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第2部 - 第3章 勤労令嬢と王子様
第22話 蒼い炎
しおりを挟む『やあ、君がジリアンだね』
しわがれた声で言ったのは、小さな人だった。
顔は目深に被ったフードで見ることができない。唯一見えている口元は、嬉しそうに微笑んでいる。フードは丈の長いローブと繋がっていて、裾が地面を引きずっている。老獪な魔法使いのような雰囲気を漂わせている人だ。
(あ、牙……)
上唇から二本の牙がはみ出していて、ヒト族ではないと気付いた。
『おいで、みんなが待ってる』
差し出されたのは、小さな手だった。その皮膚は苔の生えた鱗に覆われ、爪は鋭く尖とがっている。
「あなたは、誰?」
『恐いものじゃないよ。おいで』
誘われるがままに、その手をとった。
いつの間にか、ジリアンも小さくなっていた。彼女の手を握る小さな人と、同じくらいの背丈になっている。『クェンティンの冒険』を真似て首都まで旅をした頃の姿に。
二人で手を繋いで、森の中を進む。しばらくすると、大きな木がそびえ立っていた。王宮の塔よりも大きいかもしれない。現実味のない光景に、ジリアンは目を見開いた。
『こっち』
さらに進むと、木の根元には崩れかけの建物が建っていた。古い神殿のようだが、壮麗な姿は見る影もない。
そこには、いくつかの人影があった。ヒトもいれば獣もいた。教科書で見た、様々な種族の人が、ジリアンを笑顔で迎えてくれる。泰然と身体を横たえていたドラゴンは、片目だけを開けてジリアンを見た。
「あの……」
『みんな、君を待ってたんだ』
なおも手を引かれる。ドラゴンが起き上がって伸びをした。
『さあ、行こう』
『待ってたよ、ジリアン』
『嬉しいよ』
口々に声をかけられて、初めは戸惑った。しかし、その戸惑いはすぐに消えてしまった。初めて会うのに、そうじゃない。どこか懐かしい感覚が沁み渡っていく。
『行こう』
ドラゴンが、ジリアンと小さな人を背に乗せてくれた。二人してはしゃいだ声を出すと、皆が笑った。
崩れた神殿の向こうへ。
そこには、大きな扉がそびえ立っていた。木漏れ日を浴びて、キラキラと光る石造りの扉だ。
「ねえ」
ジリアンが声をかけると、小さな人が首を傾げた。
『なんだい?』
「この扉の向こうには、何があるの?」
『楽園だよ。悲しみも苦しみもない。ただ、幸せな場所』
「そこへ、連れて行ってくれるの?」
『そうだよ。普通の人は行けないんだ。ジリアンは特別』
「特別?」
ドラゴンの背から降りると、その扉がわずかに開いた。甘い花の香りが漂ってくる。
『そう、特別。僕らと一緒だよ』
改めて、ジリアンは周囲の人々を見回した。その内の一人が、見覚えのある人だと気付く。マクリーン侯爵家の本邸に飾られている、最も古い肖像画に描かれている女性だ。
「あなたは、ドーラ・マクリーン?」
思わず尋ねたジリアンに、女性が頷いた。
背の高い女性だ。鋼色の髪を靡かせ、腰には大剣を下げている。マクリーン侯爵家の始祖、もはや神話の中の人だ。
『ここにいるのは、みな地上で偉業を成した者たちだ。……魔法を使ってな』
女性が言った。
『人や魔族のために戦い、魔法の神秘にたどり着いた。そして、ここへ至った』
改めて扉を見上げる。
「これが?」
『そう。魔法の神秘と世界の真実を明かす場所、生命の源でもある』
女性がジリアンの頭を、優しく撫でた。慈しむように。小さな子供にするように。
『行こう。君の務めは終わった』
「終わった?」
『忘れ去られたんだ、私たちと同じように』
ジリアンは、徐々に頭がぼんやりしてくるのが分かった。
「私、忘れられたの?」
『そう。世界は君を必要としていない。こんなに素晴らしい魔法を持っているのに』
「でも……」
何かを言おうとしたが、言葉は続かなかった。ぼんやりした頭では、何も考えられない。
『さあ、行こう。……楽園へ』
