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〜Machinery city〜
第六話「対脅威養成支部」Part1
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「はぁ…はぁ…!」
―――炎が周りを包み込んでいく。
瓦礫となった建物が辺りに散らばる中、一人の少年とその母親が必死に逃げていた。
「ヴァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」
「!!」
後ろから悍ましい声が聞こえてくる。
少年は、不安な表情を母親に向けた。
「お母さん…」
少年の言葉に、母親は前向きに明るく答える。
「大丈夫よ!あともう少し!」
しかしその時だった。
「ヴァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」
悍ましい叫び声と共に、突如として世界外異種生命体T.O.D.L.Fが目の前の半壊した建物から飛び出て来た。
「!!?」
「―――走って!!」
母親の声で我に返った少年は、後ろを振り返りすぐさまこの場から離れようとした。だが…
「ガァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」
T.O.D.L.Fは逃げようとしていた親子を見つけるや否や、猛スピードでこちらに近づいてきた。
「あ…っ…!」
少年は、恐怖から体を動かすことが出来なくなった。
「カズト!!」
逃げなきゃ行けない。そう頭では分かってはいても、体が全く言うことを聞かない。
母親に名前を呼ばれても、少年はただ呆然と目の前にいる悪夢を見ていることしか出来なかった。
T.O.D.L.Fの鉈状の腕が親子に向けて振り下ろされる。―――だが、その刃は届くことは無かった。
突如として飛来した弾丸がT.O.D.L.Fを撃ち抜き、注意がそっちに向いたのである。
少年もその方向を向いた。
弾丸が飛来した方向、そこから向かってきていたのは一機の人型機動兵器 Ein Armsだった。肩部には『02』という番号がペイントされている。
『俺の家族に手を出すな!化け物野郎ッ!!』
機体から声が聞こえ、手に装備した銃器を撃ち続けながらもう片方に巨大な実体剣を握らせ、T.O.D.L.Fに急迫していく。
機体から撃ち込まれた弾丸は、その殆どが命中し、体から血潮が吹き出していった。
「ヴァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」
T.O.D.L.Fは苦痛の叫びを上げながら後ろに後退し、逃げようとした。
『逃がすかよッ!!』
距離をとろうとするも既にArmsの範囲内。振るう刃はT.O.D.L.Fの肉を切り裂き、そのまま胴体部を切断した。
「………!」
噴き出す血潮が雨のように二人に降り注ぐ。
『お前達無事か!?』
Armsから声が届く。
「あなた!」
『そっちは駄目だ!もう奴らに―――!?』
瞬間、絶命したT.O.D.L.Fの切断部から血の渦が発生し、新たな身体を形成する。
『こいつッ…!!』
Armsは直ぐさま剣を振るうが、気付いた頃には腕が引きちぎられ吹き飛ばされていた。
「お父さん!!」
『―――メグミ!俺が時間を稼ぐ!カズトを連れて速く!!走れッ!!』
言われた母親は一瞬固まっていたが、直ぐに少年の手を取る。
「着いてきてカズト!」
その手は強く握られ、微かに震えている。
父親が乗る機体から遠ざかっていく。だがその時、声が聞こえた。
『カズト、生き抜け。母さんを頼んだぞ』
「お父さん…?」
Armsの向こうに殺されたはずのT.O.D.L.Fが四足ではなく人型となり佇んでいる。
「ヴァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」
奴が悍ましい咆哮を上げると、それに呼応するように複数のT.O.D.L.Fが現れた。
父親が駆る機体は剣を構え、スラスターを吹かす。
「お母さん!お父さんが!何で助けないの!?」
「お父さんなら大丈夫!私達がいると邪魔になるから!後で絶対に会えるわ!」
母親は少年の手を強く握り、建物の中まで走る。
少年はこれ以上なにも言わなかった。会いたかったから。父親が帰ってくると信じていたからだ。
「はぁ…!はぁ…!」
壁からコードが剥き出しになり、非常ランプが赤く光っている。
「ちょっとだけここで待ってて」
扉の前で止まり、母親はコンソールを起動する。
「よしまだシステムは生きてる…」
操作音が微かに聞こえてくる。―――そこからだった。
………!?
