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◇012/深層を知ろうとする者

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  自宅マンションのエントランスのカードリーダーに、カードキーを通す。ピッ…と言う電子音と共に入口が開いた。ここ暫く同居人は不在。自炊するにも限界が生じているので、仕方なく美味しいと評判の店のテイクアウトを利用した。
  エレベーターに乗り、自宅のある階まで移動した。降りると1番遠い角部屋が自宅となる。
  再度カードキーを通す。今度は自宅のドアに、だ。エントランスと同じ様な電子音が鳴り、ドアロックが解除された。玄関に踏み込むとそこは闇だ。とりあえず入ってすぐの靴箱の上に購入したテイクアウト品と鞄を置く。靴を脱ぎ玄関を上がると、右手を左袖口に添わせた。

  玄関を上がりすぐ右手は洗面浴室に繋がる。そこの壁の影に右手を向ける。その手には薄い小型のブレードが1本握られていた。
 
「どう言うつもりだ?」

  ブレードを突き付けると同時に、壁の影から銃口が向けられていた。

「答えろ、アイゼン」

  がちゃん…と床にハンドガンが落ちた。その音はハンドガンにしては軽過ぎる。まるでそれはプラスチックの音だった。

「やっぱり敵わねぇな。兄貴にもスミさんにも」
「何が目的だ?」
「…兄貴と話がしたくて…」
「それがこれか?」
「班長が言ってた。これが俺が乗せられたレールだと」
「だから襲撃か?」
「同じ事、昨日スミさんにやってきた」
「…返り討ちに遭っただろう?」

  シュタールはブレードを収めると、照明のスイッチを入れ玄関に灯りを灯す。

「まぁ良い。たまにはゆっくり話をしよう」

  リビングまで行くとシュタールは軍服の上着を脱ぎ、それをハンガーに掛ける。ネクタイも取り去ると、軍服の上に雑に乗せた。

「アイゼン、着替えを貸してやる。先にシャワーを浴びて来い」

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  多分シュタールなりに必死だったのだとは思うのだが、手に余ったのが目に見えた。部屋はかろうじて綺麗。洗濯物は最低限の物だけを自宅で洗い、軍服やワイシャツはクリーニングに遠慮なく出す様にしているらしい。
  アイゼンと交代でシュタールがシャワーを浴びている間にアイゼンは水切り棚の食器を仕舞い、残っていた洗い物を片付けた。

「あぁ、ありがとう」

  タオルを被ったシュタールが礼を述べた。昨日の夜と今朝、時間が足らなくて放置してしまった分だ。

「アイゼン、食事は?」
「いや、あとで食べに行こうかと」

  シュタールが購入していたものは1人分だけだ。このままだと足りない。冷凍庫を開ければ菫が丁寧に小分けして冷凍保存しておいてくれた肉があった。野菜室には小松菜が1袋。

「アイゼン、これで良いか?」
「俺がやるよ。兄貴の料理はあやしいから。兄貴は洗濯物を干しちゃって」

  シュタールが洗濯物を干して戻って来る頃には、少しずつ良い香りが漂い始めていた。保存してあったのがカット済みかつ味付きの物で良かった。軽く解凍してから焼き始め、カットした小松菜も併せ味を整えればそれだけで十分。プレートに分けて乗せ、シュタールが購入して来たオムライスも半分に分けて肉の横に添える。成人男性1人分には物足りないが、この際仕方がない。出来上がったプレートをリビングのテーブルへと運んだ。

  シュタールはシュタールで、アイゼンが作り終えるのを待ってからグラスを2つ出しそれらに氷を入れる。シガーを使い、ウォッカとライム果汁を計りグラスへ。最後にジンジャーエールを注ぐと軽く混ぜてから、それらを手にテーブルへと向かう。1つをアイゼンの前に差し出した。

「もう飲めるだろ?」

  きらきらと輝く黄金色。そう言えば昨日榛原に貰ったお酒を、アイゼンは結局飲めなかった。

「頂きます」
「頂きます」

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