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前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)
ちいさな決意
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だいすきなおふとんに包まれて、僕は昼寝を――、
「させるわけないだろ!!」
「ぐふぇ」
華麗なる手さばきで布団が剥ぎ取られていった。なんと盗人はこの犯行にふさわしくない領地持ちのお貴族様。
「ははあ、なるほどな。待機時間を使って休んでたとはな」
(ついに秘密のサボタージュがバレてしまった!)
じつは犯人の正体は探偵だったのだ。それとは逆に。
(げ、現行犯逮捕だ……)
真犯人の僕には逃げ場がなかった。
白昼堂々の難事件はこうして名探偵により解決されたのである――……。
「ほらふざけてないででてこい」
「まだねみゅ、」
「意地汚いな。そんな習慣づくほどやってたとは。聞いて呆れる」
「ぎゃ、ぎゃあああ!? リュカ様の頭が!?」
あろうことか僕の私室のベッドなんかにリュカ様が倒れ込む。疲れたとあくびをして彼はいう。
「眠い。俺も寝る。だから共犯だ。今回とこれまでのは、ふわぁっ、水に流したことにして不問にしよう」
「なんかお手洗いの音がした感じがしますね?」
ぼふん、と頭を枕に乗せ……それ僕のと文句いうひまもなく、一つひかないちいさな枕を横取りして眠る体勢を整えるわが主。
「リュカ様が昼間から眠いなんて――まさか徹夜ですか!?」
「それはこの前の風邪でこりた。ただの睡魔だよ。久々に肉体を酷使して疲れただけさ」
らしくない言葉であったがピンときた。
「ああ、体育の授業ですね」
「そ。てなわけで俺を寝させろ、抱き枕」
まとわりつくリュカ様。枕扱いにむくれる僕ごと抱き込んでリュカ様は目を閉じる。仕方なく僕も横にならう。
「さっきからモゾモゾモゾモゾと……お前は用でも足しに行きたいのか!?」
「いえいえ、そんなわけでは!」
「じゃあなんだ?」
「――寝すぎて頭痛いんで「自業自得じゃないか」、ぐすん」
あっさりと一刀両断。僕は目を潤ませるも、リュカ様は聞いて損したと背中を向ける。
「お前は寝なくていいから俺を寝かせろ」
「はい……」
「なんか物悲しそうだな」
「一緒に寝たかったから残念です」
「……ごっは、ごほごほ。おまえっ、言葉には使い方があるんだぞ!?」
「はぇ?」
「あー、今ので本格的に眠気だけが吹き飛んだ。罰としてどうにかしろ」
「おはなしとかですか?」
「はあ? 昼間に聞いたやつ以外新しい話題あんのか?」
「ナイデス、じゃあええと……」
(お互いの昔話も知ってるしなぁ、どうしよ)
「あるだろ、ほら。音楽でも朗読でも歌でもいいから、食べる系以外で睡眠を導入する技術さ」
「ケアは?」
「お前にプレイする羽目になるから却下」
「じゃ、じゃあ子守唄でも歌います?」
「なんでもいいから早くしてくれ、ふわぁ、こっちは限界なんだ」
(ほっとけば寝ちゃいそうだけどなあ?)
黙っているのもアレなので口ずさむ。はじめはハミングしていただけだが、途中からは興が乗って、安らぎの子守唄とも地方では呼ばれるそれを歌う。演奏もなく歌うのは気恥ずかしかったが。
(なんか、いいかも)
リュカ様の手に手を添えて、あたたかな布団の中でまどろむ。これもまた、至福かな。むしろ役得ってやつなのでは?
「悪くないな」
(なっ……!? きか…………せてるんだった)
びっくりして後ろに引きかけた体を元に戻す。今のは心臓に悪かった。
リュカ様は目を見開いてこちらをみつめている。思わず瞬いた目。言おうかどうしようか悩んだあとで、口を開いた。
「お前、歌が上手いんだな。驚いた」
「そうでしょうか?」
「これまで一人で歌わせる機会もなかったから気づかなかったがな。いい、もっと聴かせろ」
にんまりと弧を描く彼の口元。薄い唇が楽しそうに歪められた。
それから何曲か調子に乗ってウィスパーボイスを心がけて歌っていると、あのリュカ様が、そんな王様じみた命令の仕方をするリュカ様が、ようじみたいにあどけない顔で眠りこけているのだ!!
(ほんとに眠ってる……)
ほっぺをつついても丸いまま。ふよん、と弾力を楽しむが、反応がないので少し物足りない。
寝ちゃったリュカ様に、褒められ足りない僕。
ほんとはもっとほめてほしかったけど……あ、そうだ!
