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〜Machinery city〜
「unknown」Part2
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『IDを認証しました』
機械音声が聞こえ、扉が開くと格納庫内の電気が点いた。
「いやー、ちょっち散らかってるけど、まぁ、気にしないで」
辺りには何かの工具、金属パーツ、ケーブル、書類がばらまかれている。
「言っちゃえばここ私専用の場所でさぁー、少年、何気にここに入るのめっちゃレアだよ?記念すべき2人目だからね」
教諭は床に広がったケーブル類を避けながら進み、何か巨大なものを固定する機器の下まで行く。
「……」
…ユウキは教諭の奥にある物を見ていた。
「ほら、少年もこっち―――お、気づいた?」
教諭は両手を腰に当てこっちを向くと、「やっぱ気になるよねっ!」とウィンクしながら人差し指をユウキに向ける。
「この後ろのハンガーだけど、そこに私の愛機『T.B-I.P』が格納されてる。更にその後ろにもう一機あるんだけど、それは私の前の搭乗機。まぁ今は予備機だねっ」
固定具の隙間から見える黒い人型の機動兵器。
―――
またしても視界が白くぼやけ、鋭い頭痛が―――
「―――ほら少年!いつまでもそこで突っ立ってないで、もっと近くで見なよ!」
教諭の声で我に返る。いつの間にか目の前にいて、興奮気味にユウキの腕を引っ張る。
…今回は頭痛が襲ってこなかった。
「―――この子は全長約20mあってね!まぁこれは他のアームズとあんま変わんないだけど、私の機体はちょっと特殊でね!他にない仕掛けが―――」
奥のハンガーに行き、そのまま固定具のリフタに入ろうとしたとき、教諭はの動きが徐々に遅くなり我に返ったように言った。
「…って、これはどうでも良いことだったね。本命に取り掛からないと」
「つい興奮しちゃった☆」と言いながら、最初のハンガーまで戻る。
固定具のリフト部分に行き、上に上がる。
「よっし着いたね少年!」
教諭は振り向き、格納庫全体を指し示すように手を広げて話す。
「改めてようこそ私の専用ラボへっ!今少年が対面するのは、…レデリカに止められてるから布被せてあるけど、つい先日急に現れた所属不明機ッ!」
…教諭の後ろにあるのは、深緑の布で被され、天井から吊るされた状態の物体だった。
「一見「え、これが?」って思うけど、頭、四肢、背中とか殆ど欠損した状態で見つかったから、コクピット部分だけ無事だったのは奇跡としか言い様がないね」
『―――こうなるからさぁ!』
「っ…!」
ノイズ混じりに少年の声が響く。…ユウキは咄嗟に頭を押さえた。
「…ちな、不思議なことにパイロットは不明でさぁ、というのもコクピットの中に誰もいなかったんだよねぇー」
言いながら教諭は物体の目の前に行くと、布で覆われてない金属部分の場所に、横にあった端末のケーブルを差し込む。
「歪みに巻き込まれた時に消滅しちゃったのか、はたまたどっかで記憶失って生きているか。少年見たいにねっ」
そう言って教諭は手に持った端末をユウキに向ける。
「まぁその仮説を試す訳じゃないけど、念のためってことでここに手置いてくれない?」
教諭は目を輝かせる。
「………」
…ユウキは言われるがまま、端末に手を置いた。
「何の躊躇いもなく…」
そう言ってる間に、端末から電子音が響く。
「―――!」
教諭は一瞬にやけると、端末を横に置く。
「りょーかい。協力ありがとう少年。多分もうそろそろ演習終わる頃だと思うから、先に講義室に戻ってな」
そう言って教諭はユウキをリフトに入れ、腰まであるドアを締める。
「場所分かんなくなったら、レデリカからもらったと思う『M.I.D』見なよ。ついでにこの子の事『Unknown』って呼んでるけど、何か分かったら少年にも教えるよ!当然の権利としてね」
その言葉を聞いた瞬間、リフトが下に下がる。
ーーー『当然』という引っかかる言葉。
「あ、そうそう!この後また移動あるけど、少年はそのまその場待機で!」
最後に上から教諭の声が響き、リフトが1階に着く。
「………」
ユウキは灰色の世界のまま、力無く歩き出した。
『―――敵撃破。総数46』
システム音声が聞こえ、青年は笑みを浮かべる。
「結構倒せてる方だとは思うんだけど、今期は優秀な人が多いっぽいね…!」
視界の端、コクピットモニターの右上に表示されているスコア表には、カズトと同じぐらいに『ユーリア』『アメリア』『リュージ』『美乃』という名がある。
撃破数の平均は17ぐらいだが、この人達は軽々その平均を越している。
「これは、赤付き争い激化しそうだ―――なッ!!」
言いながらカズトが操るアームズはT.O.D.L.Fに蹴りを入れ、両手に握らせたライフルで榴弾を撃ち込む。
『敵撃破。総数47』
―――残り45秒。せめてあと3体。
『―――』
カズトの心情に呼応するかのように警報音がなる。
「気たッ!」
半壊した建物からT.O.D.L.Fが飛び出す。
カズトは直ぐ様機体を急速反転。姿勢制御はせず、銃口が敵に合う瞬間にトリガーを引き撃破する。
『敵撃破。総数48』
「次ッ!」
機体が慣性でそのまま一回転し、微かに見えていたT.O.D.L.Fに狙いを着ける。
「当たれェ!!」
銃を散弾モードから狙撃モードに切り替え、両方で速射しながら接近する。
撃ち込んだ榴弾は殆どが命中し、T.O.D.L.Fは躍りながら崩れ落ちる。
『敵撃破。総数49』
―――残り23秒。十分。
すると後方から警告音が鳴り響いた。
「おっとッ!」
地面を蹴り横に回避する。直後伸びた腕がコクピットすれすれを通過し、前方の瓦礫に突き刺さった。
カズトは瞬時に腕を脇に抱え、スラスターを全開にして上空に飛ぶと、本体を引っ張り上げる。
―――残り17秒ッ!
バーニアも活用して機体を回転させ、徐々に遠心力を強めながら振り回す。
「そッらッ!!」
―――残り12秒。
十分に遠心力が強まったところで機体を縦回転させ、思い切り地面に叩きつけた。
「とどめぇぇッ!!」
スラスター全開で本体に急接近。両手の銃を構え、銃口を皮膚に密着させると零距離から全弾撃ち込んだ。
『敵撃破。総数50―――時間制限に達しました。シミュレーションを終了します。なお、この記録は各教諭に送られます』
目標の最後の一体を倒した瞬間、演習が終了する。
「…まだまだだな」
全然足りない。こんなんじゃ奴を殺せない。
カズトは背中のNLS器具を外し、シミュレーションポッドのハッチを開ける。
新鮮な空気を吸い、ポッドから出ると端末横に置いていた飲み物を飲む。
「……!」
…ほんと、赤付き争い厳しいものになりそうだな…
視界の端に映った端末に表示されている最終スコア。
さっき上位にいた人達は全員45前後。中でも…
「これは負けてらんないね…」
『ユーリア・アシスティ』という名前。総スコアは49で、カズトと1しか差がなかった。
カズトは一抹の不安に駆られる。
『赤付き』の枠は毎期1枠。今は最上位にいるが、他の人達はこの先確実に実力を上げてくる。絶対に枠に入れる保証はない。
絶対譲らせない…
カズトは飲み物のフタを閉めると、パイロットスーツから制服に着替えるため着衣室に向かう。
…でも、アシスティって人には一度会ってみたいな。どんな人なのか―――
そう思いつつ階段を下り、踊り場に足掛けようとした時、何かを踏んでバランスを崩した。
「―――うわっ!?」
倒れる。―――がその瞬間に後ろから腕を掴まれた。
「…あなた、大丈夫?」
女性の声。
「…う、うん…!」
引っ張られ、体勢を立て直してくれる―――…が、本当に落ちる寸前に掴まれたため姿勢が悪く、逆に悪化して―――
「離して―――」
助からないと悟り、後ろの人にそう言うが遅かった。
「きゃっ…!?」
支えてくれていた人も体勢を崩し、一緒に床に落ちる。
…段差の角にぶつかったのか、身体の節々が痛い。
「イッテテ…ご、ごめんなさい!だ、大丈夫!?」
