ミニュイの祭日

月岡夜宵

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前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)

公認の仲?3

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(あー……うん、これは僕――)
「完っ全にやらかしてますよね!?」
「今頃気づいたのか」
 リュカ様は苦笑いのあと咳払いをなされた。

 勢いに乗ってわざとらしい態度をとるほどに、ほんとにもう心当たりしかないのであった。そんな僕をリュカ様は毅然とした態度で突き放している。すでに処置なしといいたげに呆れている様子でもあったが。
 内密にとフレデリック様とエマ様も話し合っていたようだし、なんならリュカ様本人も相当気をもみながら周囲を欺くべく騙していたぐらいだ。それを僕は屋敷中の従業員にあっけらかんと明かした。しかも盛大に。
 オーマイガー!
 幸いなのは有能な執事長が気を利かせて彼らに箝口令かんこうれいをしいたからだが、そうでなかったらなんて考えたくもない。ほんと、ない。
 人の口には戸が立てられないというけれどまさしくその典型例になってしまった。
 苦し紛れにてへっと舌をだして反省アピールする僕だったが……それを冷めた目で見るリュカ様。
(……うあ、つめたい)
 絶対零度の寒さってこういうのかな。うう。隙間だらけの心に吹きすさぶこがらしに涙してしまう。

 使用人たちを巻き込んで吹聴したのは間違いなくて僕だった。
 というか、その極秘情報を話された人たちの方が気を遣っていた事実にいまさらながらがく然としている。
 みんないい人でよかったなー。
 って……、そーゆー話じゃないよねえ、これ。

 リュカ様はリュカ様で、使用人たちにバレたことを知っていたらしく(なにその観察眼、こわい……)、そのためわざと僕との接触を控えていたようだ。
 どきどわくわくしてお布団で待っていた僕のことを放置していたのにはどうやらしごくまっとうな理由があったらしい。
 僕はといえば、ぐっすり朝まで眠りこけ、その後よだれでハっとして目を覚ましていた。快眠である。 
 「よだれなんて垂らして、うまいもんの夢でもみてたかぁ?」
  自分とは反対に間抜け面の寝顔を確認し、三徹したのが今日、さすがに限界を迎えたらしく僕にぶち切れて今にいたる、とのこと。
(ふ、ふうーん? なるほど、ね)
「あっ、じゃあまさか! ずっとタイミングがないなって思ってたけど、昼間も隣に来なかったのって、僕に近づきたくなかったからなのでは……、え、もしかしてリュカ様相当怒ってらっしゃいます?」
 彼は冷や汗を流す僕に笑みで答える。
「や、そりゃあもう当然な」
 否定すらされなかった。

(大変なことになったぞ……)
 つまりあれだ、これはやばいぞ。どどどどうしよう!? 脳裏では三途の川が見えている気がする。知らない父と母と兄弟たちが僕に向かって手を振る幻覚まで見えてきた。反対に執事長のゴーザさんが合掌してるのだけはリアルだなって思った。あの人結構淡白だし。

 さて前置きはここまでといった雰囲気でリュカ様はその取り繕った笑顔を消していく。スゥゥと大きく息を吸うと一息にまくし立てる。

「このばかあれほどバラすなっていったろ!? なんだって。完全にことが大きくなってんじゃねーか!! お前の耳と頭はさてはかざりだな!」

 おまけにチョップまでされる始末。いや僕の不始末がすべて原因なんだけども。
 痛みをこらえながら弁明をはかる僕。
 しかし、釈明しゃくめいを許さぬほどリュカ様は僕をこんこんと叱りつけた。いつもより手厳しい文句にしおしおと気分は萎えていく。
 それはきついお小言に自覚がでできたせいもあった。
 リュカ様はきっとギリギリまでカモフラージュしていたはずだ。バラした僕の狂言だの妄言だのと一蹴するのは簡単でも真実を偽るのは難しい。だから今日まで気を張って違うふりしていたのだろう。気づかれまいと、ひとり頑なに。
 そのせいで寝られなかった彼を思ったら後悔がじわじわと染み込んでくる。

