捨てようとした命の価値

水谷アス

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価値を与えてくれた人へ感謝を

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「…あれは、恋する目ね」

隣で妻が青い目を三角にして
ちょっとむっとしている。

妻が怒った顔を見ると
あの日頬を捻り上げられた日を
思い出して笑ってしまう。

歳を重ねるごとに
母親にそっくりになるな。

「なんで笑ってるのよ?」

このままニヤニヤしていたら
妻からも頬をつねられそうだ。
おれは慌てて答えた。

「いや、あの人が
恋してる相手は
『おれとミカの作品』だよ。

ミカがおれの描く世界に
ぴったりの絵を
描いてくれるから
物語を作れるんだ。

おれの伝えたいことを
君が一番わかって
くれてるからこそ、
あの絵が描けるんだろ。

大丈夫だよ。

僕にとってミカはずっと、
とても大切な人だ」

そう言うと妻は
顔を真っ赤にして
目をそらした。

「…!

…あなたは
なんでそう、
恥ずかしげもなく
そういう言葉を…」

おれはミカの手を
そっと握った。

「怒っていると
おなかの子に悪いよ。

…おばあちゃんに
怒られる」

ミカは照れ臭そうに
笑って言った。

「赤ちゃんが生まれる前に
島に遊びに行きましょう。

太郎と私の新しい絵本…
モゲマルたちにも
読んであげないとね」
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