捨てようとした命の価値

水谷アス

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新しい友だち

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その辺の草をかじってみた。
苦くて食べられなかった。

キノコも見つけたけど
怖くて食べられなかった。

おれは火の前に座り込んで
ただぼんやりと明るい火を見ていた。

「…なんだ。結局死ぬんだ」

中途半端に生かしやがって。
なんで飛び降りたときに
死なせてくれなかったんだよ。

涙がにじんできた。
飢えて死ぬって辛そうだなぁ。

ガサガサと裏の茂みから物音がした。

…また、あのウサギだ。
何でまた出てきたんだろう?

ウサギは、もげもげ言いながら
おれの前にそっと
リンゴをひとつ、置いた。



一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ウサギが、おれに、リンゴを持ってきた。

食べ物だ。

でも、なんで?

滲んでいただけの涙が
思わずボロボロこぼれた。

あまりに嬉しくて、思わず
そのウサギをまたつかまえた。

今度は食べるためじゃないよ。
抱きしめるためだ。

「なぁ。おまえのこと
今度からモゲマルって呼んでいい?」

リンゴを食べながら
おれはウサギに話しかけた。

ウサギはただ

「もげ?」と首をかしげた。

おれはこの島で
ひとりぼっちじゃ、なくなった。

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