28 / 102
第1部 - 第2章 勤労令嬢と魔法学院
第27話 ある学生の手記
しおりを挟む==========
シェリンガム暦1851年9月1日
今日は王立魔法学院の入学式だった。午前中の序列決めでは、いつも通りの実力が発揮できてよかった。第六席なら、父上も納得だろう。
しかし、第一席に指名されたジリアン・マクリーン嬢の魔法は素晴らしかった!
==========
9月2日
授業初日の今日。さっそく行われた『魔法戦術実習』の授業、楽しかった! その一言に尽きる! チェンバース教授は素晴らしい先生だ、間違いない!
ジリアン・マクリーン嬢の魔法はすごい。天候まで操られてしまっては、炎魔法では歯が立たないな。結局、全員が氷で足止めされている間に『的』を割られてしまった。さすが、英雄クリフォード・マクリーン侯爵のご令嬢だ!
==========
9月6日
今日は『魔法移動学』の授業があった。風魔法で身体や物を浮かす以外にも、こんなに色々な方法があるなんて!
それにしても、今日は運が良かった。ジリアン・マクリーン嬢の隣の席に座ることができたので、彼女からいろいろ教えてもらうことが出来た。もともとの才能もあるんだろうが、その知識量といったら……。
とはいえ、彼女の護衛騎士の視線の鋭いこと……。殺されるかと思った。
==========
9月14日
また、ジリアン・マクリーン嬢が人助けをしている現場を目撃した。これで何度目だろうか。今日は食堂で紅茶をこぼしてしまった職員に声をかけ、その制服を綺麗にしていた。ついでに床もピカピカに掃除していた。
……あの職員は、平民だ。僕らとは、住む世界の違う人間だ。それなのに。
==========
9月15日
今日は外部からの来客があって、ジリアン・マクリーン嬢と一緒に接待の担当になった。
……感心した。
彼女は、一回りも年上の貴族男性と堂々と渡り合っていたのだ。卒なく会話をこなし、社交界的な冗談まで理解していた。魔法に関する専門的な質問にも、経済的、政治的な質問にも、きちんと答えていた。
淑やかで、けれど堂々としていて。貴族然としたその姿に、見惚れた。
ぼやっと彼女のことを見ていたら、護衛騎士に睨まれた。まずいまずい。殺される。
==========
9月19日
休日。今日はイライアスと一緒に街にでかけた。そこで、またしてもジリアン・マクリーン嬢が人を助けていた。
道で転んで貴族の馬車の足を止めてしまった薄汚れた少年。彼を助け起こし、怪我を治し、汚れを落とし。一緒に馬車の持ち主に謝っていた。そこまでされたら、馬車の持ち主だって何も言えない。
最終的には、少年と手をつないでどこかへ行ってしまった。
彼女はどうして、あんな風に笑っていたのだろうか。
==========
9月23日
今日の『魔法戦術実習』は、リブー医師の都合が悪いということで実践はなし。代わりに、互いに得意な魔法を教え合うことになった。
ジリアン・マクリーン嬢は、平民出身の生徒たちに根気強く攻撃魔法を教えていた。楽しそうだった。
==========
9月27日
食堂で、ジリアン・マクリーン嬢と相席になった。相変わらず、アレン・モナハンとつるんでいるらしいが、今日は一人だった。(もちろん、近くに護衛騎士がいるわけだが)
そこで、気になっていたことをきいてみた。「どうして平民に優しくするんですか?」だ。ジリアン嬢は、心底わからないといった様子で首を傾げていた。「私、優しくしていましたか?」ときた。食堂で職員を助けたことや街で子供を助けた件を伝えると、今度も首を傾げた。
「あなたは、そうしないの?」
まいった。
彼女は俺達とは全く違う。器の大きさが違うんだ。名門侯爵家の後継者であり、英雄の娘。だけど、そうじゃない。彼女の本質の前では、そんなものはオマケに過ぎない。
ああ、どうやったら彼女と友達になれるんだろうか。心底、アレン・モナハンのことが羨ましいと思った。
==========
9月30日
妙な噂が耳に入ってきた。
「ジリアン・マクリーン嬢が、学院の男をとっかえひっかえして遊び呆けているらしい」と。とんでもない話だ。ただの噂話にしたって、これは酷い。
噂をしていた生徒たちを諌めようとしたが、これはイライアスに止められた。
曰く、「こういう噂は誰かが否定すればするほど過激になる。特に、今回は男子生徒が否定するのは悪手中の悪手だ」だと。
……その通りだ。
==========
10月7日
今日も、例の噂が耳に入ってきた。堂々と噂していたんだ、食堂で! ジリアン嬢本人も食堂にいるというのに!
