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〜Machinery city〜
第五話「絶望」Part1
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「ようこそ、我が支部へ。君がりーたんが言っていた青年、ですかな?」
その人は老成な面立ち、長い顎髭を伸ばし白い衣服を身に纏っている。そして―――
「……―――」
……!
「フォッフォッフォッ、このようなお見苦しい姿で申し訳ない。老い耄れが故に、体が弱くてな」
その人の横には袋が取り付けられたスタンドがあった。そこから伸びた多くの管が腕や首に続いている。
「さて…挨拶がまだだったの」
そう言うと、横にあるスタンドを掴みよろよろと立ち上がった。ゆっくりとした足取りでユウキの前まで行くと、手を差し出す。
「わしはこの施設の支部長を務めているガフュール・ルーツァーじゃ。よろしく」
………っ!
支部長は手を差し出している。それに自分は答えなければいけない。だが体が思い通りに動かせなかった。頭の中が真っ白になる。それでも家に帰るために無理矢理腕を動かし声を絞り出した。
「…ナ、ナサ…イ……ユウキ…です…」
そう言ってユウキは何とか握手を交わす。
「……なるほど」
独り言のように呟くと、支部長は手を離した。
「怪我の調子はどうかの?」
「……」
「―――薬を飲んだので、しばらくは大丈夫かと」
すると、答えれない自分に代わりに女性が言った。
「そうか。経緯はレデりんからも聞いておる。我が生徒を救ってくれたこと改めて感謝させてくれ。ありがとう」
優しさのこもった口調でそう言い、小さく頭を下げる支部長。その表情にユウキの恐怖も少しだけ和らぐ。心が楽になったような気がした。
「ナサイ・ユウキ君だったの」
言いながら元の場所に戻り椅子に腰を下ろす。
「突然で悪いんじゃが、今から質問に答えてくれんかの?」
「………!」
「なに、そんな心配せんでも、危害を加えたりせんよ」
一瞬緊張が走ったが、笑いながら話す支部長に多少和らいだ。真っ白になっていた思考が回復し、ほんの少し冷静さを取り戻す。
そしてここからしっかりしないといけない。
絶対自分のことについて聞かれる。同時に家に帰るための最後のチャンスだ。ちゃんと順序よく話さなければいけない。
「…は、はい……」
「協力ありがとう。では最初じゃが、何故君はこっちに飛ばされたのか分かるかの?」
…最初の質問。詰まる言葉を無理矢理吐き出し、ユウキは指の爪を皮膚に食い込ませながら言った。
「…っ…ぁ…わ…分からないです…」
何とか答え、口を閉じようとする。だがそこで、「帰れない」「説明が足りない」という感情が頭の中を支配した。
「―――」
ユウキは閉じかけてた口を開き、もう一度声を絞り出す。
「き、急に辺りが暗くなって…気付いたらあの場所にいて…」
「君が元居た世界の名前は?」
「に…日本です…」
「おお、日本か」
「―――し、知ってるんですか…!?」
「…昔に一度、行ったことがあってな」
「……!」
その言葉を聞いて、希望が膨れ上がった。
「しかし―――」
だが次の瞬間、腕を組み直すと、支部長の雰囲気が重く変わる。
「―――ちと、厄介な事に巻き込まれておるの」
「……え?」
支部長が何を言っているか分からなかった。
面倒事とはどういう意味なのか。
不審な言葉に一気に不安が立ち込める。
「ナサイ・ユウキ君」
不審な言葉は続く。名前を呼び、支部長はユウキを見る。
「今から酷なことを言うが…君がいた世界はもう存在していない」
「……は」
その瞬間、あまりにも突然なことにユウキの思考がショートする。
言っていることがまるで理解できなかった。
…存在して…ない?
どこが
元居た場所が
いつ
分からない…
なぜ
分からない…!!
「…そ、存在してないって、ど、どういうことですか…!?」
「…そのまんまの意味じゃよ。君がいた世界はー--年前に消滅しておる」
「な…!」
…そ、そんなわけない。あり得ない!