カズトは体を起こし、覆い被さられていた長い金髪の女子生徒に呼び掛ける。
「え、えぇ…―――!!」
すると、突然蒸発したかのように顔を真っ赤に染めた。
何かと思い、その視線の先を見ると―――
「―――!!」
右手に感じる柔らかい感触。
カズトは瞬時に手を離し、起き上がる。
「あ!いや!これはっ!ち、違っ!」
女子生徒は赤面しながら胸を隠し、立ち上がるとカズトを睨み付ける。そして―――
「!―――」
―――バチンと言う甲高い音が、踊り場に響いた。
イテテ…
…その後、カズトは人目を避けながら制服に着替え、教棟ロビーのイスに座っていた。
跡はないが、頬が真っ赤になり濡れたハンカチを押し当てている。
「―――その…さっきはごめんなさい…」
声がしてその方向を向くと、さっきの人がいた。
カズトは立ち上がり、両手をブンブンと横に振る。
「あ!い、いや!謝るのこっちですから!助けてもらったのに、…その、セクハラ行為を…」
「…もう気にしてないわ。あれは事故だもの」
「ご、ごめんなさい…」
こういう時何て言ったらいいか分からない。
「だから気にしてないわ」
すると、制服に着替え、長い金髪に青い瞳をした彼女はM.I.Dを見ながら言った。
「…それよりももう次の講義が始まるけどいいの?」
「えっ!?あ、ほんとだ…」
カズトも端末を取り出して確認し、時間を把握する。
「お先にどうぞ」と彼女に先頭を譲り、少し離れたところでカズトも歩きだした。
この後の予定は何だったかなぁー…
そう思いながら彼女の後ろを歩く。
にしても…
カズトは自然と、彼女の後ろ姿をじっと見ていた。
スタイル抜群で細い脚。容姿も端麗で声も華麗。今朝会ったあの女の子に引けを取らないぐらい可愛いな…
胸辺りを見ると、右手にあの柔らかい感触が―――
「―――そう言えばあなた。演習での総スコア一位だったわね」
すると急に彼女は振り向き、そう言った。
「えっ!?」
目線に触ってしまった場所が映り、ドキッとして思わず大きめな声をだす。
「?どうかした?」
「い、いや!何でもないです!あはは…!」
カズトは手を横に振り、苦し紛れにそう答える。
僕のバカーッ!何邪な事考えてるんだバカー!?
自分をそう罵りながら冷静を取り戻しつつ、彼女にあることを聞いた。
「でもどうして僕の事を?」
最上位だったことを知ってると言うことは、カズトの事を知ってると言うこと。
その疑問に対し、彼女が答える。
「今朝オオデマリ教諭に質疑をしていたでしょう?そこで名乗っていたから」
その言葉に「あ、…そういえばそうだった」とその時の事を思い出す。
「でも、ああいう場で疑問を言えるのは良いことよ。その繰り返しで理解も深まるし、意欲を示すポイントにもなる」
いつの間にか物理的に距離が縮まっていて、横に並んで話していた。
「そうですねー…でも教諭にも寄りそうですけどね。質疑を繰り返すのは、人によっては反感を買うことになりますし」
子供の頃から女友達がいなかったカズトにとって、二人一緒に歩いていると言うのは、とても心が踊る。
「そういう人は本部に異議を申し立てれば良いのよ」
もしかしたら、僕に気があるのではないか。脈アリなのではないかと行き過ぎた妄想をしてしまう。だが―――
「あっはは、まぁー…それも一つの手段ですよね」
…いや、それはないか。
「そうね」
よく見れば、横に並ぶ彼女と間が空いている。
僕は真っ直ぐにしか歩いていないし、自然とそうなったかもしれないが―――ちょっ…と試しに少しだけ横に寄ってみる。
「ところであなたは演習どうでした?自分なりの結果は出せましたか?」
「そうね…」
ここで然り気無く横に寄る。すると―――
「私としては満足だけど、どうせだったら一位になりたかったわ」
動いた分だけ、彼女も横にずれた。
「いやでもこれからですし、最後僕は運みたいなとこもあったので、次はこうも行かないかもしれないなーって」
…まぁだって、そもそも話をしてるんだから横に並ぶのは当たり前か。―――ん?
