私の初恋〜孤児だった私は貴方の子供を産む為に参りました〜

麦星れな

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第四章 戻ってきた日常と甘い日々

第二十二話 (微♡)

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「ほら、シャリファ。早くこっちにおいで」

 リヒトさんに優しく声をかけられるも私は前に踏み出せずにいた。あまりの恥ずかしさに一人悶え、脱衣所内を忙しなく歩き回っている。

「うぅ~、どうしてこんな状況になってるんだろう……」

 私は今、身体にバスタオルを一枚巻き付けているだけ格好を取っている。

 何故こういう状況になったかというと、リヒトさんの邸宅に着くなり「そういえば、胸の傷口は完全に塞がってるのか?」と聞いてきたので、私は「はい、塞がってます」と素直に答えたのが事のきっかけだった。

 すると、少し考えた素振りをした彼の口から「一緒に風呂に入ろう」と発せられたので、私は「え? 一緒にお風呂……ですか?」と素っ頓狂な声を漏らし、意味を理解した後すぐ慌てて断ったのだ。

 すると、リヒトさんは眉を下げながら「さっきなんでもするって言ったのにあの言葉は嘘だったのか?」とあからさまに悲しそうな顔をするものだから、つい「い……一緒に入りましょう」と返事をしてしまったという訳である。

 確かに一緒に入りましょうとは言ったが、恥ずかしいものは恥ずかしい。私の体型は良く言えば華奢、悪く言えば貧相な身体付きをしているのだ。まさか子作りする前にリヒトさんに自分の裸体を見せる事になるだなんて思わなかった。

「ハァァ……一日だけで良いからベルタさんみたいなスタイルの良い身体になりたい」

 脱衣所で独り言を呟く。全身鏡の前に立ち、身体に巻き付けていたバスタオルを少しだけ解いて見慣れた自分の身体付きを見てみた。

 少し浮き出た鎖骨から視線を下に辿っていくと、ささやかな胸と桜色の頂きが見えた。更にその下を辿っていくと縦に入ったお腹の筋とウェストのくびれがある。そして、自身の最大のコンプレックスである毛の生えてないつるりとした陰部が見えてきた。

「いつ見ても子供っぽい身体付きで嫌になるわ……」

 成長するにつれてウェストのくびれが出てきたからまだ幾分かマシだが、子供の頃は同年代の男の子達に鉄板と呼ばれていた。
恐らく、銀の髪とメリハリのない身体を見て鉄板と例えたのだろうが、今でもその言葉は私の心に深く突き刺さっている。

「本当に自信ないなぁ、この身体付き……」
「シャリファ、遅いぞ」
「ッ!? リ、リヒトさん!?」

 浴室の中からひょっこりとリヒトさんが顔を出した。髪が濡れて毛先から雫が落ちている。どうやら、自分だけ先に髪や身体を洗ったらしい。

「鏡の前で何してるんだ?」
「え!? えぇっと、なんでもないです! アハ、アハハ……」
「なら、早くこっちに来い。身体が冷えるぞ」
「は、はい! 今……ッ!?」

 私はあるモノを見て絶句した。リヒトさんが何も身につけていない状態でこちらに近づいてきたのだが、私の視線が向かった先は綺麗に割れた腹筋の下に備わっている立派なモノ––––男性器だった。

「ッ!? ッ!!?」

 私は怖くなった。孤児院にいた頃、赤ちゃんや小さい子のお世話でしょっちゅう見ていたから見慣れてると思っていた。でも、私の人生を振り返ってみると大人の男性器を実際に見たのは今日が初めてである。

 待って待って待って、なんですかそれ!? 規格外すぎじゃないですか!? それとも皆、大人になったらあのサイズが普通なの!?

 アレの大きさの基準が全く分からない。十人十色とはよく言うが、性的な経験が皆無だから比較の仕様がない。

 私は気持ちの整理がつかず、どんどん近付いて来るリヒトさんから勢いよく目を背けた。

「そ……それ以上、近付かないでください……」
「どうして?」

 もうっ、分かってるくせに! 絶対に確信犯ですよね!?

 そう思いながら私はリヒトさんをキッと睨みつけるが、構わず更に距離を縮めてきた。私は咄嗟に手で真っ赤になった顔を覆いながら「あうぅ……アレが見えてるんですってばぁ……」と小さな声で呻く。

「あぁ。俺の事は別に気にしなくて良いから」
「そ、そうは言っても私が気に––––キャッ! い、いきなり抱き上げないでくださいよ!」

 急に足が床から離れたので驚いてしまった。私は身体に巻き付けたバスタオルが落ちないようにギュッと握っていると、リヒトさんは「フフッ!」噴き出すように笑い始めた。

「シャリファ、下が見えてる」
「え? キャ……キャーーーーッ!!!!」

 脱衣所内に響き渡る私の悲鳴。
リヒトさんは私の反応を見て「アッハハハ!」と豪快に笑っていたけど、私はそれどころではなかった。

「う~~……」

 見られた––––よりによってアソコを見られてしまった!
毛の生えていないツルツルの女性器は私にとってはコンプレックスの塊なのに! それをよりによってリヒトさんに見られるだなんて……もう最悪。

「グスッ、もうやだぁ……死にたい」

 シクシクと手で顔を覆って泣き始めた私を見て、リヒトさんは「なんでそんなに泣く必要があるんだ?」と何食わぬ顔で問いかけてきた。

「だってぇ……毛が生えてないの、すっごくコンプレックスなんですもん」

 目を真っ赤にさせて泣きながら言うと、リヒトさんは微笑みながら私の額にキスを落とし「そんなの全く気にならないから泣かないでくれ。後で俺が隅々まで洗ってやるから」と言ってきたので、私はフリーズした。

「リ、リヒトさんが洗うんですか?」
「勿論。今日はシャリファを甘やかす刑でもあるからな」
「えぇっ!? 恥ずかしいから嫌です! さすがに自分で洗わせてください!」
「却下で」

 機嫌良く笑いながらリヒトさんが脱衣所の扉を足で押し開けると、湯煙が立ち込めた大浴場が現れた。普段、私が使用しているのは一般的な家庭にあるバスルーム。この大浴場を使うのは今日が初めてである。

「すっごい大きなお風呂」
「……これもアイツの趣味だ」

 リヒトさんが真顔でポツリと呟いたのを聞いた私は瞬時に正妻の事だなと思い、胸がズキッと痛んだ。

 まただ。やだな……この気持ち。

 彼は私の心の内を何一つ知らない。いつか我慢出来なくなって、リヒトさんにみっともなく泣きついてしまいそうで怖くなった。

 リヒトさんは私を風呂場の椅子に座らせて「先ずは髪を洗おうか」と言った。カランを捻り、お湯の温度を手で確認した後、私の背中辺りまである銀髪を毛先から丁寧に濡らしていく。

 それがなんだか手慣れているような気がして、私はまた勝手に一人でモヤッとしてしまった。

「熱くないか?」
「はい、大丈夫です」
「……? なんか機嫌悪くないか?」
「機嫌悪くないです! もうリヒトさんの好きにして下さい!」

 私はプゥッと頬を膨らませてそっぽを向く。

 すると、リヒトさんはシャワーを一旦止めて「ほー……好きにしていいのか」と低い声で耳元で囁いてきた。

 あ––––ヤバいかも。

 そう思った時にはもう遅かった。何を思ったのかリヒトさんは私の身体に巻き付けているバスタオルをサッと取り上げたのだ。

「キャアッ! い、いきなり何するんですか!?」

 私は座りながら身体を丸めて色んな部分が見えないように隠してみるが、彼はニヤリと笑いながらシャンプーを手に取り、私の髪を丁寧に洗い始めた。

「俺の好きにして良いんだろ?」
「た、たしかにそう言いましたけど!」
「なら良いじゃないか。俺は何も間違った事はしてない」
「むむむぅぅ~~……」

 ぐうの音もでない。やっぱり、感情に任せて言うものじゃないなぁ……と身を持って実感した私であった。

「痛くないか?」
「平気です……」

 大好きな人に髪を洗ってもらうのはとても気持ちが良い。だけど、やっぱり手慣れてる気がする!

