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◇009/壁と影(前編)
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◇009/壁と影(前編)
─────────────────
4階建てのビルの屋上から隣のビルを見下ろす。隣の建物は3階建てだ。ビルとビルの間の間隔は数メートル。飛び越すには少し広いし、何より助走が出来ない。
1人が細工がなされたボウガンの矢を手にする。細い筒状の矢には、中央付近から矢尻まで僅かな幅の切れ目が入っている。矢の筒の中には強硬なワイヤーが仕込まれていて、飛ばせばワイヤーを渡す事が可能だ。3階建てのビルの屋上には転落防止の柵が設けられていた。柵の間隔は10センチ程。充分過ぎる間隔だ。
突貫的ではあるが事前調査でワイヤー撃ち込み箇所から目的の箇所までの距離は把握している。それに少しの余裕を持たせて矢とワイヤーに細工をした。
カラビナを4階建てのビル屋上の柵に取り付けた。カラビナにはワイヤーが取り付けられ、反対側は矢と繋がっている。
「アイゼン、今日は遠慮なんかしなくて良いんでしょう?」
「らしいね。10人だっけ?この際だから徹底的にやってしまおう。全滅させて良いんだろ?」
「やれる?」
「余裕」
左手でボウガン本体を支える様に構える。右手で細工された矢をセットし、引き金付近に右手を添える。アイゼンが目標を見据える。手前ではなく奥側の柵の隙間。そこに矢を通すだけなので、遠距離狙撃を得意とするアイゼンには何ら難しい事ではなかった。
右手の人差し指を引き金に掛ける。狙いを定め、一気に力を込めた。しゅん…と風を切る音と共に矢が飛び去る。ワイヤーに触れると厄介だから、撃ち方や構え方にはかなり気を遣った。
矢はアイゼンの想定通り、奥側の柵の隙間を通り抜ける。向こう側にだらりとぶら下がる矢をワイヤーで引きつつ手繰り寄せた。余分は少ししかないからあまり引けないが、ワイヤーが矢に入れられた切れ目に沿って真ん中辺りから出ているのを確認した。
もう少し引くと、横向きになった矢が柵の隙間に引っ掛かかる。こちら側のカラビナを一旦外し、ワイヤーを柵に引っ掛かけながら数本隣の柵に付け替えた。2つのビルを繋ぐワイヤーがある程度ぴんと張られた状態となる。
カラビナも矢もワイヤーも、生半可な素材ではない。10代の男子学生1人くらいの重さなら平気で耐えられる素材だ。
アイゼンがボウガンをさっとケースに納めるとその場へと置いた。それから腰ベルトに取り付けられた命綱の役割を果たすカラビナをワイヤーに掛けた。
「先に行く」
多少斜めにワイヤーが張られている為、ぎこちない動きではあるが滑走は出来そうだ。先にアイゼンが渡り、次にリアンが渡る。2人が渡り切ると柵に引っ掛かった矢を外し、4階建てのビルへと放る。カンっ…と言う音と共に矢が壁にぶつかった。矢もあとでボウガンと一緒に回収をする予定だ。
お互いに装備を確認。ハンドガンにはサイレンサー、それぞれ呪符も数枚持っている。
建物に侵入する為そっとドアに近付くと、リアンはハンドガンを両手で構え銃口を下へと向け準備をする。アイゼンはそっとドアノブに手を掛けた。静かに回すが開かない。
「やっぱりロック、掛かっているな」
軍服のポケットからピッキングツールを出すと解錠を始める。それも必要と習得した技。ものの数分と掛からず解錠をした。
改めてアイゼンがドアノブに手を掛ける。ゆっくりとドアを開けるとリアンがハンドガンを構えたまま先行して侵入をする。
──あと10人。
────────────────
建物内部は薄暗かった。完全な闇ではない事が救いだ。照明のスイッチはそこいらに存在するが点けるべきではない。彼等にとってこれは潜入殲滅戦。どこかでは存在を気取られるが、ある程度は覚られない様に動きたい。
階段は各階の廊下と繋がってはいるものの、見通しは良くない。暫く様子を伺っていると、誰かが階段を上がって来た。どうやら巡回の様だ。幸い1人、しかも廊下からは様子を伺えない。
巡回が階段の1番上まで上がって来た。そのまま屋上へ出ようとするが、階段の壁の陰に息を潜めていたリアンに気が付いた。侵入者を報告をしようとするが、それをリアンが許さない。持っていたハンドガンをアイゼンに投げ渡し、足払いを掛け巡回を転倒させると馬乗りになり、口を手で押さえ声が出せない様にしながら頭を床に押し付けた。
「悪ぃな」
上から巡回を見下ろしながらアイゼンが静かに呟く。リアンから寄越されたハンドガンを右手で握り、ロックを外すと巡回の胸へと押し当てる。そして躊躇いもなく引き金を引いた。
…ぱしゅん。巡回の胸が蛍光色に染まる。
「ごめんね、このまま黙って退場をお願いします。あ、その前に失礼」
にっこりと笑顔を向けるとそっと巡回から手を離し、脇へと退いた。巡回の服のポケットを一通り探る。目的の物を持っている人ではなかった様だ。解放された巡回は静かに屋上の待機ポイントへと向かった。
「お前ら、本当に容赦ねぇな」
そう、これは潜入殲滅戦及びデータ奪取演習だ。