急に身もふたもないことを言われて、ユウキは苛立ちを覚える。
「そ、そんなのきゅ、急に言われて信じられるわけないじゃないですか!だ、だってついさっきまで自分は元の場所にいたんですよ!?」
それが何よりもの証拠だ。本当にーー年前になくなってるならその事の説明がつかない。
ユウキは別の答えを求めるように隣にいる女性を見た。
「…残念だけど、事実よ」
だが帰ってきた答えは支部長を肯定するもので、ー--
「ー--ッ!?」
…また、あの頭痛が襲った。
「―――!?どうしたの!?」
異変に気付いた女性が近寄ってくる。それに支部長が言った。
「大丈夫じゃよレデりん。直ぐに治まる」
ユウキの脳裏に白黒で不鮮明な光景が点滅していく。何度も味わった記憶にない光景。だがどこか棄てきれない感覚。
「…はぁ…はぁ…」
「…その頭痛が答えじゃよ。君が度々起こす頭痛は本当の記憶を脳が思い出そうとしているからじゃ」
…本当の記憶…!?
は、な、なに言って…!?
さっきから言っていることが分からない。
じ、じゃあ…だったら…!?
「だ、だったら朝までのは何なんですか!?」
目の奥が熱くなる。深い絶望に堕ちていく。
「君がここに飛ばされるまでにいた世界は、人の手によって人為的に創られた偽りの世界じゃよ。そこでありもしない記憶を刷り込まれ、何らかが原因で本来の記憶を失っておる」
「な…何を根拠に…」
涙が滲み、前が見えにくくなる。
「…わしは触れた相手の記憶を見ることができてな。だから、今言ったことは嘘ではない事だけ言っておく」
「………」
ユウキは酷い脱力感を覚えた。
何の証拠もないのに、支部長の言葉が重く突き刺さりその場に崩れ落ちそうになる。
「…今日はこのぐらいにしといた方がいいの」
そういうと、支部長は女性の方を見た。
「レデりん、彼の手錠を外し、治療を最優先に。この続きは容態が回復してからでもよかろう」
「分かりました」
そう言われた女性は、何故かほっとした表情をした。
気を遣うようにユウキに近づき、右肩に手を置いて言う。
「…動ける?」
「………」
何も喋れなかった。
「―――ナサイ君」
手錠が外され、女性に連れられ部屋を出る時、支部長に呼び止められた。
「君は、わしの質問に嘘をついていなかった。よって、君の記憶が戻るまでの間ここで保護することにする。…ひとまず、今日はゆっくり休んでくれ」
「……」
「失礼します」
扉を閉め、廊下に出ると外は既に暗闇に覆われていた。
…あれから二人に会話はない。どのくらい歩いたのか分からない。気付けば最初の部屋にいた。
その人は老成な面立ち、長い顎髭を伸ばし白い衣服を身に纏っている。そして―――
「……―――」
……!
「フォッフォッフォッ、このようなお見苦しい姿で申し訳ない。老い耄れが故に、体が弱くてな」
その人の横には袋が取り付けられたスタンドがあった。そこから伸びた多くの管が腕や首に続いている。
「さて…挨拶がまだだったの」
そう言うと、横にあるスタンドを掴みよろよろと立ち上がった。ゆっくりとした足取りでユウキの前まで行くと、手を差し出す。
「わしはこの施設の支部長を務めているガフュール・ルーツァーじゃ。よろしく」
………っ!
支部長は手を差し出している。それに自分は答えなければいけない。だが体が思い通りに動かせなかった。頭の中が真っ白になる。それでも家に帰るために無理矢理腕を動かし声を絞り出した。
「…ナ、ナサ…イ……ユウキ…です…」
そう言ってユウキは何とか握手を交わす。
「……なるほど」
独り言のように呟くと、支部長は手を離した。
「怪我の調子はどうかの?」
「……」
「―――薬を飲んだので、しばらくは大丈夫かと」
すると、答えれない自分に代わりに女性が言った。
「そうか。経緯はレデりんからも聞いておる。我が生徒を救ってくれたこと改めて感謝させてくれ。ありがとう」
優しさのこもった口調でそう言い、小さく頭を下げる支部長。その表情にユウキの恐怖も少しだけ和らぐ。心が楽になったような気がした。
「ナサイ・ユウキ君だったの」
言いながら元の場所に戻り椅子に腰を下ろす。
「突然で悪いんじゃが、今から質問に答えてくれんかの?」
「………!」
「なに、そんな心配せんでも、危害を加えたりせんよ」
一瞬緊張が走ったが、笑いながら話す支部長に多少和らいだ。真っ白になっていた思考が回復し、ほんの少し冷静さを取り戻す。
そしてここからしっかりしないといけない。