「あれ、今何て言いました?」
他の事に思考が向いている間に、何か重要な事を言っていた気がする。
「?私としては満足だけど?」
「もうちょっと後」
「どうせなら一位になりたかった?」
「―――そう、それ!」
カズトは立ち止まり、彼女を見る。
この人はついさっき、一度会ってみたいと思っていた―――
「あれ、もしかしてあなたって…」
カズトの言葉に、彼女は小さく息を吐いて言う。
「…私はまだ名乗ってなかったわね。ユーリア・アシスティ。さっきから思っていたけど、敬語は使わなくて良い」
言いながら彼女は前を歩くと、こちらを振り向く。
「あなたは私にとって驚異だから。赤付きは譲らない。…それだけよ」
その言葉を最後に、彼女は先を歩いていった。
一人の空間になり、静寂が包んでいる。
「―――赤付きは譲らない…か」
あの本気の表情。スコアから分かる拮抗した実力の持ち主。…取られる可能性は存分にある。だが―――
カズトは拳を握ると笑みを浮かべる。
「それはこっちの台詞だよ…!!」
そう。譲らせない。僕には赤付きにならなくてはならない理由があるんだから。
機械音声が聞こえ、扉が開くと格納庫内の電気が点いた。
「いやー、ちょっち散らかってるけど、まぁ、気にしないで」
辺りには何かの工具、金属パーツ、ケーブル、書類がばらまかれている。
「言っちゃえばここ私専用の場所でさぁー、少年、何気にここに入るのめっちゃレアだよ?記念すべき2人目だからね」
教諭は床に広がったケーブル類を避けながら進み、何か巨大なものを固定する機器の下まで行く。
「……」
…ユウキは教諭の奥にある物を見ていた。
「ほら、少年もこっち―――お、気づいた?」
教諭は両手を腰に当てこっちを向くと、「やっぱ気になるよねっ!」とウィンクしながら人差し指をユウキに向ける。
「この後ろのハンガーだけど、そこに私の愛機『T.B-I.P』が格納されてる。更にその後ろにもう一機あるんだけど、それは私の前の搭乗機。まぁ今は予備機だねっ」
固定具の隙間から見える黒い人型の機動兵器。
―――
またしても視界が白くぼやけ、鋭い頭痛が―――
「―――ほら少年!いつまでもそこで突っ立ってないで、もっと近くで見なよ!」
教諭の声で我に返る。いつの間にか目の前にいて、興奮気味にユウキの腕を引っ張る。
…今回は頭痛が襲ってこなかった。
「―――この子は全長約20mあってね!まぁこれは他のアームズとあんま変わんないだけど、私の機体はちょっと特殊でね!他にない仕掛けが―――」
奥のハンガーに行き、そのまま固定具のリフタに入ろうとしたとき、教諭はの動きが徐々に遅くなり我に返ったように言った。
「…って、これはどうでも良いことだったね。本命に取り掛からないと」
「つい興奮しちゃった☆」と言いながら、最初のハンガーまで戻る。
固定具のリフト部分に行き、上に上がる。
「よっし着いたね少年!」
教諭は振り向き、格納庫全体を指し示すように手を広げて話す。
「改めてようこそ私の専用ラボへっ!今少年が対面するのは、…レデリカに止められてるから布被せてあるけど、つい先日急に現れた所属不明機ッ!」
…教諭の後ろにあるのは、深緑の布で被され、天井から吊るされた状態の物体だった。
「一見「え、これが?」って思うけど、頭、四肢、背中とか殆ど欠損した状態で見つかったから、コクピット部分だけ無事だったのは奇跡としか言い様がないね」
