92 / 102
第3部 - 第2章 勤労令嬢と死者の国
第22話 あるメイドの手記
しおりを挟む
==========
シェリンガム暦1842年7月25日
深夜、旦那様がお戻りになった。
すぐに呼び出されて、『お嬢様』のお世話をした。疲れているのだろう、小さな『お嬢様』は深く寝入っていた。身体のあちこちに痛々しい痣が見えて、胸が痛んだ。
旦那様は私と騎士のノア・ロイドさんに、『彼女を主だと思え』とお命じになった。
それが命令ならば、従おう。
==========
7月26日
お嬢様は、いつでも『叱られるのではないか』と怯えている。いつも叱られてきたのだろう。どうして、こんなにかわいらしいお嬢様に、そんな酷いことができたのか。
うんと、大事にしよう。
これまでのことを全て忘れられるくらい。日々の暮らしに幸せを感じていただけるように。
……ああ、お嬢様の笑顔を見たい。きっと、可愛らしいに違いない。
==========
9月14日
旅に出たお嬢様を追い抜く形で、首都に到着した。
何度も何度もお迎えに行っていただくようにお願いをしたが、旦那様は頑固だ。
『旅をすることが彼女の望みだ。きっと、意味のある旅になる』
と……。
あんなに小さなお嬢様に……!
==========
9月28日
無事に首都に到着されたお嬢様は、本当に立派だった。小さかった身体が、一回り大きくなられたような気がした。
旦那様に抱かれて、わんわんと声を上げて泣いたお嬢様を見て、
胸が、いっぱいになった。
==========
シェリンガム暦1843年3月12日
ロイドさんと二人きりになったとき、ふと結婚の話題になった。
『今のところ、そんなつもりはない』と言ったら、ロイドさんも『自分も』と笑っていた。
『お嬢様がご結婚されて、その時にお互いに相手が居なければ、寂しい者同士で結婚するのも悪くないですね』と、ロイドさんがそんな冗談を言う人だとは思わなかった。
……冗談ではなかったのだろう。
その時は、いずれ来る。必ず。
想像して寂しくなったのだ。……私と、同じように。
その時が来たら。
寂しい者同士で一緒になるのも、悪くはない。その通りだ。
==========
==========
シェリンガム暦1851年12月15日
お嬢様が、拝謁の儀の日を迎えられた。
この日が来ることを待っていた。けれど、寂しい気持ちもある。
ロイドさんも、きっと同じ気持ちなのだろう。
見送りに出てきた私をチラリと見て、そして一つ頷いた。
どうか幸せになってください。その気持を込めて、お嬢様に手を振った。
==========
==========
シェリンガム暦1853年12月28日
ようやく魔大陸に到着した。
船酔いがないのは助かるけど、翼竜の背に乗って運ばれるのは落ちるのではないかと気が気でなかった。あっという間に到着したのが唯一の救いだ。
お嬢様のためにあてがわれた宮は立派で、調度も何もかも人族用に整えられている。まごころを込めて準備してくださったのだろう。細部に至るまで、心遣いが感じられた。準備をしてくださったのは皇帝陛下の後宮の妃たちだという。ありがたい。
この国でも、お嬢様が心地よく過ごしていただけるように、私も精一杯務めなければ。
==========
12月29日
昨日から、怒涛の展開が続いた。なんとか皇帝陛下の魔法で王国に戻ってくることができたが、お嬢様とロイドさんは既に北に向かった後だった。
人の未来を守るために、お嬢様は戦場に向かったのだ。
──私の小さなお嬢様。
どうか、どうか、どうか!
どうか、ご無事で……!
第2章 完 To be continued...
シェリンガム暦1842年7月25日
深夜、旦那様がお戻りになった。
すぐに呼び出されて、『お嬢様』のお世話をした。疲れているのだろう、小さな『お嬢様』は深く寝入っていた。身体のあちこちに痛々しい痣が見えて、胸が痛んだ。
旦那様は私と騎士のノア・ロイドさんに、『彼女を主だと思え』とお命じになった。
それが命令ならば、従おう。
==========
7月26日
お嬢様は、いつでも『叱られるのではないか』と怯えている。いつも叱られてきたのだろう。どうして、こんなにかわいらしいお嬢様に、そんな酷いことができたのか。
うんと、大事にしよう。
これまでのことを全て忘れられるくらい。日々の暮らしに幸せを感じていただけるように。
……ああ、お嬢様の笑顔を見たい。きっと、可愛らしいに違いない。
==========
9月14日
旅に出たお嬢様を追い抜く形で、首都に到着した。
何度も何度もお迎えに行っていただくようにお願いをしたが、旦那様は頑固だ。
『旅をすることが彼女の望みだ。きっと、意味のある旅になる』
と……。
あんなに小さなお嬢様に……!
==========
9月28日
無事に首都に到着されたお嬢様は、本当に立派だった。小さかった身体が、一回り大きくなられたような気がした。
旦那様に抱かれて、わんわんと声を上げて泣いたお嬢様を見て、
胸が、いっぱいになった。
==========
シェリンガム暦1843年3月12日
ロイドさんと二人きりになったとき、ふと結婚の話題になった。
『今のところ、そんなつもりはない』と言ったら、ロイドさんも『自分も』と笑っていた。
『お嬢様がご結婚されて、その時にお互いに相手が居なければ、寂しい者同士で結婚するのも悪くないですね』と、ロイドさんがそんな冗談を言う人だとは思わなかった。
……冗談ではなかったのだろう。
その時は、いずれ来る。必ず。
想像して寂しくなったのだ。……私と、同じように。
その時が来たら。
寂しい者同士で一緒になるのも、悪くはない。その通りだ。
==========
==========
シェリンガム暦1851年12月15日
お嬢様が、拝謁の儀の日を迎えられた。
この日が来ることを待っていた。けれど、寂しい気持ちもある。
ロイドさんも、きっと同じ気持ちなのだろう。
見送りに出てきた私をチラリと見て、そして一つ頷いた。
どうか幸せになってください。その気持を込めて、お嬢様に手を振った。
==========
==========
シェリンガム暦1853年12月28日
ようやく魔大陸に到着した。
船酔いがないのは助かるけど、翼竜の背に乗って運ばれるのは落ちるのではないかと気が気でなかった。あっという間に到着したのが唯一の救いだ。
お嬢様のためにあてがわれた宮は立派で、調度も何もかも人族用に整えられている。まごころを込めて準備してくださったのだろう。細部に至るまで、心遣いが感じられた。準備をしてくださったのは皇帝陛下の後宮の妃たちだという。ありがたい。
この国でも、お嬢様が心地よく過ごしていただけるように、私も精一杯務めなければ。
==========
12月29日
昨日から、怒涛の展開が続いた。なんとか皇帝陛下の魔法で王国に戻ってくることができたが、お嬢様とロイドさんは既に北に向かった後だった。
人の未来を守るために、お嬢様は戦場に向かったのだ。
──私の小さなお嬢様。
どうか、どうか、どうか!
どうか、ご無事で……!
第2章 完 To be continued...
40
お気に入りに追加
4,482
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「いなくても困らない」と言われたから、他国の皇帝妃になってやりました
ネコ
恋愛
「お前はいなくても困らない」。そう告げられた瞬間、私の心は凍りついた。王国一の高貴な婚約者を得たはずなのに、彼の裏切りはあまりにも身勝手だった。かくなる上は、誰もが恐れ多いと敬う帝国の皇帝のもとへ嫁ぐまで。失意の底で誓った決意が、私の運命を大きく変えていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる