。冬好きなのは……やっぱり狼だから?」
俺がふざけて言えば、ライは。
「狼って……お前、人をなんだと思ってるんだよ」
「う~~ん、獣?」
「やっぱり人じゃ無いじゃねーか」
そっと密着する。彼は俺の手を取る。悠然とした笑みにうっかり見惚れてしまう俺。
真っ白な世界にふたりだけ。静寂が下りる小さな世界。言葉はなくとも、温もりは伝わる。
「歌でも歌うか?」
「いいね」
狭い雪内に響く、俺達の歌声。重なる音が、心地よかった。それは穏やかな気持ちを誘う。
その夜の聖夜祭。神殿で行われた祈りを捧げる儀式で、俺は世界平和を一心に祈るのだった。
秋に起きた巨大地震で死者・行方不明者ともに膨大な数になった。安否不明なまま、見つからない人の数が桁違いに多かったらしい。救助隊なんてものはこの世界にない。災害支援なんて言葉もない。横たわる現実には目を逸らせないまま、日数だけが過ぎていく。
冬の今、少しは落ち着いたが、――それでも復興は遠い。
一面の銀世界。吐く息も白い中、出来あいのかまくらに入る。そこは外気と比べるとはるかに温かかった。
雪室の中でふたり寄り添う。そう、ライと。
わざわざ寒い中、外に出されてもやもやしてたけど――これは案外いいな。部屋の中にいるばかりでつまらなかったし、いい気分転換にもなる。
最近話題にのぼることを口にした。
「もし、明日世界が滅亡するとしたら……ライはどうする?」
「どうもしねぇよ」
「どうもしないって、それは?」
「別に普通に過ごすだろうさ。いや……違うな。真面目に過ごすのを止める、か? 鍛錬には行かないし、だらけて過ごすんじゃねーの?」
「いや、たまにサボってるから、全然真面目じゃないだろ。でも、そっか……なんか平凡だね」
「そうか?」
「うん」
静寂の中にも、かすかな音がする。息づかいや、雪が落ちる音なんかが。
「なぁ、シズク。お前に聞きたい」
「何?」
「この愛を謳う世界でだって、普通にどっかでは戦争は起きて、スリや詐欺なんていう犯罪は横行してる。子供を捨てる親はいるし、親を殺す子供もいる。金銀財宝を独占する悪人も大勢居るだろう。泥まみれなこんな世界、滅んで当然とは思えないか? シズクはそれでも……この世界を救いたいと思うか?」
かまくらの外を眺めながら、ライは尋ねた。その声のトーンは落ち着いていて、低く響いた。
悩んだ末、答えを出した。
「けして綺麗じゃないからって憎めないように、俺はこの世界の生命が死んでもいいとは思えない」
「良い子ちゃんの解答だな」
それっきり俺達の間から会話が消える。それでも蝋燭の灯は煌々としている。ぼんやりとゆらめく火を見ながら静かな時間だけが過ぎる。
「春のエレファが待ち遠しいよ」
春の忘れられない光景を懐かしむ。あの日のことが未だに忘れられない。
「綺麗だもんな。その気持ちは分かるが……俺は冬の方が落ち着いていて好きだ。春は、なんだか忙しない」
「はは、それは分かるかも。冬好きなのは……やっぱり狼だから?」
俺がふざけて言えば、ライは。
「狼って……お前、人をなんだと思ってるんだよ」
「う~~ん、獣?」
「やっぱり人じゃ無いじゃねーか」
そっと密着する。彼は俺の手を取る。悠然とした笑みにうっかり見惚れてしまう俺。
真っ白な世界にふたりだけ。静寂が下りる小さな世界。言葉はなくとも、温もりは伝わる。
「歌でも歌うか?」
「いいね」
狭い雪内に響く、俺達の歌声。重なる音が、心地よかった。それは穏やかな気持ちを誘う。
その夜の聖夜祭。神殿で行われた祈りを捧げる儀式で、俺は世界平和を一心に祈るのだった。
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