101 / 102
第3部 - 番外編
番外編6 気持ちの確認
しおりを挟む「見ろ!」
彼らを守る土の壁の隙間から、西の空を見たイライアスが叫んだ。
0時ちょうど、水平線の向こうで光が弾けて、そして消えた。
「終わった、のか?」
彼らを攻撃していた船もリントヴルムの集団も、ピタリと沈黙してしまった。しばらくすると、イライアスが築いた土の壁の外で敵の猛攻を受け続けていた炎の巨人族のカシロとブレンダ、そして彼らを乗せた竜が戻ってきた。
「リントヴルムは西に帰ったようだ。船の様子も見てきたぞ」
その言葉にハッとしたのはコリーだった。彼の兄は王立魔法騎士団の騎士で、あの船に乗っていたのだ。
「けが人はいるが、大半は無事のようだ。『欲望』から解放されて呆けている。誰か船まで行って事情を説明してやれ」
この役はコリーとイライアス、そしてマークが引き受け、ダイアナとアーロンはその場に留まって王宮からの指示を待つことになった。
「怪我は?」
アーロンの問いに、ダイアナはふんっと鼻を鳴らした。
「かすり傷がいくつか。悔しいけど、イライアスの土魔法のおかげね」
「ああ。まさに鉄壁だな」
「彼、卒業したら王立騎士団に入るの?」
「そう言ってたな」
「チェンバース騎士団に来てくれないかしら」
「そりゃあ、条件次第だろ」
「そうね。話してみるわ」
「……お前、チェンバース公爵家の当主になるつもりなのか?」
「そうよ。今回の件で父の失脚は免れないわ。その後は、家門を再興するために英雄ジリアン・マクリーンの親友が当主になるのよ。最高のシナリオでしょう?」
「でも、アレンとジリアン嬢の婚約破棄騒動の件は?」
「もちろん、お芝居だったと公表するのよ。そうじゃなきゃ、あの二人だって困るでしょ」
「ああ、そうか」
「『死者の国』や『欲望』について、どこまで公表するのかはこれから調整が必要だろうけど。まあ、私に悪いようにはならないはずよ」
「すごい自信だな」
「馬鹿ね。うちの王様たちは、そういう人達よ」
人の善意と可能性を信じる。それを信念に国を治め続けてきた一族なのだ。彼らは自分の仕事に必ず報いてくれるはずだと、彼女は確信している。
「……俺、次男なんだ」
「何よ、急に。知ってるわよ」
アーロンは呆れた様子のダイアナに向き直った。いつも飄々とした様子の彼からは想像もできないほど緊張した面持ちだ。
「イライアスよりも先に、俺に声をかけてくれよ」
「あらやだ、拗ねてるの?」
ダイアナはニヤリと笑い、そしてアーロンの左手を取った。緊張でぎゅっと固くなった彼の指を優しく撫でる。
「物事には順序と形というものがあるのよ」
人差し指、中指と順に撫でていったダイアナは、最後に彼の薬指に触れた。
「まずはあなたのお父様に求婚状を送らなきゃ。婿養子に入ってもらうんだもの。きちんとしないといけないわ」
「……それよりも先にすべきことがあると思うけど」
「あら、そんなものあったかしら?」
「気持ちの、確認、とか……」
アーロンが唇を尖らせて言うものだから、ダイアナは声を立てて笑った。笑いすぎて目尻に涙が溜まって、頬が赤く染まっていく。
「それ、今さら必要?」
月の光に照らされてダイアナのプラチナブロンドの髪がキラリと光った。アイスブルーの瞳がアーロンを見つめていて、その奥には愛しいという気持ちがはっきりと見て取れる。思わず抱きしめた身体は想像よりもずっと華奢で、アーロンはほっと小さく息を吐いた。
「……好きだ」
「ん。私もよ」
ダイアナの細い指が、アーロンの背をぎゅっと抱きしめる。その温もりに愛しさが溢れた。
114
お気に入りに追加
4,583
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!
友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」
婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。
そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。
「君はバカか?」
あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。
ってちょっと待って。
いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!?
⭐︎⭐︎⭐︎
「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」
貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。
あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。
「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」
「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」
と、声を張り上げたのです。
「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」
周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。
「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」
え?
どういうこと?
二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。
彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。
とそんな濡れ衣を着せられたあたし。
漂う黒い陰湿な気配。
そんな黒いもやが見え。
ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。
「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」
あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。
背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。
ほんと、この先どうなっちゃうの?

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」
21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」
そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。
理由は簡単――新たな愛を見つけたから。
(まあ、よくある話よね)
私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。
むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を――
そう思っていたのに。
「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」
「これで、ようやく君を手に入れられる」
王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。
それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると――
「君を奪う者は、例外なく排除する」
と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!?
(ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!)
冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。
……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!?
自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

間違えられた番様は、消えました。
夕立悠理
恋愛
竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。
運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。
「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」
ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。
ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。
「エルマ、私の愛しい番」
けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。
いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。
名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。

【完結】地味令嬢を捨てた婚約者、なぜか国王陛下に執着されて困ります
21時完結
恋愛
「お前とは釣り合わない。婚約は破棄させてもらう」
長年の婚約者であった伯爵令息に、社交界の華と称される美しい令嬢の前でそう告げられたリディア。
控えめで地味な自分と比べれば、そちらのほうがふさわしいのかもしれない。
――いいわ、だったら私は自由になるだけよ。
そうして婚約破棄を受け入れ、ひっそりと過ごそうと決めたのに……なぜか冷酷と名高い国王陛下が執着してきて!?
「やっと自由になったんだろう? ならば、俺の隣を選べ」
「えっ、陛下!? いえ、あの、私はそんな大それた立場には——」
「俺のものになればいい。お前以外に興味はない」
国の頂点に立つ冷酷な王が、なぜか地味なはずの私にだけ甘すぎる……!?
逃げようとしても、強引に腕を引かれ、離してくれない。
「お前を手に入れるためなら、何だってしよう」
これは、婚約破棄をきっかけに、なぜか国王陛下に異常なほど執着されてしまった令嬢の、予想外の溺愛ラブストーリー。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる