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第四章 戻ってきた日常と甘い日々
第二十四話
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なんだかんだしているうちにすっかり外は真っ暗になった。あれからリヒトさんに髪の毛を乾かしてもらって、一緒に食事も摂った。そして、今はいつも通り二人で仲良くベッドの上に寝転がっている最中である。
(ひーんっ、また口から心臓が飛び出しそうっ!)
私はブランケットに包まれた状態でずっとカチコチに緊張していた。今、私達が寝ているベッドはリヒトさんの身長よりも大きく、寝返りも何回も打てるほどの広さだ。どうやら私が入院している間に買い替えたらしい。みるからに高級な素材がふんだんに使われていたので、ここで寝ても良いのか迷ったくらいだ。
怪我も治って無事に退院もできた。一緒にお風呂に入ったのは恥ずかしかったけど、リヒトさんが満足そうで良かったし、使用人が今日の為に作ってくれた特別な料理(作り置きしてくれた物)も誕生日ケーキも全て美味しかった。
リヒトさんにケーキをあーんってしてもらったし、とっても幸せ――そんな事を呑気に考えていた時に戻りたかった。実は私はお風呂から出てからある事にずっと悩まされていたのだ。
(どうしよう……アソコのぬるぬるが止まらないわ!)
私は内心かなり焦っていた。少し足を動かしただけでもヌルッとした感触がする。このままでは下着を通り越して、シルクのネグリジェにまで謎の体液が付着してしまうと思ったのだ。
(うぅ~……このレースのネグリジェはすっごく気に入ってるから汚したくない! 早くリヒトさんにトイレに行ってきますって言わないと!)
私は心の中でそう思いながら、リヒトさんに背を向けて気付かれないようにジッとしたまま寝転がっているという訳である。
食事の際にはジンジンとしたアソコの疼きと身体の火照りは治ったものの、彼とベッドで横になった頃からまた再発し始めている。どうしてこんな症状が出るのか分からず、私は戸惑うばかりだった。
「あっ……」
ピクッと身体が小さく反応した。リヒトさんが前触れもなく、指差しで私の背中をツゥ……っとなぞってきたのだ。擽ったいようなゾクゾクとした感覚が私に追い討ちをかける。擽ったくてもぞもぞと足を動かせば、ヌルヌルとした不快感をより感じる事となってしまった。
「っ……あ――」
リヒトさんの指が私の腰辺りまで辿り着くと、また頸まで指をなぞる――これをさっきから無言で何度も繰り返されている。彼の意図が分からないから、余計にトイレに行きたいと言い出せずにいた。
「リ、リヒトさん」
「どうした?」
「く、擽ったいです」
「わざとやってるからな……なぁ、シャリファ」
「な、なんですか?」
リヒトさんが途中で背中をなぞるのをピタリと止めた。勘の鋭い彼の事だ。もしかしたら、気が私の身体の異変に付いたのかもしれない。私は思わずブランケットをギュッと力強く握りしめた。
(どうしよう。こんな恥ずかしい事、どう言えばいいんだろう……リヒトさんは男性だし、女性の身体の事なんて分かんないよね)
リヒトさんがなんと言ってくるか待ち構えていると、私の予想通り「さっきから何を悩んでるんだ?」と問いかけてきた。
「え? えっと……」
私は返事に困ってしまった。まさかアソコが疼いて身体の火照りが冷めないから悩んでるだなんて、恥ずかし過ぎて口が裂けても言えない。
「悩みがあるなら言ってくれ」
「べ、別になにも悩んでなんか――」
「嘘つけ。いつもはすぐ俺に甘えてくるくせに」
「あ、甘える? 私がですか?」
私、そんな事してたっけ? と考えてみるが、思い当たる節が一つも思い浮かばなかった。そんな私の反応を見たリヒトさんが、いきなり背後からギューッと抱き締めてきた。
「キャッ……な、何――」
「いつも腕枕して欲しそうにしてるのちゃんと知ってるんだからな? 後、寝てる間にいつも俺の名前を口に出してるんだぞ? これは知らなかっただろ?」
リヒトさんがクス……と小さく笑いながら、私の耳にチュッとキスを落としてきた。
それを聞いた私は身体が一気に爆ぜるように熱くなった。まさか夢の中でリヒトさんの名前を呼んでいるとは思ってもおらず、「ね……寝てるんだからそんなの知らないですよ」と小声で反論した後、私は困ったように押し黙った。
(わーー、今度は耳が熱い~~っ! 恥ずかしいけど、こうしてリヒトさんの体温を感じられるのは嬉しいな。でも――なんでさっきからお腹がキュンキュンするんだろう?)
私はそっと下腹部に手を当ててみる。今、身体がこんな状態だから、できれば何もしないで欲しい。それに耳元で囁かれると余計にアソコが余計に疼いてしまう。着用しているレースの下着も、下着としての役目を果たしているか分からないくらいギリギリの所まで来ているような気がしてならなかった。
(なんだかお漏らししたみたいで恥ずかしいわ。今、履いてる下着は絶対に自分で洗おう。万が一、ドロテーアに知られたら恥ずかしいもんっ!)
私は恥ずかしさでキュッと目を瞑りながら自分の手で下着を洗うと心に誓った。そのまま軽く息を吐きながら気分を落ち着かせる為に手を胸に当ててみると、より自分の心臓の鼓動を感じ、リヒトさんをいつも以上に意識してる事を改めて自覚する事となってしまった。
(わ……心臓がこんなにもドキドキしてるなんて思わなかった。私、明日の朝まで保つかな)
トクトク……と先程よりも早く感じる自分の心臓。このままでは破裂してしまうのではと心配になるくらいに脈打っていた。
(このドキドキのせいで胸の傷が開くんじゃないかしら? お医者様は完治したとは言っていたけど、万が一の可能性があるかもしれない――ハッ……極度の緊張の末にショック死! 私ならありえるのでは!?)
そんなアホな事を考えてる私の頭の事なんて露知らず、リヒトさんの声が急に深刻そうなものに変わった。
「……シャリファ、もしかして胸の傷が痛むのか?」
「へ? ち、違います!」
「なら、どうして胸を抑えてるんだ!? 胸が痛むんだろ!? 心配するな、俺が今すぐ病院に連絡してやるから!!」
「ちょ、ちょ……ストップ! リヒトさん、本当に大丈夫ですから!」
私はベッドから起き上がったリヒトさんの腕を慌てて掴んだ。だが、リヒトさんはなりふり構わず、ベッドサイドに置かれていた黒い電話の受話器を取ろうと手を伸ばす。
それを見た私は被っていたブランケットを放り投げ、「やめてー!!」と大きな声で叫びながら、リヒトさんの背中に半泣きになりながら抱き付いたのだった。
「本当に胸は痛くないんです! 緊張して胸のドキドキが止まらなくて……アソコがジンジンするし、下着がグショグショになってて気持ち悪いだけなんです! 身体が火照ったまま熱が抜けないし! どうしたら良いのか分からないだけですからぁぁっ!!」
私はパニックになりながら暗がりの部屋の中、大声で叫ぶ。
「し、下着? 身体が火照る?」
リヒトさんは受話器を持ちながら固まった。数秒間、私が発した言葉の意味を考えたのだろう。彼は小さく「……あ」と声を発し、口元を手で覆って顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
(あぁ、言ってしまった……)
一方の私は恥ずかしさを通り越して、魂が抜けたかのように真っ白になっていた。今すぐこの場から消えたい――心の底からそう思う。でも、私の寝る所はリヒトさんのベッドしかないし、別の部屋で寝るなんてリヒトさんが許さないだろう。
「うぅ……もうやだぁぁぁぁ!!」
居た堪れなくなった私は咄嗟に大きな枕を手に取った。そのまま力一杯抱き締めて顔を枕に埋めながらベッドの端までゴロゴロと転がり、リヒトさんから距離をとる。
「変な事言って本当にすみません! 身体の火照りなんて寝たら治ると思いますから気にしないで下さい! なので、今日の所はもう寝ますね!」
私は勢いに任せて早口で捲し立てるように言う。当然だがリヒトさんの表情は枕に顔を埋めている為、見えない。
(リヒトさん、引いちゃったかなぁ……。だって、こんなの変だよね。リヒトさんにちょっかいかけられるだけで、身体がおかしくなるだなんてどうかしてるもん)
何も言ってくれない彼の反応が怖くて少し涙が出てきた。なんでこんなに身体が火照るのか原因が分からないまま、枕をキツく抱きしめる。
「……シャリファ。俺に触られるのは嫌か?」
シン……とした寝室に突然、リヒトさんの低い声が響いた。
そう問いかけられた私はどう返事をしようか迷っていた。彼の声を聞くだけでまた身体に熱が生じ始めている。今更ながら、彼と一緒にいるだけで身体に異変が起こる事を自覚してしまったのだった。
(駄目よ、私ったら。一体何を期待してるの? 私は彼の子供を産む為にここにいるのに。リヒトさんを好きって気持ちは胸の奥に封印しとかなきゃ――)
「あっ……」
ギシッという音が響いたと同時に、枕を剥ぎ取られてしまった。そのままリヒトさんに組み敷かれ、綺麗な翡翠色の目が私を見据える。
「もう一度、聞くぞ。俺に触れられるのは嫌か?」
ベッドサイドランプの仄かな明かりのお陰でリヒトさんの表情がよく見えた。まるで何かを愛でているような表情に私は返事を忘れて釘付けになってしまったが、思い出したかのように我に返って「い……嫌じゃないです」と言う。
リヒトさんの表情に見惚れながら言うと、「そっか」と嬉しそうに笑った。
「身体はまだ疼くのか?」
「は、はい……疼きます」
戸惑いながら肯定すると、リヒトさんは私の唇に指を這わせてきた。
「その疼き……止めてやろうか?」
「と、止めれるんですか? どうやって?」
「それはだな――俺の手にかかってる」
「リヒトさんの手……?」
私の頭上にいくつも疑問符が飛んだ。これから何をどうされるのか全く予測がつかないけれど、リヒトさんが真剣な表情でそう言うのだ。彼を信用して身を委ねた方が良いのかもしれない。
(そうか……俺の手にかかってるという事はもしかしたら、マッサージか何かしてくれるのかも!!)
男性経験の少ない私は一人で勝手にそう解釈していた。リヒトさんはとっても優しい人だし、変な事はされないはず――そう思った私は「それじゃあ、宜しくお願いします!」と元気よく口にしていた。
「ほ、本当にいいのか?」
「え? リヒトさんなら私の身体の疼きを止めれるんですよね? なら、早速お願いします!」
ニコニコと微笑みながら待ち構えていると、リヒトさんは目を見開いて暫くフリーズした。そして、何故か盛大な溜息を吐いて苦笑いしている。
「……嫌だと思ったらすぐに言うんだぞ。すぐに止めるから」
「はい!」
そう言ってリヒトさんは何故かベッドサイドランプの灯りを消した。今まで微かな明かりに頼っていたせいか視界が一気に暗く見える。
「…………リヒトさん?」
リヒトさんの雰囲気が少し変わったような気がした。大人の男性の雰囲気――暗闇の中でもそんなオーラを感じる。
「シャリファ……」
彼が私の名前を呼ぶだけで不思議と穏やかな気持ちになる。暗闇の中でそっと頬に手を添えられた私はキュッと目を瞑った。
なんだかんだしているうちにすっかり外は真っ暗になった。あれからリヒトさんに髪の毛を乾かしてもらって、一緒に食事も摂った。そして、今はいつも通り二人で仲良くベッドの上に寝転がっている最中である。
(ひーんっ、また口から心臓が飛び出しそうっ!)
私はブランケットに包まれた状態でずっとカチコチに緊張していた。今、私達が寝ているベッドはリヒトさんの身長よりも大きく、寝返りも何回も打てるほどの広さだ。どうやら私が入院している間に買い替えたらしい。みるからに高級な素材がふんだんに使われていたので、ここで寝ても良いのか迷ったくらいだ。
怪我も治って無事に退院もできた。一緒にお風呂に入ったのは恥ずかしかったけど、リヒトさんが満足そうで良かったし、使用人が今日の為に作ってくれた特別な料理(作り置きしてくれた物)も誕生日ケーキも全て美味しかった。
リヒトさんにケーキをあーんってしてもらったし、とっても幸せ――そんな事を呑気に考えていた時に戻りたかった。実は私はお風呂から出てからある事にずっと悩まされていたのだ。
(どうしよう……アソコのぬるぬるが止まらないわ!)
私は内心かなり焦っていた。少し足を動かしただけでもヌルッとした感触がする。このままでは下着を通り越して、シルクのネグリジェにまで謎の体液が付着してしまうと思ったのだ。
(うぅ~……このレースのネグリジェはすっごく気に入ってるから汚したくない! 早くリヒトさんにトイレに行ってきますって言わないと!)
私は心の中でそう思いながら、リヒトさんに背を向けて気付かれないようにジッとしたまま寝転がっているという訳である。
食事の際にはジンジンとしたアソコの疼きと身体の火照りは治ったものの、彼とベッドで横になった頃からまた再発し始めている。どうしてこんな症状が出るのか分からず、私は戸惑うばかりだった。
「あっ……」
ピクッと身体が小さく反応した。リヒトさんが前触れもなく、指差しで私の背中をツゥ……っとなぞってきたのだ。擽ったいようなゾクゾクとした感覚が私に追い討ちをかける。擽ったくてもぞもぞと足を動かせば、ヌルヌルとした不快感をより感じる事となってしまった。
「っ……あ――」
リヒトさんの指が私の腰辺りまで辿り着くと、また頸まで指をなぞる――これをさっきから無言で何度も繰り返されている。彼の意図が分からないから、余計にトイレに行きたいと言い出せずにいた。
「リ、リヒトさん」
「どうした?」
「く、擽ったいです」
「わざとやってるからな……なぁ、シャリファ」
「な、なんですか?」
リヒトさんが途中で背中をなぞるのをピタリと止めた。勘の鋭い彼の事だ。もしかしたら、気が私の身体の異変に付いたのかもしれない。私は思わずブランケットをギュッと力強く握りしめた。
(どうしよう。こんな恥ずかしい事、どう言えばいいんだろう……リヒトさんは男性だし、女性の身体の事なんて分かんないよね)
リヒトさんがなんと言ってくるか待ち構えていると、私の予想通り「さっきから何を悩んでるんだ?」と問いかけてきた。
「え? えっと……」
私は返事に困ってしまった。まさかアソコが疼いて身体の火照りが冷めないから悩んでるだなんて、恥ずかし過ぎて口が裂けても言えない。
「悩みがあるなら言ってくれ」
「べ、別になにも悩んでなんか――」
「嘘つけ。いつもはすぐ俺に甘えてくるくせに」
「あ、甘える? 私がですか?」
私、そんな事してたっけ? と考えてみるが、思い当たる節が一つも思い浮かばなかった。そんな私の反応を見たリヒトさんが、いきなり背後からギューッと抱き締めてきた。
「キャッ……な、何――」
「いつも腕枕して欲しそうにしてるのちゃんと知ってるんだからな? 後、寝てる間にいつも俺の名前を口に出してるんだぞ? これは知らなかっただろ?」
リヒトさんがクス……と小さく笑いながら、私の耳にチュッとキスを落としてきた。
それを聞いた私は身体が一気に爆ぜるように熱くなった。まさか夢の中でリヒトさんの名前を呼んでいるとは思ってもおらず、「ね……寝てるんだからそんなの知らないですよ」と小声で反論した後、私は困ったように押し黙った。
(わーー、今度は耳が熱い~~っ! 恥ずかしいけど、こうしてリヒトさんの体温を感じられるのは嬉しいな。でも――なんでさっきからお腹がキュンキュンするんだろう?)
私はそっと下腹部に手を当ててみる。今、身体がこんな状態だから、できれば何もしないで欲しい。それに耳元で囁かれると余計にアソコが余計に疼いてしまう。着用しているレースの下着も、下着としての役目を果たしているか分からないくらいギリギリの所まで来ているような気がしてならなかった。
(なんだかお漏らししたみたいで恥ずかしいわ。今、履いてる下着は絶対に自分で洗おう。万が一、ドロテーアに知られたら恥ずかしいもんっ!)
私は恥ずかしさでキュッと目を瞑りながら自分の手で下着を洗うと心に誓った。そのまま軽く息を吐きながら気分を落ち着かせる為に手を胸に当ててみると、より自分の心臓の鼓動を感じ、リヒトさんをいつも以上に意識してる事を改めて自覚する事となってしまった。
(わ……心臓がこんなにもドキドキしてるなんて思わなかった。私、明日の朝まで保つかな)
トクトク……と先程よりも早く感じる自分の心臓。このままでは破裂してしまうのではと心配になるくらいに脈打っていた。
(このドキドキのせいで胸の傷が開くんじゃないかしら? お医者様は完治したとは言っていたけど、万が一の可能性があるかもしれない――ハッ……極度の緊張の末にショック死! 私ならありえるのでは!?)
そんなアホな事を考えてる私の頭の事なんて露知らず、リヒトさんの声が急に深刻そうなものに変わった。
「……シャリファ、もしかして胸の傷が痛むのか?」
「へ? ち、違います!」
「なら、どうして胸を抑えてるんだ!? 胸が痛むんだろ!? 心配するな、俺が今すぐ病院に連絡してやるから!!」
「ちょ、ちょ……ストップ! リヒトさん、本当に大丈夫ですから!」
私はベッドから起き上がったリヒトさんの腕を慌てて掴んだ。だが、リヒトさんはなりふり構わず、ベッドサイドに置かれていた黒い電話の受話器を取ろうと手を伸ばす。
それを見た私は被っていたブランケットを放り投げ、「やめてー!!」と大きな声で叫びながら、リヒトさんの背中に半泣きになりながら抱き付いたのだった。
「本当に胸は痛くないんです! 緊張して胸のドキドキが止まらなくて……アソコがジンジンするし、下着がグショグショになってて気持ち悪いだけなんです! 身体が火照ったまま熱が抜けないし! どうしたら良いのか分からないだけですからぁぁっ!!」
私はパニックになりながら暗がりの部屋の中、大声で叫ぶ。
「し、下着? 身体が火照る?」
リヒトさんは受話器を持ちながら固まった。数秒間、私が発した言葉の意味を考えたのだろう。彼は小さく「……あ」と声を発し、口元を手で覆って顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
(あぁ、言ってしまった……)
一方の私は恥ずかしさを通り越して、魂が抜けたかのように真っ白になっていた。今すぐこの場から消えたい――心の底からそう思う。でも、私の寝る所はリヒトさんのベッドしかないし、別の部屋で寝るなんてリヒトさんが許さないだろう。
「うぅ……もうやだぁぁぁぁ!!」
居た堪れなくなった私は咄嗟に大きな枕を手に取った。そのまま力一杯抱き締めて顔を枕に埋めながらベッドの端までゴロゴロと転がり、リヒトさんから距離をとる。
「変な事言って本当にすみません! 身体の火照りなんて寝たら治ると思いますから気にしないで下さい! なので、今日の所はもう寝ますね!」
私は勢いに任せて早口で捲し立てるように言う。当然だがリヒトさんの表情は枕に顔を埋めている為、見えない。
(リヒトさん、引いちゃったかなぁ……。だって、こんなの変だよね。リヒトさんにちょっかいかけられるだけで、身体がおかしくなるだなんてどうかしてるもん)
何も言ってくれない彼の反応が怖くて少し涙が出てきた。なんでこんなに身体が火照るのか原因が分からないまま、枕をキツく抱きしめる。
「……シャリファ。俺に触られるのは嫌か?」
シン……とした寝室に突然、リヒトさんの低い声が響いた。
そう問いかけられた私はどう返事をしようか迷っていた。彼の声を聞くだけでまた身体に熱が生じ始めている。今更ながら、彼と一緒にいるだけで身体に異変が起こる事を自覚してしまったのだった。
(駄目よ、私ったら。一体何を期待してるの? 私は彼の子供を産む為にここにいるのに。リヒトさんを好きって気持ちは胸の奥に封印しとかなきゃ――)
「あっ……」
ギシッという音が響いたと同時に、枕を剥ぎ取られてしまった。そのままリヒトさんに組み敷かれ、綺麗な翡翠色の目が私を見据える。
「もう一度、聞くぞ。俺に触れられるのは嫌か?」
ベッドサイドランプの仄かな明かりのお陰でリヒトさんの表情がよく見えた。まるで何かを愛でているような表情に私は返事を忘れて釘付けになってしまったが、思い出したかのように我に返って「い……嫌じゃないです」と言う。
リヒトさんの表情に見惚れながら言うと、「そっか」と嬉しそうに笑った。
「身体はまだ疼くのか?」
「は、はい……疼きます」
戸惑いながら肯定すると、リヒトさんは私の唇に指を這わせてきた。
「その疼き……止めてやろうか?」
「と、止めれるんですか? どうやって?」
「それはだな――俺の手にかかってる」
「リヒトさんの手……?」
私の頭上にいくつも疑問符が飛んだ。これから何をどうされるのか全く予測がつかないけれど、リヒトさんが真剣な表情でそう言うのだ。彼を信用して身を委ねた方が良いのかもしれない。
(そうか……俺の手にかかってるという事はもしかしたら、マッサージか何かしてくれるのかも!!)
男性経験の少ない私は一人で勝手にそう解釈していた。リヒトさんはとっても優しい人だし、変な事はされないはず――そう思った私は「それじゃあ、宜しくお願いします!」と元気よく口にしていた。
「ほ、本当にいいのか?」
「え? リヒトさんなら私の身体の疼きを止めれるんですよね? なら、早速お願いします!」
ニコニコと微笑みながら待ち構えていると、リヒトさんは目を見開いて暫くフリーズした。そして、何故か盛大な溜息を吐いて苦笑いしている。
「……嫌だと思ったらすぐに言うんだぞ。すぐに止めるから」
「はい!」
そう言ってリヒトさんは何故かベッドサイドランプの灯りを消した。今まで微かな明かりに頼っていたせいか視界が一気に暗く見える。
「…………リヒトさん?」
リヒトさんの雰囲気が少し変わったような気がした。大人の男性の雰囲気――暗闇の中でもそんなオーラを感じる。
「シャリファ……」
彼が私の名前を呼ぶだけで不思議と穏やかな気持ちになる。暗闇の中でそっと頬に手を添えられた私はキュッと目を瞑った。
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