あったかくていいお布団の中にもぐり込み、僕はうとうと決心した。
(歌、こっそり練習しよっと)
さてそんなわけでいきなり本日の予定をすっぽかした僕らはベッドの上で発見される。なかよくねむる主従は、家族と使用人一同に見守られたあと、そっとその閉められた扉の中で夜まで熟睡してしまうのだった。
「させるわけないだろ!!」
「ぐふぇ」
華麗なる手さばきで布団が剥ぎ取られていった。なんと盗人はこの犯行にふさわしくない領地持ちのお貴族様。
「ははあ、なるほどな。待機時間を使って休んでたとはな」
(ついに秘密のサボタージュがバレてしまった!)
じつは犯人の正体は探偵だったのだ。それとは逆に。
(げ、現行犯逮捕だ……)
真犯人の僕には逃げ場がなかった。
白昼堂々の難事件はこうして名探偵により解決されたのである――……。
「ほらふざけてないででてこい」
「まだねみゅ、」
「意地汚いな。そんな習慣づくほどやってたとは。聞いて呆れる」
「ぎゃ、ぎゃあああ!? リュカ様の頭が!?」
あろうことか僕の私室のベッドなんかにリュカ様が倒れ込む。疲れたとあくびをして彼はいう。
「眠い。俺も寝る。だから共犯だ。今回とこれまでのは、ふわぁっ、水に流したことにして不問にしよう」
「なんかお手洗いの音がした感じがしますね?」
ぼふん、と頭を枕に乗せ……それ僕のと文句いうひまもなく、一つひかないちいさな枕を横取りして眠る体勢を整えるわが主。
「リュカ様が昼間から眠いなんて――まさか徹夜ですか!?」
「それはこの前の風邪でこりた。ただの睡魔だよ。久々に肉体を酷使して疲れただけさ」
らしくない言葉であったがピンときた。
「ああ、体育の授業ですね」
「そ。てなわけで俺を寝させろ、抱き枕」
まとわりつくリュカ様。枕扱いにむくれる僕ごと抱き込んでリュカ様は目を閉じる。仕方なく僕も横にならう。
「さっきからモゾモゾモゾモゾと……お前は用でも足しに行きたいのか!?」
「いえいえ、そんなわけでは!」
「じゃあなんだ?」
「――寝すぎて頭痛いんで「自業自得じゃないか」、ぐすん」
あっさりと一刀両断。僕は目を潤ませるも、リュカ様は聞いて損したと背中を向ける。
「お前は寝なくていいから俺を寝かせろ」
「はい……」
「なんか物悲しそうだな」
「一緒に寝たかったから残念です」
「……ごっは、ごほごほ。おまえっ、言葉には使い方があるんだぞ!?」
「はぇ?」
「あー、今ので本格的に眠気だけが吹き飛んだ。罰としてどうにかしろ」
「おはなしとかですか?」
「はあ? 昼間に聞いたやつ以外新しい話題あんのか?」
「ナイデス、じゃあええと……」
(お互いの昔話も知ってるしなぁ、どうしよ)
「あるだろ、ほら。音楽でも朗読でも歌でもいいから、食べる系以外で睡眠を導入する技術さ」
「ケアは?」
「お前にプレイする羽目になるから却下」
「じゃ、じゃあ子守唄でも歌います?」
「なんでもいいから早くしてくれ、ふわぁ、こっちは限界なんだ」
(ほっとけば寝ちゃいそうだけどなあ?)
黙っているのもアレなので口ずさむ。はじめはハミングしていただけだが、途中からは興が乗って、安らぎの子守唄とも地方では呼ばれるそれを歌う。演奏もなく歌うのは気恥ずかしかったが。
(なんか、いいかも)
リュカ様の手に手を添えて、あたたかな布団の中でまどろむ。これもまた、至福かな。むしろ役得ってやつなのでは?
「悪くないな」
(なっ……!? きか…………せてるんだった)
びっくりして後ろに引きかけた体を元に戻す。今のは心臓に悪かった。
リュカ様は目を見開いてこちらをみつめている。思わず瞬いた目。言おうかどうしようか悩んだあとで、口を開いた。
「お前、歌が上手いんだな。驚いた」
「そうでしょうか?」
「これまで一人で歌わせる機会もなかったから気づかなかったがな。いい、もっと聴かせろ」
にんまりと弧を描く彼の口元。薄い唇が楽しそうに歪められた。
それから何曲か調子に乗ってウィスパーボイスを心がけて歌っていると、あのリュカ様が、そんな王様じみた命令の仕方をするリュカ様が、ようじみたいにあどけない顔で眠りこけているのだ!!
(ほんとに眠ってる……)
ほっぺをつついても丸いまま。ふよん、と弾力を楽しむが、反応がないので少し物足りない。
寝ちゃったリュカ様に、褒められ足りない僕。
ほんとはもっとほめてほしかったけど……あ、そうだ!
あったかくていいお布団の中にもぐり込み、僕はうとうと決心した。
(歌、こっそり練習しよっと)
さてそんなわけでいきなり本日の予定をすっぽかした僕らはベッドの上で発見される。なかよくねむる主従は、家族と使用人一同に見守られたあと、そっとその閉められた扉の中で夜まで熟睡してしまうのだった。
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