『―――こうなるからさぁ!』
「っ…!」
ノイズ混じりに少年の声が響く。…ユウキは咄嗟に頭を押さえた。
「…ちな、不思議なことにパイロットは不明でさぁ、というのもコクピットの中に誰もいなかったんだよねぇー」
言いながら教諭は物体の目の前に行くと、布で覆われてない金属部分の場所に、横にあった端末のケーブルを差し込む。
「歪みに巻き込まれた時に消滅しちゃったのか、はたまたどっかで記憶失って生きているか。少年見たいにねっ」
そう言って教諭は手に持った端末をユウキに向ける。
「まぁその仮説を試す訳じゃないけど、念のためってことでここに手置いてくれない?」
教諭は目を輝かせる。
「………」
…ユウキは言われるがまま、端末に手を置いた。
「何の躊躇いもなく…」
そう言ってる間に、端末から電子音が響く。
「―――!」
教諭は一瞬にやけると、端末を横に置く。
「りょーかい。協力ありがとう少年。多分もうそろそろ演習終わる頃だと思うから、先に講義室に戻ってな」
そう言って教諭はユウキをリフトに入れ、腰まであるドアを締める。
「場所分かんなくなったら、レデリカからもらったと思う『M.I.D』見なよ。ついでにこの子の事『Unknown』って呼んでるけど、何か分かったら少年にも教えるよ!当然の権利としてね」
その言葉を聞いた瞬間、リフトが下に下がる。
ーーー『当然』という引っかかる言葉。
「あ、そうそう!この後また移動あるけど、少年はそのまその場待機で!」
最後に上から教諭の声が響き、リフトが1階に着く。
「………」
ユウキは灰色の世界のまま、力無く歩き出した。
『―――敵撃破。総数46』
システム音声が聞こえ、青年は笑みを浮かべる。
「結構倒せてる方だとは思うんだけど、今期は優秀な人が多いっぽいね…!」
視界の端、コクピットモニターの右上に表示されているスコア表には、カズトと同じぐらいに『ユーリア』『アメリア』『リュージ』『美乃』という名がある。
撃破数の平均は17ぐらいだが、この人達は軽々その平均を越している。
「これは、赤付き争い激化しそうだ―――なッ!!」
言いながらカズトが操るアームズはT.O.D.L.Fに蹴りを入れ、両手に握らせたライフルで榴弾を撃ち込む。
『敵撃破。総数47』
―――残り45秒。せめてあと3体。
『―――』
カズトの心情に呼応するかのように警報音がなる。
「気たッ!」
半壊した建物からT.O.D.L.Fが飛び出す。
カズトは直ぐ様機体を急速反転。姿勢制御はせず、銃口が敵に合う瞬間にトリガーを引き撃破する。
『敵撃破。総数48』
「次ッ!」
機体が慣性でそのまま一回転し、微かに見えていたT.O.D.L.Fに狙いを着ける。
「当たれェ!!」
銃を散弾モードから狙撃モードに切り替え、両方で速射しながら接近する。
撃ち込んだ榴弾は殆どが命中し、T.O.D.L.Fは躍りながら崩れ落ちる。
『敵撃破。総数49』
―――残り23秒。十分。
すると後方から警告音が鳴り響いた。
「おっとッ!」
地面を蹴り横に回避する。直後伸びた腕がコクピットすれすれを通過し、前方の瓦礫に突き刺さった。
カズトは瞬時に腕を脇に抱え、スラスターを全開にして上空に飛ぶと、本体を引っ張り上げる。
―――残り17秒ッ!
