Lythrum

赤井 てる

文字の大きさ
上 下
16 / 21
〜Machinery city〜

「対脅威養成支部」Part2

しおりを挟む
 拡大された声が響き、一同はその方向を向いた。

「…?」

 ゲート前上部にある通路の露台に、一人の黒いダウンジャケットを羽織った女の子が立っている。

 子供…?

「おっとォッ!!今『子供』とか思った奴全員!こう見えてピッチピチの27歳だからそこんとこよろしくぅ!」

「―――」

 …周りの反応はない。

「…え、えっと。話を本題に移そう」 

「コホン」と調子を落ち着かせ、両手を腰に当てた。

「ようこそ!対脅威養成支部、略してA.T.T.B!更に略してA.Tへ!私はノーマル専門教諭、リース・オオデマリ!君達の入校を心より歓迎する!!」

 教諭は祝辞を述べ、息を整えると真剣な表情で生徒達を見た。

「…皆うざい程知ってると思うけど、ここ数年の歪みの発生率はこれまでの比じゃない」

 片手で横のパネルを打ち、最後にキーを弾く音が響く。

「―――届いたかな?」

 すると、その場にいる全員の端末にファイルが届いた。
 カズトはそれを開くと、あるデータが表示される。

「早々で悪いけど、皆にはそれを見て欲しい」

 データには歪みの発生数、それによる死者数、そしてT.O.D.L.Fにより壊滅した都市等の画像がある。カズトの故郷だった場所も…

「皆は今日―――」

「―――後はわしが引き継ごう」

 そこで突然、別の声が届いた。
 教諭の後ろから、白衣を着た女性に支えられた老人が姿を現す。

「割って入っての登場、申し訳ない。わしはガフュール・ルーツァー、ここの支部長を務めている」

 一瞬周りがざわついた。

「このような姿で皆の前に立つことをどうか許してほしい」

 支部長と名乗った老人には、多くの管が繋がれていた。
 片手を上げ、教諭に合図すると入れ替わりになる。

「オオデマリ教諭の話の続きだが―――皆は今日、命を賭す覚悟でここに来ていると思う」

 前に杖を付き、堅実な態度で生徒達を見る。

「そしてそれは、儂らも同じ。命を賭す覚悟で戦う術を教えよう」

 周りから駆動音が聞こえ始める。

「…役割は違えど、もノーマルも関係ない…」

 正面ゲートが徐々に開放され、中から冷たい風が流れてくる。

「皆には己が信じる意義を全うし、護るべきものを護って欲しい」

 …支部長は、どこか含みのある言い方でそう言った。

「………」

 僅かな間が空く。

「…今から二年前、儂らの故郷は『大歪み』により壊滅的な打撃を受けた」

 …支部長は重い口を開き、言葉を続ける。

「…大切な家族、友人、恋人を理不尽に奪われた」

 表情にこそ出さないが、杖を強く握りしめるのが見える。

「復讐に駆られている者もいるだろう。あの化け者共を―――」

「―――話しなげーなぁ、あの爺さん」

 すると、隣から声が聞こえた。

「大事な話してるんだから静かに聞いて」

 …聞き覚えのある声。

「そういや、部隊員の編成はどうなってんだ?」

「い、今それ聞くの…!?」

 体格が大きい青年に聞かれ、少女は呆れた声でそう話す。

「―――一週間後の適正試験で構成されるらしいよ」

「―――あ?」

 カズトの言葉に、二人はこっちを向く。

「って、お前は…」

 自分に気付いた二人に「さっきはありがとう。そして急にごめん」と言ってカズトは言葉を続ける。

「最初は同じタイプ間で実力が近い者同士で構成されて、試験の後にタイプ混合で改めて再構成って感じらしいね」

「…なるほどな。―――ついでに機体の割り当てについても聞きいていいか?」

「に、兄さん遠慮ってものを…!!」

 カズトは少女の静止の声に、「全然気にしないで」と言った。

「それもさっきと似てて、最初は訓練用の機体が割り当てられて、適正試験の後にそれぞれの能力値に合わせて武装とか、パーツとか増設されるらしいよ」

「…だったら試験次第って事か」

「…まぁ、大きいだろうね」

 するとそこで、鈍い重低の金属音が響き、地上へと繋がる通路が目の前に広がった。

「―――さて、君達はこれから兵器乗りとして演習を積んでいく訳だが…まずは腹拵えじゃな」

 支部長の声に、カズト達は前を向く。

「既に済んでる者もいると思うが、その者は時間まで各自に割り当てられている部屋で休むと良い」

 …いつの間にか、話しは終盤に差し掛かっている。