 間違いなく僕のせいだ。
 これでは隣に立つパートナーはおろか専属の侍従としても失格ではないか。

 視界が暗転するほどのショックに、口からは滑るように言葉が流れた。申し訳ございません、と。

 顔が涙で崩れることなんか構わずひんひんと泣く。
 涙と鼻水とでぐずぐずになった鼻声で何度も謝る。
 すでに僕の誠意だけではどうしようもないことはわかってる。だけど、それでも、言葉を尽くさないわけにいかなかった。
「ごべんなざいいいい」
 つっかえながら漏れる謝罪。
 リュカ様は差し出されたそれに戸惑ったように目を白黒させている。
「ったく、調子狂うな」
 いつもの口調に、僕は彼を見上げる。
 後頭部をかきながらリュカ様は続けた。
「泣きべそはもういいからせめて午後の授業までは寝かせてくれ」
「あい」
 殊勝にうなずくと、確認し終える前にリュカ様が僕の手を取って部屋を移動する。
 後をついて寝室に入ると、彼はすぐさまベッドにもぐり込んだ。もう眠くてたまらないといった様子に気苦労がうかがい知れ、僕はさらに泣きじゃくった。
「――っ」
(ん?)
 『Shushシッ』、と静かにという意味のコマンドが使われる。
 体はすぐさま承諾し、押し黙る。 
 寝そべった僕らは向かい合わせ。眼と眼がばっちり合うとリュカ様の手がびくつく僕の頭に触れた。
「お前が大人しいのは罪滅ぼしのつもりか」
 ささやく声。答えあぐねる。
 代わりにベッドのスペースを開けるようにもぞもぞと譲る。
 今にも落っこちそうなぐらい端に寄った僕を見かねてリュカ様はため息をつかれた。

 直後、迎えるように抱き込まれる。
 耳元ではかすかにくぁああと安堵するようなあくび。

「……これでも感謝はしてる、一応な」

 表情は険しい。のだが。
 耳朶を真っ赤に染めたリュカ様のお礼に僕の胸は一気に高鳴る。

(やっぱうれしいかも)

 きゅうきゅううなる胸とゆるいしめつけに鼓動は増す一方。
 そんな状態の僕に眠たげな声は語る。

「知られてしまったことはもう諦める。どのみちあとは覚悟を決めるだけだったからな。遅いか早いかの違いだけ。ただ……――ルナが、おまえが本気で付き合ってくれるなら悪くないかも、な」、と。
 
 堂々と昼寝をするために僕とともに訪れた寝室。リュカ様は腹をくくって休むことにしたらしい。
 寝息に近い深い呼吸が隣から聞こえる。僕のもどかしい形にならない感情。
 いつまでも隠し通すのは限界もあったからとわざわざ言い訳まで用意する主人の優しさに感動してしまう。
「まったく、僕がいないとダメダメなんですから! へへ」
「すぐ調子にのらなきゃいいんだがな」
 はー、という長いため息と地味に痛いデコピン。ぐずぐずととろけてるけど隠せていない僕の高揚感は見抜かれているようだった。
(でもやっぱり必要とされるのってうれしい)

 そうしてまぶたを閉じるリュカ様に安らぎのようなまどろみがあることを祈って、僕も一緒に眠りの底へと降りるのだった。




 あれから一週間後のやりとり。
 屋敷内の雰囲気は和やかで、 僕らは自慢の庭園の前でいこう。
 気持ちよさげに揺れる花たちに水をやっている庭師のドミニクさん。ホースから飛んでいく水しぶきで小さな虹がかかる。
 そんなななかメイドさんたちと話していた護衛のフィリさんがこちらに来る。
「ぼっちゃんとルナの関係は結局のところパートナーなんだっけ?」
 フィリさんに確認され首をひねりながら返答をする。
「えーっと、同衾する間柄ですかね? ごぶへ!?」
 突如横から肘打ちを食らった。横っ腹を狙うなんて……。
 リュカ様は日に日に体調も良くなりすくすくと育っていらっしゃるからこのまま凶暴さを備えて行くととんでもないモンスターが生まれてしまう。僕は主人の未来を恐れた。
「おいバカ。なんてこというんだ」
 言い方がまずかったらしい。言葉選びって難しいな。
(ならこれでどうかな)
「じゃあ専用の抱き枕でどうでしょうか?」
 歯ぎしりの音が間近でする恐怖! 手が出るより先にぼそっと声がした。
「このポンコツが」
 さらに手まで出たし! なんでだ!?
 ギロリという強い視線とともに熱烈な「今夜は寝かさないぞ(※文字通りのお説教で)」というお言葉を頂き、僕は絶叫した。
「ひぇぇぇぇーん!!!!」


 周囲はそんな僕らに色めき立つ。とくにメイドのリリエルが手放しで歓喜している。
「フンッ。せいぜい添い寝係だ!」というとリュカ様は僕の頭をグリグリして去っていく。
「だ、そうです……ぴぇぇ」
 情けない悲鳴をあげた僕は笑いこけるみんなを前に本格的に崩れ落ちた。

 公認のパートナーになるにはまだまだかかりそう。主にリュカ様の――……あえ、もしかして僕のせいだっていうのおおおお、ぐすん。

(よおおし、決めたぞ! リュカ様を降参?させてパートナーになってくださいって懇願させてやるもん!!)

 なーんて固い決意を胸に秘めるも人使いの荒いリュカ様にいいように抱き込まれ、今夜も今夜で人肌を分け合って眠りにつくのであった。
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