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◇012/深層を知ろうとする者

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  4月、アイゼンが配属先に赴くと『遊撃5班』とは名ばかり、アイゼンを含め4人しか居ない班だった。

──随分と少ない班だが、あぁ…カモフラージュか。

  新兵の自分と上官が2人。もう1人は志願兵の逸材…らしい。上官の内の1人を見て、アイゼンは全てを覚る。

──反発してみたりもしたが何の意味もなさなかった。結局レールからは外れられない。

「アタシ、ユーディアルライト・グラス。ユーディで構わないよ」

  志願兵がアイゼンに手を伸ばしながらそう告げた。178cmのアイゼンに対し、ユーディは155cm程しかない。今迄リアンと並んでいたから誰かを見下ろす事はそうそうなかったが、ユーディと並ぶとどうしても見下ろす事になり、アイゼンは慣れなかった。

「俺はアイゼン。よろしく」

  ユーディの手を握る。女子の手だと言うのに、どこかそれっぽくなかった。

「さぁ、始めよう」

  上官の1人がそう告げる。その上官はアイゼンにとって初めて見る人だ。栗色の髪にヘーゼルナッツの様なカラーの瞳。軍服に装備されている物は軽装のみ。

「まずは自己紹介と行こう。僕は榛原礫。こちら流で言うならレキ・シンハラ…か?今は東方管轄区後方支援部隊遊撃5班として居るが、今回はあくまで要請されてここにいる。実際には別の班を率いているんだ。そっちでは『シンハラ班長』と呼ばれているから、そう呼んでくれて構わない」

  もう1人の上官は見知った顔だった。

「私は菫と申します。私はここの管理者として、基本的にはサポートを行いますので宜しくお願いします」

  その笑顔に裏がある事に、アイゼンは気が付いている。

「私はユーディアルライト・グラス。志願兵です。実家が傭兵家業なのでベースは出来ていると思います。これが活かせる事を望んでいます」
「私はアイゼン・アレス。軍事学校出身です。父も兄も軍属なのでこの道に進む事には抵抗はありません。…ですが…」
「どうした?」

  榛原が尋ねるが、アイゼンはそれに答える事はなかった。

「あ、いえ。何でもありません。宜しくお願い致します」

  榛原が菫に耳打ちする。菫は榛原と少しの打ち合わせをして、他部隊へと向かった。

「さて。菫ちゃんが戻って来たらまずは君達の実力を見せてくれたまえ」

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  菫の前に並ぶ男を榛原は見定めるかの様に見る。がっちりではない。しなやかな身体つきに思わず感嘆の息が漏れる。

「いいねぇ。君達には今からサバゲーをやって貰う。ユーディアルライトとアイゼンの2人にはこの5人の殲滅を。1班の5人にはこの2人の殲滅を。今から15分の時間を与える。作戦を練ってくれたまえ。因みにここの演習場を借りるぞー。時間になったら順次装備を申請してくれー」

  榛原は楽しそうだった。遊撃5班の教官として来てくれと要請された際、ユーディとアイゼンの経歴を書類で見ている。アイゼンに至っては、シュタールと菫からも話を聞いている。遊撃1班から人員は借りてはいるものの、榛原にはこの演習の結末が見えていた。経過はどうあれ、勝利判定はユーディとアイゼンの2人だ、と。

  5班と1班の打ち合わせ内容をそっと聞いてみる。5班の2人の打ち合わせは実にシンプルだった。
  ユーディは自分が小柄だから重装備は出来ない。ハンドガンを重視し、身を隠しつつもスピーディーに動く事を得意としている。故にユーディは撹乱及び切り込み。
  アイゼンは左利きの事は黙り、ハンドガンの右手撃ちよりもスナイパーライフルによる遠距離狙撃の方が精度が高い事を告げた。それにより、アイゼンは後方からの遠距離狙撃及びユーディへのアシストとなる。

「菫ちゃん、どっちが勝つと思う?カフェのドリンクを賭けようかー?」
「礫君、賭けなんて成立しませんよ。どうせ貴方もユーディちゃん・アイ君組でしょ?」
「だよねー」

  その読みは間違いではなく、ユーディとアイゼンは手際良く1班の5人を潰して行った。1班の人間に比べてかなり小柄なユーディは、男では入り込み難い箇所に上手く潜り込み、確実に撃破して行った。アイゼンもスナイパーライフルでの遠距離狙撃を利用し、撃破はもとより相手をユーディの元へと誘導して行った。

「あいつら、本当に初見同士かよ」

  ユーディとアイゼンの2人は、榛原の想像を越えた動きを見せた。初めて会ったのに、たかが15分程度の打ち合わせでここまでやれる。本当はこの2人を組ませて自分の遊撃班に欲しいくらいだった。

「…菫ちゃん、何ヶ月くらいを予定してる?」
「そうね。早くて3ヶ月かしら?」
「わぁー。僕、2班に帰れなーい。黒曜が激おこになっちゃう」
「私も帰れないのだけど?」
「…とりあえずさ、シュタールに伝えてくれる?終わるまで『壁』の仕事を入れるな、と」
「了解です。でもシュタールだから入れちゃうかもしれないわね」
「入れちゃうのはシュタールじゃなくて菫ちゃんじゃないのー?」
「…秘密です」

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