バーニアも活用して機体を回転させ、徐々に遠心力を強めながら振り回す。
「そッらッ!!」
―――残り12秒。
十分に遠心力が強まったところで機体を縦回転させ、思い切り地面に叩きつけた。
「とどめぇぇッ!!」
スラスター全開で本体に急接近。両手の銃を構え、銃口を皮膚に密着させると零距離から全弾撃ち込んだ。
『敵撃破。総数50―――時間制限に達しました。シミュレーションを終了します。なお、この記録は各教諭に送られます』
目標の最後の一体を倒した瞬間、演習が終了する。
「…まだまだだな」
全然足りない。こんなんじゃ奴を殺せない。
カズトは背中のNLS器具を外し、シミュレーションポッドのハッチを開ける。
新鮮な空気を吸い、ポッドから出ると端末横に置いていた飲み物を飲む。
「……!」
…ほんと、赤付き争い厳しいものになりそうだな…
視界の端に映った端末に表示されている最終スコア。
さっき上位にいた人達は全員45前後。中でも…
「これは負けてらんないね…」
『ユーリア・アシスティ』という名前。総スコアは49で、カズトと1しか差がなかった。
カズトは一抹の不安に駆られる。
『赤付き』の枠は毎期1枠。今は最上位にいるが、他の人達はこの先確実に実力を上げてくる。絶対に枠に入れる保証はない。
絶対譲らせない…
カズトは飲み物のフタを閉めると、パイロットスーツから制服に着替えるため着衣室に向かう。
…でも、アシスティって人には一度会ってみたいな。どんな人なのか―――
そう思いつつ階段を下り、踊り場に足掛けようとした時、何かを踏んでバランスを崩した。
「―――うわっ!?」
倒れる。―――がその瞬間に後ろから腕を掴まれた。
「…あなた、大丈夫?」
女性の声。
「…う、うん…!」
引っ張られ、体勢を立て直してくれる―――…が、本当に落ちる寸前に掴まれたため姿勢が悪く、逆に悪化して―――
「離して―――」
助からないと悟り、後ろの人にそう言うが遅かった。
「きゃっ…!?」
支えてくれていた人も体勢を崩し、一緒に床に落ちる。
…段差の角にぶつかったのか、身体の節々が痛い。
「イッテテ…ご、ごめんなさい!だ、大丈夫!?」
カズトは体を起こし、覆い被さられていた長い金髪の女子生徒に呼び掛ける。
「え、えぇ…―――!!」
すると、突然蒸発したかのように顔を真っ赤に染めた。
何かと思い、その視線の先を見ると―――
「―――!!」
右手に感じる柔らかい感触。
カズトは瞬時に手を離し、起き上がる。
「あ!いや!これはっ!ち、違っ!」
女子生徒は赤面しながら胸を隠し、立ち上がるとカズトを睨み付ける。そして―――
「!―――」
―――バチンと言う甲高い音が、踊り場に響いた。
イテテ…
…その後、カズトは人目を避けながら制服に着替え、教棟ロビーのイスに座っていた。
跡はないが、頬が真っ赤になり濡れたハンカチを押し当てている。
「―――その…さっきはごめんなさい…」
声がしてその方向を向くと、さっきの人がいた。
カズトは立ち上がり、両手をブンブンと横に振る。
「あ!い、いや!謝るのこっちですから!助けてもらったのに、…その、セクハラ行為を…」
「…もう気にしてないわ。あれは事故だもの」
「ご、ごめんなさい…」
こういう時何て言ったらいいか分からない。
「だから気にしてないわ」
すると、制服に着替え、長い金髪に青い瞳をした彼女はM.I.Dを見ながら言った。
「…それよりももう次の講義が始まるけどいいの?」
「えっ!?あ、ほんとだ…」
カズトも端末を取り出して確認し、時間を把握する。
「お先にどうぞ」と彼女に先頭を譲り、少し離れたところでカズトも歩きだした。
この後の予定は何だったかなぁー…
そう思いながら彼女の後ろを歩く。
にしても…
カズトは自然と、彼女の後ろ姿をじっと見ていた。
スタイル抜群で細い脚。容姿も端麗で声も華麗。今朝会ったあの女の子に引けを取らないぐらい可愛いな…
胸辺りを見ると、右手にあの柔らかい感触が―――
「―――そう言えばあなた。演習での総スコア一位だったわね」
すると急に彼女は振り向き、そう言った。
「えっ!?」
目線に触ってしまった場所が映り、ドキッとして思わず大きめな声をだす。
「?どうかした?」
「い、いや!何でもないです!あはは…!」
カズトは手を横に振り、苦し紛れにそう答える。
僕のバカーッ!何邪な事考えてるんだバカー!?