 もしかして、正妻さんと一緒にお風呂に入ったり、髪の毛を洗ったりした事があるのでは……!? わぁぁ~~、どっちなんだろ~~!?

 リヒトさんに正妻さんとの事を聞きたいけど、勇気が出ない。それに悪い想像ばかりしてしまうのが私の悪い癖。私は俯きながらどんどん悪い想像を膨らませていった。

「流すぞ。目を瞑っててくれ」
「…………はい」

 唇をギュッと結んで固く目を閉じると、会った事も見た事もない正妻さんとリヒトさんが一緒にいる所を想像してしまい、次第に胃がムカムカしてきた。

 どうしよう……私、正妻さんに嫉妬してるんだわ。
私はあくまでリヒトさんの子供を産む為に引き取られただけなんだから高望みしちゃダメなのに!

「……ファ……シャリファ」
「は、はい……あ––––ひゃあんっ!」

 くびれ辺りに手が添えられたまま腰あたりにまで手が移動した。日常生活では感じられない感覚がしたせいで変な声が大浴場内に響き渡ってしまう。

「おっと!」

 椅子からずり落ちそうになった所をリヒトさんが背後からハグするような形で抱き止めた。鳩尾みぞおちあたりに手を回されたせいで、私の貧相な胸がリヒトさんの腕に当たったのを自覚し、私はまたもやパニックに陥ってしまう。

「リ……リヒトさん、手を離して下さいっ!」
「シャリファはおっちょこちょいなんだから離したらまた暴れるんじゃないか?」
「そ、それはリヒトさんが急に触ってくるから––––」
「俺は何度も話しかけたぞ? ボーッとしてたのはシャリファだ。ほら、身体を洗ってやるからこっちを向け」

 う……嘘!? 身体の前面までリヒトさんが洗うの!? さすがに前は自分で流させて欲しいんだけど––––。

 どう答えるか迷っていると、リヒトさんは私のおでこを軽く指で弾いて「冗談だよ、冗談」と揶揄うように笑う。

「全く。俺以外の男に誘われたら、どう言い訳をするつもりなんだ?」
「リヒトさん以外の人に着いていくなんてあり得ない––––むぐっ、んん!?」

 リヒトさんに強引にキスされてしまった。
いつもなら頬を手を添えられたまま角度を変えて触れるだけのキスをするのだが、今日は違った。

「はぁ……シャリファ、口開けて」
「口、ですか?」

 言われるがまま少しだけ口を開けてみる。すると「本当にいい子だな」と小さな声で褒められてすぐに唇が重なった。

「~~~~むぅっ!?」

 キャーーーーッ、生暖かい感触がする! こ、これってもしかして……リヒトさんの舌!?

 いきなり口の中にリヒトさんの舌が侵入してきたものだからとても驚いてしまった。いつの間にか向かい合う体制で抱き締められており、逃げられない状態にさせられていた。

「ふっ……ん、リヒ……トひゃん……」

 駄目……舌を引っ込めても絡め取られちゃう!
それに口内の上顎を舌先で舐められた時のくすぐったい感覚は何!? あぁ……もう酸欠で頭がおかしくなりそう。

「あっ、やぁ……ん」

 チュッ、チュパ……と舌を吸ったりされたので息が出来なくて苦しかったが、ようやく唇を離してくれた。

「はぁーー、はぁーー♡」

 何も考えられないままリヒトさんを見つめていると、唇をチロッと舐めてから「目、潤んでて可愛いな」と頬にキスを落としてきた。

「……さて、このままだとのぼせるから湯船に浸かってから出ようか」
「ひゃ、ひゃい……」

 こ、これが……大人のキス? こんなの毎日されたら心臓が保たないよぉ……と思いつつも私はリヒトさんに姫抱きにされたまま大きな浴槽へ向かうのだった。
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