どこからともなく地鳴りが起こり、段々大きく、次第に建物が揺れ始める。
「お母さん…!」
「大丈夫!直ぐに収まるわ!」
母親は精一杯少年を励ますが、建物の揺れは一層強くなる。
少年は恐怖で震えながらも、必死に支柱に掴まっていた。…すると、急に続いていた揺れが収まる。
「……」
…なにも聞こえない。さっきのが嘘のような静寂。そのことに安堵した瞬間だった―――
「ヴァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」
「―――!?」
突如轟音と共に建物の外壁が吹き飛び、外の光景が広がる。
「ウ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ッ!!」
目の前にあの人型の化物がいた。
怖い。身体が動かない。すると、足元にドロッとした赤い液体が広がっていく。
視線で先を追っていくと、T.O.D.L.Fの手からそれは滴り落ちていた。
良く見ると、何かある。
「―――!?」
少年の顔がみるみる青ざめていく。絶望に呑み込まれる。
T.O.D.L.Fの手にはさっきまで無かった黒い塊。
同じことに気付いた母親は首を横に振り、わなわなと後ずさった。
「そんな…いや……いや…!」
T.O.D.L.Fは嘲け笑うように口角を引き上げ、握り潰した塊を投げ捨てる。
「…お、父…さん…?」
T.O.D.L.Fは背中の四翼を思いきり振り上げ、二人に振り下ろそうとする。
父親が乗る機体はどこにもない。この事実を受け入れられ―――
「―――うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「―――ッ!!」
少年の絶叫に母親は我に返り、パネルを操作し扉を開ける。
「カズト!」
瞬時に少年を抱き上げ、扉を潜る。
走る先には脱出ポッド。この道を右に曲がれば―――
「―――ウ"ッ!?」
すると突然、母親が呻き声を漏らした。返り血が少年の頬につき、体制を崩して倒れてしまう。
「お母さん!!」
母親の左肩に鋭利な物体が突き刺ささっている。
「はぁ…はぁ…大丈夫…!」
そう言い微笑みかけ、よろよろと立ち上がる。
「―――ゴホッ…ゲホッ…!」
だが急に酷く咳き込み、口を押さえ膝をついてしまった。
「ヴァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!!」
後ろからおぞましい声が響く。何かが這いずってくる音が聞こえてくる。
「……い……あ……」
少年は動くことができなかった。
母親の顔色が悪い。死んでしまうかもしれないという恐怖が心を取り込み、動くことができない。
「急に風邪引いちゃったみたいね…」
だが母親は大丈夫だとアピールするように直ぐ立ち上がり、少年の手を引いて走り出す。
そのまま振り返り様に腰部から拳銃を取り出し、天井にある安全装置を撃ち壊した。
そこから防壁が降り、奴らの侵入を防ぐ。
「…まだ……一機残ってるわね…」
脱出ポッドがある区画に来た二人は残ってた一機の前まで行き、母親はハッチを開けた。
「ガァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ!!」
何かが突き破られる音。
…唯一生きていた照明が落ち、ポッドの明かりだけが二人を照らす。
「ゲホッ…カホッ…ゴホッ…」
「捕ま…って…!お母…さん!」
崩れ落ちる母親に少年は腕を肩にかけ、何とか運ぼうとする。
「僕が…助けるから…!」
悍ましい光景が脳裏に浮かぶ。
「…お母さんまで…絶対に嫌だよ…!!」
「―――ごめんね…」
だが、あと少しでポッドの中に踏み込めようとしたところで母親の腕が外れ、少年だけ中に押し出される。
「………!?何して―――」
なぜ自分だけ中にいれるのか、何故母親は一歩も進もうとしないのか分からなかった。
「―――ごめんね…」
母親が弱々しい声で言った。
「…お母さんは…そっちには行けない…」
「……!?嫌だよ―――」
予想だにしない言葉に少年は母親の手を引っ張り、必死に中に入れようとする。だが母親は一歩も進もうとしなかった。
「そんなの嫌だよッ!!一緒に帰ろうよッ!!」
怖い。いなくなるのが怖い。涙が溢れ出て死に物狂いで腕を引っ張り続ける。
「ごめんね…!」
するとそんな少年を、最後の力を振り絞るように引き寄せ、力一杯抱き締めた。
…母親の顔半分が変色している。瞳には光が宿っていない。
「嫌だ…嫌だっ…」
「あなたを心から愛してる…あなただけでも逃げて…私達の分まで生き抜いて…!」
泣きじゃくる少年の額にキスをし、軽く押すとハッチを閉じる。
慌ててポッドから出ようとするが、もう遅かった。
警報音が鳴り、脱出ポッドは発進シーケンスに入る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
少年は必死にハッチを叩く。だが鉄の扉はびくともしない。
「―――ッ!?」
すると通路の奥から4つの翼が飛び出し、壁や天井に縦横無尽に突き刺さるのが見えた。
「お母さんッ!!」
通路から人型のT.O.D.L.Fが這いずり出てくる。だが母親はその場から動かなかった。
余計な不安をかけさせないようにするためか、少年に精一杯微笑みかける。―――そして、最後にはっきり言った。
「―――愛してる」
その言葉を最後に、脱出ポッドはカタパルトを走り、夜闇へと射出するされる。その直後、赤い閃光が瞬き、激震で頭を強く打ち気を失ってしまった。
―――
意識が上っていく。
「…の…」
…何か聞こえた気がする。
「…あの…」
誰かが呼んでいる?
「あの」
「!」
呼ばれていると分かった瞬間、青年カズトは目を覚ました。
目の前には制服姿の少女。
カズトが起きたのを見ると、ホッとしたように言った。
「着きましたよ」
少女にそう言われ、慌てて立ち上がった。
「ご、ごめんありがとう。助かったよ」
「いいえ」
「―――行くぞ、美乃」
奥で体格が大きい青年が少女を呼ぶ。
「うん、今行く」
最後に少女は小さくお辞儀し、青年の元へ駆け寄っていった。
「私の荷物ぐらい自分で持つから」
「いいから、美乃は無茶…」
二人の会話が消えていく、車内に一人きりになり、カズトは「ふー…」と息を吐いた。
…まさか寝ちゃうなんて緊張感足りてないよな…
夜遅くまで続いた演習が仇になったのか。だがそれはただの言い訳だ。カズトは両頬を叩き、スイッチを切り替える。
…ついにこの時が来た。またあの夢を見たのは因果か分からないが、あの夢を見るたびT.O.D.L.Fへの憎悪が強くなる。
…車両を降り、正面ゲートに向かうと、既に大勢の生徒が集まっていた。
「やぁやぁ君たちー!」
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