──あと9人。
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4階建てのビルの屋上から隣のビルを見下ろす。隣の建物は3階建てだ。ビルとビルの間の間隔は数メートル。飛び越すには少し広いし、何より助走が出来ない。
1人が細工がなされたボウガンの矢を手にする。細い筒状の矢には、中央付近から矢尻まで僅かな幅の切れ目が入っている。矢の筒の中には強硬なワイヤーが仕込まれていて、飛ばせばワイヤーを渡す事が可能だ。3階建てのビルの屋上には転落防止の柵が設けられていた。柵の間隔は10センチ程。充分過ぎる間隔だ。
突貫的ではあるが事前調査でワイヤー撃ち込み箇所から目的の箇所までの距離は把握している。それに少しの余裕を持たせて矢とワイヤーに細工をした。
カラビナを4階建てのビル屋上の柵に取り付けた。カラビナにはワイヤーが取り付けられ、反対側は矢と繋がっている。
「アイゼン、今日は遠慮なんかしなくて良いんでしょう?」
「らしいね。10人だっけ?この際だから徹底的にやってしまおう。全滅させて良いんだろ?」
「やれる?」
「余裕」
左手でボウガン本体を支える様に構える。右手で細工された矢をセットし、引き金付近に右手を添える。アイゼンが目標を見据える。手前ではなく奥側の柵の隙間。そこに矢を通すだけなので、遠距離狙撃を得意とするアイゼンには何ら難しい事ではなかった。
右手の人差し指を引き金に掛ける。狙いを定め、一気に力を込めた。しゅん…と風を切る音と共に矢が飛び去る。ワイヤーに触れると厄介だから、撃ち方や構え方にはかなり気を遣った。
矢はアイゼンの想定通り、奥側の柵の隙間を通り抜ける。向こう側にだらりとぶら下がる矢をワイヤーで引きつつ手繰り寄せた。余分は少ししかないからあまり引けないが、ワイヤーが矢に入れられた切れ目に沿って真ん中辺りから出ているのを確認した。
もう少し引くと、横向きになった矢が柵の隙間に引っ掛かかる。こちら側のカラビナを一旦外し、ワイヤーを柵に引っ掛かけながら数本隣の柵に付け替えた。2つのビルを繋ぐワイヤーがある程度ぴんと張られた状態となる。
カラビナも矢もワイヤーも、生半可な素材ではない。10代の男子学生1人くらいの重さなら平気で耐えられる素材だ。
アイゼンがボウガンをさっとケースに納めるとその場へと置いた。それから腰ベルトに取り付けられた命綱の役割を果たすカラビナをワイヤーに掛けた。
「先に行く」
多少斜めにワイヤーが張られている為、ぎこちない動きではあるが滑走は出来そうだ。先にアイゼンが渡り、次にリアンが渡る。2人が渡り切ると柵に引っ掛かった矢を外し、4階建てのビルへと放る。カンっ…と言う音と共に矢が壁にぶつかった。矢もあとでボウガンと一緒に回収をする予定だ。
お互いに装備を確認。ハンドガンにはサイレンサー、それぞれ呪符も数枚持っている。
建物に侵入する為そっとドアに近付くと、リアンはハンドガンを両手で構え銃口を下へと向け準備をする。アイゼンはそっとドアノブに手を掛けた。静かに回すが開かない。
「やっぱりロック、掛かっているな」
軍服のポケットからピッキングツールを出すと解錠を始める。それも必要と習得した技。ものの数分と掛からず解錠をした。
改めてアイゼンがドアノブに手を掛ける。ゆっくりとドアを開けるとリアンがハンドガンを構えたまま先行して侵入をする。
──あと10人。
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建物内部は薄暗かった。完全な闇ではない事が救いだ。照明のスイッチはそこいらに存在するが点けるべきではない。彼等にとってこれは潜入殲滅戦。どこかでは存在を気取られるが、ある程度は覚られない様に動きたい。
階段は各階の廊下と繋がってはいるものの、見通しは良くない。暫く様子を伺っていると、誰かが階段を上がって来た。どうやら巡回の様だ。幸い1人、しかも廊下からは様子を伺えない。
巡回が階段の1番上まで上がって来た。そのまま屋上へ出ようとするが、階段の壁の陰に息を潜めていたリアンに気が付いた。侵入者を報告をしようとするが、それをリアンが許さない。持っていたハンドガンをアイゼンに投げ渡し、足払いを掛け巡回を転倒させると馬乗りになり、口を手で押さえ声が出せない様にしながら頭を床に押し付けた。
「悪ぃな」
上から巡回を見下ろしながらアイゼンが静かに呟く。リアンから寄越されたハンドガンを右手で握り、ロックを外すと巡回の胸へと押し当てる。そして躊躇いもなく引き金を引いた。
…ぱしゅん。巡回の胸が蛍光色に染まる。
「ごめんね、このまま黙って退場をお願いします。あ、その前に失礼」
にっこりと笑顔を向けるとそっと巡回から手を離し、脇へと退いた。巡回の服のポケットを一通り探る。目的の物を持っている人ではなかった様だ。解放された巡回は静かに屋上の待機ポイントへと向かった。
「お前ら、本当に容赦ねぇな」
そう、これは潜入殲滅戦及びデータ奪取演習だ。
──あと9人。
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