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最終章 最後に愛は勝つ!? 婚約破談の危機に害虫駆除!

絶倫皇女、国境を越える

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 私達は無事に国境まで辿り着く事ができた。

 青姦デートをした日の夜も、湖近くの別荘でセックスを四回程して、馬車の中では熱いキスを交わしながらここまでやってきたのだ。

「ようやくここまで来ましたね」
「えぇ。この橋を渡ればサクリファイス帝国の領域よ」

 私達の目の前に架かる大きな橋はサンクチュアリ帝国とサクリファイス帝国を繋ぐ唯一の橋、ビフレストブリッジである。

 この橋の下には非常に流れの早い川が流れており、両国の兵士達が睨み合う形で駐留している。不法入国をする者がいないか互いに目を光らせているのだ。

「殿下、本当にサクリファイス帝国に向かわれるのですか?」

 国境で駐留する第二騎士団・団長のプランツがグレンに問いかけた。ちなみに彼はハインツ騎士団長の親戚で、入国審査や前戦の指揮系統を任されている偉い人でもある。

 プランツはあえて私の方を見ながら「サクリファイス帝国で何やら不穏な動きが出ております。万が一、殿下が人質に取られるような事になれば、サンクチュアリ帝国は剣を掲げてサクリファイス国に攻め入るでしょう」と発言した為、私はグレンが何か言う前に一歩前へ出た。

「両国の為にも絶対に血は流させません。そうならない為に私がいるのですから。ところでプランツ、向こう岸にいる兵士達には連絡は取れましたか?」
「はい。ハンス皇帝陛下の許可は得ているので、そのまま橋を渡って下さいとの事です」
「……そう」

 私は思わず渋い表情になった。
お父様が直々に命令を下しているという事は今回の騒動も知っているはずなのだ。

 お父様は私の事が大好きだから、この件に関してはカンカンに怒り狂ってるわね……。怒りの矛先は、この事件の首謀者とグレンへ向いているはずだ。

「はぁ……頭が痛いわね。お父様は普段優しいんだけど、感情的になる時があるし……。今回の件も怒りに任せて兵士達に命令してなきゃ良いんだけど」
「婚姻式の時にハンス皇帝陛下に初めてお会いしましたが、インジーと離れるのが寂しくて終始号泣しておられましたもんね。陛下に娘を宜しく頼むとあれだけ言われていたのに、私ときたら情けない……」

 グレンはが苦虫を噛み潰したかのような表情に変わったので、私は元気付けようと彼の手を取った。

「いいえ、グレン。貴方のせいじゃないわ。全ての元凶は害虫達のせいだから。奴等を虫籠に入れたら、一緒に拷問しましょうね♡」
「ええ、勿論です」

 私達の会話を聞いたプランツは微妙な表情をしていたが、二人の会話に慣れっこのアンリは懐中時計を見つめて「失礼します、お二方。ただでさえ日程が押していますので、そろそろ出発しましょう」と声をかけてきた。

「分かったわ、アンリ。それじゃ、またこちらに戻ってきます」
「はっ……両国に明るい未来が訪れますように」

 私は兵士達に手を振って応えた後、グレンと共に馬車へ乗り込んだ。

 御者が馬車の戸を閉めて御者台に乗り、手綱を持つ。
馬が地面を蹴る音を聞きながら、グレンと今後について話そうと思った瞬間––––事件は起こった。

 ズドォォォォォォォォンッ!!

 橋を渡り切った直後、後方で聞いた事のない爆発音が鳴り響いたのだ。爆発の衝撃で馬車の車体がガタガタと揺れ、六頭の馬がパニックを起こし暴れ始めた。

「キャアァァァァッ!! な、何が起こったの!?」
「分かりません、頭を低くして身を守っていて下さい!」

 グレンの指示通り、私は頭をぶつけないように身を守った。

「何をしている! 手綱を切れ!」
「は……はっ!」

 グレンの大きな声を聞いた御者が持っていた剣で手綱を切り離すと、馬車の揺れがすぐに収まった。

「ふぅ……危機一髪ですね」
「い、今のは何だったの……?」

 私が恐怖で引き攣った顔でグレンを見つめると「……私が様子を見てきます。インジーはここにいて下さい」と言って立ち上がった。


「待って、ここはサクリファイス帝国の領域よ!? 自国の兵士達の仕業かもしれないわ! なら、貴方が先に出るより、私が先に出た方が良いと思うの!」

 グレンは少し考えた後、私の両肩に手を置いてきた。

「駄目です、貴方はここで待っていて下さい。恐らくですが、これは貴方の国の兵士達の仕業ではないと思うのです。プランツもサクリファイス帝国の兵士から連絡があったと言っていたでしょう? 自国の姫君が乗っていると分かっている馬車を攻撃したりするでしょうか?」
「そ、それは……」

 確かに彼の意見に一理ある。
でも、グレンを一人で行かせるわけにはいかない。彼に何かあって万が一、死んでしまう事になったら……私、どうしたら––––。

「貴方に危険が及んでしまったら、私……」
「大丈夫ですよ、私は強いですから。それよりも、ここで静かにジッと待っていて下さい」

 震える私を安心させる為に笑いかけながら私を強く抱きしめた後、グレンは側に置いておいた剣を手に取り、颯爽と馬車から降りていった。

◇◇◇

「ガッハッハッハッ! 止まれ止まれ~~!」

 馬車から降りた私は冷たい眼差しで四人組を見つめた。

 数メートル先にいたのは盗賊のような風貌の輩達。
彼等のトゲがついた肩甲冑を身に付け、手には棘の付いた鉄球を持ち、雲丹のようにツンツンと立てられた変わった髪型をしていた。