腕を引かれ、背を押され、その扉に手をかけた。
その時だ。
何かが、ジリアンの胸の中に湧き上がってきた。熱い、何か。
「なに?」
それは一瞬にして大きく膨れ上がって、たちまちジリアンの身体を包み込んだ。
『蒼い、炎……』
女性が感心したように呟いた。ジリアンの身体は、蒼い炎に包まれて。ついには、元の姿に戻った。子供ではない、19歳のジリアンの姿に。
「これは……。お父様?」
呟いた途端に、一気に頭が冴え渡った。ぼんやりしていた意識が晴れて、何もかもを思い出す。
「……私、帰らなきゃ」
踵を返したジリアンの腕を、小さな人が引いた。
『ダメだよジリアン、そっちは』
「でも」
『帰ったって、辛いだけだよ。苦しいだけだよ』
「だけど」
『扉の向こうには、君を傷つける人なんかいない。……戻れば、また君は苦しむことになるんだよ?』
黒く濁った瞳のハワード・キーツ。彼はジリアンを傷つけることを楽しんでいるようにも見えた。戻れば、彼と戦わなければならない。彼だけではない。多くの人が、ジリアンを陰謀の渦に巻き込もうと画策している。
『それに、叶わない恋に胸を痛めることもない』
ハッとして小さな人を見た。フードの下の瞳から、はらはらと涙をこぼしている。
『ジリアン、一緒に行こうよ』
胸がぎゅっと締め付けられた。これまでの辛かったこと、悲しかったことが走馬灯のようにジリアンの脳裏を通り過ぎていく。
「……うん。そうだね」
ジリアンの返事に、小さな人は嬉しそうに頷いた。
『そうだろ? じゃあ、行こう』
「だから、行けないよ」
ジリアンは、そっと小さな人の手を振りほどいた。
『どうして?』
傷ついた様子でジリアンを見上げる小さな人。それでも、ジリアンの答えは揺らがなかった。
「私は、苦しくても悲しくても、生きていたい」
どれだけ辛いことが待ち受けていても、それでも生きていたい。その理由は単純だ。
「大切な人がいるから」
一緒に生きていきたい人がいるから。
「愛しているから」
蒼い炎が小さくなる。そして細く長く収束し、扉とは反対の方向へ真っ直ぐに伸びていった。
(道標だ)
蒼い炎が、帰り道を指し示している。
「ありがとう。あなたたちのこと、忘れないわ」
再び踵を返した。今度は、誰も引き止めたりはしなかった。
ただ、温かな手のひらがジリアンの背に触れる。ドーラ・マクリーンの手だと、すぐにわかった。
『いきなさい。わたしたちは、ずっとここで待っている。……愛しい子よ』
背を押されて、次の瞬間には白い光に包まれた──。
* * *
ゆっくりと目を開くと、天蓋から垂れる薄ピンクのカーテンが目に入った。ソフィーの寝室だ。
ジリアンはくるりとうつ伏せになって、枕に顔を埋めた。彼らの優しさに思いを馳せて、涙と嗚咽をもらす。しかし、それは一瞬のことだった。
「帰らなきゃ」
時刻は夕方頃だろうか。間もなく日が沈む。
(どうしてこんな時間に、ベッドで眠っていたのかしら)
ソフィーとしての最後の記憶は、あの夜の翌朝。スチュアートと話をした場面だ。
(あの後、眠らされたんだわ)
理由はわからないが、『黒い魔法石』を使って眠らされていたのだ。ジリアンは自分の中にわずかだが『黒い魔法石』の気配が残っていることに気づいていた。その魔力とジリアンの魔力とが混じり合い、深い眠りに落ちていたのだと推測する。
(だから、あの場所へ導かれた……)
霜の巨人族の男が、『黒い魔法石』を飲み込む時に言っていた。『魔法の神秘へ触れる場所へ!』と。
(地上と、あの場所を繋ぐもの。それが『黒い魔法石』なんだわ)
本来、生きたままでは辿り着けないはずの、あの場所へ至る力を持っているのだ。
(あれは邪悪なものではない。使い途だけが、問題なんだ)
急いで起き上がって、クローゼットから乗馬服を取り出して着替えた。スチュアートがソフィーのために誂えたものなので癪だが、この際仕方がない。
次いでドアノブに手をかけた。しかし、扉は開くどころか、バチッと音を立ててジリアンの手を弾いてしまった。
