私の初恋〜孤児だった私は貴方の子供を産む為に参りました〜

麦星れな

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第二章 私の新しい家族

第十三話

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「ここが俺が使ってる部屋だ」

 リヒトさんは扉の前で私を下ろして部屋の中に入った。客室と全く同じデザインの扉と部屋の作り。私の時と同様、置かれていた家具もベッドにテーブルとソファ等の最低限の物しかなかった。

 一つ違う事と言えば、テーブルの上には解体された銃が部品ごとに置かれている事だ。側に置かれていた布切れが火薬で真っ黒に染まっていたから、もしかしたらメンテナンスは終わっているのかもしれない。

 私はバラバラになった銃をチラッと見た。これからヴェロニカも人を殺しうる道具を握ると思うと、私は良い気分にはなれなかったのだ。

 リヒトさんは「片付けるから少し待っててくれ」と声をかけてソファに座った。やはり普段からこの手の武器を扱っているからか組み立てるのが早い。私も少し間を空けて座り、バラバラだった部品があっという間に銃の形になっていくのを横で見守った。

「……弾倉は抜いてるけど、勝手に触るなよ?」
「そんな恐ろしい物、触れないですよ」

 リヒトは最後のパーツを組み込んで、完成した銃を机の上に置いた。ゴトリと重たい音がしたのがやけに耳につく。私は不安な顔付きで銃を見ていると、リヒトは何を思ったのか机の上に置いた銃を手渡してきた。

「えっと……今、触るなって仰いましたよね?」
「あぁ。でも、物珍しそうに見てたからな。握ってみるか?」

 リヒトが拳銃を差し出してきたので、私は迷った末に銃のグリップを握った。予想以上にズッシリとした重みを感じる。そして、冷たい金属の感触。これをヴェロニカもコレを使って人に銃口を向ける事になると考えると私は恐ろしくて身体が震えてしまった。

「……お返しします」
「どうした?」
「昨日、軍に入隊した子がいるんです。その友達もこれから人を殺す武器を握るんだって考えたら怖くなっちゃって……」
「そうか、それは悪かったな」

 そうは言ったもののあまり悪びれたような表情は見せずに私から銃を受け取った後、メンテナンスに使った布を持ってソファから立ち上がった。

「さて、もうそろそろ寝るとしようか」
「は、はい––––っ!?」

 リヒトさんはクローゼットの前まで移動すると、バスローブの紐を解いた。予告もなく上半身を露出させたので、私はなんだか恥ずかしくなって彼に背を向けて、わざわざ手で目を覆った。

 ど、どうしてバスローブを脱ぐのよ!? 人前で肌を晒すなんてなんて無防備な人なの!?

 初めて見る大人の男性の上裸に私は心臓が一気に心拍数が跳ね上がった。ここで振り向いたらまた揶揄われそうな気がする! 例え、リヒトさんに話しかけられたとしても絶対に振り向かないわ!

「おい」
「な、なんですか?」
「俺はソファで寝るから君はベッドで寝てくれ」
「…………へ?」

 指で肩を突かれたので結局、反射的に振り返ってしまった私。目の前にはリヒトさんの顔があった。顔がすぐ近くにあって驚いたが、もっと驚いたのは彼の格好だ。黒のボトムを履いた状態で上半身は裸という状態だったのである。春に入ったとはいえ、夜は冷え込む。この季節に上裸だなんて……寒くないんだろうか?

「さ、寒くないんですか?」
「この前のアストラ氷河洞窟内での作戦に比べたら百万倍マシだ」

 リヒトさんは私をソファから立たせると、毛布を被ってすぐに横になった。私は毛布を見てみる。生地がとても薄く見えるから恐らく暖かいといっても気休め程度だろう。私は居ても立っても居られなくなり、迷う事なく彼の手を握った。

「だ、駄目です! 手がこんなに冷たくなってますし、このままでは風邪をひいてしまいます! 私がソファで寝ますから、ベッドで寝て下さい!」
「いいから。俺に構うな」

 パッと手を振り解かれてしまったが、私はめげずにもう一度彼の手を掴んだ。

 毎日、お仕事で疲れているうえに不眠症となれば風邪をひくリスクの方が高い。彼は国の為に働いてるんだから、ここは何としてでもベッドで寝てもらわなくては!

「リヒトさん、不眠症ですよね? 私と一緒に寝たら不眠症は治りますよ?」
「…………ほう?」
 
 彼の深い翡翠色の目が私の藤色の目を見つめた。子供の戯言に付き合っているような視線を向けられているので、きっと『何を言ってるんだ、コイツは』程度にしか思っていないはず。けど、彼の気を惹く事には成功した。

「私、泣いてる子供をあやしたりするのが得意なんですよ!」
「……つまり、俺は子供っていう意味か?」

 一気に険しい表情になったので、私は慌てて「わーー! 違います、違います!」と即座に否定した。

「私、体温が高いから一緒に寝るととても暖かいらしいんですよ! それで、よく友人に暖かくて落ち着くって言われる事が多くてですね……だから、貴方を馬鹿したつもりはないのですよ!」

 私の必死の説明を聞いたリヒトさんは暫く考え込んだ後、ゆっくりとソファから起き上がった。

「そんなに違うのか?」
「みたいです! 冬の寒い朝には色んな子達に抱き付かれてましたし……あっ! 後、昔はよく施設の男の子達に虐められて泣いてたので、目が真っ赤だから兎みたいだって言われてました!」

 それを聞いたリヒトさんはまたもや「フフッ!」と噴き出した。

「……そこまでいうなら期待してみようか」
「お任せください!」

 そんなこんなで一緒に寝る事になった私達。私は先にふかふかのベッドの上に登って、こっちに来てという意味を込めてポンポンとベッドを叩いた。

「さぁ、早く来て下さいっ!」
「わかったわかった。そんなに力強く叩くな、埃が舞うだろ」

 リヒトさんは子供に注意するように嗜めてきたが、不思議と嫌だとは思わなかった。

「これでいいか?」
「……は、はいっ!」

 リヒトさんがベッドの上で横になった。今思えば、異性と寝るのはこれが初めてかもしれない。ドキドキしすぎて何を喋ったら良いのか分からなかったが、暫くしてリヒトさんが「そういえば……」と切り出してきた。

「君はなんでこの家に来たんだ?」
「私も友人と一緒に軍に入隊する事を希望していたんですが、何故か書類審査で落ちちゃって。それで、施設に私だけ残る事になったんです。でも、偶然ベルタさんとお会いして……ここに来る事になりました」

 リヒトさんは一瞬、難しい表情で「……そうか」と答えるだけだった。

「それで私、友人の入隊が決まってから毎日神様にお祈りしてるんです。彼女が無事に帰ってきますようにって……」

 それを聞いたリヒトさんは「君は………………いや、なんでもない」と発言し、私の頭を押さえ付けるように撫でてきた。

「い、今の間はなんですか?」
「なんでもない。今日はもう寝ろ」
「ふにゅっ!?」

 頭まですっぽり毛布を被せられた私は毛布の中でもがいてようやく顔を出し「ぷはっ! もう、いきなりなんですか!」と少しだけ怒ったような反応を見せたが、リヒトさんは目を瞑ったまま何も答える事はなかった。
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