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最終章 最後に愛は勝つ!? 婚約破談の危機に害虫駆除!

絶倫皇女、ネリスの最期を見届ける

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 後日––––。
サクリファイス帝国の処刑台の上にはネリス・ウォーラルの姿があった。

 処刑広場を中心に円形に囲むように人集りができており、貴族だけではなく一般市民や新聞記者も大勢集まっている。

 不安気な様子で処刑台を見つめる者や指を指して罵声を浴びせる者、斬首刑に処される瞬間をカメラに収めようと何度もフィルムの確認をしている記者達の姿が目立った。

「あの女がイングリッド姫様を冒涜した女だっ!!」
「あんな品のない老婆が姫様を侮辱したの!? なんて罰当たりなんでしょう! あぁ……姫様の心に傷が付いていなければ良いのだけれど」
「噂によると、姫様は外を出歩けないくらいに精神的に弱りきってたみたいだぞ。療養する為にサンクチュアリ帝国の皇子殿下と帰省したんだとか……」

 様々な会話が飛び交う中、執行官を務める男性が罪状を読み上げる為に所定の位置に着くと、あれだけ騒がしかった話し声が一瞬で止んだ。

「罪人ネリス・ウォーラルは嫉妬を理由にイングリッド姫様の地位を脅かそうとした! 写真を捏造し、各国に写真をばら撒く悪質極まりない迷惑行為の数々! その他諸々の罪も含めて斬首刑に処する!」

 続けて執行官は詳しい犯行理由を述べ始めた。

 ネリス・ウォーラルの罪状は皇族侮辱罪。
彼女は使写真を捏造し、ビラを拡散させた犯罪者グループの主犯格として処刑されるのだという。

 彼女の経歴を調べてみると、過去に詐欺まがいの営業を男性にしかけたり、美人局のような役割をしていた時期もあったようで、それも含めて刑を執行されるようだ。

「インジー、大丈夫ですか? 処刑される所はあまり見ない方が宜しいのでは?」

 隣に座るグレンが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「大丈夫。むしろ、この処刑を見ないとまた潮をくれぇぇぇぇ……って、夢でも叫ばれそうだもの」

 私が老婆になった彼女の潮をくれ!と連呼していた時の顔真似をすると、グレンは少し吹き出しそうになっていた。

「こ、こんな時に笑かさないで下さい……」
「フフッ、ごめんなさい」

 私は扇子で顔を隠して小さく笑う。
小刻みに震えている様は事情を知らない者達から見れば、泣いているのを隠しているようにも見えるだろう。

 対するグレンは罪人が処刑される時に笑うなんて不謹慎な真似は許されないので、膝の肉をつねり上げながら必死に笑いを堪えていた。

「––––以上の罪状により、ネリス・ウォーラルを断首刑に処す!」

 ボサボサの長い髪を短刀で切り落とされ、身体の後ろで手首を縄で括られたネリス・ウォーラルが初めて顔を上げた。

 老化で少し窪んだ目元と、綺麗なヴァイオレット色だった目は霞んで見える。意外な事にあれだけ牢屋で「潮をっ! 潮をワシにくれぇぇ~~!!」と暴れていた時の彼女の姿はなかった。

「……そういえば、自分一人だけサクリファイス帝国で処刑されるって聞いて、初めて自分の息子に泣き付いたらしいですよ。離れるのは寂しいとか言ってたみたいです」
「あぁ、そうなのね」

 私は思わず素っ気ない返事をしてしまった。
それだけ聞くと少しだけ彼女に同情したくなるだろうが、ガブリエル側の事情も聞いていた私は素直に同情する気にはなれなかった。

 自身の美貌を生かし、娼婦をやっていたネリスの元に生まれたガブリエルは幼い頃から男娼をさせられていた。

 身体を売って稼いだ金を母・ネリスに巻き上げられる日々を送っていたガブリエルだったが、ある日突然、母親の容姿がどんどん年老いていく謎の病気にかかり、高級娼婦を勤めていた母の収入がなくなってしまう。

 ガブリエルは生きていく為に高級娼館をシャンデリーに開き、母親の看病に加えて経営もしていたというわけだが……結局、私の潮で若返った母親の暴走で最悪の結末で人生を終えてしまうというわけだ。

 私は思わず目を伏せながら、溜息を吐いた。

「はぁ……本当に馬鹿ね。若さばっかり追い求めて何が楽しいんだか」

 ボソッと本音が出てしまったが、グレンには聞こえていなかったようで「インジーはとても優しいですよね。私ならネリスを拷問にかけてから、斬首刑にするのに」と声をかけてきた。

「痛いのとか人を殺す事はできればしたくないし、グレンにもして欲しくないだけなのよ。だから、もし……罪人に罰を与える時は脳が痺れるくらい気持ち良くしてあげようって心に決めてるの♡」

 ニヤリと笑う私を横目にグレンはハハッと乾いた笑いを発した。

「あぁ……
「うふふっ、そういう事♡」

 私はまるでデザートを最後に取っておいた子供のように機嫌良く笑った。

「彼等の死刑は免れないですが、なるべく貴方の希望に応えられるよう最善を尽くしますね」
「えぇ、期待してるわ♡」

 それ以降、私達は刑が執行されるまで喋らずに前を見続けた。

 ネリスの両脇にいた執行官が彼女の細い腕を掴んで、断頭台へ連れて行った。その際、彼女はギロチンの刃を見て怖気付いたのか「嫌だ嫌だ!」と暴れたが、執行官は力尽くで断頭台に抑え込んだ。

「うぅ……何故、私がこんな目にぃぃ……! あの潮さえあれば、私は永遠に不滅だったのにぃぃ!」

 ネリスの言葉を聞いた新聞記者達は「塩? 塩って何の事だ!?」と騒ぎ立てている。それを聞いた私は呆れて何もいえなかった。

 あぁ……死ぬ間際まで残念な人ね。
ガブリエルは最後まで貴方の心配をしていたのにこの期に及んで自分の欲を優先するのね?

 少し周りを見れば、若さと美貌よりも大切なものが手に入ったかもしれないのに。私の潮に執着なんてしなければ、もっと長生きできてガブリエルと平穏に暮らせる事だってできたはずなのに。

「さようなら、ネリスお姉様」

 私は扇子でサッと口元を隠しながら、刑の執行を見守った。ネリスが渾身の力で頭を持ち上げて、私を睨み付けてきたので冷たい目で睨み返してやった。

「イングリッドォォォォ!! お前の潮を……お前の美しさを私に与えていれば、こんな事には––––」
「執行!」

 執行官が手を上げた瞬間、ギロチンの刃がネリスの細い首に向かって落ちて行った。

 シュッ……ゴトン!! ゴッ……ゴロゴロ……。

 キャーーー!!という悲鳴が上がる。
そして、パシャパシャとシャッターを切る音も聞こえてきた。

「ガブ……坊…………」

 頭が断頭台から転がり落ち、ネリスの目からは一筋の涙が頬を伝って流れ落ちた。
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