捨てようとした命の価値

水谷アス

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ひとりぼっち

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おれの名前は佐藤太郎、中学1年。
今、切り立った崖から
海を見下ろしながら
自分の存在価値を考えている。

地味な名前に地味な顔。
勿論性格も地味。
生まれつきの三白眼で
目つきが悪いと絡まれ、
学校ではいじめのターゲット。

勉強も運動も大してできないけど
オヤジは有名大卒のエリートだから
俺の成績が悪いことが許せない。
試験のたびに長々と説教されている。

学校にも、家にも。
気の休まる場所なんてない。

彼女でもいれば楽しい生活を
送れるんじゃないかと思ってさ。
好きな女の子に
思い切って告白もした。

でも
「あなたに告白されたなんて
恥ずかしいから誰にも言わないで」
だって。

わざわざそんな言い方しないでさ、
フツーに断れば良くない?

こんな俺が生きてる意味って何なんだろ。
出来る事もない、
出来ない事は否定される。
好意を伝えても拒まれる。

自分が生きてる価値なんて、
正直無いと思ってる。
だからここに来た。

崖から見える海の波は荒れ狂っていた。
覗き込んだら正直怖くなったけど
この先の人生を生きるよりは怖くない。

「さよなら。世界」

最後だと思って思わず
そんな言葉をつぶやいた。

そして、崖の上から自分の身体を
海に向けて放り出したんだ。

そのまま人生終わるはずだった。
でも、気が付いたらどこかの浜に
自分が流れ着いている事に気が付いた。

「…生きてる…」

意を決してあんな高いところから
飛び降りたのに何で死んでないんだ。
ちゃっかり生き延びてしまった。

最後だと思って
「さよなら。世界」とか
呟いた事が強烈に恥ずかしい。
何やってんだよおれ。

身体のあちこちは痛いけど、
奇跡的に殆どケガもしていない。
いいことのない人生だったから
とっておきの幸運がこんなところで
使われたのかもしれない。

人生終わらせることを望んでも
死ぬすら出来ないなんて、結局
俺にとっては幸運でもなんでもない。

島の周りをぐるりと歩いてみる。
そんなに大きな島じゃないみたいで
あっという間に一周した。

人の気配はない。
人工物も見当たらない。

「無人島…かぁ」



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