 最後に支部長が言った。

「改めてようこそ我が支部へ。儂らは君達を心より歓迎する」

 照明がより明るくなり、支部長は白衣を着た女性に支えられると奥へと移動していった。それと同時に前の生徒が進み始める。

「…んじゃあさっさと部屋行って朝練すっか。詳しい説明さんきゅーな。見てくれの良い

 青年は首だけこっちを向け、嫌みのように吐き捨てる。

「―――!!………」

 するとその声を聞いた少女は、驚いたようにカズトを見た。…表情がなくなり、「…ごめんなさい」と頭を下げると青年の後ろを付いて行く…

「…またか…」

 カズトは小さく呟くと、ズボンのポケットに手を入れ歩き出した。
 …理由は分かっている。混在種異人通常種ノーマルは、長年対立関係にある。『優劣』『劣等』今もその思想が根強く浸透し、嫌悪しかされない。
 …目立たなくしていたのに、異人を表す紋章に気付いたようだ。

「……」

 小さく息を吸い、頭を切り替える。そしてカズトは皆が進む方向とは別の道に歩いていった。
 向かう先は演習場。…部屋でゆっくりなんてしていられない。
 心の底で復讐心が沸き立つ。
 今の自分にはまだ力が足りない。奴はまだ殺せない。
 この手で息の根を止めるために、一分でも、一秒でも多く力を付ける。…そう考えていると、カズトよりも先に赤髪の女子生徒が歩いているのが見えた。

 …彼女も演習場に向かっているのだろうか…



「さっき何言おうとしてたんですか」

 休憩室に入り、レデリカはガフュールを車椅子に降ろすと車輪を固定する。
 支部長は「すまないな」と言いつつ、「さっきか?」とわざと曖昧な言い方をする。

「説得力を増すために間を空けた訳じゃないでしょう?」

「あぁ確かに、違和感マシマシのグリアリティだったね」

 ガラス張りの壁に身体を預けたリースが、菓子を食べながら言う。

「まあ確かに話そうとはしたがな」

 支部長は顔を少し上に向けると、微笑みながら言葉を続ける。

「儂がとやかく言う権利はないよ。ー--それに、『大歪み』発生から二年、まだ未復旧という状況下での志願。改めて言わんでも、彼らが一番分かっておろう」

「それはそうだと思うけどさぁ、皆の士気って話もあるからねぇ」

 リースは最後の一口を頬張り、包み紙をゴミ箱に捨てる。

「それはそうと例の機体、ついさっきBAに格納したってさ」

「分かった。後でクレイ氏に礼を言っといてくれ」

「ク~~ッ!!データに載ってない機体、この目で拝むのが楽しみだな~!!」

 リースは拳を握り、目を輝かせる。

「でもその機体、原型が分からないぐらい損傷してるんでしょ?」

 レデリカの問いに、「まぁね」と答える。

「手足、頭、背中全部欠損してて残ってるのは胴部だけ。システムが生きてたら御の字だね」

「じゃが歪みから出現してるからの。その可能性は限りなく低いじゃろ」

「まあそしたらそしたでデータは残ってると思うし何とかして動かすよ」

「…手間をかけるの」

「今度何か奢ってよ?」

「分かった」という支部長の声を聞くと、「じゃあ私は早速」と言い、ウキウキと扉へ向かっていく。だが開けようとした瞬間立ち止まった。

「ー--あ、そうそう例の機体で思い出したけど、昨日保護した青年あの場にいなかったね」

「彼ならまだ寝てるわよ。昨日渡した薬の中に睡眠薬入れといたから…」

「…ちょっとやってること怖くない?」

「仕方ないでしょ。怪我は重傷だし、あんな事言われて心がズタボロだったはず。彼には休息が必要よ…」

「結局あの青年は『白』ってことで良いの?」

「ああ、それで間違いないじゃろ。昨日の歪みの出現に彼が関与していたのは間違いないが、だからの」

「そしてそん時に本当の記憶を封じられてしまったと…とりま、さっき言ってた方向で進めるよ?」

「ああ、頼む」

「オッケー、後で青年に会うのが楽しみだ…!ー--じゃっ!」

 最後にそう言って手を上げ、ドアを開けるとリースはその場を後にした。

「さて…儂らもそろそろ戻るかの。レデりん、ナサイ君が目を覚ましたら儂の所に連れてきてくれないか?」

「それは彼の状態によりますけど、何を企んでるんです?」

 レデリカの問いに、支部長は車椅子を動かし、ガラス張りの壁まで移動すると下を見下ろした。

「ちょいと利用させてもらうかの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...