絶対自分のことについて聞かれる。同時に家に帰るための最後のチャンスだ。ちゃんと順序よく話さなければいけない。
「…は、はい……」
「協力ありがとう。では最初じゃが、何故君はこっちに飛ばされたのか分かるかの?」
…最初の質問。詰まる言葉を無理矢理吐き出し、ユウキは指の爪を皮膚に食い込ませながら言った。
「…っ…ぁ…わ…分からないです…」
何とか答え、口を閉じようとする。だがそこで、「帰れない」「説明が足りない」という感情が頭の中を支配した。
「―――」
ユウキは閉じかけてた口を開き、もう一度声を絞り出す。
「き、急に辺りが暗くなって…気付いたらあの場所にいて…」
「君が元居た世界の名前は?」
「に…日本です…」
「おお、日本か」
「―――し、知ってるんですか…!?」
「…昔に一度、行ったことがあってな」
「……!」
その言葉を聞いて、希望が膨れ上がった。
「しかし―――」
だが次の瞬間、腕を組み直すと、支部長の雰囲気が重く変わる。
「―――ちと、厄介な事に巻き込まれておるの」
「……え?」
支部長が何を言っているか分からなかった。
面倒事とはどういう意味なのか。
不審な言葉に一気に不安が立ち込める。
「ナサイ・ユウキ君」
不審な言葉は続く。名前を呼び、支部長はユウキを見る。
「今から酷なことを言うが…君がいた世界はもう存在していない」
「……は」
その瞬間、あまりにも突然なことにユウキの思考がショートする。
言っていることがまるで理解できなかった。
…存在して…ない?
どこが
元居た場所が
いつ
分からない…
なぜ
分からない…!!
「…そ、存在してないって、ど、どういうことですか…!?」
「…そのまんまの意味じゃよ。君がいた世界はー--年前に消滅しておる」
「な…!」
…そ、そんなわけない。あり得ない!
急に身もふたもないことを言われて、ユウキは苛立ちを覚える。
「そ、そんなのきゅ、急に言われて信じられるわけないじゃないですか!だ、だってついさっきまで自分は元の場所にいたんですよ!?」
それが何よりもの証拠だ。本当にーー年前になくなってるならその事の説明がつかない。
ユウキは別の答えを求めるように隣にいる女性を見た。
「…残念だけど、事実よ」
だが帰ってきた答えは支部長を肯定するもので、ー--
「ー--ッ!?」
…また、あの頭痛が襲った。
「―――!?どうしたの!?」
異変に気付いた女性が近寄ってくる。それに支部長が言った。
「大丈夫じゃよレデりん。直ぐに治まる」
ユウキの脳裏に白黒で不鮮明な光景が点滅していく。何度も味わった記憶にない光景。だがどこか棄てきれない感覚。
「…はぁ…はぁ…」
「…その頭痛が答えじゃよ。君が度々起こす頭痛は本当の記憶を脳が思い出そうとしているからじゃ」
…本当の記憶…!?
は、な、なに言って…!?
さっきから言っていることが分からない。
じ、じゃあ…だったら…!?
「だ、だったら朝までのは何なんですか!?」
目の奥が熱くなる。深い絶望に堕ちていく。
「君がここに飛ばされるまでにいた世界は、人の手によって人為的に創られた偽りの世界じゃよ。そこでありもしない記憶を刷り込まれ、何らかが原因で本来の記憶を失っておる」
「な…何を根拠に…」
涙が滲み、前が見えにくくなる。
「…わしは触れた相手の記憶を見ることができてな。だから、今言ったことは嘘ではない事だけ言っておく」
「………」
ユウキは酷い脱力感を覚えた。
何の証拠もないのに、支部長の言葉が重く突き刺さりその場に崩れ落ちそうになる。
「…今日はこのぐらいにしといた方がいいの」
そういうと、支部長は女性の方を見た。
「レデりん、彼の手錠を外し、治療を最優先に。この続きは容態が回復してからでもよかろう」
「分かりました」
そう言われた女性は、何故かほっとした表情をした。
気を遣うようにユウキに近づき、右肩に手を置いて言う。
「…動ける?」
「………」
何も喋れなかった。
「―――ナサイ君」
手錠が外され、女性に連れられ部屋を出る時、支部長に呼び止められた。
「君は、わしの質問に嘘をついていなかった。よって、君の記憶が戻るまでの間ここで保護することにする。…ひとまず、今日はゆっくり休んでくれ」
「……」
「失礼します」
扉を閉め、廊下に出ると外は既に暗闇に覆われていた。
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