「鍵の魔法ね」
扉の向こうから、人が来る気配。内側から触れると、外へ知らせが行くようになっていたのだ。
だが、慌てる必要はない。
ジリアンは、トントンと軽快な足取りで後ろへ下がった。5歩下がったのと同時に、扉が開く。
「『疾風』」
扉を開けた男と、その後ろにいた男が跳ね飛ばされて、廊下の壁に激突した。壁に当たってからズルズルと床に落ちた身体は、しかし直ぐに起き上がった。不自然な角度に曲がった関節、ぐにゃりと曲がった背骨、そして虚ろな瞳がジリアンを見ていた。
「『死者たちの女王』の魔法!?」
廊下の向こうからは、同じ様子の騎士やメイドたちが次々と迫ってくるのが見えた。慌てて部屋に戻って扉を閉めたが、閉まる寸前で遮られた。青白い指が、扉の隙間から覗いている。
「ご明答、ジリアン」
ねっとりとした声に、背筋が震えた。ドアノブを握る手に力を込めたが、無駄だった。別の誰かの力が加わって、あっけなく開かれるドア。
そこには、ニタリと笑うハワード・キーツがいた。
「スチュアートの仮面はどうしたの?」
焦りを悟らせないように、努めて冷静に言った。予想が正しければ、状況は最悪だ。
「ああ、あれなら、もう必要なくなった」
じりじりと後退るジリアン。それをうっとりと見つめるハワードには、焦りなど微塵もない。ジリアンが『仮面』の魔法を破っているのに、だ。
「今夜、全てが終わる。だから、あの男の仮面も、ディズリー伯爵家も必要なくなった」
彼の後ろからは、続々と騎士や使用人たちがソフィーの寝室になだれ込んで来る。ジリアンに襲いかかれという命令を、今か今かと待っているようだ。
室内で大勢に囲まれるのは、魔法騎士にとって致命的だ。一網打尽にするような魔法では自分にも危険が及ぶのだから。こういう場面では剣で応戦しながら局所魔法で各個撃破がセオリーだが、今のジリアンは剣を持っていない。
「それで、全員殺したの?」
「そうだ」
最後に入ってきたのは、見知った人達だった。スチュアートの妹であるフェリシア嬢、そしてディズリー伯爵夫妻。その変わり果てた姿に、思わず目を逸す。
「私も、もう必要ない?」
「元々、私のお遊びだ。……さて、どうしようか?」
再びニタリと笑ったハワード。その両手が妖しく蠢くと、死者たちがピクリと動いた。思わず身構えたジリアンに、ハワードはくつくつと笑った。彼はジリアンの様子を見て楽しんでいるのだ。
「あなた、最低ね」
「褒めてくれるのか、嬉しいね」
「気持ち悪い」
「くくく。その気持ち悪い男のものになるんだよ、これから。身も心も、ね」
「お断りよ」
「いつまでそんな口をきけるかな?」
今度こそ、死者たちがジリアンに襲いかかってきた。
「殺すなよ? 私の玩具だ」
その瞬間、屋敷の外から激しい熱風が襲いかかってきた。ジリアンが背にしていた窓の外で、真っ赤な炎が燃え上がる。
「火事?」
そうではないとすぐに分かった。炎は屋敷の外側だけを燃やしている。中には被害が出ないように加減されているらしい。
(中の敵を炙り出そうとしているんだわ!)
炎の意図は、すぐに分かった。
そして、ハワードが窓の外に意識をやった、その瞬間、をジリアンは見逃さなかった。
──ガシャーン!
窓を蹴破って、外に飛び出した。
この部屋は3階。だが、魔法を使えるジリアンには関係ない。
ジリアンと同じように窓から飛び降りつつ襲いかかってくる死者たちに『火球』を打ち込みながら、自分の周りには風魔法を練り上げる。
「相変わらず、器用なものだ」
ハワードの声がわずかに聞こえた。
屋敷を包んでいた炎の壁を飛び越え、庭に着地すると、すぐに駆け寄ってくる人影があった。一人が馬を飛び降りて、その勢いのままにジリアンを抱きすくめる。
「お父様!」
温もりに包まれて、ようやく実感した。
(ああ、帰ってきたんだわ)
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