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◇011/兄さんと俺
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しおりを挟むいつか会えるかもしれない、そんな打算的な考えを持っていた事を否定はしない。いつ会っても良い様にと、常にスチールケースを持ち歩いていた。そのスチールケースには、基本的な内容とは言え今まで作製した中でも出来の良い4枚が入っている。それらはいつでも差し替える。中に入っている札よりも出来が良い札が出来れば、遠慮なく差し替えた。このケースはいつか来るべき時に、兄さんに渡す為のケース。大きな目標に向かう為のモチベーション維持の為の、ささやかな目標かつ自己満足の品。でもそれがなければ、果たして俺は真っ直ぐ進めただろうか?
ハイスクール3期生になり、アルバイトを始めた。こんな時期にとは思ったが、この時期を譲れなかった。その為に、今まで勉学に励みハイスクールでの成績首席をキープ、生活態度もきちんとして来た。全ては信頼を得る為だ。
もうすでに俺は1年後の進路を固めていて、現状においてそれをキープし続ければ問題なく進学は出来る。両親と学校と、それぞれをしっかりと説得し、アルバイトを決めた。アルバイト先は中央管轄区司令部側の建物に入っているコンビニだ。
この時期にアルバイトを決めたのには理由がある。軍事学校は5期生で卒業。兄さんに何事もなければ3月に卒業、この4月にどこかの部隊に配属となる。もし兄さんが中央管轄区に配属されたら、もしかしたらこの近辺を通るかもしれない。そんな打算を持って、この場所でアルバイトを始めた。
結果、2年経過するもいまだに兄さんと会えずにいる。
その『いつか』は諦めかけた頃に姿を現した。
4月になり俺もカレッジスクール2期生へと進級をした。アルバイトはそのまま継続、僅かな期待と諦めを混同しながら年度始めの混沌とした日々を過ごしていた。
カレッジのカリキュラムはまだ本格的ではない。その日はカレッジに行き少しのオリエンテーション、それから図書館で勉強をしてからアルバイトへと赴いた。何の変化もないアルバイト、夕方の喧騒を聞き流しながら仕事をこなす。
年度始めもあり、買い物客も知らない人が増えていた。年度も変わって進級した事もあり、多少の環境変化に疲れていたのだと思う。この日、自分自身に覇気はなかった。運ばれて来た商品を陳列していたら、レジが混雑して来たのがわかった。
──仕方ないなぁ。
中途半端に品出ししていた商品をコンテナに戻すと、閉めてあったレジに向かう。
「お次のお客様、どうぞこちらへ」
我ながら元気がなかったと反省した。
「お願いします」
穏やかな声と共にとん…と静かに置かれた買物籠の中にはカット野菜と惣菜とおにぎりが2個。惣菜をスキャンして温めるかを確認しようと、目の前のお客さんを見た。俺より背が高かったから、少しだけ見上げる形となる。
驚いた。
そこに居たのは俺よりも6~7cmくらい背が高い若い男。自分と同じ伽羅色の髪で、忘れもしないあのオレンジの瞳。4年前、自宅のガラスケースに納められた父さんのブレードと似た色の瞳。
「…兄さん…?」
それが兄さんとの再会だった。
──────────────────
兄さんの職場、しかも軍の司令部に赴くなんて迷惑だろう…と、頭では理解をしていた。しかしながら、先日アルバイト先で再会した兄さんと殆ど会話も出来ず別れてしまったのがどうしても心残りだった。
あのコンビニに来たと言う事は、この4月で中央管轄区に異動して来たと考えるべきだろう。だから昨年度は1度も見掛けなかった、と。
あまりに急な再会に、心の準備など当然出来ていない訳で、連絡先を聞くどころか渡したかった筈のスチールケースもそのままとなってしまっていた。せめて少しくらい話をしたい。可能なら、今迄俺が無自覚にしてきた事を兄さんに謝りたい。
司令部の入口、守衛門の側でそっと待つ。守衛に多少の事情を話し、少しの時間だけ待たせて貰う事が出来た。自分で決めた時間をオーバーしたら今日は帰ろう。
時計をちらりと見る。もう時間だ。帰ろうとバッグを持ち直した。
「ルカ?」
あの穏やかな声で自分の名前を呼ばれた。そっちを向けば、そこには兄さんが居た。初めて見る軍服姿の兄さん。腰のベルトには鞘に納められた細いブレードが提げられている。あれはあのブルーのブレードだろうか。
兄さんから少し離れた場所に、同じ軍服を着た人が兄さんを待っていた。黒い髪の、まるで兄さんと対極な人。
「兄さん、こんな所まで押し掛けてごめん。どこかで時間、取れる…かな?」
兄さんは少し考えてから応えてくれた。
「そうだな、終業後かな。17時30分頃にあそこのカフェで大丈夫か?」
「わかった。待っているよ」
約束の時間までまだ1時間30分もある。カフェだけでそんなに時間は潰せないから書店へと行き、ゆっくりと吟味して経済学の書籍を1冊購入した。現物を見せ領収証を父さんに渡せば、書籍によっては父さんが援助をしてくれる。
カバーだけ掛けて貰い、そのまま約束のカフェへと向かった。約束の時間まであと30分。温かいラテを購入し、窓際の2人掛けのテーブルを陣取った。
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