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第3部 - 番外編
番外編6 気持ちの確認
しおりを挟む「見ろ!」
彼らを守る土の壁の隙間から、西の空を見たイライアスが叫んだ。
0時ちょうど、水平線の向こうで光が弾けて、そして消えた。
「終わった、のか?」
彼らを攻撃していた船もリントヴルムの集団も、ピタリと沈黙してしまった。しばらくすると、イライアスが築いた土の壁の外で敵の猛攻を受け続けていた炎の巨人族のカシロとブレンダ、そして彼らを乗せた竜が戻ってきた。
「リントヴルムは西に帰ったようだ。船の様子も見てきたぞ」
その言葉にハッとしたのはコリーだった。彼の兄は王立魔法騎士団の騎士で、あの船に乗っていたのだ。
「けが人はいるが、大半は無事のようだ。『欲望』から解放されて呆けている。誰か船まで行って事情を説明してやれ」
この役はコリーとイライアス、そしてマークが引き受け、ダイアナとアーロンはその場に留まって王宮からの指示を待つことになった。
「怪我は?」
アーロンの問いに、ダイアナはふんっと鼻を鳴らした。
「かすり傷がいくつか。悔しいけど、イライアスの土魔法のおかげね」
「ああ。まさに鉄壁だな」
「彼、卒業したら王立騎士団に入るの?」
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「チェンバース騎士団に来てくれないかしら」
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「そうね。話してみるわ」
「……お前、チェンバース公爵家の当主になるつもりなのか?」
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「ああ、そうか」
「『死者の国』や『欲望』について、どこまで公表するのかはこれから調整が必要だろうけど。まあ、私に悪いようにはならないはずよ」
「すごい自信だな」
「馬鹿ね。うちの王様たちは、そういう人達よ」
人の善意と可能性を信じる。それを信念に国を治め続けてきた一族なのだ。彼らは自分の仕事に必ず報いてくれるはずだと、彼女は確信している。
「……俺、次男なんだ」
「何よ、急に。知ってるわよ」
アーロンは呆れた様子のダイアナに向き直った。いつも飄々とした様子の彼からは想像もできないほど緊張した面持ちだ。
「イライアスよりも先に、俺に声をかけてくれよ」
「あらやだ、拗ねてるの?」
ダイアナはニヤリと笑い、そしてアーロンの左手を取った。緊張でぎゅっと固くなった彼の指を優しく撫でる。
「物事には順序と形というものがあるのよ」
人差し指、中指と順に撫でていったダイアナは、最後に彼の薬指に触れた。
「まずはあなたのお父様に求婚状を送らなきゃ。婿養子に入ってもらうんだもの。きちんとしないといけないわ」
「……それよりも先にすべきことがあると思うけど」
「あら、そんなものあったかしら?」
「気持ちの、確認、とか……」
アーロンが唇を尖らせて言うものだから、ダイアナは声を立てて笑った。笑いすぎて目尻に涙が溜まって、頬が赤く染まっていく。
「それ、今さら必要?」
月の光に照らされてダイアナのプラチナブロンドの髪がキラリと光った。アイスブルーの瞳がアーロンを見つめていて、その奥には愛しいという気持ちがはっきりと見て取れる。思わず抱きしめた身体は想像よりもずっと華奢で、アーロンはほっと小さく息を吐いた。
「……好きだ」
「ん。私もよ」
ダイアナの細い指が、アーロンの背をぎゅっと抱きしめる。その温もりに愛しさが溢れた。
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