 子分と思われる三人と真ん中にいる丸々と太った黒の眼帯を付けている豚ゴリラが一人口の端を釣り上げ、ニヤニヤと笑っている。

 やはり予想通りだった。
サンクチュアリ帝国の兵士だったら、皇族が乗っている馬車を襲撃するという愚かな行動は取らないはずなのだ。

 彼等はきっと金を貰って雇われた人間だろう。依頼主もこの者達の命なんてどうとも思っていないはずだ。

 私はチラリと背後を見た。
先程渡ってきた橋からは黒煙がもくもくと上がっている。向こう岸で「殿下、ご無事ですか!?」とプランツが大きな声で叫んでいるのが聞こえた。

「……成る程。橋を落として増援が来れないように退路は絶ったというわけか」

 短い時間で状況を把握した後、敵に向かって剣を構えている兵士達に近づいた。

「殿下、ここは我々が応戦致します! どうかお下がりくださいませ!」
「いい、私が応戦する。丁度、長旅で鈍った身体を動かしたいと思っていた所だ。お前達、何者だ?」

 私の問い掛けに丸々と太った豚ゴリラは品のないガハハハハッという笑い声をあげた。

「我々は名もなき盗賊団! 雇い主様の命により、お前達を捕らえにきた! ここを通りたくば、我々を倒してから…………え?」

 何故か背後に控えていた子分三人がいつの間にか血を流してバタバタと倒れ始めた。どういう訳か首元を深く切られており、血を噴き出しながら既に絶命している。

「ば、馬鹿な……何か起こった!?」
「おい」
「ヒャッ……アァァァァァァッ!」

 首が飛んだ!?
いや、違う……これはまさか、ま……幻? まさか、殺気だけで首が飛んだかのような幻覚を見せたというのか!?

 首元に剣先を突き付けられた豚ゴリラは何が起こったのか分からず、狼狽える事しか出来なかった。

「手短に答えろ。誰の命令で橋を壊した?」
「しっ、知らない……ギャッ!」

 激痛が走った。
痛みを感じた箇所を見てみると、赤い宝石が付いた長剣が右足の甲に深々と突き刺さっていた。

「さっき、馬鹿みたいに大声で雇い主の命によりって言ってただろう? 誰に命令された?」
「そ、それはぁ……グギャアァァッ!」

 次は左足の甲を剣で突き刺してきた。
そして、耳元で「次は右足の腱を斬る」と宣言をされ、豚ゴリラはガタガタと青ざめた顔で泣き出してしまった。

「時間が惜しい、早く言え」
「あぁ……あ……ネ、ネリ……ギャッ!」

 躊躇いもなく右足の腱を切り、豚ゴリラは痛みでのたうち回る。私は腹に蹴りを入れて「早く答えろ」と急かした。

「うっうっ、うぅ……ネ、ネリス様ですぅぅ……」
「ネリス? 誰だ、それは?」
「うっぐ……世界一の娼婦と称されたレディ・ネリスからの直々のご依頼ですぅぅ……」

 豚ゴリラはその場で崩れ落ち、足を押さえながら泣き始めた。

 どういう事だ?
レディ・ネリスと言えば、ショーで女性同士インジーと絡み合っていた女性のはずだ。害虫達と娼婦……彼等はどういう関係なんだ? 

 まぁ、彼女の口から聞く方が早いか……そう判断した私は豚ゴリラを脅した。

「彼女はどこにいる? 早く言わないと、首と胴体を切り離すぞ」
「サ、サクリファイス帝国の一番大きな宿に泊まっている……それ以上は知らない! ほ、本当だ……お願いだ、どうか命だけは取らないでぇぇ!」

 豚ゴリラに土下座しながら懇願されたので、男を見下しながら私は剣を鞘に収めた。

 私の様子に心底安心したのか「ありがとうございます、ありがとうございますぅぅ!」と額を地面に擦り付け、何度も感謝の言葉を述べていた。

 私は男の側を通り過ぎ、馬車の近くに控えていた兵士に「両国間の反乱分子になるかもしれない。そこの川に突き落とせ」と指示を出し、愛しい人の元へ戻った。

◇◇◇

 馬車の戸を開けると、不安そうな顔をしていたインジーがすぐに私に抱き着いてきた。

「おかえりなさい、グレン! あぁ……生きた心地がしなかった。どこも怪我してない?」
「えぇ、大丈夫です。言ったでしょ? 私は強いって」

 そう言って彼女の額にキスをすると、彼女はくすぐったそうに笑ってくれたが、外で「うわあぁぁぁぁ、やめてくれぇぇぇぇ……!!」という男の叫び声を聞いて、また不安そうな顔に戻ってしまった。

「い、今のは……?」
「自国の兵士がサクリファイス帝国の兵士に敵を引き渡してるんですよ。貴方が心配する事は何もないです。それより、気になる情報を手に入れました。さっき襲ってきた奴等はレディ・ネリスに指示されて動いたらしいのです」

 私の言葉にインジーは驚き、動揺し始めた。

「ネ、ネリスお姉様が!? 彼女は出演者側の人間のはずじゃ……」
「私もそう思っていましたが、どうも違うようです。彼女は今、帝国の一番大きな宿に宿泊しているようです。もしかしたら、害虫の手がかりを芋づる式に掴めるかも」
「今度は私も協力させて! レディ・ネリスには大きな借りがあるんだから!」
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