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◇001/先を見通そうとする者

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  演習終了から2時間。彼等は撤収作業に追われた。ペイント弾は水性塗料。この雪であればそのまま流れてくれる。散らけた空弾倉等を回収し、蛍光塗料が付いた軍服を脱ぎ着替え、荷物を纏めた。
  第6小隊のメンバーが皆集まった所で隊員ひとりひとりに温かい缶コーヒーを配り、リアンは口を開いた。

「第6小隊総員に、今日は本当にお疲れ様でした。お陰で6隊に勝利判定が出ました。ありがとうございます。…ただ僕は皆に謝罪をしなくてはなりません。僕が小隊長の立場故、今回の演習に関して言えない部分がありました」

  リアンはアイゼンの方を向く。

「何故今回、主たる指揮官が僕ではなくアイゼンだったのか。今回のこの演習、選定推薦査定だったからです。対象はアイゼンと遊撃2班の1人。勝利判定に登録指揮官撃破が入っていたから、僕が出張ってはいけないと判断したのです」

  リアンが掌を下に向けて2~3回振った。座ろうよ、と言いたいらしい。

「申し訳ないと思いましたが、私情を挟みました。僕が6隊に来る前の話です。アイゼンと一緒に選定推薦査定が入る事になった時、僕はその権利をアイゼンから譲って貰いました。今回の査定では、アイゼンに何としても権利をもぎ取って貰いたかったです。しかもアイゼンの実力で。だからアイゼンを登録指揮官にして、遊撃2班の登録指揮官を深部まで来させました」

  皆の顔をゆっくりと見回す。隠し事を怒っている様子はない。

「僕の私情だらけの作戦内容に、付き合ってくれてありがとうございます。そして言えない事だらけで本当に申し訳ありませんでした」

  リアンの謝罪の言葉を待ってから、全員で缶コーヒーを掲げた。

「生きている事に乾杯!」

──僕達6隊は明日を生きる為に、今日を生き抜く為に駆けるんだ。

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  後日、軍中央地区管轄司令部にリアンとアイゼンが呼ばれた。選考が無事に通り、アイゼンの昇格が決まった。第6小隊において、リアンだけがレッドの立場だった。あとはブルーが数人とグリーン。30人居て、1人だけ肩章のカラーリングがレッドだった。今回、アイゼンの昇格によって、リアンとアイゼンの地位は同格になり、同時に肩章も揃いになった。
 黒いシャツにアイゼンが袖を通す。これまでブルーだった襟のラインがレッドになった。黒いネクタイも、ブルー3本のラインからレッド1本のラインに変わった。当然、藍色の通常軍服の肩章もブルー3本からレッド1本となった。

「やっぱり好きじゃない」
「いつか慣れるさ。…とは言え、アイゼンは結局いつもの活動用軍服になるんでしょ。通常軍服にも慣れなよ」

「嫌だ。あれ、楽じゃない。…そう言えば次の任務、また小競り合いの制圧だって?」
「嫌になっちゃうよ。もう少し平和な仕事をしたいのに」
「それでもコーネリア隊長が居れば犠牲は減らせるだろ?」
「そうありたいけれど、僕だけじゃ無理だよ」
「これからはさ、俺もお前と同じ様に負荷を背負える。…昇格も悪くねぇな。それにうちには黒曜もいるし。どうとでもなる」
「そうだね。…アイゼン、今日はこれ以上仕事はないし、着替えて飲みに行くか?」
「良いねぇ!グラスを傾けて…」

「生きている事に乾杯」

  彼等は軍人。緋に染まらない仕事は少ない。『生きている事に乾杯』、その言葉をまた言う為に彼等は戦場で理想を目指す。

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2019/11/07/001  2021/04/19/加筆修正
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