自分をそう罵りながら冷静を取り戻しつつ、彼女にあることを聞いた。
「でもどうして僕の事を?」
最上位だったことを知ってると言うことは、カズトの事を知ってると言うこと。
その疑問に対し、彼女が答える。
「今朝オオデマリ教諭に質疑をしていたでしょう?そこで名乗っていたから」
その言葉に「あ、…そういえばそうだった」とその時の事を思い出す。
「でも、ああいう場で疑問を言えるのは良いことよ。その繰り返しで理解も深まるし、意欲を示すポイントにもなる」
いつの間にか物理的に距離が縮まっていて、横に並んで話していた。
「そうですねー…でも教諭にも寄りそうですけどね。質疑を繰り返すのは、人によっては反感を買うことになりますし」
子供の頃から女友達がいなかったカズトにとって、二人一緒に歩いていると言うのは、とても心が踊る。
「そういう人は本部に異議を申し立てれば良いのよ」
もしかしたら、僕に気があるのではないか。脈アリなのではないかと行き過ぎた妄想をしてしまう。だが―――
「あっはは、まぁー…それも一つの手段ですよね」
…いや、それはないか。
「そうね」
よく見れば、横に並ぶ彼女と間が空いている。
僕は真っ直ぐにしか歩いていないし、自然とそうなったかもしれないが―――ちょっ…と試しに少しだけ横に寄ってみる。
「ところであなたは演習どうでした?自分なりの結果は出せましたか?」
「そうね…」
ここで然り気無く横に寄る。すると―――
「私としては満足だけど、どうせだったら一位になりたかったわ」
動いた分だけ、彼女も横にずれた。
「いやでもこれからですし、最後僕は運みたいなとこもあったので、次はこうも行かないかもしれないなーって」
…まぁだって、そもそも話をしてるんだから横に並ぶのは当たり前か。―――ん?
「あれ、今何て言いました?」
他の事に思考が向いている間に、何か重要な事を言っていた気がする。
「?私としては満足だけど?」
「もうちょっと後」
「どうせなら一位になりたかった?」
「―――そう、それ!」
カズトは立ち止まり、彼女を見る。
この人はついさっき、一度会ってみたいと思っていた―――
「あれ、もしかしてあなたって…」
カズトの言葉に、彼女は小さく息を吐いて言う。
「…私はまだ名乗ってなかったわね。ユーリア・アシスティ。さっきから思っていたけど、敬語は使わなくて良い」
言いながら彼女は前を歩くと、こちらを振り向く。
「あなたは私にとって驚異だから。赤付きは譲らない。…それだけよ」
その言葉を最後に、彼女は先を歩いていった。
一人の空間になり、静寂が包んでいる。
「―――赤付きは譲らない…か」
あの本気の表情。スコアから分かる拮抗した実力の持ち主。…取られる可能性は存分にある。だが―――
カズトは拳を握ると笑みを浮かべる。
「それはこっちの台詞だよ…!!」
そう。譲らせない。僕には赤付きにならなくてはならない理由があるんだから。
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「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

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