午後の授業の前にジリアン嬢に声をかけたが、挨拶だけで行ってしまった。チェンバース教授に呼ばれていたらしいが、適当な言い訳だ。俺は、避けられている。放課後、イライアスや他の男子生徒にその話をすると、みんな同じ状況らしいとわかった。おかしな噂に巻き込まないために、男子生徒を遠ざけているのは明らかだ。
==========
10月10日
今日は休日。数人の男子生徒で、イライアスの屋敷に集まった。このまま指をくわえて見ているわけにはいかない。
誰かが言った。「これって、貴族派の手が回ってるんじゃないか?」と。確かにその通りだ。いずれにしても、早々に解決しなければ。
==========
10月14日
ダイアナ・チェンバース嬢が仲間に加わった。ありがたい。彼女は相当頭が切れる。基本的には彼女の方針で進めていけばいいだろう。急がなければ。
……今日も、ジリアン嬢は一人だった。食堂で一人食事をしながら、少し寂しそうに見えたのは、見間違いじゃないはずだ。
==========
10月19日
もう少し時間がかかりそうだ。他の学年の生徒への根回しが、思いの外たいへんだ。ダイアナ嬢に言わせれば、「これで他学年ともパイプができて、一石二鳥ね」だ。
……まあ、これが彼女の照れ隠しだということはわかっている。彼女が寝る間も惜しんで一番必死に動いているということは、仲間内では暗黙の了解だ。それを指摘しないのも、貴族令息の嗜みというものだろう。
==========
10月22日
ジリアン嬢は、どうしてあんなにも辛抱強いのだろうか。いっそ異常だ。これだけ悪意のある噂話に晒されているというのに。いつも通りに登校して、いつも通りに勉強して、いつも通りに他人に親切だ。
辛くないのだろうか。怒りは湧かないのだろうか。そんなはずはない。それなのに。どうして、辛いと言わないのだろうか。悲しいと言わないのだろうか。授業なんか休んでしまえばいい。適当なことを言うなと怒ればいい。そうしてくれれば、俺たちだって安心できるのに……。
どうして、自分を大事にしてくれないのだろうか。
==========
10月31日
ようやく、全ての準備が整った。新聞社への連絡もよし。教職員への根回しもよし。
アレン・モナハンが王室に伝手があるらしいので、そっちにも根回しをしてくれたらしい。あいつ、何者なんだ?
==========
11月2日
ついに、明日は決闘だ。
予想通り、噂を流した根本の人物は名乗り出なかった。引き伸ばしても、特定することは難しいだろう。ただし、今日までに全ての女子生徒がジリアン嬢に謝罪の手紙を送ったということは聞こえてきた。
ならば、予定通り明日で手打ちにするべきだろう。
被害者であるジリアン嬢と戦うのは、いささかおかしな感じもするが。 いや。当然のことだ。俺たちは怒っているんだ。ジリアン・マクリーン嬢に対して。
明日の決闘で、少しでも俺たちの気持ちが伝わることを願う。
それから、彼女と友達になれるといいな……。
第2章 完 To be continued...
---------------------------------------
第2章(魔法学院編)これにて完結です!
次話から、第1部の最終章!
黒い魔法石の正体とは……?
162
お気に入りに追加
4,526
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる